ゴールドシップとの3年間   作:あぬびすびすこ

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Q,どのレースを書く予定なの?
A,アプリの育成ストーリーでイベントで走るレースのみです


13、ダービー?

 次のレースをどこにするか。

 それについてゴールドシップと2人、中庭でハンバーガーを食べながら話し合う。

 何故ご飯を食べながらなのかというと、昼食に誘われたからだ。いつも通り財布の中身とトレーナー室の扉は犠牲になった。

 

「学園の食堂のやつはピクルスがうめーんだ」

 

 かぶりついて食べているが、口元にソースや脂が一切ついていない。どういう技術なのだろうか。

 なんだかんだと1年ほどの付き合いなわけだが、言動と裏腹に食事の所作は非常に美しい。何故食べる時だけ上品なんだ……。

 

 それはさておき。

 次のレースは日本ダービーを意識したいところだけど、どう? そう聞くと、ハンバーガーを食べながらチラッとこちらを見た。

 

「………」

 

 ……こちらを見ながらもぐもぐ咀嚼をしている。食べているから待てと言うことだ、多分。

 ごくりと飲み込み、水で口をすっきりさせると改めてこちらを見た。

 

「日本ダービーっていつだ? 日本が生まれた日か?」

 

 創世記に書いてある? と相変わらずの返答だ。

 5月末だよ、と言うとほぉーんとやる気のなさそうな声を出してハンバーガーにかぶりつく。

 日本ダービーというレースがいかに歴史があるのか、いかに面白いものか、栄誉があるのか。そんな話をしていくが、一向に興味がなさそうな顔でハンバーガーを食べていくゴールドシップ。

 

 ……どうやらレースへのフラストレーションを発散させた直後だからか、走りたいけどなーという時期が来ているようだ。

 7月にデビューして、12月にホープフルステークス。翌年4月に皐月賞と、基本的に間隔がしっかり空いている。皐月賞から日本ダービーというクラシック路線の出走は、今まで経験のないものだ。

 ゴールドシップの実力であれば、勝てると思っているが……。

 

「紙袋にソース溜まるんだよなー。そういやこの前、ライスが紙袋潰してたら破けてソース飛び散ってたな。ソース爆弾……こいつは名案だ」

 

 しかし、やる気がないのにレースに出てもらうわけにもいかない。それはレースに出ている他のウマ娘たちに失礼だし、絶対に勝てない。

 ……勝てる自信はある。ある……が、次のレースはもう少し先にしよう。

 菊花賞なら長めに時間をとれるし、ゴールドシップが得意だろう長距離のレースだ。そこを目標にしよう。

 

 10月末の菊花賞とかはどう? そう聞くと、神妙な顔つきで紙袋を見ていた彼女はこちらを見た。

 

「キッカー賞? サッカーでもすんのか? アタシらがやるとボール千切れ飛ぶけど」

 

 ゴールドシップとマックイーンでサッカーをしてみたらサッカーボールの耐久性が無さすぎて3回ぐらいで爆発したという話を思い出した。ウマ娘の脚力で蹴られたら、それはもうシュートというか射撃(ショット)というか……。

 キッカーではなく、菊の花だよ。スマートフォンでURAの菊花賞特設サイトを見せると、おぉ! と興味があるそぶりを見せる。

 

「刺身の上にたんぽぽを乗せるバイトしたことがあんだけどさ、あれって菊の花なんだぜ? 知ってたか?」

 

 そう言って彼女のスマホを見せられる。画面には板前の格好で、真剣に食用菊を乗せようとするゴールドシップの写真が写っていた。

 この前言っていた球体から穴をくり抜いてドーナツにするバイトといいこれといい、どこからこんな仕事を見つけてくるのだろうか……?

 それで、このレースならいいかな?

 

「おう! 餅は餅屋、カエルの子はウーパールーパーって言うしな! トレーナーがそれっつーならそれでいいぜ!」

 

 理論はよく分からないが、とりあえずの方針は決まった。

 次の目標レースは菊花賞だ。今まで以上にスタミナを鍛えていこう!

 

「今日は夕飯にバター塩ラーメン作ってマックイーンに食わせるからトレーナーも来いよな! じゃ、今から仕込みがあるから!」

 

 ソースがたっぷり入った紙袋をこちらに投げ、ゴールドシップはどこかに走り去ってしまった。

 ……とりあえずベンチの掃除をしよう。

 

 

 

 放課後、食堂にて。

 

「えー!? あいつ日本ダービーでないんですか!?」

 

 ありえないし! とテーブルを叩いて立ち上がったのはトーセンジョーダン。ゴールドシップに夕飯を食えと呼ばれた被害者の1人だ。

 

「ジョーダンさん、落ち着いてください。ええ、私もその、不思議に思いますけれど……」

 

 同じく呼ばれていたマックイーンがジョーダンを落ち着かせる。

 クラシック路線の皐月賞に出て1着を取ったにもかかわらず、ケガもしていないのにダービーの出走をしないというのが許せないようだ。

 

「だって、出たくても出られない娘はいっぱいいるんですよ! なのに、最初から出ないとか! あたしだって……!」

「ジョーダンさん……」

 

