side:赤木剛憲
「赤木、1on1やるぞ」
肩に手を置いた兼田さんはそう言うと、俺をストリートのバスケコートにまで連れていった。
先客として中学生らしき奴等がいたが、兼田さんが頼むとコートを譲ってくれて俺は兼田さんと1on1を始める。
だが……。
「ふっ!」
「ぐぅっ!?」
結果は散々たるもので俺は兼田さんに手も足も出ない。
(何故だ?あの時は確かに渡り合えたはず……)
思い出すのは昨年のウインターカップでの激闘。確かに俺はあの時の様な極限の集中下にはないが、それでも結果に違いがありすぎる。何故……?
「まったく……赤木、過去は参考にするものであって模倣するものじゃないぞ」
「兼田さん……?」
兼田さんはまるで呆れた様にため息を吐くと言葉を続けた。
「全盛期はいつでも明日だ!」
「昨日の経験が、今日の練習や学びが、明日の成長に繋がる。赤木、お前はあの日から努力をしていないのか?」
「い、いえ、してます」
「なら上手くいかずにチグハグになるのも仕方ないだろ。なんせ今のお前はあの時よりも成長しているんだ。そんなお前があの時の動きを再現しようとすればズレが出て当然だ。」
「あっ……」
言われてみれば当たり前のことだった。何故気付かなかった?
「まぁ気持ちはわからないでもない。俺も大学に入って直ぐは似たようなもんだったからな」
「兼田さんも?」
疑問の声を上げると兼田さんは頷いて話を続ける。
「高校でベスト5やらMVPに選ばれたりして、大学でも通用するだろうと思ってたんだがな……手も足も出なかったよ」
兼田さんが手も足も出ない?
それを信じられない俺は声も上げられない。
「高校生と大学生の違いを一言で表すなら……身体の強さがまるで違う。俺程度のガタイじゃ簡単に弾き飛ばされる」
そう言われて兼田さんの身体に目を向けると、昨年と比べて明らかに筋肉が大きくなっているのがわかった。
「赤木、大学バスケはすげぇぞ。社会人バスケになればきっともっと凄い。……振り返ったり立ち止まったりしている暇はないぞ」
そう言った兼田さんは俺の胸を拳で軽く小突くと背を向けて去ろうとする。
「か、兼田さん!なんで俺にアドバイスを?」
そう問い掛けると兼田さんは振り向いて微笑む。
「腑抜けた湘北を倒しても後輩達が胸を張れないだろ?」
そう言うと兼田さんは今度こそ去っていった。
残された俺の身体には鳥肌が立っている。
「過去は参考に……全盛期はいつでも明日……」
兼田さんの言葉が幾度も脳内を駆け巡る。
「ウォォォオオオオ!」
気が付けば叫んでいた。言い表し様のないこの感情を吐き出すために、ただただ叫び続けたのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。