ゴールドシップとの3年間   作:あぬびすびすこ

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 長距離レース見てるとこんなに長く速く走るなんて凄いなと毎回思います。スプリントレースは速すぎて圧倒されます。
 お馬さんのレースはどれも楽しいですね! ポニーのレースも面白いですし、がんばって競争しているのを見れるってすごい楽しいことなのかもしれません。


28、春天大作戦

 天皇賞。春と秋に行われる、トゥインクルシリーズのGⅠレースの中でも特に歴史と格式のあるレースだ。通称、春天と秋天。

 春は京都レース場の芝3,200m、秋は東京レース場で芝2,000m。

 春天は菊花賞と同じく坂がきついコースだ。ペースを考えないと、2回の上りでスタミナが尽き、最終直線で走れないだろう。

 

 まあ、ゴールドシップにはそんなもの関係ない。

 とはいえ坂の練習は必要だろうということで、またあそこでお世話になる。

 

「半年ぶりぐれーか?」

「いえ、4ヶ月です。正確には124日ぶりです」

 

 菊花賞前以来の坂路トレーニングだ。今回もミホノブルボンと並走して行うことになった。

 有マ記念を見た先輩が、坂路をやるなら是非一緒にトレーニングしてくれと頼んできたのだ。

 上り坂で加速していくという異次元の走りを参考にしたいとのこと。参考になるのか、ゴールドシップの走りって……。先輩はベテランだし、違った視点があるのかも。

 

「なあトレぴっぴよー、普通の坂路じゃつまんねーよー」

 

 流石に菊花賞以来とは言えの何度もやってきた坂路トレーニング。ゴールドシップの悪いところが出てしまった。

 が、そんなことは想定済みだ。秘策として用意してきたものがある。

 持って来た鞄から紐とウマ娘ぬいぐるみを取り出す。ぬいぐるみは小さいサイズの勝負服ゴールドシップだ。

 

「おい……何する気だ、お前」

「アタシじゃねーか。ドッペルゲンガー持ってきてどうしたんだ?」

 

 まあまあと言いながらぬいぐるみを縛り、ゴールドシップの腰で紐を縛る。

 これでぬいぐるみとゴールドシップが繋がったわけだ。

 

「マスター、早急な説明を求めます」

「なあ、ブルボン。あいつらから走り以外のことを学習するな」

「了解。速やかに記憶の整理をします」

 

 大分失礼なことを言われているが気にしない。

 ぬいぐるみをゴールドシップに手渡し、走り始めたら後ろに放るよう伝える。

 そして、そのぬいぐるみが地面に付かないように走るよう説明すると、なるほどなと納得した。

 

「でもそれっておもしれーか?」

 

 任せろ、と言ってぬいぐるみの後頭部を見せる。そこには小さい金属の棒がついている。

 

「なんだこれ?」

 

 これは笛だよ。そう言うと、ゴールドシップはピコン! と頭の上に豆電球を出した。

 

「そういうことか! 相変わらずおもしれーこと考えるじゃねーか!」

 

 ブルボンを引き連れて坂の下まで行き、こちらが合図を送ると2人同時に走り出した。

 ゴールドシップがぬいぐるみを後ろに放り投げると、ぬいぐるみが宙に浮きながら引っ張られていく。

 そして、ヒュルルルルと気の抜けた音が聞こえてくる。それを聞いていた先輩が、不思議そうな顔で俺を見てきた。

 

「何をやらせてんだ?」

 

 速く走って風を受けると、ぬいぐるみについた笛が鳴るようになっている。

 坂路で減速せずに駆け上がっていかなければぬいぐるみがちゃんと浮かないので、笛にも風が上手く入らず音がしない。

 それに、スピードにバラつきがあったりフォームが崩れたりすると紐が不規則に引っ張られるから変な音が鳴る。だから、加速するにせよ減速するにせよ一定の間隔で行わなければならない。

 

 つまり、ヒュルルルルと綺麗に音が鳴らせれば綺麗に坂を上れるぞ、というやつです。そう説明すると、口を開けてぽかんとした表情でこちらを見ていた。

 

「ホーホケキョーゥ!」

「コンプリートです」

 

 ゴールドシップが到着し、タイマーを止める。先輩も慌ててブルボンの到着を確認してストップウォッチのボタンを押した。

 減速しながら浮いているぬいぐるみを尻尾で叩き、手元に寄せてまじまじと見つめている。笛の音が不満だっただろうか?

 

「もっといい音の笛ねーのか? ラムネみてーな感じの」

 

 フエラムネ買っておいたけどやってみる?

