ゴールドシップとの3年間   作:あぬびすびすこ

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誤字脱字修整ありがとうございます。とても助かります。

あと感想も毎回いただけてとても嬉しいです。ゴールドシップらしさを出せるように頑張りたいです。


17、夏合宿 前編

 恒例のドロップキックを受け、慣れたように受け身を取って転がる俺の写真が新聞の一面を飾った宝塚記念。

 ウマッターやウマチューブなどのSNSではゴールドシップのドロップキック集や俺の受け身集などの動画が作られ話題になっている。

 何故俺がそういう情報に詳しいのかというと。

 

「トレぴっぴ、朝動画撮っといたからよろしくな!」

 

 ゴールドシップがウマチューブで動画投稿をしているからだ。

 彼女のチャンネル、ぱかチューブは皐月賞と宝塚記念での活躍で凄まじいノビを見せている。

 問題はアップしている動画がシュールすぎること。ゴールドシップがクラゲを10分観察し続ける動画や、川の土手に丸太を打ちこむ動画など、あまりにも筆舌に尽くしがたい。

 

 夏合宿に行くためにバスに乗っているわけだが、そんな日の朝にどんな動画を……ノートパソコンを開いて送られてきたものを確認する。

 

『ピスピース! 宇宙からやってきた美少女戦士、ゴルシちゃん! 今日はミヤマクワガタ2匹でバグバグバトルレスリングだぁーい!』

 

 画面では少し薄暗い中、ゴールドシップがいつも通り意味不明なことを言いながら暴れていた。

 カメラがすっと寄っていくと、切り株の上にクワガタが2匹わさわさ動いていた。

 

「おおー! いいクワガタじゃん!」

「外で騒がしいと思ったらコレだったのか」

 

 隣に座っていたウイニングチケットとビワハヤヒデがパソコンを覗きこむ。どうやら本当に朝撮っていたようだ。

 

『赤コーナー! トレセン学園裏山の狂犬! ミヤァーマクワガタ! 青コーナー! どっかの山奥でハチミツペロペロしていたお坊ちゃん! ミヤマークワガトゥアー!』

「どちらも同じクワガタなのか?」

「うん! これはどっちもミヤマクワガタだね! ところで赤コーナーと青コーナーってどっち?」

「バッきゃろーチケゾー! そんなのおめー、フィーリング的にこっちが赤だろ!」

 

 そう言って左右にいるクワガタではなく、画面の上を指さした。切り株の上側が赤コーナーのようだ。

 つまりどういうことなんだろうか。ビワハヤヒデと俺は目を合わせて首を傾げる。

 ウイニングチケットはそっかー! と楽しそうにしているが、この娘は本当に分かって聞いているんだろうか……?

 

 そのまま動画を見ていると、ついにクワガタ2匹がかち合い、アゴでお互いをけん制し合う。

 

『おらー! そこで挟めっ! ドラゴンスクリューだ!』

「いいぞー! 挟んで投げろー!」

「ふむ、クワガタのアゴの力も馬鹿にできないな」

 

 それぞれが思い思いに動画を楽しんでいる。今回のはアタリか……? そう考えていたら、動画内で動きがあった。

 

『おい! ゴールドシップ!』

『やべっ、エアグルーヴじゃねーか』

 

 どうやら騒ぎすぎたせいでエアグルーヴが来たようだ。カメラが動いて、走ってくるエアグルーヴと苦笑いしながらその後ろを歩くフジキセキの姿があった。

 

『次回へ続くぜ! じゃあなー!』

『待て! ひゃっ、こ、こら! 虫を服につけるな! フジキセキ、と、取ってくれ!』

『おやおや』

 

 ……ここで動画は終わっている。顔を上げると、音声が聞こえていたのか前方で座っているエアグルーヴが顔を真っ赤にしながらこちらを睨んでいた。

 隣でニヤニヤしているゴールドシップを見て、罠にはめられた……と思わず天を仰ぐ。ウイニングチケットとビワハヤヒデも、苦笑いしていた。

 初めての夏合宿はお説教から始まる。それが決まったのだった。

 

 

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

「トレぴっぴー、そんな怒んなよー。背中に張り手したときのジョーダンみてーな顔してるぜ?」

 

 合宿所に到着してからエアグルーヴに真っ赤な顔で怒られ、ゴールドシップをキチンと見ろ! と詰められた。

 荷物を部屋においてから彼女と合流した時に、思わずムッとして顔を見たら、何故かダル絡みされた。

 

「ところで今日は何すんだ? バナナボートか? サーフィンも捨てがたいよな!」

 

 今回、わざわざ海にきたわけだから、海でできる練習をしたい。

 本当は砂浜を走ってもらえるといい練習になるんだが、合宿前に砂浜ダッシュの話をしたらいかに砂を扇状に蹴り上げられるかを考えていたからできなくなった。確実に他のウマ娘に迷惑をかける。

