ゴールドシップとの3年間   作:あぬびすびすこ

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 2021年オークス、1着はゴールドシップくんの娘さんでした!
 とっても嬉しいですね!

5/21に「24、レースの駆け引き」でセイウンスカイの2冠ウマ娘という表現を修正してなくしました。理由はいろいろありますがお話の整合性を取りたいということです。


34、夏々合宿 後編

「素潜り!?」

「よっしゃあー! トレーナーよくやった!」

 

 今日のトレーニングは素潜りですと説明すると、合同トレーニングとして集まったチームのウマ娘たちがギョッとしていた。

 ゴールドシップはやる気満々で、すぐにウェットスーツにフィンとマスクを付け始めた。

 

「えっ、ホントに素潜りやるんだ……」

「私、初挑戦なんだけどなー。でもでも、楽しそうだよ!」

「イクノー! ターボのどれ!」

「この大きさでしょう。フィンは足を入れて試してみましょうか」

「いやみんなやる気かい!」

 

 来てくれたのは先日同様先輩のチーム。ネイチャやタンホイザ、ターボ、イクノたちだ。

 パーマーとヘリオスは砂浜ダッシュをするらしく、別のチームと合同トレーニングをするらしい。

 

「素潜りですか……今日はどんな理由で?」

 

 先輩がトレーニング内容について詳しく聞いてきた。

 素潜りは心肺機能の向上を主としている。最初に片脚ボールドリブルという関節に負荷がかかるトレーニングをしていたから、竹ウマ、素潜りと少しずつ負担が小さいものにしているのだ。

 単純にゴールドシップが海に入るトレーニングをやりたがっていたからというのもあるけど。

 

 それに、今回の素潜りはこれも使う。そう言って見せるのは、長い棒だ。

 

「それは……銛ですか?」

 

 棒の先端には鋭い金属。そう、手銛だ。

 これで魚を取ってもらう。そう言うと、おおー! とネイチャ以外が盛り上がった。

 せっかく海に来たのだし、こういうのもアリかなということで地域の漁師さんたちに許可をもらったのだ。快諾してくれた上、近くの旅館でとった魚で美味しい料理まで作ってくれることになっている。

 その話を聞いて、全員が急に真剣な顔をして装備をし始めた。やはりウマ娘、おいしいご飯には目がないようだ。

 

「シャー! いくぞおめーら! 目指せシロナガスクジラ!」

「「おおー!」」

 

 クジラは取れないというツッコミは置いておいて。いざ出陣!

 

 

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 素潜りで捕まえた魚をおいしく調理してもらい、大満足の昼食をとってからしばらくして。

 ゆっくりお昼寝してから、近くでやっている夏祭りにゴールドシップと足を運んだ。

 マックイーンたちと行かなくていいのかと聞くと、最近体重が増えたせいでトレーナーから禁止令を出されているため連れてこれなかったとのこと。

 

「うっし、やってやるぜ!」

 

 去年他のウマ娘たちとここにきて、屋台を荒らしまくっていたと聞いたが今年もやる気らしい。

 ゴールドシップが屋台を見回っていると、店主たちが腕を組んで待ち受けていた。なんともノリがいい。

 最初の標的を決めたらしく、射的の屋台へと向かっていった。

 

「嬢ちゃん、来たみてーだな……」

「よう親父! 今年もやってやるからな! トレーナー、300円くれ」

 

 突き出してきた手の上に、ゴールドシップ用の財布から取り出した600円を渡す。

 硬貨の数が違うと不思議そうにしていたが、額を確認するとニヤリと笑って屋台のおじさんに見せつけた。

 

「2丁くれ!」

「なにっ! 2丁だと!?」

 

 後ろで様子を見ていた男の人が驚いていた。

 射的の銃を2丁持ちというのは正直意味がわからないし、意味がない。だって狙いにくいしブレるに決まっている。

 ただ、ゴールドシップだからなぁ。大抵の遊びに精通しているから、とんでもないことをしてくれるはず。

 

「うっし、いくぜいくぜー! あ、トレーナー、弾入れてくれよな」

 

 気合を入れて構えるゴールドシップの持つ銃にコルク弾をねじ込む。

 改めてポーズを取りながらウロウロして狙う標的を探す。異様な姿に観客が集まってきた。中にはトレセン学園のウマ娘たちもいる。

 

「……ゴールドシップさんだね」

「いつもどーりすごいね」

 

 なんとも言えない評価を聞いてしまったが、正しい評価なので困る。

 当の本人は楽しそうに銃を構えている。どうやら狙いが定まったようだ。

 

「アタシはそのでけー王将を狙うぜ!」

「一番大きいモンを狙うたぁな……流石は屋台荒らしの嬢ちゃんだ!」

 

 一番上の棚、その中央に置いてある置物サイズの将棋の駒を狙うようだ。どう見ても射的の弾で倒せる大きさじゃない気がする。

 どうやって倒すつもりなんだろうか……というか腰で銃床を抑えて撃つのはもう狙いが定まらないと思うんだが。

 

 俺の心配をよそに、ゴールドシップは左右同時に弾を発射した。

 パン! と破裂音が鳴り、駒の頭に2つともヒットした。しかし、少し揺れた程度でビクともしない。うぅん、やっぱり重いんだな。

 

「はっはっは! どうだ嬢ちゃん! 去年落とされた大黒天の仇だぁ!」

「なにッ! だったら見せてやるぜ、ゴルシちゃんの毘沙門天五月雨撃ちをよぉー!」

 

