ゴールドシップとの3年間   作:あぬびすびすこ

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Q,何故舌をぺろぺろさせるのですか?
A,舌を出すことが相手をバカにすることだと理解しているから(諸説あり)


21、菊花賞

 菊花賞当日。

 控室にて待機しているゴールドシップは大福を食べていた。

 

「食べるまでこしあんかつぶあんかわからねー……シュレーディンガーのあんこだな!」

 

 買った時に見なかったのか? そう言うと、ぶーぶー言って怒られた。

 

「わかってて買ってるに決まってんじゃねーか! 一緒に見てたんだからわかれよな!」

 

 いつも通り理不尽だ! ぷんすか怒りながら大福をほおばっているのを見ながらお茶を入れて渡す。

 

「お、さんきゅー! やっぱ大福には玉露だぜー! おほー!」

 

 機嫌よくお茶を飲み、ゆっくりとした時間が過ぎる。この後にGⅠレースを走るとは思えない。

 作戦は覚えてる? そう聞くと、あったりめーよ! と楽しそうに腕を組む。

 

「いっつもおもしれー作戦ばっか考えやがってよー! レースまで待ちきれねーんだからな!」

 

 そう言いながらゆっくりお茶をすすっている。

 どうやらやる気はかなりいい感じのようだ。レースまでの仕上がりも十分だ。作戦が成功すれば、確実に勝てる。

 というか、作戦が始まった時点で一緒に走っているウマ娘たちも観客も大わらわになることだろう。

 

「ところでウニ持ってきたんだけど食うか? とぶぜ!」

 

 懐から急にウニを取り出し始めた。京都レース場までずっと2人で行動していたはずなのにどこで手に入れたんだ……。

 いらないよ、と言うとふぅーんと言いながら持ちこんでいた移動鞄の中にしまった。

 

「いがぐりの方がよかったか?」

 

 どっちもいらないよ!

 

 

 

『さあ本日の京都レース場メインレース、菊花賞が始まります』

 

 ゴールドシップの応援のため、ゴール手前に陣取った。

 今日も応援に来てくれたウマ娘たちが隣に並んでいる。

 

「ふむ。天候晴れ、芝も良好。いい走りが期待できるな」

「うん! 気持ちいい空気よね♪ チョベリグな感じ!」

 

 シンボリルドルフとマルゼンスキーだ。ルドルフはクラシック最後の冠レースということで見に来たようだ。

 マルゼンスキーとは初めて会ったのだが、なんというか俺の母親世代の言語で話してくるからたまげてしまった。

 思わずザギン育ちかと聞いたら物凄い気に入られた。どこが琴線に触れたのかわからない。

 

「トレーナーさん。今日の菊花賞はゴールドシップの1強、そう言われている」

「かなりマークされるだろうが、対策はしているのかな」

 

 そう、この菊花賞。1番人気がゴールドシップ、そして飛びぬけて強いウマ娘とされている。

 宝塚記念でシニア級のウマ娘たちに競り勝つ強さを見せれば、そりゃあそうなる。皐月賞も1着、ダービーも負けたが掲示板は外さなかった。

 それでいて、ダービーウマ娘のアビスブリリアントは足のケガで菊花賞を回避。そうなると期待されるのは、皐月賞と宝塚記念というGⅠレースを2つ勝利しているゴールドシップとなる。

 

 かなりマークされるだろうが、正直あまり気にしていない。そう話すと、ルドルフはほう、と興味深そうに眉を動かした。

 

「気にしていないとはすごい自信だね。普通はこのクラシック最後の冠のレース、対策を練るものだと思うのだけど」

「そうねぇ。お姉さんは一気に前に出ちゃうからあまり気にしないけど、ゴルシちゃんは後ろからだものね」

 

 後ろにいる時に強くマークされると、確かに抜け出せない。皐月賞の時も、外から行こうものなら確実にブロックされていただろう。

 しかし、ゴールドシップが走る上ではなんの心配もないと思っている。特に、この菊花賞では尚更だ。

 俺たちの菊花賞大作戦をよーく見ておいてくれ。自信満々に答えると、2人は楽しそうに笑った。

 

