前回は宝塚記念2年目ということで、来年を幻視する方が多く見受けられました。
しかし、この小説はゴールドシップとの「3年間」。今年は3年目、です。
『宝塚記念2連覇おめでとうございます!』
『ん? そういや去年もこんぐらいに走ったか?』
バスの中、タブレットで昨日のインタビューを確認しながら質問をメモを取る。
去年もそうだったが、夏合宿がすぐ後に始まるので準備が忙しく、きちんとチェックできていなかったのだ。
『2連覇ってすげーのか?』
『今まで誰も成し遂げたことがないすごいことですよ!』
司会の人が褒め称えると、ゴールドシップはほぅ? としたり顔で画面端に立っている俺を見た。
俺が歴史的快挙だよと話すと、はっはっはと腰に手を当てて笑い始めた。
『ゴルシちゃん、ついに歴史に名を残しちまったか! ならもっと全力で祝えよな! まだまだ足りねーぜ!』
画面の中でゴールドシップがはしゃぎまわり、記者やファンから「おめでとう」やら「さすがですわ」やらと大盛り上がりで祝福されている。
有マ記念はシンボリルドルフなど連覇しているウマ娘がいるのだが、宝塚記念を連覇というのはトゥインクルシリーズで誰も果たしていない、本当に快挙なのだ。
うんうんと頷いて見ていると、近くで座っていたウマ娘たちもうんうんと頷いていた。
「うおおぉぉぉん!! 感動だああぁーー!」
「グランプリ2連覇とはすばらしいな。それに、あのレースは強い勝ち方だった」
去年同様、チケットとハヤヒデだ。タイシンはうっとうしそうな顔でチケットを見ている。
隣で座っているゴールドシップは昨日の夜に紙粘土でパキケファロサウルスを作る動画を撮っていて疲れているらしくぐっすり眠っている。
『よっしゃああーー! 来年はもっと熱く燃え上がるぜ! ゲートをぶちかますぐれーにな!』
「ゲートを……? 蹴破りたいと言っていたのを聞いたことはあるが、まさかな」
流石にそれはないだろう……と言えないのがゴールドシップだ。
インタビューの時にも言ったが、くれぐれもやらないように釘をさしておこう。隣で爆睡している彼女を見て決意した。
「またきちまったか。約束の地によ……」
水着姿で腕を組み仁王立ちしているゴールドシップを背景に、せっせとトレーニングの準備をする。
夏合宿はいつも以上に色々考えてトレーニングメニューを作っているからか、ゴールドシップからの期待が凄かった。
バスに乗る前に大き目のスーツケースを転がしていたら、キラキラした目で見ていたのだ。なんというか、嬉しいがハードルが高くなっている気がする。
「去年もそうでしたが、何故わたくしは連れてこられているのでしょう……」
「ボクも同じことを思ってるよ……」
うなだれているのは去年同様に連行されているマックイーンとテイオー。トレーナーには既に了解済みだ。
そう言うと、ガーン! と効果音が聞こえるぐらいにショックを受けていた。
ケガもよくなり、最近は復帰してチームでトレーニングしていたと聞いている。まだ走れないと思われているんだ! と怒っていた。
ゴールドシップに連れていかれたら満足するまで帰れないだろうからそっちで見てほしいと悲しいお願いをされているんだよと説明すると、なんとも微妙な表情で口をもごもごさせていた。
「で、今日は何をするんですの?」
「ゴルシのトレーナーだし、変なのやるんでしょ?」
なんとも不名誉な期待のされ方をしているが、実際トレーニングメニューとしては異質だから否めない。
取り出したのはこぶし大のゴムボール。これを3人に手渡す。
「なんだ? ゴムの早食い競争か?」
「のどに詰まってしまいますわ!」
「そういう問題じゃないと思うなー、ボク」
はしゃぐ3人に、トレーニングのルールを説明する。
難しいことは特にない。このゴムボールを蹴りながら20mを往復するというだけだ。
「えぇー? それだけ? そんなの簡単だよ!」
ただし、片脚だけで往復するんだぞと言うと、えっと息を詰まらせる。
実際にケンケンしながらゴムボールを蹴って前に進む姿を見せると、テイオーはムムムと唸り出した。
「うっし! アタシが手本見せてやるからよ、着いてこいよな!」
「ゴールドシップさんはやったことあるんですのね」
「初めてだけどな!」
「ダメじゃん!?」
騒ぎながら始めと終わりのラインを準備をして、いざトレーニングをやってみると、案の定マックイーンとテイオーが苦戦している。
「脚が、とられますわね!」
「ボールがまっすぐ蹴れないよぉー!」
片脚だけで跳びながら進む都合上、ボールをまともに蹴れない。そして砂浜のせいで、跳んで着地した時に勢いを逃がさないと砂に脚を取られてしまう。