 

「あるならやってやろーぜ! 3つぐらいつけたらオーケストラになっかな?」

「いえ、オーケストラにはならないと思いますが」

「ブルボンおめー夢がねーぞ! やってみねーとわかんねーだろ! ほら、付けるの手伝え!」

 

 ゴールドシップがフエラムネをぬいぐるみに付け始め、ブルボンもこちらのほうがと言いながら手伝いだす。

 凸凹な2人の作業を見ながら、先輩が俺の肩にポンと手を置いた。

 

「去年の夏合宿から思ってたんだが……お前、すごい才能の持ち主だな。普通はこんなこと考えないしやりもしない。だが、理には適ってる」

 

 先輩に急に褒められて、なんというか、とても驚いている。そんなことないですよ、俺は首を振った。

 ゴールドシップのことを考えた結果、試行錯誤してトレーニングを考えている。これはトレーナーであれば誰しもやる事だ。

 それに、よくあるトレーニングにほんのちょっと何かをプラスしただけだし。道具を使って負荷をかけたりなんて、よくあるし。

 

「いや、お前の才能はトレーニングを作る事じゃない」

 

 え? と先輩の顔を見る。

 

「トレーニングってのは、本来地味で大変なもんだ。筋トレしてもどれだけついたかすぐには分からない。坂路もそうだ。何度も走ればとにかくキツい。だが……」

 

 そう言ってわいわい言いながらフエラムネを装着し、早速やってくると言って坂を駆け下りていった2人を見る。

 

「ああいうふうに楽しんでトレーニングをさせるってのは、中々できねぇ。新人だからこそ、柔らかい考えができるのかもな。俺たちの常識をぶっ壊してくる」

 

 誇っていい、すごいやつだよ、お前は。そう言って背中を叩かれた。

 先輩といい乙名史さんといい、最近ゴールドシップだけじゃなく、俺も評価してもらえている。

 結構気恥ずかしいが、それだけ注目されているということだ。しっかりしないと。

 

 フエラムネの三重奏を奏でながら走ってくるゴールドシップを見て、改めて気合を入れるのだった。

 余談だが、後日ブルボンも同じようにフエラムネぬいぐるみ走を行ったようだ。以前よりタイムが伸びたため、先輩も苦笑いだったそうな。

 

 

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 春天まで残り1週間。早めに行われたレースインタビューもなんとかこなして、あとは軽いトレーニングと当日の走りの調整といったところだ。

 トレーナー室で京都レース場の図を張り出し、どこでどう仕掛けるか確認をする。ゴールドシップは俺が作戦を決めるまでジターリングで遊んでいる。マルゼンスキーからもらったらしい。

 ジジジというやかましい音が鳴り響き、真剣な表情でリングを回す。楽しそうで何よりだ。

 

 こちらはこちらで考える。京都レース場の芝3,200mというのは、実際のところ菊花賞の3,000mに200m足したレースだ。走るコースも一緒、違うのは200m伸びることと、シニア級のウマ娘も走るということ。

 今回、有マ記念での雪辱を果たすべくエイシンフラッシュが参戦すると聞いている。一定のペースを保てる彼女は坂が多くても関係なく走れるだろう。強敵だ。

 さて、春天での仕掛けどころはどこがいいだろうか……。枠順やメンバーの名前を確認して、名前を書いたマグネットを図において考えていく。

 うーん……どうすれば楽しく走れるだろうか……。チラッとゴールドシップを見る。

 

「夏場のセミみてーな音だなコレ。マルゼンスキーもおもしれーモンもってんなー」

 

 ……よし、とりあえずここで大外に出てテンションを上げてもらって……うん、これでいくか。

 大体決まったよ。そう言うと、ジターリングを置いてホワイトボードに近づく。

 

「今回はどーすんだ? 全員にタックルでもするか?」

 

 競走中止になるよ! 肩に軽いツッコミを入れて、説明する。

 まず、ここで大外に出てほしいと言うと、はてなマークを頭の上に出しながら首を傾げた。

 

「意味あんのかそれ?」

 

 うん、と頷いてこう答えた。

 テンションが凄く上がるよ。

 

「……ふへっ」

 

 変な笑い声を出しながら肩を組んできた。お気に召したようだ。

 続けて、マグネットを動かしてスパートの位置を説明する。

 

「あー、成程な」

 

 これならまさしくゴールドシップっていう走りじゃないか? そう聞くと、にんまり笑って体を揺らした。

 

「これでいこーぜ! やっぱトレーナーも相当だな!」

 

 ゴールドシップと一緒に、常識を何度だって壊してやる。

 楽しそうにする彼女を見て、そう思ったのだった。




 というわけで、ここから史実からちょっとずつ離れていきます。何故なら育成ストーリー主軸だから!
 実際の春天ではエイシンフラッシュは出ていません。育成ストーリーだと一緒に出走してますけどね。ゴールドシップがお馬さんとしては若すぎて、同じ時期に活躍したウマ娘が少ないからこういう絡ませかたなのでしょう。
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