A,アプリの育成ストーリーでイベントで走るレースのみです
次のレースをどこにするか。
それについてゴールドシップと2人、中庭でハンバーガーを食べながら話し合う。
何故ご飯を食べながらなのかというと、昼食に誘われたからだ。いつも通り財布の中身とトレーナー室の扉は犠牲になった。
「学園の食堂のやつはピクルスがうめーんだ」
かぶりついて食べているが、口元にソースや脂が一切ついていない。どういう技術なのだろうか。
なんだかんだと1年ほどの付き合いなわけだが、言動と裏腹に食事の所作は非常に美しい。何故食べる時だけ上品なんだ……。
それはさておき。
次のレースは日本ダービーを意識したいところだけど、どう? そう聞くと、ハンバーガーを食べながらチラッとこちらを見た。
「………」
……こちらを見ながらもぐもぐ咀嚼をしている。食べているから待てと言うことだ、多分。
ごくりと飲み込み、水で口をすっきりさせると改めてこちらを見た。
「日本ダービーっていつだ? 日本が生まれた日か?」
創世記に書いてある? と相変わらずの返答だ。
5月末だよ、と言うとほぉーんとやる気のなさそうな声を出してハンバーガーにかぶりつく。
日本ダービーというレースがいかに歴史があるのか、いかに面白いものか、栄誉があるのか。そんな話をしていくが、一向に興味がなさそうな顔でハンバーガーを食べていくゴールドシップ。
……どうやらレースへのフラストレーションを発散させた直後だからか、走りたいけどなーという時期が来ているようだ。
7月にデビューして、12月にホープフルステークス。翌年4月に皐月賞と、基本的に間隔がしっかり空いている。皐月賞から日本ダービーというクラシック路線の出走は、今まで経験のないものだ。
ゴールドシップの実力であれば、勝てると思っているが……。
「紙袋にソース溜まるんだよなー。そういやこの前、ライスが紙袋潰してたら破けてソース飛び散ってたな。ソース爆弾……こいつは名案だ」
しかし、やる気がないのにレースに出てもらうわけにもいかない。それはレースに出ている他のウマ娘たちに失礼だし、絶対に勝てない。
……勝てる自信はある。ある……が、次のレースはもう少し先にしよう。
菊花賞なら長めに時間をとれるし、ゴールドシップが得意だろう長距離のレースだ。そこを目標にしよう。
10月末の菊花賞とかはどう? そう聞くと、神妙な顔つきで紙袋を見ていた彼女はこちらを見た。
「キッカー賞? サッカーでもすんのか? アタシらがやるとボール千切れ飛ぶけど」
ゴールドシップとマックイーンでサッカーをしてみたらサッカーボールの耐久性が無さすぎて3回ぐらいで爆発したという話を思い出した。ウマ娘の脚力で蹴られたら、それはもうシュートというか
キッカーではなく、菊の花だよ。スマートフォンでURAの菊花賞特設サイトを見せると、おぉ! と興味があるそぶりを見せる。
「刺身の上にたんぽぽを乗せるバイトしたことがあんだけどさ、あれって菊の花なんだぜ? 知ってたか?」
そう言って彼女のスマホを見せられる。画面には板前の格好で、真剣に食用菊を乗せようとするゴールドシップの写真が写っていた。
この前言っていた球体から穴をくり抜いてドーナツにするバイトといいこれといい、どこからこんな仕事を見つけてくるのだろうか……?
それで、このレースならいいかな?
「おう! 餅は餅屋、カエルの子はウーパールーパーって言うしな! トレーナーがそれっつーならそれでいいぜ!」
理論はよく分からないが、とりあえずの方針は決まった。
次の目標レースは菊花賞だ。今まで以上にスタミナを鍛えていこう!
