side:藤真健司
ウインターカップ神奈川予選の決勝リーグ初戦の日がやって来た。
今日からは翔陽に正式な監督が来るか、三渕監督が復帰するまで俺がチームを率いらなければならない。
もちろん翔陽を背負う重圧を感じる。だがそれを闘志に変えなければこの先を戦っていけないのも確かだ。頑張ろう。
幸いにも……というのはあれだが初戦の相手は湘北だ。
予選トーナメントの間に三渕監督と話していたが、湘北は白星を落としても構わない相手だ。
故にここで実戦でのチームの采配にある程度慣れて、勝ちを取りに行く海南や陵南に備えたい。
さて、湘北が何故白星を落としても構わない相手なのかというと……湘北の取っている戦術及び、その戦術の要となっている三井への対応策がうちにはないからだ。
現在の日本の高校バスケ……というよりはバスケというスポーツそのものの戦術の9割は、ミドルレンジから内で勝負するものだった。
理由は単純でそれが最も勝率が高いからだ。
しかしその主流の戦術に反してミドルレンジより外、つまりロングレンジを戦術として取り入れて勝利に繋げているチームがいる。それが湘北だ。
主流の戦術ではない。つまりその戦術に対する経験値が少ないという事でもある。だから対応策を打てない……と言いたいが、並みのチームが湘北と同じ戦術を取ったのなら、ボックスワン等のフォーメーションで対応出来るだろう。
湘北の厄介なところはエース級の選手……それも全国大会でMVPを取るようなトップエースの選手である三井がロングシュートを撃てるところなんだ。
これまでロングシュートというのは俺の様に身長が低めな選手、あるいは他の選手と比べて身体能力に劣る選手が生き残りを賭けて身に付けるのが普通だった。
だが、そこに三井寿という選手が現れた。
現在の三井は180cmオーバーと日本人としては恵まれた身長に加え、全国レベルで渡り合える身体能力に、天才と認めざるを得ない程のバスケセンスまで持っている。
その上で大会を通して3Pシュートの成功率が4割を超える程の3Pシュート能力まである。
……こうして三井の特長を列挙すると、改めてどう対応をすればいいのかわからなくなるな。
そこで俺は三渕監督と考えた。対応出来ないのなら対応しなければいいと。
湘北戦で俺達が対応すべきは三井以外の選手。特にCの赤木だ。
湘北は三井が引っ張り赤木が支える形のチームと言っても過言じゃない。つまり湘北の支えである赤木を抑えることで、三井個人ではなく湘北というチームそのものの弱体を図ろうとしているんだ。
これは奇しくも夏のインターハイ神奈川予選決勝リーグでの試合と似た構図になるが、今回はあれを意図的に行おうというわけだ。
湘北は既に弱小とは呼べないチームだが、強豪と呼ぶにはまだ経験が浅いチームだ。その経験の浅さこそが今の湘北の唯一とも言える隙なんだ。三井や赤木が全国を経験したからといって、そう簡単にその経験をチームに浸透させられるもんじゃないからな。
瞑想を止めて目を開けた俺は立ち上がる。
「さて、行くか。阿久井さん達が待ってる。」
控え室を出た俺はチームの皆が待っているコートに足を運ぶ。
するとそこにはしっかりと汗を流し身体を温め終えていた頼もしい仲間達の姿があったのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。