ゴールドシップとの3年間   作:あぬびすびすこ

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 祝、ゴールドシップ産駒活躍!
 目黒記念でも結果を出してくれましたね。ステイゴールドの孫が目黒記念で勝利、ドラマチックです。


39、体調

 1週間ほどじっくりと休んでもらい、有マ記念に向けたトレーニングをしようと考えていた時。

 トレーナー室でゴールドシップと話をしていたら、ふと気づいた。脚を妙にぐりぐりと動かしている。

 ゴールドシップ、脚の調子悪いのか?

 

「あ? ああー……」

 

 なんともいえない微妙な顔で目をそらした。

 レースから時間が経ったのに……! 慌てて座らせて脚に触れる。

 何度か触って、ふくらはぎに触れた時に顔をしかめることがわかった。慌ててゴールドシップを抱き上げ、校舎を走る。

 

「唐突激突太郎だなおい! どこ行くんだ? ガンジス川か?」

 

 病院だよ! 駐車場まで走り、俺の車に乗せてすぐに発進する。

 ウマ娘をよく見てくれているところでいいだろう。テイオーもお世話になったと聞いているし。

 

「えー、つまんねーなー。ゴルシちゃん連れてくならもっとサスペンスな感じにしろよな!」

 

 それよりも足に違和感があったら早めに言ってくれ! と大きな声を出しながら急いで運転する。

 

「別に痛くねーから問題ねーよ。あ、あそこのラーメン屋行こうぜ。最近できたんだよ」

 

 ダメだ。後にしてくれ。

 隣でぶーぶー文句を言っているが、無視して病院へ向かう。

 大事なければいいが……。

 

 

 

 

 

「筋肉痛ですね」

 

 筋肉痛。

 

「はい。もう治りかけです。湿布でも出しましょう」

「だから言ったじゃねーか」

 

 はあぁーと大きくため息を吐く。

 筋肉痛、しかも治りかけ……つまりレース後ぐらいからずっとそうなってたということだ。

 そう言えばレース後から今日までゴールドシップと会うことがほとんど無かった。

 ……逃げてたな? そう言って彼女を見ると、目をそらして口笛を吹く。

 

「他のところも検査しましたが、どこにも問題はないですね。ここまで傷がないのも珍しいですよ」

 

 特に異常なし。うん、あの激走でどこにも故障がないのだからよしとしよう。

 ただ、トレーナーの俺には報告してほしかったけど。

 

 湿布を脚に貼ってもらい、車でトレセン学園まで帰る。

 微妙に気まずい雰囲気だ……ゴールドシップも黙って窓の外を眺めているし。

 はぁ、とため息を吐く。

 

「わるかったよ」

 

 ピクリと耳を動かしながら、謝られた。

 チラッとゴールドシップを見ると、彼女もこちらを横目で見ていた。

 

「ま、すぐ治るからよ。あんま気にすんなよな」

 

 べしべし俺を叩き、また窓の外を眺めた。

 うーん……まあ、今回初めてのケガ、のようなものだ。

 次からは俺も気をつけて彼女の様子を見ることにしよう。

 今後はちゃんと言ってくれよ。そう言っておでこにチョップすると、しゃーねーなぁと返事された。

 

「それはそれとして今の水平平手チョップは許さねーからな!」

 

 楽しそうに笑うゴールドシップから脇をくすぐられ、危うく病院に逆戻りするところだった。

 運転中にいたずらはやめてくれ!

 

 

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 大事を取って負荷の軽いプールでのスタミナトレーニングを行うようにしていたら、もう11月末。

 今日はジャパンカップの開催日だ。ゴールドシップと一緒に観戦することになった。

 俺の部屋でこたつに入り、みかんを食べながら出走を待っている。

 

「今日誰が走るんだ?」

 

 人気どころで言ったらアフィシャージとボンボネーラ、そしてナカヤマフェスタだろうか。エイシンフラッシュも出ている。

 

「ナカヤマか! あいつと勝負すっとおもしれーんだよな。時々オラつくけど」

 

