シンボリルドルフとエアグルーヴから、参考にならないがいいレースだったと評価を受けてからしばらくして。
ウィナーズサークルで恒例のドロップキックをくらって受け身を取る姿を見せると、ルドルフとエアグルーヴが頭を抱えていた。
ゴールドシップはそんなことは気にも留めず、眩しいぐらいの笑顔で手を引かれて立ち上がる。
「へへっ! どうよ、トレーナー!」
歴史に残るぐらいアツいレースだった! そう答えると、嬉しそうにバシバシと背中を叩かれた。
本当に機嫌がいいようで、素直にインタビュー台に上って記者たちを待ち構える。
「秋の天皇賞を制覇しましたゴールドシップさんに来ていただきました! よろしくお願いします!」
「おう! 勝ったぜおめーら! ゴルゴル星からの侵略者じゃーい!」
ワアー! と観客から歓声が聞こえてくる。
ゴールドシップのファンがこれだけいるのだと思うと、とても嬉しい気持ちになる。
「今回のレースはいかがでしたか?」
「アツいレースだったろ! 沸騰するおでんぐれーの熱量だったな! トレーナーにゆで卵食わせてやるからな!」
とても満足しているようです。
「はい、ありがとうございます! 今日の走り、まさか序盤からスパートをかけるなんて思いませんでした。作戦だったのでしょうか?」
「いつもは尻からファイアーだったからな。魔法より物理がいいんじゃねーかってことよ! すげー面白かったぜ、青ネギしばき合い対戦」
コース的に厳しいと思っていたので、追込でも先行でもなく、ハイペースにして逃げることにしました。
パーマーが出走していてくれて助かりましたね。
「すごい選択ですね……ゴールドシップさんしかできない作戦でしょう」
「ゴルシちゃんはなんでもできっからな。今は効かねーけど病気にも効くようになるだろ!」
ただ、今回の作戦は少し失敗したと思っています。
そう話すと、ゴールドシップと記者が不思議そうにこちらを見た。特にゴールドシップは不機嫌そうだ。
「あん?」
「それはどういった……?」
いつもゴールドシップの力に任せた作戦を立ててきました。しかし、今回のコースは彼女の苦手なレース展開になる。
存分に楽しく走ってもらうには作戦が重要だと思い、色々考えたんです。でも、結局いつも通り力任せの作戦を頼んでしまいました。これは私の力不足です。
ただ、必ず勝ってくれると信じていますからね。次はもっともっと人バ一体となってレースに臨みたいと思っていますよ。
「なるほど……そこまで考えて作戦を立てていたのですね!」
「ほーん」
思わず語ってしまったが、インタビュアーや記者の方々は嬉しそうにしていた。コメントとしては上々だったようだ。
ただ、ゴールドシップが腕を組んで俺を見つめているのが気になる。先ほどまでの熱が冷めてしまったように見えるが……。
「ゴールドシップさんは、今回の作戦、いかがでしたか?」
「あ?」
俺が作戦について話してしまったから、ゴールドシップのほうにも話がいってしまった。
機嫌が急降下しているように思える反応だが、大丈夫だろうか。
「アタシはアツいレースができりゃあそれでいいからなー。今日だって面白かっただろ?」
「ええ、燃え上がるようなレースでした!」
「そーだろ! だったらゴルシちゃんたちの勝ちってことだからな!」
ニコニコ笑うゴールドシップが肩を組んできた。驚いて思わずゴールドシップと記者たちに視線を右往左往させてしまう。
「面白きゃそれでいいだろ! 次もアツいレースすんだからよ!」
組んでいる肩をバシバシ叩かれて、ははっと笑ってしまった。どうやら元気を出せと言ってくれているようだ。
次も楽しく走ってもらうからな。そう言うと、あたりめーだろ! と元気よく返された。
「強い絆で勝ち取った勝利のようですね! では、質疑応答に移ります」
「はいっっっ!!!」
いつも通りの乙名史さん。ということはあの質問だろう。
「素晴らしい走りを見せていただき感激しております! 次のレースは決まっていますでしょうか!」
「デカめのレースに出るぜ! トレーナー、デカめのレースってどれだ?」
ゴールドシップの走りを考えると、ジャパンカップか有マ記念かな。
そう話すと、観客から声が上がった。
「有マ記念に出てくれー!」
「去年のあれをまた見せてくれー!」
「あん? 有マ記念? 去年?」
去年の年末にエイシンフラッシュと走ったやつだよと言うと、アレか! と納得した様子。
ファン投票で走る年末の総決算。トゥインクルシリーズで一番大きなレースは何かと聞かれたら、日本ダービーと有マ記念のどちらかと答えるぐらいのレースだ。
「デカいレースなんだろ? だったらやってやろうじゃねーか!」
グッとガッツポーズを見せたゴールドシップ。ワアーっと歓声が沸き起こる。
次のレースが決まってしまったが、ローテーションを考えると去年と同じようなものだ。
レースへのやる気が今の時点で十分ある。しっかり調整して年末に挑もう!