しかも勢いを逃がそうと膝や腰の関節を使うとバランスが崩れるし脚の力も使ってしまい、疲労がたまっていく。
往復するだけでも結構ハードだ。折り返し地点に到達したら逆の脚でケンケンして戻ってくるよう言ってあるから、一応負担を少なくしてはいる。
「おれぇい!」
「なんでそんなにお上手なんですの!」
ゴールドシップは思っていた通り楽々進んでいく。明らかに片脚でジャンプしているのにバランスが崩れないし、蹴ったボールは真っすぐ跳んでいく。
その上衝撃の逃がし方も上手だ。これは筋肉の質の問題なのだろうなと感じる。
簡単にボールを蹴飛ばしていき、マックイーンたちが半分ぐらいしか進めていないのにゴールドシップは既に戻ってきている。
「おらおらあぁーっ! ゴルシティアーノ・ロナウド様の華麗なドリブルだぜ!」
「うえっ、ぺっぺ! 砂とばさないでよー!」
向かい合ってしまえばボールを蹴っているのだし砂の掛け合いは必至。
足並みをある程度揃えないと別の戦いが始まってしまうのだ。
2人に砂を飛ばしながら一足先に帰ってきたゴールドシップに水を渡し、足は大丈夫かと様子を確認する。
「アタシはそーでもねーな! これ一気に先まで蹴ってもいいのか?」
できるなら構わないよと言うと、次はファイアートルネード決めっか! と何故か回転しながらジャンプする練習をし始めた。
そもそもボールをけるのにファイアーとトルネードとは一体……。
「ふっ! ふっ! お、終わりましたわ……」
「ふぃー! これ、結構キツイね」
ゴールドシップの奇行を背景に待っていると、2人も戻ってきた。
流石ウマ娘、俺が試しにやった時は1往復でその日動けないぐらい疲れたものだが、脚の震えも見られない。
小休憩したらもう1回ね、と言って水を渡すと、トレーニング前よりもやる気満々な顔つきで水分補給する2人なのであった。
「やはり膝でしょうか」
「ボクは腰だと思うけどなー」
何往復かした後の長めの休憩。マックイーンとテイオーはいかにうまくボールを蹴りながらバランスを崩さずに進むかを研究し始めた。
これがトレーナーたちがトレーニングでよく見る光景なんだろうなと思いながら、バスの中で取ったメモを確認する。
――チームは作らないんでしょうか? この質問に赤で丸がついている。
そう、ゴールドシップのトレーナーになってから2年経過しているが、未だにチームを作れていない。新人トレーナー専属システムのおかげでなんとかなっているが、レースに勝つたびにチームを作ることを学園から催促されるし、インタビュアーも言ってくる。
チームを作りたいという気持ちはあるが、そもそも今年結果を出さないとURAファイナルズに出走できないだろうし、最悪ゴールドシップの担当を外されてしまう可能性がある。正直に言うと、あんまり余裕がない。
どうしたものかなーと思っていると、首筋にぬめっとしたものを感じた。生理的嫌悪感で跳び上がって振り向くと、海藻を持ってニヤつくゴールドシップがいた。
「歯にスルメが挟まったみてーな顔してんなよな!」
そう言いながら海藻を海に投げ捨てる。その海藻は何のために持っていたんだ……?
「で、なんかあったか? 素潜りでもしてーのか?」
チームを作らないといけないからさぁ。そう話すと、ふぅんと腕を組みながら首を傾げた。
「ゴルシちゃんだけじゃ物足りねーとは、贅沢なやつだな! そのハングリーマインドはベリーグッドだけどよ!」
確かに、ここまで活躍しているウマ娘を担当しながら他のウマ娘も誘いたいというのはいささかワガママかもしれない。
ただ、レースに出る規定があるから、せめてトゥインクルシリーズ3年目が終わる今年中には目途を立てないと。
そう説明すると、つまらなそうに口をとがらせる。
「ルールとかマナーとかつまんねぇなー。ま、アタシもおもしろそうなやつ見つけたら聞いといてやるよ」
そう言って手をプラプラ振りながら、話し合っているマックイーンたちに突撃していった。
うーん……ゴールドシップが誘って入るウマ娘……同じぐらいの奇行子かもしれない。そう思わざるを得なかった。
というわけで夏合宿編です。
砂浜ケンケンドリブルはかなりきついです。遊びでできる範囲ではないぐらいきちんとしたトレーニングですね、ハイ。
前書きで3年目ですとは言いましたが、色々と書きたいものはまだありますし、構想を練っています。
とりあえず、ゴールドシップの物語をお楽しみください。
【追記】
17:00予約投稿をしようとおもっていたのですが間違えて13:30ぐらいに投稿してしまってました。慌てて消して再投稿してます。もし見たという方は、こちらが現時点での最新話です。