ということで箸休め? 回。
「出るぜ、有マ記念!」
1枚の紙を手にしたゴールドシップが、トレーナー室の扉を蹴り飛ばしながら入ってきた。
またかと思いながら扉を持ち上げると、彼女が手元の紙を見せてくる。
『第564回!チキチキ!地球横断エデンを探せ大運動会スペシャル!』というどこから突っ込んでいいのかという文言が書いてあった。
というか普通にシャーペンの手書きで書いてある……誰が書いたのだろうか。
「さっき屋上でアメンホテプ式あまごいの儀式をやっていたんだけどよー、急に紙飛行機が飛んできて頭に刺さったんだよ」
相変わらず謎の行動をしている模様。ちなみに今は快晴だ。
「その紙飛行機がこれなわけ。エデン! いい響きじゃねーか!」
両手とテンションを上げて踊り始めるゴールドシップ。
紙をもらって読み進めていくと、『エデンへの道は年末のレースに続く』と書いてあった。これを見て有マ記念に出たいと言い始めたようだ。
正直に言うと、俺としては願ったりかなったりだ。
有マ記念は宝塚記念と同じくファン投票で出走できるか決まるレース。菊花賞での勝利で、ゴールドシップはかなりの人気を獲得したおかげで出走権利をもらっている。
菊花賞からかなりの時間体を休ませたから、そろそろ走りたいだろうなと思っていたところだった。
有マ記念、走る? そう聞くと、あったりめーよ! と元気のいい回答が返ってきた。
「こうしちゃおけねー! ちょっくら行ってくるからよ! 後からついて来いよな!」
そう言って走っていってしまった。
……とりあえず扉を直してから追いかけよう!
「おせーぞトレーナー! ゴルシちゃんから目を離すなよな!」
「何故私は連れてこられたのでしょう……」
扉を直し、有マ記念への出走申請をルドルフに渡してから芝の練習場に向かうと、ゴールドシップが仁王立ちで待っていた。なんとなくで来てみたが正解だったようだ。
隣には無理やり連れてこられたであろうマックイーンがいた。ボサボサになった髪の毛を直している。
真面目に練習する気になっているのかと驚いていると、ゴールドシップがごそごそしだした。
うん、嫌な予感がするな。
「ほい」
何かを投げ渡されたので受け取ると、俺の手元にあったのはハンドスピナーだ。
……何故練習場でハンドスピナー?
「ほら、マックちゃんにもやるよ。メジロマグナムだぜ」
「こんなものにメジロの名を使わないでくださいます!?」
「なんだとぉーっ!? この機能美溢れるメジロトルネードをバカにするなよな!」
「名前も変わっているではありませんの!」
マックイーンと名前について言い争っているが、そもそも練習場でハンドスピナーを使って何をするのだろうか。
「何って決まってんだろ。ハンドスピナーフリスビーやるんだよ!」
ゴールドシップが言うには、このハンドスピナーを投げてフリスビーで遊ぶそうだ。
練習場でやる意味はあるのだろうか……しかも着替えずに制服のままで。
「あの、この大きさでフリスビーは無理なのでは?」
「やってみなきゃわかんねーだろ! 一回チケゾーとやった時は無理だったけどよ!」
「なら無理ではありませんか!」
相変わらずの無茶苦茶さだが、とりあえずやってみることになった。
ぶつぶつ文句を言うマックイーンを連れて距離をとり、ゴールドシップから投げられるハンドスピナーを待つ。
「いくぜー! ゴルシちゃんビクトリーマグナム、ゴーシュウウゥゥ!!!」
ゴールドシップがサイドスローで何かしらを投げたのが見えた。
……何か小さなものが凄い勢いで飛んでくるのが見える!