◆ ◆ ◆
ゴールドシップがウイニングライブでキレッキレのダンスを披露し、大盛り上がりで終わった次の日。
俺はルドルフと一緒に理事長室まで来ていた。昨日は真面目にやったはず……いったい何故……。
「トレーナーくん、そう落ち込まないでほしい。悪い話じゃないよ」
苦笑いしながら扉をノックするルドルフ。
ゴールドシップのレース後には必ず呼び出しを受けるから、警戒心しかない。
大体インタビューかウイニングライブへの苦情がきていると注意を受けるのだ。外部からの評価については勘弁してほしい。
俺だって制御できないのだから。
「歓迎! よく来てくれた!」
扇子でビシッとこちらを差す理事長。いつも通り隣に立つたづなさんと、もう1人。
「あ、ゴールドシップさんのトレーナーさん」
桐生院トレーナーだ。最近ハッピーミークがGⅡGⅢレースを制覇しまくって調子がいいと聞いている。
何故ここに……昨日のレースの注意じゃないのだろうか。
「言っただろう? 悪い話じゃないよ」
眉尻を下げて笑うルドルフに、悪かったよと謝る。
理事長に促されて机の前に立つと、改めてビシッと扇子を突き出された。
「ここに呼んだのは他でもない! URAファイナルズについてだ!」
年度末の3月にトレセン学園所属の全てのウマ娘たちが競い合う夢のレース。
この前芝が足りないという事件があり、トレセン学園一同で力を合わせて用意するということがあった。
ゴールドシップが本当に真面目に働いており、全員が驚いていたのが記憶に新しい。彼女は大事なことには真剣になるのだ。
「ここまでお2人の担当ウマ娘は優秀な成績をおさめています。特にゴールドシップさんは昨日もGⅠレースを制覇しましたね」
「うむ! そこで、改めて要請しよう! 君たちにはURAファイナルズへ出走してもらいたい!」
どうやら出走許可の決定通知だったようだ。
ありがとうございます、と頭を下げる。うむ、と頷く理事長だが、何故か俺を見てなんともいえない表情をしている。
たづなさんも困った様子で、眉尻を下げている。ルドルフも同様だ。
「あの……トレーナーさんに何かあるのでしょうか?」
「はい、実は……」
話を聞いてみると、何やら面倒ないざこざがあったと話された。
俺と桐生院トレーナーは、互いに新人トレーナー専属システムで1人のウマ娘だけ担当している。
URAファイナルズの出走について。桐生院トレーナーは別にいいだろう。だが、俺はどうなんだという話が理事会で議論になったらしい。
名門の桐生院家が出るのはわかる、実際重賞をいくつも制覇するという活躍もしているのだから。
トレセン学園主導で新しく始まる大掛かりなレースだ。そこに本当にぽっと出のトレーナー、俺が出るのはいいのだろうかという話だ。
実力があるのだから出るのは文句はない。ただ、その担当がゴールドシップというのが問題だったのだ。
新規のレースに破天荒すぎるウマ娘が参加。マイナスにならないか不安がある、ということだ。
「そんな……こんなにも活躍しているのにですか!」
「気持ちはわかる! だが、彼女の外部評価に問題があるのは事実なのだ……」
気まずそうに俺を見る理事長を見て、本当にすみませんと深々と頭を下げる。
つまり、ゴールドシップの問題行動で新規レースにマイナスイメージをつけたくないとかそういうことだ。
うん、とてもわかる。俺もゴールドシップの担当じゃなければ大丈夫なのかと思ってしまうだろうから。
「無論! 君たちの活躍は理解している。そこで、出走に条件をつけたのだ!」
「条件……ですか」
URAファイナルズに出走できる条件。それは、年末の有マ記念を制覇すること!
ファン投票のレースで1着、これならば多くの人から称賛されて出走できるようになるだろうと理事会でも一致したのだとか。
理事会も出走させたいと思って色々考えた結果がこれだ。許してほしいと理事長に頭を下げられてしまった。
慌てて顔を上げてもらい、絶対に勝ちますと答えた。
「必勝! 期待しているぞ!」
「わたしも応援しています。頑張ってくださいね!」
「トレーナーくん、ゴールドシップと競うのを楽しみに待っているよ」
「ハッピーミークと一緒に待ってますから。頑張りましょう!」
みんなからの応援の声を聞き、絶対に勝つ! そう決意したのであった。
作戦がいつも通りでちょっぴりテンション低めだったトレーナーくんでした。
でもゴルシ的には楽しかったので全然おっけーですとのことです。
URAファイナルズって新規事業なので、相当慎重にやってるはずなんですよね。アクシデントが色々起こりながらも3年であんな大きいレースを組み込めるのはすごいことです。
だからこそ破天荒すぎて外部評価が両極端になりそうなゴルシとかは、最初に参加させづらいと思うんですけどどうなんでしょう。