「うん、楽しみにしておくよ。君たちのレースはいつも面白い」

「うんうん! 本当に楽しみだわ♪」

 

 互いに笑いあっていると、ウマ娘たちが入場してきた。

 皐月賞でも戦ったヴィジットやリボンハミングたちが観客に手を振り、ゲートへ駆けていく。

 順々に入場していくが、ひと際歓声が上がったのはやはりゴールドシップが来た時だ。

 

 凄まじい歓声と熱気を受けたゴールドシップは、ニンマリ笑いながらブレイクダンスをし始めた。

 笑い声や困惑の声が聞こえてくる。しばらくパフォーマンスして満足したのか、緊張した様子もなくゲートに走って行った。

 

「ふぅ……あまりふざけすぎないでほしいのだけどね」

「でも、あれがゴルシちゃんだもの。個性よ、個性♪」

 

 眉をハの字にしてため息を吐くルドルフ。

 こればかりは治らない、許してほしい。

 苦笑いしながら待っていると、ファンファーレが鳴りだした。

 

『さあ始まりますクラシック三冠最後のレース。芝3,000m、菊花賞GⅠ。このレースは1強の勝利か、はたまた新たなスターの台頭でしょうか』

『3番人気はウェイザウォルクス、3枠6番に入ります。2番人気はこの娘、フジヤマノボリ。そして堂々の1番人気、1枠1番ゴールドシップです』

『緊張もなく、落ち着いている様子です。宝塚記念のようなレース展開ができるといいですね!』

 

 実況解説が話す中、向こう正面のゲートをじっと見つめて見守る。

 作戦を成功させれば、必ず勝てる。頼んだぞ、ゴールドシップ。

 

『全てのウマ娘がゲートに入りました』

 

 ――ガタン!

 

『スタートしました! 綺麗なスタートになりましたね』

「チョベリグなスタートね! 苦手って聞いてたけど綺麗に出れたじゃない♪」

 

 ゴールドシップが出たレースの中で、一番綺麗に出れたかもしれないぐらいスタートはうまくいった。

 だが、スタートの出来不出来は今回の作戦では関係がないのだ。

 

『1番人気、ゴールドシップはするすると後ろに下がっていきます』

「……1枠1番でいいスタートを決めたというのに、後方でレースをするんだね」

 

 内枠の有利を完全に捨て、最後方からゆるゆると走り出す。

 宝塚記念で先行策が取れることを見せていたから、最初のスタートを警戒していただろうが、気にも留めずに後ろからだ。

 これも作戦通りだよ。そう話すと、ルドルフが不思議そうな顔をした。

 

「先行で走れるのだから、内枠の有利を使って先に行くのが定石ではないかな。菊花賞は内をロスなく走れた娘が勝ちやすいのだし」

 

 確かにその通りだ。菊花賞はコーナーが6つもあるし、スタートしてすぐに第3コーナーが待っている。

 最初の位置取りがかなり重要になってくるわけだが、俺たちはそこを完全に捨てた。

 何故かって? それが作戦だからだ。ゴールドシップが菊花賞を気持ちよく走るためには後方にいる必要がある。

 追込こそが、このレースでゴールドシップの力を発揮させる走りなんだ。俺が断言すると、マルゼンが楽しそうに笑った。

 

「うふふ。ゴルシちゃん、いいトレーナーさんに出会えたのね」

 

 マルゼンが何か言ったかもしれないが、ホームストレッチに入ってきたウマ娘たちの走る音と周りの歓声でよく聞こえなかった。

 

『さあ1度目のホームストレッチに入ってきます。先頭はディディジパング、後ろにヴィジットがいます。ゴールドシップは最後方、1人抜かして17番目となります!』

『皐月賞でも見せた追込の走りですね。彼女の脚質には合っていますが、このレースでは正解でしょうか!』

 

 ゴールドシップー! 作戦通りだー!

