A、アニメ2期以降のイメージ。おおよそ史実通りだけどケガでの引退はしていない。
トウカイテイオーは有馬記念後にまた骨折しているし、ミホノブルボンは菊花賞後のケガを療養して直した後。ライスシャワーもレース中骨折して大ケガしたけど療養中。みんなまだまだ走れます。
皐月賞まで残り2週間となった。
そろそろレースに向けて調整していく頃合いだ。芝2,000mを走るトレーニングをしていくわけだが、ゴールドシップは飽きずにできるだろうか。
練習場で正座しながら真剣な顔で1人将棋をしているのを見て、なんとか頑張ってもらおうと新たに決意した。
というわけで、レースのトレーニングをしよう。ゴールドシップにそう話すと、ん? と首を傾げられた。
「なんだ? 改まって。いつもレースのトレーニングしてるだろ?」
桂マを裏返しながら不思議そうにしている。
レース本番を考えての走りだよ。そう言うと、ふぅーんと言いながら立ち上がった。
「で、何するんだ? ネギで尻のたたき合いか?」
尻にネギを打つトレーニングなんてあるのだろうか……? 相変わらずの発想だ。ははっと笑いながら、否定する。
今日からやっていきたいのは、コース取りのトレーニングだ。今年の皐月賞、天気予報だと前日に雨が降る。本番は晴れるようだが、良くて
特に、レースで走りこまれている内側の芝はグシャグシャで、最後の第3、第4コーナーはかなり荒れていることが多い。そのため、基本的には外側を走ろうとするウマ娘が多い。
もし第4コーナーでバ群に飲み込まれると、外を走りたいウマ娘たちに内から押し出され、無理やり大回りさせられて体力を一気に持っていかれてしまう。
ゴールドシップの追込の走りを考えると問題はないと思うが、もしものことを考えて、あらかじめプランを立てておきたいのだ。
特に、確実だろうコース内側の荒れたバ場状態を考慮した走りをしなければならないから。
そう説明すると、なるほどなーと納得していた。
「気持ちよく走れねーとオラつくからな。アタシってば今を生きるファビュラスなゴルシちゃんだからよ!」
ファビュラスとは一体なんなのかわからないが、上品におほほと笑うのを見て、きっと深い意味はないのだろうな、と思った。
気持ちよく走れないとオラつくと言っていたが、ウマ娘に気持ちよく走らせる。これはトレーナーの最低限の義務だ。
だから、出会って間もないころに走りを見せてもらって走りやすいレースプランをと考えていた。考えていたんだ。
よく調べてみたところ、ゴールドシップは逃げ以外ならなんでもできることが判明。特に先行は持ち前のスタミナを存分に発揮して、コーナーから抜け出していくという走りもできていた。
そこまでできるなら先行で楽しく走れるんじゃ、と思って聞いてみたが、気分によると言われた。
つまり、レースごとにゴールドシップの気分を高めてあげれば、うまいことプラン通り走れるように調整できるということだ!
……かなり難しいが!
