A,タイシンが来てくれたので書きやすいのです
「ねえねえ、ゴールドシップって普段何食べてるの?」
「あん? 唐突激突太郎だなチケゾー」
「確かに、それは私も気になるところだ。どのような食事をしていればそんなパワーが出るんだ?」
「いつも体型をキープしていますものね……」
海の家に対抗して焼きそばを売りさばいているゴールドシップと強制で手伝わされているマックイーンから焼きそばをもらいながらBNWの3人と話す。
ビワハヤヒデとマックイーンも気になっているようだ。特にマックイーンはじいっとお腹を見つめている。
「別に虫とか食ってるわけでもねーしなぁ?」
「虫を食べないのは普通だと思うのですけど……」
「食事制限はしてないのか?」
「トレーナーは食い物に関して何も言ってこねーよな?」
そうだね、と俺は頷く。
正直言うと、ゴールドシップは制限する理由がない。普段のエキセントリックな言動で暴れまわっていることと、普段のトレーニングから常に負荷の強いストライド走法で走っている。
彼女は特に問題ないと言うが、同じ量のトレーニングをしたら他のウマ娘よりもゴールドシップのほうがはるかに負荷がかかっている。そこで消費したエネルギーを回復してもらいたいから、食事に関しては何も指示していない。
むしろもっと食べてくれたらいいのにと思っていることを話すと、ゴールドシップ以外の娘が目を見開いて驚いていた。
特にマックイーンは驚きすぎてビシッと固まっている。……そこまで驚くことなのだろうか?
「なるほど。トレーニングの負荷が強い分、エネルギーを多く摂取して体を作ってほしいということか」
「なにそれ……あたしたちは結構我慢したりすんのに。でも理に適ってる」
「うおおおぉぉぉー! いつもそんなにがんばってるんだねぇー!」
ハヤヒデとタイシンが納得する中、チケットは大泣きしながらゴールドシップを褒め称える。
泣き癖はいつものことらしく、誰も取り合わない。俺も出会った頃は驚いたが、感情を素直に出す娘なんだなと理解した。
一方、石化から復活したらしいマックイーンは、よろよろしながらゴールドシップのお腹をつついていた。
「す、好きに食べてこれですの……?」
「好きなもん好きに食うにきまってんだろ。今日も昼前にドーナツ食ってたぞ」
そういえばエネルギー補給にドーナツと牛乳を渡したな、と思っていたらマックイーンが崩れ落ちた。
「わ、わたくしのどりょくは……」
およよ、とショックを受けている。
ゴールドシップに聞いてみると、どうやらマックイーンは太りやすい体質のようだ。常にダイエットを心掛けているらしいのだが、本人の好物が甘いもののせいで中々うまくいかないらしい。
「うう……あれだけ食事制限もしていますのに……」
「前から思ってたんだけどよ。食べねーと逆に太るぜ?」
「えっ」
ゴールドシップの一言にマックイーンが固まった。
ハヤヒデもメガネの位置を直しながらふむ、と腕を組む。
「摂取カロリーが極端に減ると、体が省エネルギーモードになると本で読んだことがあるな」
「あ、それアタシも見た。食事制限の後に食べると余計太るってさ」
「な、なんてひどい……わたくしはいままでなにを……」
涙目になっているマックイーン。とてもかわいそうだ……。
チートデイとか作ってないのか? そう聞くと、不思議そうな顔をしていた。
「チートデイ、とはなんですの?」
「ん? 知らなかったのか。体重を落とすためにわざと多くカロリーを摂取する日のことだ」
「わざと食べるんですの!?」
「省エネモードになった体を元に戻す、んだっけ」
「ハヤヒデもタイシンもよく知ってるね!」
チケットが手を上げて喜んでいる間に、マックイーンがすくっと立ち上がってゴールドシップが持っていた焼きそばを1つ奪い取った。
パックを開けて割り箸を2つにして一気に食べ始めた!
「おぉ、すげー食いっぷりだな! 掃除機みてーに吸い込まれていくぜ」
「むぐむぐ、ん! 今日が、この日が、チートデイですわ!」
キラキラした目で美味しそうに食べるマックイーンを見て、俺もゴールドシップたちも思った。
これは太るな、と。
数日後、必死にござの上を走るマックイーンの姿が目撃された。
近くで立っていたゴールドシップは温かい目で眺めていたと言う。
◆ ◆ ◆
ゴールドシップが水上ゴザ走りに飽きたと言い出したので、別のトレーニングに移る。
次のトレーニングは運動量が激しいため、テイオーとマックイーンはござ走りをしながら見学だ。どうやら半分まで行けるようになったらしく、やる気満々だった。
砂浜にロープで線を作り、四角のマスを9個作る。そして参加者に赤と青のボールを1つずつ渡す。
「何するんです? あたし、何も聞いてないんですけど」
「随分おかしなことをするみたいだが、マジにトレーニングなんだろうな?」
「うっす! がんばるっス!」
青色のボールを渡した青チーム、トーセンジョーダン、ナカヤマフェスタ、バンブーメモリー。
基本的にゴールドシップとよく話をしているメンバーを集めた結果こうなった。ナカヤマは謎の勝負をよくやっていて、2人がヒリついているのを見かける。
バンブーは風紀委員としてゴールドシップをよく追いかけまわしている。自分も走るせいでルドルフやエアグルーヴに怒られているが。
「この勝負、ゴールドシップ様がいただくぜえぇーーっ!」
「うおおおぉぉ! 勝つよおおぉおーー!」
「どういうトレーニングなのかよく分からないが、勝負となれば勝つぞ」
赤チームはゴールドシップ、ウイニングチケット、そしてビワハヤヒデ。
この前のマックイーンチートデイ事件から仲良くなったからか、夏合宿中は一緒にトレーニングさせてもらうことが多い。
タイシンはござ走りを1度やってみたら中々ハマったようで、テイオーとマックイーンと一緒に往復を目指している。
「で、何すんだ? あそこのマスをこれで吹っ飛ばすのか?」
ぐっと投げの構えを取るゴールドシップの腕を掴みながら話す。
このトレーニングは、○×ゲームだ! そう言うと、ゴールドシップ以外はぽかんとした顔でこちらを見てきた。
「……○×ゲーム?」
「おいおい、ゴールドシップのトレーナーよ。勝負と聞いたからやってやろうと思ってたが……」
何やら誤解があるようなので慌てて説明する。
1人ずつ100m先のマスに向かって走っていき、マスにボールを置く。戻ってきたら次の人がまたボールを置く。
ボールは3つしかないから、3つ目を置いた後は次の人は自分のチームのボールを取って別のマスに移動させる。
これを繰り返して3マス1列を揃えたチームの勝ちだ。
ここまで説明したが、まだ不思議そうな顔をしている。まあ一度やってもらえばきっとわかってくれるはずだ。
俺はマスのところまで移動して合図する。
よーい、ドン!
