ウィナーズ・サークルにて渾身のドロップキックをお見舞いされてマックイーンと観客が絶句というホープフルステークスでの記憶がよみがえる一幕があったが、省略。
メイクデビューではさらっと逃亡、ホープフルステークスでは「アタシは究極のぬれせんべいを作るんだ! ここから一歩も動かねーっ!」と駄々をこねて勝利者インタビューをしなかったが、今回ばかりは受けないと学園側から怒られる。
勝負服についた泥を落とし、ゴールドシップを引きずっていく。やる気がないわけではないようなので、多分おもしろいから引きずられとくかと思ってるだけだろう。
なんとかインタビュー台に乗せると、記者たちが一気に写真を撮り始める。ウマ娘はフラッシュに敏感なため、音だけが鳴り響く。
「ゴールドシップさん、皐月賞を1着で制しましたが、感想はいかがですか?」
インタビュアーにマイクを向けられると、腕を組みながら神妙な顔で頷く。
「やってやったぜ……卯月の仇はとったからな」
「……卯月?」
おっしゃっていることの意味が……と混乱するインタビュアーに、次の質問を、と促す。
ゴールドシップにまともな応対を期待してはいけない。この娘のペースに巻きこまれないようにしつつ、楽しませるようにするのがベストなのだから。
「前回のホープフルステークスもそうでしたが、今回の勝ちも劇的でしたね。作戦だったのでしょうか?」
「ああ。あれはゴルシ星4,000年の歴史の中でもとびっきりのやべーヤツだったぜ。おかげで面白かったけどな!」
事前に用意した作戦です、と困惑するみんなに伝える。
ここでようやく話が通じないのでは……? という空気を感じ取ったのか、インタビュアーは俺のほうを見始めた。
うん、と頷くと、苦笑いしながら質問を続ける。
「今回バ場が稍重で、内側は荒れていたようですが。それも考えていたのですか?」
「ヤオモモって婆さんに教えてもらったんだ……ターフには魔物が住んでるってな」
レース前にも確認しましたが、ゴールドシップならやれると思いました。そう言うと、おぉ、記者から声が漏れる。
そこで、最前列で聞いていた女性記者がキラキラした目をしながら手を上げた。
「月刊トゥインクルの乙名史です!」
「あ、あの、まだ質問の時間では……」
「ぜひお聞きしたいのです! ゴールドシップさんは今回何故勝てたのでしょうか! やはり練習に秘訣が?」
興奮して聞いてきたのは乙名史さんという記者だ。以前学園にも来ていたような気がする。理事長と何やら相談していたような。
ともあれ質問に答えなければ。ゴールドシップに目線を向けると、んべっと舌を出してこちらを見た。答える気がないらしい……。
やってくれると信じていたら勝ってくれました。お互い信頼してレースに臨んだ結果だと思います。
月並みな返答をすると、急に真顔になる乙名史さん。何かまずかったか……?
「す……」
「ん?」
「すばらしいです!!!」
「おぉ! どうした、びっくりお陀仏曼荼羅か?」
急に興奮しながらガリガリガリと手帳に書きこみ始めた。
「互いの信頼! それはすなわち、走りたいと思えば山へも海へも向かい! 自分の身を粉にして走り回る覚悟! 感服しましたぁ!」
……どうやら思っている以上にオーバーに伝わってしまっているようだ!
こちらがどうするかと考えていたら、インタビュアーが慌てて軌道修正し始めた。
「あー、えっとですね。ゴールドシップさん、次のレースの出走は決まっていますか?」
「次?」
「はい。皐月賞をとったのであれば、日本ダービーというのがクラシックの本線だと思うのですが」
皐月賞を勝利して一冠。次に狙いたいのは、やはり日本ダービー。距離もゴールドシップが得意な長距離に近い長さの2,400mになるし、実力としても問題ない。
だが、出走するのはいいのだが、別の問題がある。
「なあトレぴっぴ、ダービーっていつだ?」
5月末だよ。そう言うと、うぅーんと唸り始めた。
そう、ゴールドシップのレースへのフラストレーション。これを溜めないと恐らく負ける。それだけダービーは凄いレースなのだ。
あまり感触がよくないのを周りが察していたので、今のところはダービーに向けて調整していきますと話した。
「レースにやる気がないようですが大丈夫なんでしょうか?」
「あん?」
急に質問してきたのは男の記者だ。ゴールドシップの適当な応対や微妙な反応に対しての質問なのだろうが、大分不躾な質問だ。
「ゴルシちゃんはいつだってやる気だぜ? 見ろ、この流れるようなワンツーゴルシ!」
シュシュシュとシャドーボクシングをし始めるが、その記者は冷えた表情だ。
それを見たゴールドシップは、急に真顔になりつまらなそうな雰囲気を出し始めた。
「んだよ、ノリ悪いぜ。そんなんじゃ真鯛は釣れねーぞ?」
「………」
「えー……そ、それでは質問のお時間に移ろうと思います! どなたか質問のある方はいらっしゃいますか?」
インタビュアーが悪い空気を変えようと他の記者へ質問を投げかけた。
様々な記者から手が上がり、ゴールドシップがハジケた答えを返す中、その記者の男だけは冷めた目で見つめていた。
◆ ◆ ◆
ウイニングライブで華麗なヘッドスピンを見せ、会場を唖然とさせてから数日後。俺は理事長室に呼び出されていた。
中に入ると、そこにいたのは秋川理事長とたづなさん。シンボリルドルフ、そして乙名史さんだ。
「感謝! 来てくれたか!」
「急にお呼びたてしてすみません」
謝るたづなさんに一礼し、何かしましたか、と聞く。
ルドルフが近づき、手に持っていた雑誌を渡してきた。一つは月刊トゥインクル。乙名史さんのところが出している雑誌だ。
そしてもう一つは……週刊トゥインクル?
