side:三井寿
「……触ってたのか?」
そう問い掛けると牧は右手を見せてくる。
牧の右手の中指の爪からは血が滲んでいた。
最後の最後……土壇場で牧に止められちまったか。
「……俺もまだまだだな」
負けちまったのは悔しい。だが反省するのは後だ。先ずは整列して挨拶しねぇとな。
◆
side:牧紳一
湘北との試合が終わり着替えると、俺達は翔陽と陵南の試合を見学するために移動して腰を下ろした。
「まだまだ……か」
「うん?どうしたんだ、牧?」
試合後ということもあって俺の荷物を持ってくれた宮が隣に座っているんだが、その宮に一人言を聞かれてしまった。
「試合が終わった直後に三井が言ってたのさ。俺もまだまだだなってな」
「……なんか、三井らしいな」
「あぁ、そうだな」
負けの言い訳を他に求めず己の未熟を認める様は実に三井らしい。
「他人事じゃないぞ」
「監督……」
宮と反対側の隣に座っている高頭監督の言葉に顔を向ける。
「海南のウインターカップは終わってしまったが、だからこそ次に向かって進まなければならん。足りぬを知り、認め、励む。これはお前達にも必要な事だ」
海南の皆が監督の言葉に頷く。
湘北との試合には勝ったが、得失点差で俺達は湘北に負けているので全国行きは途絶えている。
まぁ、湘北も全国に行けるかは翔陽と陵南の試合の結果次第だがな。
「さぁ、全員よく翔陽の戦いを見るんだ。彼等の戦術を破らねば、海南が神奈川王者に返り咲くことはない」
◆
side:三井寿
海南との試合が終わった後、ミーティングを終えた俺達は翔陽と陵南の試合を見学していた。
俺達が全国に行ける条件は陵南が翔陽に勝つか、翔陽が勝っても得失点差で俺達が上回っているかだ。
翔陽は俺達が海南に1点差で負けたのもあって陵南を圧倒して勝たなきゃならねぇが、どうやらその事はある程度折り込み済みだったようだ。翔陽の動きに焦りが見えねぇからな。
「魚住君が仕事をさせてもらえないね」
美和の言葉に頷く。
翔陽は魚住のベビーフックを止められないが、それ以外ではほぼ完璧といっていい程に魚住を封じ込めている。
あれほど執拗に潰しにこられたら並みの選手ならどこかで集中が切れてもおかしくないんだが、魚住は高い集中を保ったまま今の自分に出来ることを続けている。
だがキーマンである魚住が封じ込められていることで陵南のリズムがよくない。決定的な崩壊はしていないのは称賛ものだが、点差はズルズルと広がっていっている。
こういう局面を打開するにはある程度個人の力が必要だ。しかし今の陵南にはそれがない。
試合時間が過ぎていくに連れて翔陽と陵南の点差が広がっていく。それでも戦意を失わず戦い続ける陵南の姿に会場から拍手が沸き上がる。
そして試合が終わると翔陽は得失点差で俺達を上回って全国行きの切符を手にした。
「今回は翔陽のクレバーさにしてやられましたね」
安西先生の発する言葉に湘北の皆が耳を傾ける。
「ですが君達は確実に強くなっています。そしてこれからも強くなっていきます。さぁ、胸を張って表彰式に出ましょう」
表彰式で俺は得点王とベスト5に選出された。だがもっとも欲しかった優勝を手にする事は出来なかったがな。
MVPには兼田さんが選ばれた。予選トーナメントにはほとんど出場してなかったが、決勝リーグではMVPに相応しい活躍をしていたからな。この選出に不満はない。
ベスト5にも選出されているし兼田さんに相応しい有終の美だ。
アシスト王には牧が、ベスト5のPGには藤真が選ばれている。
アシスト数については藤真は俺達との試合に出てないからな。その分だけ牧と差がついた感じだ。
そして藤真がベスト5に選ばれた理由だが……おそらくは司令塔としてチームを優勝に導いた事が評価されての選出だろう。
こうして俺達のウインターカップは終わった。
だがこの終わりは来年に向けての始まりでもある。
次こそは全国に。そして……全国制覇だ!
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。