 ヒートアップするノリを見ながら、こちらに向けてくる銃に弾をこめてあげる。

 しかし、何度も撃ちこむが中々倒れるところまでいかない。残りの弾の数は2つ。2丁では1発ずつしか撃てない。

 

「中々おもしれーことになってきたじゃねーか……こっちも隠し玉を見せる時がきたみてーだな!」

「なにぃ!?」

「来い、恵比寿!」

 

 カッと目を見開いたゴールドシップに見られたので、300円をおじさんに渡して銃を1つ手に持つ。

 

「ここで助っ人だとぉ!」

「これでアタシの戦闘力は3兆ゴルゴルパワー! くらえ親父ィ!」

 

 人に向かっては撃たないでねと言いつつ、弾をこめて狙いを定める。

 ゴールドシップがチラッとこちらをみて合図してきた。すぐさま発射する。

 軽い破裂音がして駒の頭部分にヒットする。少しだけ後ろへ揺れたところに、ゴールドシップの銃でもう1発撃ちこまれる。

 

「じ、時間差!」

「シャアーーーー!」

 

 うまく頭部分にヒットして大きな揺れになったところで、最後の1発が王将の駒にヒットした。

 グラリと強く揺れ、そのまま後ろに――倒れない。後ろの観客からあぁ、と声が漏れる。

 ゴールドシップが銃を1丁台の上に置くと、おじさんが得意げに大笑いし始めた。

 

「はっはーー! まだだ、まだ足らんよ! 残念だったな嬢ちゃーん!」

「なに勘違いしてんだ?」

「ひょ?」

「まだアタシたちのバトルフェイズは終了してないぜ!」

 

 そうゴールドシップが言ったところで、俺が再装填した銃で王将の駒を撃つ。

 ぐらぐらと揺れているところにヒットし、収まりそうになっていた揺れはさらに強くなる。

 おじさんが焦り始めるが、もう遅い。ゴールドシップが俺の弾をとって自分の銃に素早く装填、狙いを定めて撃ちこんだ。

 

「す、すごい! なんて連携!」

「見て! さっきまでビクともしなかったのに揺れてる!」

 

 揺れたところに何度も撃ちこんだことで、ぐわんぐわんと前後に大きく揺れている。

 さらに俺が発射。弾がぶつかり、もう落ちてしまうぐらい傾いた。

 

「あ、ああ!」

「へへ、これがアタシたちのゴルゴルパワーだ!」

 

 最後の弾を装填し、傾いた駒を撃ち抜く。

 ズンッと重い音がして、王将は地面へと沈んだ。

 

「うわぁーーー!」

「すごいすごい!」

「ゴールドシップさんやるぅー!」

 

 おじさんが頭を抱えて叫び、観客たちは大いに盛り上がりを見せる。

 銃を置いて一息つくと、ゴールドシップがニシシと笑いながら背中をバシッと叩いてきた。

 

「やるじゃねーか! こいつぁ今日もハジケちまえそうだぜ!」

 

 にこやかに笑う彼女と落ち込むおじさんの姿が対照的で、ふふっと笑ってしまう。

 どうやら今日のお祭りは激しくなりそうだ。

 

 

 

 

 

「ふぃー、結構やったなー」

 

 最初に遊んだ射的から、輪投げ、型抜き、ボールすくいにくじなど、様々なところに顔を出した。

 特に型抜きはゴールドシップがあまりにもうますぎて賞金をかっさらってしまうため、お店の人と話して2回だけと契約したりする場面もあった。

 事前に鞄を持ってきていたが、既にパンパンだ。満足げに笑いながらにんじんジュースを飲む彼女がほぼ全て取ったと考えると、屋台荒らしと言われるのも頷ける。

 

「今日は白熱したなー。トレぴっぴがあそこまでくじ運がつえーとは思わなかったぜ」

 

 ゴールドシップと一緒に回った中で、唯一俺が取ったのが、ゴールドシップが持っているにんじんのぬいぐるみとキーホルダーだ。

 2人で2回ずつ引いて、ゴールドシップはアメ2つ。俺はぬいぐるみとキーホルダー。

 ハズレの景品がアメで不機嫌だったため、俺が取ったものを2つあげたわけだ。少しは機嫌が直った様子。

 

「お?」

 

 空が明るくなり、見上げると花火が打ちあがっていた。

 久々にきちんと花火を見たな。ゴールドシップと2人でしばらく空を眺めていた。

 

「花火ってスゲーよな。作るのに何年もかかるのに打ち上げたら数秒で終わりなんだぜ? 刹那すぎんだろ、今この瞬間しかねーとかセミかっつー話」

 

 ゴールドシップみたいだなと言うと、アタシがセミっつーのか、アァン? と言いながら軽く体当たりしてきた。

 楽し気に空を見上げる彼女の顔は、あまり見られない穏やかな笑顔だった。

 

 しばらくして花火が終わると、ぐっと体を伸ばしてニッと笑う。

 

「うっし、次は飯食うぞ飯! とりあえずりんご飴食いてー」

 

 財布も花火のように散りそうだと思いながら、彼女と並んで歩いていくのだった。




 トレーニングはそこそこに夏祭りを楽しむの巻。
 イベントを色々すっぽかしていて頭を抱えておりますが、ちょこちょこ入れながら話を進めてまいります、ハイ。

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