 そういうわけで、俺は脇に抱えていたものを見せる。それを見たゴールドシップは少し首を傾げたが、ハッと何かに気づいてニヤニヤし始めた。

 

「おいおいトレぴっぴよぉー……ゴルシちゃんには及ばねーが天才だな? にしし」

「……本当に染まってきていますわね」

「うんうん、似た者どーしってやつだね」

 

 肩を組まれてこのこの、と腕をつつかれる。2人で笑いあっていると、近くで準備運動をしていたマックイーンが複雑そうな顔でこちらを見ていた。隣にはテイオーもいる。

 2人はケガからある程度回復したようで、まだリハビリではあるが夏合宿に参加できていた。たまたまいただけなのだろうが、機嫌のいいゴールドシップの近くにいるとは……。

 

「よっしゃ! マックイーンとテイオーもやるぜ!」

「え、な、何をです?」

「決まってんだろ! 忍者だよ忍者!」

 

 困惑するマックイーンとテイオーを連れて海へと向かう。ゴールドシップに頼んで海の上にあるものを敷いてもらい、砂浜で端っこを固定。

 これで準備はできた。海から上がってきたやる気満々のゴールドシップを見て、さらに疑問符を頭の上に増やす2人。

 

「え、何これ……?」

「えっと……トレーナーさん、これから何をするんです?」

 

 見ればわかるよ。そう言って、敷いてあるものを指さし、ゴールドシップに指示をする。

 行ってこい!

 

「おう! 拙者はゴルシ忍者のゴルシ様でござるーっ!」

 

 彼女は海の上に敷いたものの上で一気に走り出す。下は水だというのに、全く沈むことなく走っている。

 この光景を見た2人はえぇ……? と困惑していた。

 今日のトレーニングは、水上ござ走りだ。そう言うと、ゴールドシップを見る目でこちらを見てきた。

 

 

 

 

 

 遊んでいるようにもふざけているようにも見えるこの水上ござ走りだが、楽しくトレーニングになる……と俺は考えている。

 50mの特注サイズのござを往復するというトレーニングなのだが、これが中々難しい。真っすぐ走らないとバランスを崩して海に落ちるし、かといって慎重になるとござと一緒に沈んでしまう。

 しっかりした体幹があれば難なく走れるだろうが、それを往復で100mとなると中々辛い。

 

 やってみたいと言っていたテイオーは10mぐらいで海に落ち、悔しかったのか何度も挑戦している。マックイーンもやってみたところすぐに落ちてしまい、ムキになっていた。

 自分のトレーナーの練習はいいのだろうかと思っていたら、彼女たちのトレーナー……先輩たちがやってきた。

 ゴザ走りを見て呆れていたが、あのぐらいが逆に丁度いい練習になるからいいか、ということで今日は俺が練習を見ることになった。

 

「足に負担少ないし、結構いい運動になるからいいね、これ」

「ええ、思っていたよりいいトレーニングです。さあ、もう一度ですわ!」

 

 往復して帰ってきたゴールドシップと入れ替わりでマックイーンが走って行く。

 ゴールドシップの体幹と踏み込んだ時のバネを強化しようと考えたトレーニングだったが、みんなに気に入ってもらえたようでよかった。

 

「いやー、ゴルシちゃん伝説の忍者だな!」

「ぶーぶー! ゴールドシップだけできるなんて!」

「あぷぁ!」

 

 走るコツがあるんだよ。そう言うと、テイオーはそうなの!? と驚いていた。

 ピッチ走法だと走りやすいことを伝えると、成程と頷き、ござへ走って行った。マックイーンは不満そうな顔で泳ぎ、テイオーと交代する。

 

「よーし、やっちゃうぞー!」

 

 話の通りピッチ走法で走るテイオー。前の走りよりもかなり順調で、半分ほど通過して水に落ちた。

 コツを掴んだようで、自信ありげにこちらへ戻ってくる。呑み込みが非常に早い。天才はいる、そう思った。

 

「おー、テイオーも中々やるじゃねーか! はっ、まさかあいつも忍者の末裔か!?」

 

 ……ピッチ走法とかコツとか一切関係なく、ストライド走法でござを爆走して往復する奇才もいるわけだが。

 こうしてゴザ走りで競い合い、たっぷりと海のトレーニングを堪能するのだった。




 水上ゴザ走りは歩幅を小さく、スピードは速く、そして前傾姿勢でというピッチ走法がよいと聞きます。脚の着地時の衝撃が小さいからでしょう。
 ピッチ走法は足の負担が少ないので、テイオーやマックイーンにやらせてもまあいいだろうと判断されているわけですね。転んでも海ですしお寿司。
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