side:三淵元康
いよいよこの身体が言うことを聞かなくなってきたが、残念ながら儂の後任はいまだ決まる気配がない。
このままでは教え子達が正式な監督が不在なままで試合に挑むことになってしまう。そうなるとまともな戦術指揮経験が無い状態で、教え子達がなんとかやりくりをしていくしかない。
そこで苦肉の策として今大会……ウインターカップでは藤真に指揮を任せて経験を積ませることにした。
これはまだ藤真が1年生という事が理由だ。
おそらく儂の正式な後任は儂がいなくなってもしばらく決まらんだろう。下手をしたら数年掛かるかもしれん。いい大人達が何をしているのかと言いたくなるが、それもまた大人というもの。だからといって子供達がその大人達のせいで理不尽に見舞われるのは見苦しいことこの上ないがの。
まぁとにかくそういった事情もあって向こう2年は翔陽にいる藤真に指揮経験を積ませることにしたのじゃ。今なら阿久井達3年生もフォロー出来るしの。この事は翔陽バスケ部の皆に伝えてある。
そうして始まったウインターカップ神奈川予選。シード故に2回戦からじゃが、この試合は藤真をベンチスタートにした。
コートから見える景色とベンチから見える景色は違うということもあるが、儂が横で教えることで藤真の戦術理解を高めるのが最大の目的じゃな。
ふむ、こういうのも面白くていいのう。
もう現役の監督は難しいじゃろうが後任の監督を鍛えるぐらいは出来るかもしれん。
うむ、今までは敬遠しとったが……覚悟を決めて手術を受けてみるとするか。
さて、肝心のウインターカップの方じゃが順調に勝ち進んでいったわい。流石は儂の教え子達じゃの。
じゃが予選トーナメントを勝ち抜いたその直後、儂は倒れて病院に搬送されてしまったのじゃった。
◆
side:藤真健司
「阿久井さん、三淵監督は?」
「直ぐに手術するそうだ。少なくとも決勝リーグは無理だな。」
以前から三淵監督は自身の健康状態の事を口にされていたが、まさかこのタイミングで倒れるとは思わなかった。
そのためか俺以外の皆も動揺している。
「藤真。」
「……はい、何ですか?」
「決勝リーグでの指揮はお前に任せるぞ。」
阿久井さんの言葉に驚いて言葉が出ない。
「お、俺はまだ1年ですよ?」
「あぁ、わかっている。そして俺達が引退した後の翔陽バスケ部を託すのがお前だという事もな。」
俺に託す?本気か?
「三淵監督が何のためにお前を横に置いて指導されていたと思う?全てはこういう事態を想定してのことだ。」
「で、ですが!」
「これは俺だけの考えじゃない。2年、3年全員の総意だ。」
俺が見渡すと先輩達が頷く。
「……なんで俺なんですか?」
「三井や牧と対峙した時、お前が折れなかったからだ。いや、正確には折れてもまた立ち上がったからだな。」
阿久井さんは俺の目を見ながら話を続ける。
「神奈川はこれから……いや、既に三井と牧が中心になっている。あいつらと戦うには、率いる奴があいつらの才能を見て折れていては話にならない。」
「藤真、まだ1年のお前が翔陽を背負うのは重いのはわかっている。だが、お前だからこそ託したいんだ。これで全国に行けなくても文句は言わない。悔いは残るかもしれないが、まぁ負けたら少なからず悔いは残ってしまうもんだ。その悔いだってお前達の成長に繋がるなら受け入れられるさ。」
真剣な目で阿久井さんが俺を見てくる。いや、阿久井さんだけじゃない。皆が俺を見てくる。
俺にどこまで出来るかわからない。俺にあいつらと戦えるだけのなにかがあるのかもわからない。けど……。
「わかりました。俺でよければ引き受けます。そして、最後まであいつらと戦い抜くことを誓います。」
俺にも一つだけ出来ることがある。それが諦めないことだ。
足掻いてやる。高校最後の試合の笛が鳴るその時まで足掻き抜いてやる。
例え才能ではあいつらに勝てなくても、気持ちだけは絶対に負けてやるもんか。
こうして俺は翔陽で監督代行をしていくことになった。
けどこのことが俺のバスケ観を広め成長に繋がることになるとは、この時の俺はまだ気付いていなかったのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。