 叫ぶように声を出すと、チラッとこちらを見たゴールドシップがニィっと笑った。聞こえたようだ。

 正面を抜け、コーナーへと入っていく。隊列は変わらず、そのまま向こう正面へと入っていく。

 

『さあ向こう正面に入りました。ここからは高低差4mの坂が待ち受けています』

「下り坂で加速し、そのままゴールまで走り抜けることになるが……後ろの娘たちは間に合うだろうか」

「うぅん、結構縦長よね。間に合わなくなっちゃうかしら」

 

 菊花賞、京都芝3,000mでの一番の肝はこの上り坂だ。高低差4m、ここでスタミナをうまく管理してゆっくり上り、残りの下り坂でゆっくり下り、最後の直線に向かう。

 ゆっくり上ってゆっくり下る。これが菊花賞での走りの常識だ。周囲のスピードが落ちるからと言って上り坂で抜かしにかかると、スタミナが無くなり最後には垂れてしまうため、タブー視されている。

 

 だが、タブーというのは人が作るものに過ぎない。

 ――常識は、敵だ。

 

 

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 1枠1番という最高の枠で先行策、そこからスパートをかけて攻めるのが最善。しかし、宝塚記念での活躍から、先行策を取った場合周りを固められ、スパートをかけれずブロックされてしまうと予想できた。

 そうなると、フィジカルで勝てるだろうがゴールドシップのやる気が一気に損なわれる。気持ちよく走れないというのは、トレーナーと彼女にとっては死活問題だった。

 ならばと考え出したのが、枠順の有利を捨てた最後方からの追込策。1番得意な走りな上、内側を確実に走れるため、スタミナロスは無い。

 

 次に、どこでスパートをかけるのかという問題。最後方にいても、前に出る時にブロックされたのでは走りこめない。下り坂で加速しても、スタミナ切れで前のウマ娘が第4コーナーで膨らんだら終わりだ。

 

 ではどうするのか。

 

 そこで思いついたのが、トレセン学園の大先輩、ミスターシービーの菊花賞のレースだった。

 ミスターシービーは菊花賞で、上りで一気に加速していき、下りでは既に先頭。そしてそのまま大地が弾むように走り抜けて三冠を手にしたのだ。

 トレーナーがこれを見た時、いける! そう思った。

 

 上り坂は2周目だ、スタミナがギリギリの中走っているかなりきつい状況。そこで大外から加速してきたウマ娘をブロックするという発想になるのは難しいだろう。

 放っておいても勝手に潰れると思うだろうし、垂れても大外だ。自分たちに影響はない。そう考えるはずだ。

 ゴールドシップと相談して作戦は即決。集中的に坂路トレーニングを行い、とにかく坂で加速するトレーニングをしてきたのだ。

 

 気持ちよく走れるよう、バ群の後ろに来た。上り坂まで内側を走り、スタミナを温存した。後は得意のロングスパートをかけるだけだ。

 ここまでトレーナーとの作戦通りにことが進んでいる。そして、これからタブーを犯す。

 いつもいつもおもしれーこと思いつきやがって! ゴールドシップは舌なめずりをして、思いきりターフを踏み抜いた。

 

「面白くなってきたぜぇーーッ!」

 

 ドン! ドン! と爆音が上り坂で鳴り響く。前を走るウマ娘たちは何事かと振り向き、悲鳴を上げる。ヴィジットやリボンハミングなど、一緒に走ったことのあるウマ娘たちは、顔が思いきり引きつった。

 目を見開き、歯をむき出しにした捕食者が大外から一気に突っ込んで来たのだから!

 

『さあ上り坂に入っていきますが……おおっと! ゴールドシップが上り坂でぐんぐんと前に出てきています!』

「なにッ!?」

「えぇっ!」

 

 トレーナーの隣に立っているルドルフとマルゼンから驚きの声が多く聞こえてくる。

 上りでスパートをかけて先頭に出る。菊花賞ではタブーとされる走りだ。わざわざスタミナ消費の激しい上り坂でギアを上げるなど、愚の骨頂。

 しかし、トレーナーとゴールドシップは思っていた。

 

 このタブーこそが、ゴールドシップを輝かせるスポットライトに他ならないのだと!

