side:長谷川一志
春の県大会の決勝戦開始まであと少しだ。今日の試合、俺はあの三井とマッチアップする。
三井は疑いようのない天才だ。
三井のライバルと言われてる牧も、準決勝で三井とやり合った陵南の仙道も天才だろう。
そんなあいつらと比べたら俺は凡人だ。
一度その事を花形に言った事があるんだが、翔陽のユニフォームを着ておいて凡人は嫌味になると言われたな。
それでも俺は自分を凡人だと思う。
俺はただバスケが好きで、小さい頃からずっと練習を続けてきただけなんだ。
その結果として今は翔陽のユニフォームを着ているが、これは俺以外の誰かでも出来たことだと思う。
でも誰もが三井の様に1年の時に選抜でMVPになったりベスト5に選ばれたりは無理だろう?それが出来る、もしくは出来る可能性があるからあいつらは天才で、それが無理だから俺は自分を凡人だと思うんだ。
ちなみに俺は藤真も天才だと思ってる。ただ三井や牧とは種類というかタイプが違う天才だが。
その事を藤真に言った事があるが、藤真は自分の事を凡人だと言った。
俺は自分に出来る限りの言葉で藤真に藤真が天才である事を説明したが、藤真は違うと反論してきたな。
それを聞いていた花形に二人して説教をくらってから、藤真は俺の事を一志と名前で呼ぶようになった。天才だと思っている藤真に認められたようで嬉しかったな。
「一志、時間だ」
ポンッと肩を叩かれ顔を上げると藤真がいた。
「三井を抑えるイメージは出来たか?」
「それは無理だ。でも……なんとか食らい付いてみせる」
「そうか、期待してるぞ」
整列をして挨拶、そして試合が始まった。
ジャンプボール……花形は赤木にジャンプボールで負けた。けどこれは藤真の予想通りだから、俺達は動揺せずに直ぐに動く。
ボールを持った湘北のPG……まだ1年の安田って奴がゆっくりとボールを運んでいく。
藤真ならスティールを決められそうな気がするが……序盤は観察を重視するってミーティングで言っていたな。
ターンオーバーまで残り15秒……まだ仕掛けてこない。
右に左に行ったり来たり……もしかして俺達の動きを見てるのか?もしそうだとしたら1年なのにとんでもない度胸の良さだ。
ターンオーバーまで残り10秒、ついに動いた。
ドリブルで仕掛けると思いきや安田は三井にパスを。そして三井がパスを受け取った次の瞬間……三井は俺の横を抜けようとしていた。
食らい付くとかそういう次元じゃない。そうわからされたかの様な気がした。
尻もちをついた俺は中に切り込んでいく三井を見送ることしか出来なかった。
そして中に切り込んだ三井は花形を引き付けるとフリーになった赤木にパス。赤木がダンクを決めて湘北が先制だ。
身体が震えた。鳥肌が立った。俺は憧れた男と試合をしてるんだと実感が湧いてきた。
「一志、大丈夫か?」
藤真の手を借りて立ち上がると、藤真の目を見て告げる。
「すまん、藤真。点差とかそういうのを気にしてる余裕が無くなると思う」
「……そうか、わかった。気にせず全力でやってこい」
心折れてる暇なんてない。今ある物で三井をどう攻略するか、それだけを考え続けろ。
正直に言って翔陽を受験した時よりも頭を使っていると思う。
でも俺は今、人生で一番充実した時間を送っていると確信するのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。