side:高頭力
湘北と陵南の準決勝を見学しているが、中々に面白い勝負が繰り広げられている。その中心が三井と仙道だ。
仙道が仕掛けたが三井を抜くことは出来ない。逆に三井は面白い様に仙道を翻弄していく。
「三井め、また上手くなってやがる」
牧の言葉に教え子達が頷くが俺の見解は少し違う。三井が上手くなった理由は技術の向上もあるだろうが、それ以上に彼の持つバスケセンスを活かせる身体が出来てきたのが大きいだろう。
おかげでますます手強くなった。
さて三井と仙道の勝負は三井が圧倒しているが、それでも勝負になっているのは魚住と池上、そして福田の存在が大きい。
魚住がチームの柱としてゴール下を支え、池上がディフェンスで各所をアシストしていく。……いいチームだ。
そしてそんな2人のフォローもあるとはいえ、赤木がいる湘北のインサイドで得点を重ねていく福田……田岡先輩はいい選手を得たものだ。
この3人がいなければまだ前半10分の今の段階で試合は決まってしまっていただろう。だが、まだ勝負の行方は完全には決まっていない。
「各選手の成長を促しつつ、今日ではなく明日の勝利を目指す。随分と教え子達を信頼しているな田岡先輩」
指導者としては選手の成長のために動きたくもあるが、監督としては目の前の勝利のために動きたくなるもの。
つまり……。
「明日の勝利を信じられるチームが出来てきた……そういうことですか」
そう呟くと俺は田岡先輩から安西先生へと視線を移す。
ふむ、2年前と比べて随分と痩せられたものだ。それにしても……。
「まるで外の使い方を学べとでもいうかの様な采配、言われずとも学ばせていただいていますとも」
今年から使っていくと決めた宮益。そしてシューターとして成長中の今年入って来た神。心配せずとも海南は新たな武器を手にしつつありますよ。
むっ?田岡先輩がタイムアウトを取ったか。
「さて、田岡先輩はどう動くのかな?」
◆
side:田岡茂一
「仙道、どうだ?」
「すみません、なんとなくわかってきましたが、もう少し時間かかりそうです」
「わかった。福田、ナイスプレーだ。赤木をおそれずどんどんゴールを狙っていけ」
「っ!?はいっ!」
この試合が始まる前、俺は仙道に1つ指示を出した。それは三井のドリブルを盗むことだ。
とはいってもドリブルの何を盗むのかがわかっていないと盗むのは難しい。そこで俺は三井の一歩目の速さを盗むことを指示した。
三井の一歩目の速さの秘密……それは『抜重』だ。
抜重……バスケで使うのは正確には沈み込み抜重というのだが、それの理屈を俺は知っているし多少は体現出来る。だが三井レベルでは出来ない。そこで俺は仙道に理屈を伝えた上で抜重を使いこなしている三井から盗めと指示したんだ。
ふと目を向けると福田が首を傾げながら一人膝カックンの様な動きをしている。抜重の理屈は福田にも伝えてあるが、どうやればいいのかがまだよくわかっていないのだろう。
俺も現役時代は同じ様に悩んだものだ。結局最後まで完全にはものに出来なかったが……。
「さぁ、試合再開だ。勝負を楽しんでこい!」
「「「はいっ!」」」
この試合はおそらく勝てないだろう。だが明日も勝てないとは限らない。そう信じられるのが俺のチームだ。
「仙道と福田次第だが、今年のウインターカップを狙える芽も出てきたな」
そう言葉に出来る程に俺のチームは出来上がりつつあるのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。