 

『ゴールドシップが一気に駆け上がる! 下り坂に入るところで、既に先頭集団の真横にいます!』

「なんなのこのウマ娘ー!」

「無理ぃー!」

 

 先頭集団はゴールドシップのあまりのプレッシャーに負けており、ヴィジットやリボンハミングは完璧に気持ちが折れていた。

 逆に下り坂を走っている時にチャンスをうかがっていたのは後方の集団だ。

 ゴールドシップが先頭集団を巻きこんでずぶずぶ落ちてくると思っているのだ。当たり前だろう、上り坂でスパートをかけ始めたのだから。

 

「いける!」

「いけるよ!」

『さあ下り坂を終え、最後のコーナーから直線へさしかかります! 先頭にはフジヤマノボリとゴールドシップです!』

 

 2周目、最後の直線に先頭集団が差し掛かると、観客たちはいっせいに声を上げ始めた。

 上りでスパートをかけてしまったゴールドシップへの怒りだったり、そのまま突っ込めという応援だったり。様々な声が聞こえてきていた。

 それを全て聞きながら、ゴールドシップは突っこんでいく。そこへ追従するように、後方集団は溜めていた脚を一気に解放した!

 

「いえけええええ! そのままいけ、ゴールドシップぅぅぅ!!!」

「差せぇーーーッ! 絶対いけるぞぉーーッ!」

『さあ最後の直線です! 先頭に立つのはゴールドシップです! ゴールドシップ、脚色は衰えない! 脚色は衰えない! なんというスタミナ! なんという末脚でしょうか!』

 

 走っているウマ娘たちは、誰もがゴールドシップは落ちてくる。そう考えていた。

 しかし、ゴールドシップは全くスピードが落ちる様子もなく、先頭をひた走る。

 

「なんでっ……! なんで落ちないのっ!?」

「上りであんなに走ってるのにぃーーっ!?」

 

 差しウマ娘たちは追いすがる。しかし、距離は一向に縮まらない。

 

 ――ぶちかませー! ゴールドシップーッ!

 

 トレーナーの声が聞こえた瞬間、ゴールドシップは笑みをさらに深くして、今まで以上のパワーでターフを踏み抜いた!

 

『ゴールドシップ先頭! ゴールドシップ先頭です! 残り100m! さらにさらに加速していきます! こんなウマ娘が今までいたでしょうか!』

 

 ゴールドシップはまるで上りからスパートをかけていなかったかのような、先行で走っていましたかとでも言うような末脚で、さらにスピードを上げ始める。

 あれだけロングスパートをかけたのに、まだ伸びるのか! 走っているウマ娘も、見ている観客たちも度肝を抜かれた。

 ドン! ドン! という爆音と共にターフを駆け抜け、後ろのウマ娘との差をつけたまま走り切った。

 

『差が縮まらない! ゴールドシップがそのまま先頭でゴールイン! やはり1強! 勝ったのはゴールドシップです! 菊の舞台で勝利し、二冠達成です!』

「しゃあーーーッ! これがゴールドシップ様じゃあああぁぁぁい!」

 

 走り切ったゴールドシップは、舌なめずりをしながら観客たちの前に戻ってくる。

 こいつ……長距離走ったのに舌をペロペロしてやがる……場内が少しどよめいた。

 おもしろかったり満足したりすると、どうしても舌なめずりをする癖があるようで、何度か言ってみたのだが一向に治らなかった。

 

「おっしぇーい! ゴルシ劇場の開幕だぁーーい!」

 

 ゴールドシップが腕を突き上げると、ワアアアーーッと歓声が鳴り響いた。

 こうして無尽蔵のスタミナとそのパフォーマンスから、「黄金の不沈艦」「舌をペロペロして菊花賞を勝つウマ娘」としてスターウマ娘の道を走り出すのであった。




 ということで舌ペロ菊花賞でした。レースが長いので、長めに書いてみました。
 やっちゃいけないだろうことをやって勝ってしまうゴールドシップくん本当に好き。芦毛のお馬さんがギューンと突っ込んでいくレースは見ていて気持ちがいいですね。

 菊花賞を書き終えて、丁度折り返しとなりました。
 URAファイナルズまで書いていきますのでお付き合いくださいませ。
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