side:三井寿
決勝リーグ初戦の陵南戦は俺達湘北が勝ったが、C対決では魚住の完勝と言える結果となった。
後半に赤木が崩れたのを起点に陵南に追いつかれかけた。その事が赤木の心に重く残っているが、これは赤木の成長に必要な事だったので安西先生と俺は見て見ぬ振りをした。
去年の赤木はそれなりにポストプレイ等も出来ていたんだが、ウインターカップでの兼田さんとの勝負が終わってからパスをほとんど出さなくなった。
おそらくは兼田さんとの勝負でゾーンに入った時のプレーを追い求めているんだろう。
あの時の赤木は赤木自身が思い描く理想のプレーだったんだろうな。
だがそれで試合中に目の前の相手すら見ないで理想のプレーを追い求めるのはいただけない。
今の赤木の状態の厄介なところは一度はやれてしまったという成功体験がある事だ。
だから目を覚まさせるには荒療治が必要だったんだが、その役目を魚住に担って貰ったわけだ。
試合中に目を覚ますかと期待してたが、結局赤木は試合が終わるまで目を覚ます事がなかった。
魚住に完敗した今では目が覚めただろうが、残りの決勝リーグ中は使いものにならないかもな。
◆
side:赤木剛憲
未熟……今の俺はその一言に尽きる有り様だ。
試合中だというのに相手を見ず自分勝手なプレーをして上手くいかず心を乱す。そして心の乱れがミスを生む更なる悪循環。魚住に完敗したのは当たり前の結果だ。
『赤木君、今の君に必要なのは心を整理する時間です。今は皆に任せてゆっくりしてください』
安西先生に返す言葉も無く逃げる様にその場を去った俺のなんと情けないことか。
だから俺は走った。汗を拭う事も忘れて走り続けた。
「おーい、赤木ィ!」
不意に声が聞こえて立ち止まると、そこにはスポーツドリンクを手にした木暮と倉石の姿があった。
「走るなとは言わないけどちゃんと水分補給もしろよ。この暑さだと倒れるぞ」
「……すまん」
木暮からスポーツドリンクを受け取るとグッと飲む。ぬるいが少しは頭が冷えた様な気がした。
「少しは落ち着いたか?練習相手が欲しかったら声を掛けろよ。俺達は仲間なんだからな」
そう言った倉石が木暮と共に去っていく背中を見ていると自然と涙が溢れた。
チームの大黒柱たるCが大事な決勝リーグ中に己を見失う等、なんと情けないことか。
これでは兼田さんを超える等夢のまた夢だ。
溢れる涙が止まらず手で顔を覆っていると俺の肩をポンッと叩く者が現れる。
涙でぐしゃぐしゃなまま顔を上げると、そこには兼田さんの姿があったのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。