 ジョーダンは去年、クラシック候補に名乗りを上げていたのだが、足のケガの影響でクラシックに出走できなかった。

 そのため、皐月賞や日本ダービーに対する思いが強いのだろう。

 ごめん、俺が決めたんだ。そう言って肩を叩くと、悔しそうな悲しそうな顔でゆっくり椅子に座った。

 

「……トレーナーさん、あいつが出たくないって?」

 

 そうじゃない。でも、今のゴールドシップじゃ日本ダービーは勝てない。そう思ったんだ。

 はっきりとそう答えると、マックイーンがピクリと耳を動かした。

 

「ゴールドシップさんが勝てない? 皐月賞を見る限り、1着をとれる力があると思いますけれど」

「悔しいですけど、あたしもそう思います。あの末脚、すごかったし」

 

 2人もゴールドシップが勝利できるはずだと思ってくれているようだ。こんなに嬉しいことはない。

 だけど、皐月賞のように勝つためには彼女が100%の()()()を出してくれないといけないのだ。

 

「やる気……?」

 

 マックイーンが首を傾げた。そうだ、と俺は首肯する。

 ホープフルステークスでも皐月賞でも、ゴールドシップは走りたいと思ったからあの走りをしてくれた。

 しかし、日本ダービーに対して興味がない。そうすると、頼めば走ってくれるだろうが、そんな姿勢で勝てるレースではない。

 やる気がないのであれば、走らせることはできない。そういう判断だ。

 そこまで説明すると、ジョーダンは目を真っ赤にして拳を握り締めながら震えていた。すさまじい怒気を感じる。

 

「うぃ~、お待たせしやしたぜ! おら、ゴルシちゃん特製バター塩ラーメンだ!」

 

 この空気を一気に壊すかのように、板前姿のゴールドシップがトレイにどんぶりを乗せてテーブルまで歩いてくる。

 ゴトっと置かれたどんぶりの中からバターのいい香りがする。なんて今とミスマッチな匂いなんだろうか。

 

「お好みでこれを使ってくれよな!」

 

 中央にドンと置くのは……デカい石とおろし金。

 彼女のことだから、これはきっと岩塩だろう。

 マックイーンと目を見合わせ、どうしようかと考えていると、ゴールドシップが様子のおかしいジョーダンに近寄った。

 

「おい、ジョーダン。ラーメン持って来たぜ? 食わねーのか?」

「あんた……日本ダービーでないって本当?」

「あん? バービー?」

 

 人形か? といいながら懐から人型の模型を取り出した。

 何故そんなものを持っているのかという疑問が浮かぶが、とりあえずお昼に話したことだと伝える。

 

「あ? そういやそんな話したっけな。レースのことだろ?」

「あんた、なんでっ……! 日本ダービー、出るでしょう普通は! ケガもしてないなら!」

 

 ジョーダンが立ち上がり、ゴールドシップの服を掴んでしがみつくように詰め寄った。

 あわてて立ち上がって止めようとすると、ゴールドシップがチラッとこっちを見た。

 ……自分で何とかするということだろうか。それを信じて座りなおす。

 

「あんた、なんでっ……!」

「アタシはクラシックがどうとか知らねーからな」

「……どういうことよ」

「ジョーダンはクラシックでたいとかあるかもしれねーけどよ、アタシは日本ダービーで勝つとかそういう目標じゃねーってことだ」

 

 彼女はジョーダンの手を掴み、椅子に押し込んで座らせる。

 そして腰に手を当て、ふふんと不敵な笑みを浮かべた。

 

「いいか? おめーはおめーの出たいレースがあんだろ? アタシはアタシで出たいレースってのがあるわけだ。わかるか? アンダースタン?」

「それは、わかるし! でも、一生に一度しか出れないのに……」

「あ? マジ?」

 

 急に真顔でこちらを見てくる。

 クラシックのレースは今年だけしか出れないぞ。そう説明すると、おいおいといいながら手を上にあげる。

 

「聞いてないぜトレぴっぴ~。期間限定セールに出遅れるとかウマダム娘として失格でザマス」

 

 おほほ、と笑う彼女に、結局出たいの? と聞いてみる。

 

「うっし、1回しか出れねーなら出とくか!」

「ほんとですの!?」「でるの!?」

 

 マックイーンとジョーダンがびっくりして立ち上がった。一生に一度という特別感がよかったようだ。

 皐月賞の時に説明しておけばよかったか、と少し後悔した。

 

「やりましたわ! 応援しますわよ!」

「ほんと、最初から出るって言えばいいのに! まぎらわしいし!」

 

 2人はほっと胸をなでおろし、ゴールドシップを応援してくれた。

 ゴールドシップが出走するというのであれば、来月に向けて頑張ろう!

 

「東京レース場だろ? 焼きそば売れっかな?」

 

 ……いまいちレースへのやる気を感じられないが、頑張ろう!

 

 

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

『先頭はアビスブリリアント! アビスブリリアント! ゴールドシップは伸びない! そのままアビスブリリアントが1着でゴール!』

「ま、こんなもんだろ!」

 

 今一調子が上がらず5着。

 帰ってから久々に本気で泣いたのであった。




 何故ダービーをスキップしたかというとアプリの育成ストーリーでダービーは走らなくても良いからです。
 史実だと中々加速できずに5着という結果だったので入っていないのでしょうね。

 基本的にストーリーで必ず走るイベントのレース以外は詳しく描写しない予定です。何故なら、アプリのストーリーを主としているから。

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