「今日は夕飯にバター塩ラーメン作ってマックイーンに食わせるからトレーナーも来いよな! じゃ、今から仕込みがあるから!」
ソースがたっぷり入った紙袋をこちらに投げ、ゴールドシップはどこかに走り去ってしまった。
……とりあえずベンチの掃除をしよう。
放課後、食堂にて。
「えー!? あいつ日本ダービーでないんですか!?」
ありえないし! とテーブルを叩いて立ち上がったのはトーセンジョーダン。ゴールドシップに夕飯を食えと呼ばれた被害者の1人だ。
「ジョーダンさん、落ち着いてください。ええ、私もその、不思議に思いますけれど……」
同じく呼ばれていたマックイーンがジョーダンを落ち着かせる。
クラシック路線の皐月賞に出て1着を取ったにもかかわらず、ケガもしていないのにダービーの出走をしないというのが許せないようだ。
「だって、出たくても出られない娘はいっぱいいるんですよ! なのに、最初から出ないとか! あたしだって……!」
「ジョーダンさん……」
ジョーダンは去年、クラシック候補に名乗りを上げていたのだが、足のケガの影響でクラシックに出走できなかった。
そのため、皐月賞や日本ダービーに対する思いが強いのだろう。
ごめん、俺が決めたんだ。そう言って肩を叩くと、悔しそうな悲しそうな顔でゆっくり椅子に座った。
「……トレーナーさん、あいつが出たくないって?」
そうじゃない。でも、今のゴールドシップじゃ日本ダービーは勝てない。そう思ったんだ。
はっきりとそう答えると、マックイーンがピクリと耳を動かした。
「ゴールドシップさんが勝てない? 皐月賞を見る限り、1着をとれる力があると思いますけれど」
「悔しいですけど、あたしもそう思います。あの末脚、すごかったし」
2人もゴールドシップが勝利できるはずだと思ってくれているようだ。こんなに嬉しいことはない。
だけど、皐月賞のように勝つためには彼女が100%の
「やる気……?」
マックイーンが首を傾げた。そうだ、と俺は首肯する。
ホープフルステークスでも皐月賞でも、ゴールドシップは走りたいと思ったからあの走りをしてくれた。
しかし、日本ダービーに対して興味がない。そうすると、頼めば走ってくれるだろうが、そんな姿勢で勝てるレースではない。
やる気がないのであれば、走らせることはできない。そういう判断だ。
そこまで説明すると、ジョーダンは目を真っ赤にして拳を握り締めながら震えていた。すさまじい怒気を感じる。
「うぃ~、お待たせしやしたぜ! おら、ゴルシちゃん特製バター塩ラーメンだ!」
この空気を一気に壊すかのように、板前姿のゴールドシップがトレイにどんぶりを乗せてテーブルまで歩いてくる。
ゴトっと置かれたどんぶりの中からバターのいい香りがする。なんて今とミスマッチな匂いなんだろうか。
「お好みでこれを使ってくれよな!」
中央にドンと置くのは……デカい石とおろし金。
彼女のことだから、これはきっと岩塩だろう。
マックイーンと目を見合わせ、どうしようかと考えていると、ゴールドシップが様子のおかしいジョーダンに近寄った。
「おい、ジョーダン。ラーメン持って来たぜ? 食わねーのか?」
「あんた……日本ダービーでないって本当?」
「あん? バービー?」
人形か? といいながら懐から人型の模型を取り出した。
何故そんなものを持っているのかという疑問が浮かぶが、とりあえずお昼に話したことだと伝える。
「あ? そういやそんな話したっけな。レースのことだろ?」
「あんた、なんでっ……! 日本ダービー、出るでしょう普通は! ケガもしてないなら!」
ジョーダンが立ち上がり、ゴールドシップの服を掴んでしがみつくように詰め寄った。
あわてて立ち上がって止めようとすると、ゴールドシップがチラッとこっちを見た。
……自分で何とかするということだろうか。それを信じて座りなおす。
「あんた、なんでっ……!」
「アタシはクラシックがどうとか知らねーからな」
「……どういうことよ」
「ジョーダンはクラシックでたいとかあるかもしれねーけどよ、アタシは日本ダービーで勝つとかそういう目標じゃねーってことだ」
彼女はジョーダンの手を掴み、椅子に押し込んで座らせる。
そして腰に手を当て、ふふんと不敵な笑みを浮かべた。
「いいか? おめーはおめーの出たいレースがあんだろ? アタシはアタシで出たいレースってのがあるわけだ。わかるか? アンダースタン?」
「それは、わかるし! でも、一生に一度しか出れないのに……」
「あ? マジ?」
急に真顔でこちらを見てくる。
クラシックのレースは今年だけしか出れないぞ。そう説明すると、おいおいといいながら手を上にあげる。
「聞いてないぜトレぴっぴ~。期間限定セールに出遅れるとかウマダム娘として失格でザマス」
おほほ、と笑う彼女に、結局出たいの? と聞いてみる。
「うっし、1回しか出れねーなら出とくか!」
「ほんとですの!?」「でるの!?」
マックイーンとジョーダンがびっくりして立ち上がった。一生に一度という特別感がよかったようだ。
皐月賞の時に説明しておけばよかったか、と少し後悔した。
「やりましたわ! 応援しますわよ!」
「ほんと、最初から出るって言えばいいのに! まぎらわしいし!」
2人はほっと胸をなでおろし、ゴールドシップを応援してくれた。
ゴールドシップが出走するというのであれば、来月に向けて頑張ろう!
「東京レース場だろ? 焼きそば売れっかな?」
……いまいちレースへのやる気を感じられないが、頑張ろう!
◆ ◆ ◆
『先頭はアビスブリリアント! アビスブリリアント! ゴールドシップは伸びない! そのままアビスブリリアントが1着でゴール!』
「ま、こんなもんだろ!」
今一調子が上がらず5着。
帰ってから久々に本気で泣いたのであった。
何故ダービーをスキップしたかというとアプリの育成ストーリーでダービーは走らなくても良いからです。
史実だと中々加速できずに5着という結果だったので入っていないのでしょうね。
基本的にストーリーで必ず走るイベントのレース以外は詳しく描写しない予定です。何故なら、アプリのストーリーを主としているから。