ゴールドシップとの3年間   作:あぬびすびすこ

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 ウマ娘の世界での駅伝ってどうなってるんでしょうね。トレセン学園と大学で競合しないようにやったりするんでしょうか。脚を相当痛めそうなので中々難しく思えるんですけどどうなんでしょう。OVAではちょっとやってましたけれども。


27、お正月

 さて、今日は正月元旦だ。トレセン学園も有マ記念が終わってからはあわただしい空気感もなくなり、年末年始は大きな休みになる。

 トレーナーの俺も御多分に漏れず、自宅でゆっくりとしている。トレーナー寮ではないため学園まで距離はあるが、その分部屋も広いし好きに物を置ける。

 リラックスしながら朝食のきなこもちを食べ終え、こたつに入ってみかんを食べようとしているところだ。今日は爪がオレンジ色に染まることだろう。

 

 1つ手に取って半分にむしろうと力を加えたところで、チャイムが鳴った。

 ピピピピピピンポーンという嫌がらせのような連打。絶対に彼女だ。

 無視してみかんの皮をむいていると、ガチャガチャ音が聞こえ、しばらくしてカチャンと鍵の開いた音がした。絶対にピッキングしてる……!

 

「あけおめことよろ! つーかゴルシちゃんが訪ねてんだから開けろよな! ドロップキック我慢してやってんだからよ!」

 

 大分理不尽なことを言いながら部屋の中に入ってきた。さむさむと言って真っ赤なコートをポールハンガーにかけて、洗面所に向かった。きちんと手を洗うところは育ちの良さをすごく感じる。家族のエピソードころころ変わるからどういう家なのかわからないけど。

 手を擦りながら戻ってきてこたつに入った。外の冷気をまとってきているからか少し寒く感じる。

 改めてあけましておめでとう、と言うとうむ、くるしゅうないと言われた。

 

「アタシにもみかんくれよな。あ、筋とってくれ」

 

 ものすごい厚かましい注文だ……。無言でぽんとみかんを置くと、ぶーぶー言いながら皮をむき始めた。

 テレビを見ながらしばらく無心でみかんを食べていると、不意に俺の携帯電話が鳴った。トークアプリの音だ。

 画面を見ると、桐生院トレーナーの名前。『ハッピーミークと神社に行きます。他のトレーナーさんたちもいらっしゃるみたいなので、ゴールドシップさんと一緒にどうでしょうか』という内容だ。

 

「あん? どうかしたか?」

 

 携帯の画面を見せると、ふぅーんと言ってみかんの筋を取る作業に戻る。

 

「トレーナーは行きてーのか?」

 

 できれば行きたい。というのも、元旦の行事として行きたいのもあるが、それ以上に他のトレーナーたちとコミュニケーションを取っておきたい。

 何故なら、チームを作らなければならないから! 有マ記念制覇後に理事長から呼び出され、お褒めの言葉と同時にそろそろチームを作る算段をと言われたのだ。

 タイムリミットはURAファイナルズ決勝が終わるまで。つまり来年の3月末までにはチームメンバーを集めておかなければならないわけで。

 今のうちに説明してめぼしい娘がいないか聞いておかなければ。何故かって? ゴールドシップのトレーナーってだけで若干ビビられるからだ!

 

 行こうと思っているよ。そう言うと、ゴールドシップはティッシュで手と口を拭く。

 

「じゃあ行こうぜ。あ、昼飯おごってくれよな! お雑煮とか食いてーな。トレーナーはもち入れる派か?」

 

 とりあえず財布が軽くなる事だけは決定したようだ。

 ……冬のボーナスが入ることは黙っておこう!

 

 

 

 

 

「あけましておめでとうございます!」

「……あけましておめでとうございます」

 

 指定された神社に向かうと、桐生院トレーナーとハッピーミークが迎えてくれた。近くには他のトレーナーやウマ娘たちも集まっている。

 それぞれに挨拶しながら参拝に向かう。桐生院トレーナーたちもまだのようで、一緒に向かうことになった。流石に元旦とあって人が多く、列に並ぶことになる。

 

「去年は大躍進の年でしたね、ゴールドシップさん」

「はい……すごかったです」

「おほほ、ゴルシちゃんは宇宙一すげーウマ娘だからな!」

 

 成績を見ると、皐月賞から始まり宝塚記念、菊花賞、有マ記念と4つものGⅠレースを勝利している。

 負けたのは日本ダービーだけ……あの負けは中々堪えたなぁと苦笑する。

 

「私たちはGⅠレースまではいけなかったんですけど、いくつか重賞制覇できました」

「がんばりました……ぶい」

 

 ハッピーミークはクラシックではティアラ路線を進んでいたようだが、中々勝ちきれなかった。オークスはかなり健闘していたというのを聞いている。

 秋華賞に向けたトライアルレースのローズステークスなどで1着を取るなど結果を残している。今年からは長距離を念頭に置いていくようなので、どこかでぶつかるかもしれない。

 

「今年からシニア級ですが、どのレースに出るのか決めていますか?」

 

 桐生院トレーナーに質問され、少し考える。

 俺とゴールドシップはどのレースを走るかという流れを決めないで出走している。というかやる気が出ないと走らないのだから予定なんて組めない。

 一応これ、というレースはあるが……そう思っていると、そうだ、とゴールドシップがポケットから何かを取り出した。……折り鶴?

 

「ん。開けてくれ」

 

 手渡されたので、素直に折り鶴を折られていない状態にまで戻していく。

 紙っぺら1枚になったところで、何か文字が書かれているのがわかった。……またシャーペンで書かれた字だ。

 『第564回!チキチキ!ユーラシア大陸横断エデンを探せ大運動会スペシャル!』……前は地球じゃなかっただろうか。規模が小さくなってないか?

