side:三井寿
海南との試合の後半、途中出場の赤木だがプレイスタイルが変わった。というよりはプレイのバランスが良くなったと言うべきか?
これまでの赤木はとにかくゴール下で俺が俺がという感じだったんだが、この試合ではゴール下を離れてスクリーンを掛ける事で、インサイドでプレーする長瀬さんや倉石のフォローに回る動きも見せている。
まだどこかぎこちなさもある動きで魚住程の存在感や安定感もないが、今の赤木になら十分にCを任せられそうだ。
さて、赤木はともかく問題は牧だ。こいつをどうにかしない事にはこの試合に勝つのは難しい。
牧には既に3つファールをさせちゃいるが、後半に入って集中のギアを一つ上げたこいつからファールを奪うのは中々に困難だ。
それを察しているのか牧の奴は前半以上にアグレッシブに来やがる。それでいてファールをしねぇんだから大した奴だぜ。
とはいえ牧に好き放題やられてばかりもいられない。なら一つ狙うしかねぇだろうな。
牧のマークに付き仕掛けのタイミングを測る。
ドリブルで仕掛けてきた牧に身体を寄せる。いつもならロールを警戒して僅かに距離を取るところをわざと身体を寄せて距離を詰める。ほんの数cmだけ。牧が身体を捩じ込もうと空いている左手を使ってくるタイミングで。
ここだ!
「うおっ!?」
牧の左手で押された俺は堪えずに後ろに倒れる。大げさになりすぎず、けど押されて倒れたのがわかる様に。
ピッ!
よしっ!これで牧はファール4つ目だ!試合残り時間は10分……行けるぜ!
笛を吹かれた牧は数秒の間茫然としてたが、直ぐに我に返るとやられたとばかりに苦笑いをした。そして高頭監督が交代を告げると堂々と胸を張ってコートを出ていく。
……敵ながら大したプレーヤーだよ、お前は。
その後海南は可能な限り時間を使ってプレーをしようとするが攻守共に精彩を欠き、俺達湘北のプレーに飲み込まれいく。
点差を逆転して更に点差を広げていったところで牧が出てきたが時既に遅しというべきか、点差は詰まることなく時間だけが過ぎていく。
そしてリードを保ったまま試合終了の笛が鳴り響くと、俺達湘北は全国出場を決めたのだった。
◆
side:高頭力
皆が帰り仕度を終えて控え室を出た中で牧だけが残っている。俺は長椅子に座る牧の隣に腰を下ろした。
「何をされたかわかっているか?」
「はい、いつもより詰められファールを誘われました」
試合中は気持ちを切らせないために敢えて言わなかったがどうやらわかっていたようだ。
「そうだ。お前に覚られないようにドリブルで仕掛けて左手を使おうとした瞬間に距離を詰めた。僅か数cmだがな。ああいうのは練習では出来ても試合では使えない類いの技術なんだがなぁ……」
そう言うと牧は不敵に笑みを浮かべる。
試合で負けた悔しさよりもライバルが手強い事に喜びを覚えるか。この汲めども尽きぬ闘志と勝利への貪欲さこそが牧の最大の魅力。……賭けてみるか。
「牧、ロングシュートをやらんか?」
「俺が、ですか?」
驚く牧に頷き言葉を続ける。
「宮益や木暮の様なシューター程の精度はいらん。だが警戒させられる程度の精度があれば、お前のオフェンスの選択肢が広がる。そのメリットはわかるだろう?」
おそらく三井との攻防をイメージしているのだろう。牧は武者震いをしているが言葉を続ける。
「だがリスクもある。それは警戒させられるだけの精度が身に付かず、選手として中途半端になってしまう事だ。」
「やります」
リスクを告げても躊躇せず挑戦を選ぶか……ならば俺もその闘志に応えねばな。
「それじゃ夏の残りはシュート漬けだな。シュート2万本だ」
「2万で足りますか?」
不敵に笑いながらそう言う牧に思わず笑ってしまう。
「ハッハッハッ!なら2万本とは言わずお前の腕が上がらなくなるまでだ!」
「望むところです」
これで牧は大丈夫だな。後は怪我をせんように見守るだけだ。
昨今では口の悪いのがまるでうちが弱くなったかの様に声高に叫ぶが、うちが弱くなったのではなく神奈川のレベルが上がり、これまでの海南では対応出来ない時代が来ただけなのだ。
その新たな時代に適応し生き残ったその時、海南は新たな時代の神奈川の王者として君臨出来るだろう。
その時が来るのは直ぐか、あるいは5年後10年後かはわからんがな。
「さぁ帰るぞ。帰ってミーティングだ」
「ミーティングが終わったらシュート練習をしても?」
「ばかもん、今日ぐらいは休め」
さて、残るは他の教え子達だが……合同合宿で先行きの目処が立てば上出来か。
試合中に折ってしまった扇子をゴミ箱に捨て新たな扇子を手にすると、牧と共に控え室を去るのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。