side:三井寿
ウインターカップ神奈川予選の決勝リーグが始まった。
今日の相手は翔陽だ。
安西先生から聞いた話だが、翔陽の監督が倒れたらしい。そのため翔陽は決勝リーグを監督不在の状態で戦い抜かなくてはならないそうだ。
同情はするが試合で容赦するつもりはない。それは本気で向かってくる相手に失礼だからな。
さぁ、挨拶が終わって試合開始だ。
ジャンプボールを赤木が制して俺達の攻撃から。そして長瀬さんからボールを貰って翔陽の動きを見て違和感を感じる。
(外への意識が薄い?)
違和感の正体を確かめるべく、俺は3Pシュートではなくミドルレンジからのジャンプシュートを選択した。
中に切り込んでジャンプシュートを撃つ。すると翔陽の選手の一人が赤木とリバウンド争いをしている阿久井さんのフォローに走ったのが見えた。
「なるほど、そういうことか。」
ジャンプシュートが決まると俺はそう呟いた。
今のやり取りで翔陽がやろうとしてることがなんとなくわかった。
おそらく翔陽はこの試合でインサイドを重視……特に赤木を崩すことを考えたんだろう。
赤木は既にCとして神奈川でも有数の選手だが、まだ1年ということもあって経験は浅い。故に崩せる可能性が高いと踏んだのかもな。
試合は一進一退の状態で進んでいくが、試合の主導権は翔陽の方に若干傾いている。
そんな状況で前半残り12分になると、安西先生がタイムアウトを取った。
「三井君、前半の残りはPFとしてプレーしてください。」
「はい!」
PF……インサイドを中心にプレーするポジションだ。
その意図するところは……。
俺は赤木をチラリと見る。
「上島君と長谷君を交代します。長谷君、三井君が中に行く分、積極的に外から撃ってください。」
「はい!」
ここで木暮じゃなく長谷さんか……。
3Pシュート能力だけでみたら木暮が上だが、総合的にみたら長谷さんが上だ。
俺が外にいれば注意が分散するから木暮でもフリーになれるが、翔陽クラスになると木暮じゃまだ一人でマークを振り切るのは難しいからな。
ここで長谷さんを投入するのは流石の采配だぜ。
◆
side:赤木剛憲
タイムアウトが終わり試合が再開した。三井が外にいないことに違和感を感じる。
だがそれ以上に三井がインサイドに来た意味を考えると……いかん、今は試合に集中しなくては。
フリーになった長谷さんが長瀬さんからパスを貰い3Pシュートを撃つ。
ボールの落下点を予測しポジションにつこうとしたら、そこには既にスクリーンを掛けて阿久井さんを抑えこんでいる三井の姿があった。
早い。ボールの落下点の予測の早さが、Cを専門としている俺や阿久井さんよりもずっと早い。相変わらずとんでもないバスケセンスだ。
長谷さんの3Pシュートが外れてボールが落下してくる。
ベストポジションでベストタイミングで飛んだ三井がリバウンドを制する。
俺や阿久井さんよりも背が低い三井がリバウンドを制した事実にCとしてのプライドが傷付くが、それ以上に三井の動きが勉強になることに気付いた。
……思えばこうして間近で三井の動きを観察した事はあまりなかったな。
居残り練習で三井とゴール下争いをした事は多々あるが、その時はいつもガムシャラだった。
猪狩さんが三井とゴール下争いをしている時も、俺は自分のプレーを見直すので精一杯だ。
三井が中に来て楽になった分、観察出来る余裕はある。
この際だ。試合中だが学べるところは学ぼう。
先程のリバウンド以降もプレーをしながら三井の動きを観察しているが、なにか特別な事をしているわけじゃなかった。
基本に忠実に、それでいて早く正確に。
(基本に忠実、早く正確に。)
前半残り3分というところで訪れたオフェンスリバウンドの機会で、俺は一早く落下点につけた。
(阿久井さんが相手でも、例え兼田さんが相手でもやるべき事は変わらない。)
しっかりとベストポジションをキープした俺はリバウンド争いを制した。
(そして……相手が複数であろうともだ!)
翔陽の選手の一人が阿久井さんのカバーに来ていたが、ガッチリとボールを両手でホールドし脇に抱える様にして奪わせない。
そして……。
「うおぉぉぉおおお!」
機を見て飛び上がりダンクを叩き込むと、自然と雄叫びを上げてしまったのだった。
「やれば出来るじゃねぇか。」
着地した俺に三井がそう言いながら軽く胸に拳を当ててくる。
「それじゃ赤木、ゴール下は任せたぜ。」
そう言ってディフェンスに戻っていく三井の姿に、俺の中から何かが込み上げてくるのを感じる。
「……おうっ!」
そして込み上げてくるものに押されるようにして返事をした俺は、走ってディフェンスに戻るのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
ちょっとスランプになっております。しばらくは週1で1話の投稿をお許しください。
また来週お会いしましょう。