 

「……『有マ記念制覇おめでとう。次は春の王になれ。さすればエデンへの道は開かれん』。なんですか、これ?」

「今日起きたらアタシの顔にくっついてたんだよ。息苦しかったからオラついて鶴にしてやったんだ」

 

 正月からエキセントリックだな……。しかし、春の王。前の年末のレースに出ろと書いてあったから、レース出走の指示だろう。

 春で王ときたら、多分アレだろうな。

 

「春の王……天皇賞ですか?」

「天皇賞! マックちゃんが恋して愛してやまねーやつだな!」

「ちょっと! 聞き捨てなりませんわよ!」

 

 遠目から声が聞こえてきた。顔を向けると、ぷんすか怒っているマックイーンとそのチームのトレーナーたる先輩が見えた。

 どうやら同じ列にいたようだ。こちらにずんずん近づいてくる。

 

「天皇賞制覇はメジロ家の悲願です。ですが、それは恋や愛というような感情ではありません!」

「おいおいおいおいマックちゃんよおー! それより先に言うことアンじゃねーのか! アァン!?」

「ピィっ! な、なんですの! そんな怖い顔して!」

 

 急に怒られて怯えるマックイーンを見て、あけましておめでとうと挨拶する。

 はっとした彼女はおずおずとあけましておめでとうございます、と頭を下げた。

 

「うむ、くるしゅうないぜ」

「あなたも挨拶なさいませ!」

 

 ふんぞり返るゴールドシップに突っ込む。新年早々騒がしくなってきたな。

 

 ひと悶着あって、ようやく賽銭箱の前まで来た。ゴールドシップに5円玉を渡し、礼をして同じ額を入れる。

 鈴はゴールドシップに頼むと鈴の音ライブになってしまうので、俺が羽交い絞めにしながらハッピーミークに頼みこむ。暴れていたが、マックイーンと俺に抑えられて鳴らすことは叶わなかった。

 ぶつくさ文句を言う彼女をよそに拝礼し、願いを思う。

 

 ――ゴールドシップが楽しく走れますように。

 

 

 

 

 

「ところでゴールドシップさんは天皇賞に出るんですの?」

「あん? どうした急に」

 

 流れで食事処に足を運び、他のトレーナーやウマ娘と共に昼食をとることになった。

 同じテーブルでお雑煮を食べていたマックイーンが俺たちに話しかけてきた。

 

「いえ、先ほど天皇賞のお話をされていましたので。ゴールドシップさんは長距離が得意なようですし、目標に定めているのかと」

「宇宙横断大運動会に必要らしーからな。あ、ニンジンくれよニンジン」

 

 隣に座るゴールドシップにお椀を差し出し、お雑煮の中のニンジンをとってもらう。

 レースに出てほしいっていう手紙みたいなのが来てたんだと話すと、不思議そうな顔をして首を傾げた。

 先ほどの紙を渡して読んでもらうと、呆れた顔でゴールドシップを見た。

 

「なんですの、これ……」

「アタシのぷりちーな顔の上に乗せてあったんだよ」

「全てにおいて意味が分かりません!」

 

 でも、有マ記念もこんな手紙が来たから出たんだよと説明すると、耳をピンと立てて驚いていた。

 そんな理由で出走予定を組むトレーナーがいるのかといった表情だ。うん、俺もゴールドシップじゃなかったらこんなことしていないだろう。

 

「なんというか……本当に何でもありなのですね……」

「なあなあ、マックちゃんにとって天皇賞って特別なんだろ?」

「え? えぇ、そうですわ。メジロ家として、伝統ある天皇賞を勝つことは誉れですもの。もちろん、私としても特別なレースだと思っていますわ」

 

 そう言いながら、少し寂しそうな顔をして俯いた。

 

「もっとも、まだ本気で走るのは難しいですから、今年は出られません。走れても来年でしょうか」

「ふぅーん……」

 

 ゴールドシップは少し考えこみ、ぱっと顔を上げてニッコリ笑った。

 

「ならゴルシちゃんがとってきてやるよ!」

「えっ……?」

「マックイーンにとって特別なんだろ? ならアタシも欲しいぜ、天皇賞!」

 

 ニシシ、と笑いかけるゴールドシップ。

 なんというか、彼女ならそう言いそうだなと思いながら話を聞いていた。

 前と同じようにもらった紙に書いてあったからじゃなく、友達が特別だと言っていたから。ゴールドシップらしい、好き勝手な理由だ。

 

 困惑しながら目を泳がせ、俺のほうを見てくるマックイーン。

 俺も天皇賞欲しいよ、ゴールドシップ。そう言って彼女を見ると、任せとけ! と言って肘でぐっと俺を押してきた。

 それを見ていたマックイーンは、くすくす笑い出した。

 

「もう……あなたがたは本当に自由ですのね。ですが、喜ばしいことです。応援しますわ!」

「おう! 瞬きしないで見とけよな!」

 

 2人は笑いあって盛り上がりながら、天皇賞春に向けて闘志を燃やすのだった。

 ちなみに周囲で聞いていたトレーナーやウマ娘たちは、尋常ではないぐらい驚いていたと桐生院トレーナーから後々聞いた。

 うん、なんというか、破天荒でごめんなさい。

 

 あとチーム作りのための話は駄目でした。ゴールドシップと同じチームを勧めるのはちょっと……ということだ。

 ……4月の新入生に賭けよう!




 というわけで、次走は天皇賞春です。
 友達が特別で欲しいけど今はとれない。なら自分がとってくればいいじゃねーか! という理論で出走。
 育成ストーリーでもノリでデカめのレースで勝負とかしてますから、こんな参戦があってもいいのかなと思ってんす。

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