side:赤木剛憲
海南との試合の前半は木暮と宮益が中心となって進んでいった。とは言っても飛び道具合戦になったわけじゃない。要所要所で二人の3Pシュートが光り、それぞれのチームにリズムや勢いを呼び込み合う形になっていったんだ。
では両チームのエースはどうなったかというと……こちらは地上戦でバチバチにやりあっていると言っていいだろう。
牧はカットインを仕掛けていく中で宮益がフリーになればパスを供給する。
対して三井はというと牧と似た事をしながらも時折自分で3Pシュートを狙うのだが、安西先生が言うにはどうも牧のファールを誘っているようなんだ。
その証拠とでも言うべきか牧は前半が終わった時点で既に3つのファールを重ねている。
点差は海南に10点リードされているが十分に射程圏だ。
懸念があるとすれば牧だけじゃなく猪狩さんも3つファールを重ねてしまっている事か。その為まだ本調子じゃない俺がハーフタイム中にアップを始めている。
もちろん出番が来れば全力でやるが、果たして今の俺がどこまでやれるか……。
いかんな。こんな気持ちでコートに立ったらあっという間に飲まれてしまう。集中しろ、剛憲!
両手で思い切り顔を張り気持ちを切り替えると後半が始まったが、海南の動きが前半と違った。明らかにボールを中に集めている。
「猪狩君が狙われていますね。赤木君、準備は出来ていますか?」
「は、はいっ!」
そう返事はしたものの俺はかつてない緊張に身を震わせている。試合に出るのはこんなに怖いものだったか?
暖めた筈の身体を流れる汗が冷たく感じる。そう思ったその時、鳴り響いた審判の笛に心臓が跳ね上がった。
コートに目を向けると……そこには手を上げる猪狩さんの姿がある。
「赤木君、猪狩君と交代です」
安西先生に促されるままに猪狩さんと交代する。コートに一歩足を踏み入れると膝が笑ってしまう。地に足がつかない。
不意に背中に痛みが走る。振り向くと三井がいた。いつの間に?
「赤木、何度ミスしてもいい。何度ファールしたっていい。けど、コートにいる間は俯くな。顔を上げ続けろ」
ミスをしてもいい?だがそれじゃ勝てんじゃないか。
「バスケはチームスポーツだ。乱暴な言い方だがお前が負けてもチームが勝てばいい」
俺が負けてもチームが勝てば……?
そうだ。バスケはチームスポーツだ。俺が負けてもチームが勝てばいい。どうしてこんな大事な事を忘れてたんだ。
「ハッタリでいい。基本のハンズアップとルックアップをしっかりな。そしたら後は俺達でフォローする」
三井はバシッと背中を叩いて去る。
俺が勝つ必要がない。この事を理解するとガチガチに固まっていた身体から、不思議といい感じに力が抜けていくのがわかる。
審判の笛が鳴り試合が再開された。
不様でもいい。俺が勝つ必要はない。先ずは基本のハンズアップとルックアップだ。
「さぁ来い!」
自然に出た俺の声にチームの皆も応じて声を出したのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。