とりあえず皐月賞にむけてどう走りたいかあるか聞いてみる。
「そりゃあおめー、そん時の気分だろ」
その日のアタシに聞いてくれよな、と言って準備運動を始めた。もちろんそう言うと思っていたため、ポケットからメモ帳を取り出す。
ゴールドシップは自分の好きなように気持ちよく走ると凄まじいパワーを見せてくれるのはわかっている。反面、少しでも楽しくないと全然走らない。
なので、皐月賞で気持ちよく走れる作戦を先に作ってきた。今日はその作戦に沿って走ってもらうトレーニングだ。
もちろん1人だとすぐ飽きてしまうので、今回も併走トレーニングとなる。
「おう! よろしくな!」
「ミホノブルボンです。よろしくお願いします」
今日一緒に走ってくれるのはミホノブルボンだ。トレーナーの先輩がスタミナお化けのゴールドシップに目をつけ、ブルボンと併走トレーニングをしてみないかと提案してくれたのだ。
何度か走ってもらっているが、ケガで長期療養していたとは考えられない体力で併走していた。
ゴールドシップもブルボンを気に入ったのか、学園内でよく話すようになったらしい。先輩にいい友人ができたと感謝された。
友人のライスシャワーがレース中に骨折するアクシデントがあり、一時期ふさぎ込んでいたが、今は持ち直したようだ。今の医療技術ならライスシャワーがまた走れるようになるという話があったのも大きいだろう。
「よう。中々調子よさそうじゃねぇか」
声をかけてきたのは、ブルボンのトレーナー。つまりは先輩だ。
中々厳つい見た目と吐く手前までやる厳しい練習で恐れられているが、その分しっかりと結果を出すトレーナーだ。
精神は肉体を越えられる、というのが持論で、それをブルボンは体現している。長距離があまり得意ではなかったのに、菊花賞で2着になれるのだから。
もっとも坂路を日が落ちるまでというのはちょっとやりすぎだと思うが。ゴールドシップも珍しくやってみたいと言い出したためやらせてみたら、トレーニング終わりにとろけてしまっていた。
次の日筋肉痛もなくピンピンしていて、中々おもしろかったと感想を言っていた。流石だと思ったよ。
「で、どう走るんだ?」
ゴールドシップが走り方を聞いてきたため、手元のメモを見せて作戦を説明する。
それを見たゴールドシップは、ニヤァと笑った。
「トレーナー……わかってきたじゃねーか!」
バシバシと背中を叩かれ、思わずむせる。ウマ娘のパワーは強い。きっと真っ赤になっているだろう。
背中がひりひりするが、ゴールドシップの機嫌はよさそうだ。ニコニコしながらコースの中に入っていった。
「うっし! 目指すぜ、将棋王!」
「疑問。将棋王とはなんでしょうか? 私のデータにはありません」
「知らねーのか? なら教えてしんぜよう……金と飛車で歩を挟めば、その道に近づくじゃろう。ふぉっふぉっふぉ」
「なるほど。データ修整。将棋とは奥深いものですね」
「……おい、ブルボンに変なこと吹き込むなよ?」
俺に言われましても……。
色々ありはしたが、ゴールドシップは好調だ。このまま皐月賞に向けて気持ちを高めていってもらおう。
◆ ◆ ◆
――そして、レース当日。
中山競バ場はクラシック路線のGⅠレース、皐月賞を見に多くの観客が来場している。
ここで1着をとるスターウマ娘を見ようと詰め掛けているのだ。
"最も早いウマ娘が勝つ"と言われている皐月賞。以前このレースで1着をとったウマ娘は、やはりその後も強かった。
シンボリルドルフ、トウカイテイオー、ミホノブルボン、テイエムオペラオー。誰もが凄まじいと言われているウマ娘たち。
しかし、それを越えることができる大スターを俺は知っている。
「ぶわさっ! しゃららーん」
パドックで肩にかけたジャージを投げ捨て、銀髪をなびかせポーズをとり、前後に歩き回るウマ娘。
もちろんお馴染み、ゴールドシップだ。
「俺は期待してるぜ! 1着はこいつさ!」
「見ろよ、やっぱデカいぞ」
「ああ、他のウマ娘より1回り大きい。ホープフルステークスで見せたパワーがあるのも頷ける」
「キャー! ゴールドシップー!」
レースでの勝敗を気にする者や、身体の強さを再確認する者、あとは純粋なファン。様々な観客から声をかけられ、満足そうにしている。
なんとなくわかってきたことだが、ゴールドシップのファンは今のところ女性が多い。何故かはわからないが。
歓声に満足したのか、おほほと笑いながらパドックを去っていった。一旦合流しよう。
所変わって控室。ゴールドシップと最後の確認を行う。
――午前中に確認したけど、作戦通りにいこう。
「おう! しかしトレーナーもふざけた作戦考えたよな」
確かに、俺が考えた作戦はふざけている。
しかし、ゴールドシップであれば確実に成功する。そう考えて作ったものだ。
ゴールドシップなら必ずいけるよ。そう言うと、あたりめーだろ! と笑顔を見せた。
「いやー、楽しみだな。みんなすげー顔すると思うぜ!」
ゴールドシップと俺で悪い顔をしてニシシと笑いあう。
中山にいる全ての人たちの度肝を抜いてやろう!