「おらおらおらあぁ! 邪魔だぜジョーダン!」
「ちょっと! 砂撒き散らすな! ありえないし!」
ゴールドシップの暴力的な踏みこみによって跳びはねる砂がジョーダンに襲い掛かる! やはりすさまじいパワーだ。
「真ん中いただき!」
「くっ、なら端っこはもらうから!」
赤のボールが真ん中のマスに置かれ、遅れて左下に青いボールが置かれる。
すぐさま戻っていたゴールドシップと交代で、ウイニングチケットが飛び出す。直後青チームもバンブーメモリーが走り出した。
「じゃあ次はここだね!」
「なら邪魔するっすよ!」
「ああぁぁ! そこに置かれたら列が作れないよおぉー!」
チケットが右下に赤いボールを置くが、左上に青いボールが置かれる。これで赤チームは揃わないどころか、青チームがリーチになってしまった。
うわあー! と叫びながら戻り、ハヤヒデがスタート。少し遅れてナカヤマが出る。
「ふむ、ここだな」
青いボールを左のマスに置かれてしまうと負けてしまうため、左のマスに赤いボールを置かざるを得ない。
ハヤヒデがボールを置いてすぐさま戻り、すれ違いでナカヤマが来ると一瞬固まる。
「……成程。トレーナー、アンタやるじゃないか」
ニヤリと笑い、右のマスに青のボールを置いた。
そう、ここまでは普通の○×ゲーム。問題はここからだ。
交代してやってきたゴールドシップは、即座に右下の赤のボールを下に置いた。上に赤を置けば勝ちだ。
青チームでやってきたジョーダンは、マスを見てうっと息を漏らして固まる。目が泳ぎ、手がふらふらと左右に揺れる。
そう、これは砂浜での
まあ一番は飽きずに楽しめるようにと思って考えたわけだが。
「ど、どうしよ」
「ぅぉぉぉ!」
「やばっ、チケット来てるし! えっと、ここ!」
左上の青を上のマスに設置。赤のリーチを潰した。
慌てて戻っていくジョーダンと入れ替わりでチケットがたどり着き、すぐにボールを取る。
「ここだー!」
左のボールを右下に置く。これで左上に赤を置ければ勝ちだ。
チケットがダッシュで戻っていく。流石、切れ味のある脚だ。ゴールドシップとはまた違った爆発力がある。
その後バンブーがたどり着き、少し考えてから左下のボールを取って左上に置いた。
……ん?
「よし、リーチっスね!」
「……ふぅ、さて。どこに移動を……おや?」
ハヤヒデが交代で来た時、不思議そうにマスを見つめ、俺を見る。
うん、と頷くと、そうか、と言って真ん中のボールを左下に置いた。
――赤チームの勝ちー!
大きな声で言うと、ゴールドシップとチケットが大盛り上がりで喜んでいた。
青チームのジョーダンとバンブーは驚いている。何故!? といった顔だ。
「おいおい、どうなって……ちっ、バンブーのやつミスったな」
「ダッシュしてから直後に判断し、決断する。簡単そうで難しいものだ……トレーナー、いいトレーニングを考えたな」
上機嫌なハヤヒデに褒められた。中々高評価なようだ。
この後何度かやっていたら他のウマ娘たちも参加し始め、かなりの好評を得ながらトレーニングするのであった。
ゴールドシップはほぼ大外からマクるわけだから判断力を鍛えなくてもよかったのではと思ったが、楽しそうにトレーニングできていたのでよしとする!
トレーナーの狙いとしては、走っている時にコースを予測して、中団を抜けられるラインを見つけた瞬間にすぐ決断して動ける能力を鍛えたい……という前提のもと飽きられないトレーニングにするというもの。
○×ゲームを1秒しか考えちゃダメっていうルールでやってるようなものですね。すぐ判断できる力を身に着けよう!
なお、ゴールドシップは基本大外からまくるのであまり効果はない模様。