三井寿は諦めの悪い男   作:ネコガミ

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本日も1話の投稿です。


第90話『個人の勝利ではなくチームの勝利』

side:赤木剛憲

 

 

 海南との試合の前半は木暮と宮益が中心となって進んでいった。とは言っても飛び道具合戦になったわけじゃない。要所要所で二人の3Pシュートが光り、それぞれのチームにリズムや勢いを呼び込み合う形になっていったんだ。

 

 では両チームのエースはどうなったかというと……こちらは地上戦でバチバチにやりあっていると言っていいだろう。

 

 牧はカットインを仕掛けていく中で宮益がフリーになればパスを供給する。

 

 対して三井はというと牧と似た事をしながらも時折自分で3Pシュートを狙うのだが、安西先生が言うにはどうも牧のファールを誘っているようなんだ。

 

 その証拠とでも言うべきか牧は前半が終わった時点で既に3つのファールを重ねている。

 

 点差は海南に10点リードされているが十分に射程圏だ。

 

 懸念があるとすれば牧だけじゃなく猪狩さんも3つファールを重ねてしまっている事か。その為まだ本調子じゃない俺がハーフタイム中にアップを始めている。

 

 もちろん出番が来れば全力でやるが、果たして今の俺がどこまでやれるか……。

 

 いかんな。こんな気持ちでコートに立ったらあっという間に飲まれてしまう。集中しろ、剛憲!

 

 両手で思い切り顔を張り気持ちを切り替えると後半が始まったが、海南の動きが前半と違った。明らかにボールを中に集めている。

 

「猪狩君が狙われていますね。赤木君、準備は出来ていますか?」

「は、はいっ!」

 

 そう返事はしたものの俺はかつてない緊張に身を震わせている。試合に出るのはこんなに怖いものだったか?

 

 暖めた筈の身体を流れる汗が冷たく感じる。そう思ったその時、鳴り響いた審判の笛に心臓が跳ね上がった。

 

 コートに目を向けると……そこには手を上げる猪狩さんの姿がある。

 

「赤木君、猪狩君と交代です」

 

 安西先生に促されるままに猪狩さんと交代する。コートに一歩足を踏み入れると膝が笑ってしまう。地に足がつかない。

 

 不意に背中に痛みが走る。振り向くと三井がいた。いつの間に?

 

「赤木、何度ミスしてもいい。何度ファールしたっていい。けど、コートにいる間は俯くな。顔を上げ続けろ」

 

 ミスをしてもいい?だがそれじゃ勝てんじゃないか。

 

「バスケはチームスポーツだ。乱暴な言い方だがお前が負けてもチームが勝てばいい」

 

 俺が負けてもチームが勝てば……?

 

 そうだ。バスケはチームスポーツだ。俺が負けてもチームが勝てばいい。どうしてこんな大事な事を忘れてたんだ。

 

「ハッタリでいい。基本のハンズアップとルックアップをしっかりな。そしたら後は俺達でフォローする」

 

 三井はバシッと背中を叩いて去る。

 

 俺が勝つ必要がない。この事を理解するとガチガチに固まっていた身体から、不思議といい感じに力が抜けていくのがわかる。

 

 審判の笛が鳴り試合が再開された。

 

 不様でもいい。俺が勝つ必要はない。先ずは基本のハンズアップとルックアップだ。

 

「さぁ来い!」

 

 自然に出た俺の声にチームの皆も応じて声を出したのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。
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