「これですわね!」
マックイーンが駆け出し、手を横に一閃! 手元には投げられたであろうハンドスピナーがあった。
「ここまで綺麗に投げるなんて、やるではありませんか」
「おーい! 投げ返してこーい!」
「ええ、いきますわよーーっ!」
マックイーンがあまりにも綺麗な投球フォームで投げ返し、ゴールドシップの元にハンドスピナーが返っていく。
……俺は何を見せられているんだろうか。
周囲で困惑しているウマ娘たちと一緒に、2人のハンドスピナーフリスビーを見守るのであった。
◆ ◆ ◆
ハンドスピナーがトレセン学園で地味に流行りだしたが、それはおいておく。
有マ記念は芝2,500m。中々の長丁場な上、レース全体のレベルが非常に高い。何故なら、宝塚記念同様トゥインクルシリーズにおいて最大の人気を誇るウマ娘たちが走るレースだからだ。
今回の投票人気一位のオルフォは宝塚記念同様に出走を回避。フェミノーブルも前走ジャパンカップを走ったために回避。
どちらもとんでもなく強いウマ娘だが、これ以外にも強いウマ娘たちが何人も参加している。
その中で、今のところ1番人気を獲得しているのはゴールドシップ。2番人気はカエサルフラッグ。天皇賞秋とジャパンカップを3着という実績を持つウマ娘だ。
そして、3番人気はこのウマ娘。
「こんにちは、トレーナーさん。ゴールドシップさんを見かけませんでしたか?」
エイシンフラッシュだ。閃光のように駆け抜ける末脚で日本ダービーウマ娘になった。
何やらゴールドシップを探しているようだ。そういう俺もトレーニングの時間に来ていない彼女を探しているわけだが。
「ええ。私の貯金箱に5円入れたことについて少しお聞きしたいんです」
どうやらエイシンフラッシュが部屋に置いている貯金箱に5円玉を入れるいたずらをされたようだ。
しかし、そんないたずらをしたのなら部屋をのぞいて見ていたのでは?
「ドアの外で見ていましたよ。私が気づいて追いかけたらすぐに逃げ出してしまって」
うちのウマ娘がすまない、と謝る。しっかりしてくださいね、とたしなめられた。
「ところで……次の有マ記念ですが。ゴールドシップさんも出走してくださるようですね」
エデンを目指すという話になってね。そういうと、ふふっと笑みをこぼした。
「ゴールドシップさんらしいですね。楽しんでもらえているみたいです」
……何やらあの紙飛行機に関わっているみたいだ。
でもいったい何のために? いまいち動機が分からない。
俺としてはレースへのやる気が出てくれたから、よしとしているけれど。
「おーい、トレぴっぴー! 夕飯食いに行こうぜー!」
うぅんと首をかしげていると、俺の後ろの方からゴールドシップがやってきた。
俺とフラッシュが彼女の方に顔を向けると、うげっと声が漏れた。
「こんにちは、ゴールドシップさん」
「おいトレーナー、なんでフラッシュといんだよー」
気落ちしながら近づいてくるゴールドシップ。
フラッシュにいたずらするとお説教が長いとぼやいていたことがあるから、見つかりたくなかったのだろう。だったらいたずらするなと言いたいところだが。
「ま、いいか。フラッシュも飯食い行こうぜ。結構うまそうなラーメン屋見つけたからよ」
「すみません、この後のスケジュールが詰まっていますので」
「いーじゃねーか少しぐらい! おら、行くぜ行くぜー!」
ゴールドシップが俺を担いで走り出した。フラッシュを置き去りにしながら。
「あ、フラッシュ! 5円玉あげっから許してくれよなー!」
「もう……わかりました」
そもそもなんでそんな地味ないたずらしたのだろうか……。
「あいつなら絶対気づくと思ってよ!」
エイシンフラッシュはこと正確性においてはミホノブルボンと同様のポテンシャルを持っている。
それを確かめるためのいたずらなのだろうが、なんというか、規模が地味すぎる……。
「ま、細かいことはいいじゃねーか! 速くラーメン食いに行こうぜ」
そう言って校舎の中を駆け抜けるゴールドシップ。
……だんだんまともに練習してくれなくなってきてないか? そう思う俺なのだった。
自由度が加速度的に増していくゴルシちゃんでした。
実際のゴールドシップくんもだんだんいうことを聞かなくなって、最終的にあんなかんじになったらしいですね。頭が良すぎたからなんでしょうかね……。