「週刊トゥインクルは、私の出版社で出している別のウマ娘雑誌です」
「ここを見てほしい」
表紙を指さされて見てみると、『驚愕! 厚顔無恥な皐月賞王者!』と書いてある。
中身のページを読んでみると、先の記者会見でのゴールドシップの応対はどうなのか、勝利したウマ娘として恥ずかしくないのか、と批判が書いてあった。
顔を上げると、申し訳なさそうな乙名史さんの顔が見える。
「先日質問していた記者は、私の出版社の者です。批判的な記事を書く者なんですが……」
体を小さくして謝るので、こちらこそすみませんと頭を下げる。
どうやら乙名史さんはゴールドシップを個人的に気に入っているようで、月刊トゥインクルで特集しようと思ってくれているのだとか。その原案として持ってきてくれたのが月刊トゥインクル。
そして、どうやら学園に問い合わせずにゴールドシップの批判的記事を刊行した週刊トゥインクルを見て、出版社として謝罪をしにきたというのが今回の来訪のようだ。
正直、あの記者会見は遺憾なくすべてを発揮していたから、個人的にはいいのではと思っている。遅かれ早かれ、奇行だらけのウマ娘だと気づかれるから。
それならば、早めに対外的に教えておいた方がいいと思っていたから止めなかったのだ。
そう説明すると、乙名史さんはそうなんですね、と息を吐き、ルドルフは頭を抱えていた。
「トレーナーさん……分かっているとは思うが、度が過ぎると学園の恥だ。君が気にしてくれないと、ゴールドシップは止まらないだろう? なんとかコントロールしてほしい」
「うむ! 個性があることは素晴らしい! しかし、迷惑はかけてはならん!」
生徒会長と理事長のありがたいお言葉に、すみませんと頭を垂れる。
「ふぅ……しかし、この記事。書いてあることは正真正銘、事実です」
「そうですね……でも、これがゴールドシップさんなんですよね」
悲しいことだが、記事に書いてある批判は正しく、また事実。
出てしまったのは仕方ないし、見る人にゴールドシップとは何ぞやというのが伝わるから、一旦よしとしようという結論になった。
話が終わり、雑誌を返して退室しようとすると、理事長から待ったをかけられた。
「提案! 君にお願いがある!」
「私は新しいレース、URAファイナルズの準備をしている!」
理事長が作ろうとしているURAファイナルズ。去年の4月、俺がトレーナーとして所属した時に聞いたものだ。
開催を盛り上げようと学園内に芝やニンジンの大農園を作り上げたりしていたのを、ゴールドシップを追いかける際に何度か見かけたことがある。
年度末に最強のウマ娘を決めるという響きは素晴らしく、トゥインクルシリーズの上位リーグ、ドリームトロフィー・リーグで活躍するウマ娘を含め、全ての世代が戦うことができるのは魅力的だ。
だが、いったい何のお願いなのだろうか?
「感嘆! 新人トレーナーでここまで好成績を残しているのは素晴らしい!」
「トレセン学園に入ってすぐに担当ウマ娘を持って、今や3戦3勝。頭一つ出ていると言ってもいいです」
戦績だけ見ると、確かに活躍していると言えるのだろうが……。
ゴールドシップが頑張ってくれたからです。そう言うと、視界の端にいる乙名史さんがくねくねしだした。なんだろうこの人は。
「そこでだ! 君の活躍を期待して! URAファイナルズへの参加を要請する!」
「つまり、君とゴールドシップに好成績を残してもらいたいということさ。結果が出なければ、参加もできないだろうからね」
ゴールドシップはそれだけ期待されているということなのだろう。
URAファイナルズで、全ての世代のウマ娘たちを千切って勝つゴールドシップ……うん、夢があるな。
頑張ります! 力強く返事すると、うむ! と嬉しそうに扇子を開く。感謝! と書かれていた。
これからより一層頑張って活躍しよう! そう決意した。
「ところでトレーナーさん。ゴールドシップにインタビューのやり方を教えておいてほしい……頼むよ?」
……インタビューでは活躍できないかもしれない!
URAファイナルズは開催決定していましたが、トレーナーとして配属当初はメイクデビュー前日まで担当ウマ娘もいなかったため、注目されていませんでした。
結果を出したからこそ得られたものですね。