 ゴールドシップとナカヤマフェスタは時々謎の勝負をしていることがある。

 この前はネイチャが流行らせていたメンコで少年漫画みたいなバトルを繰り広げていたし、その前にはユキノビジン協力のもとわんこそば大食い対決をしていた。

 常に何かを賭けて戦っていて、メンコの時は1週間帽子をかぶってはいけない。わんこそばの時は3日間語尾に「わん」をつける。基本的に罰ゲームなわけだが……。

 

 勝負中はゴールドシップの奇行に対して非常に寛容なのでシンボリルドルフは助かっていると聞いた。

 ただ、ナカヤマもそこそこ問題を起こしがちで生徒会のお世話になっているから、そんなにあてにはできないとエアグルーヴがため息を吐いていたのを見たこともある。

 ゴールドシップと相性のいいウマ娘はやはり問題児なのだろうか……。

 

「お、始まったな!」

 

 テレビに目を向けると、ジャパンカップがスタートしていた。

 件のナカヤマフェスタは先行するようで、先頭集団の中にいる。アフィシャージとボンボネーラは後方待機だ。

 

『凱旋門賞を2着と健闘したナカヤマフェスタ、現在は5番手といったところでしょうか』

「あ? トレーナー、凱旋門賞ってなんだ?」

 

 フランスで開催される由緒正しいレースだよ。世界中のウマ娘たちが憧れる日本で言うところのダービーって感じかなぁ。

 そう言うと、そんなもんもあるんだなーとテレビに視線を戻した。

 

『エイシンフラッシュ、2番手でペースを作っています。これは正解でしょうか?』

『正確なペースで走るウマ娘です。自分のスパートが活きるペースなのでしょう』

『1,000m通過時点で60.7。平均からやや遅めと言ったところ』

 

 エイシンフラッシュは逃げウマ娘の後ろを取って2番手。

 逃げのウマ娘が少ない場合、ペースを作るのは2番手3番手で走るウマ娘たちだ。

 フラッシュがペースメイクしているということは、前で脚を残して末脚一気がしたいというところだろうか。

 

「ん?」

 

 レース展開を予想しながら見ていたら、ゴールドシップが何かに気づいたらしく不思議そうな顔をした。

 どうしたんだ?

 

「んー、なんかナカヤマがつまんなそうだからよ」

 

 ナカヤマフェスタが? 彼女を注視してみるが、特に違和感は感じられない。

 だが、ゴールドシップが気づいたのだ。何かあるのかもしれない。メモを取っておこう。

 

『さあ第4コーナー抜けて最終直線に入りました! この525mの直線、誰が抜け出すのか!』

 

 東京レース場、最後の直線。

 エイシンフラッシュが逃げウマ娘を捉えようとペースを上げ、隣で一緒に走っていたウマ娘も同時にスピードを上げる。

 中団からは1番人気のアフィシャージが一気に突っ込んできた! 後方でしっかりと溜めていた脚を爆発させている。

 4番人気のバラノキャッスルも上がってきたが、アフィシャージがその内側にいたエイシンフラッシュごと体を幅寄せして前に出た。

 あっ、これはよくないな。

 

「あん?」

 

 多分降着になるよ、これ。そう言うと、んん? とゴールドシップが首を傾げた。

 フェミノーブルもそうだったが、あまりにも強引なタックルや悪意のないヨレ癖による幅寄せなど、走りの邪魔がレース展開に影響が出るほどの場合は降着といって順位が下げられる。

 アフィシャージはわざとかどうかわからないが、斜行でバラノキャッスルの進路を塞いでしまった。これは微妙なところだ。

 

 そのままアフィシャージが一気に抜け出してゴールイン、その後バラノキャッスルはエイシンフラッシュたちを抜かして一気に上がっていき2着でゴールイン。

 

『1着でゴールインしたのはアフィシャージ! 強い走りでした! 2着はバラノキャッスル!』

『えー、ここでレースに審議が入ります。しばらくお待ちください』

 

 ね? と口にする。

 ただ、ゴールドシップは何も言わずにじっと画面を見ている。俺も視線を戻すと、そこに映っているのはエイシンフラッシュと話すナカヤマフェスタ。

 ナカヤマは今回14着。凱旋門賞2着という華々しい活躍の後のレースだったが、奮わなかったようだ。

 しかし、ゴールドシップには別の何かが見えているのかもしれない。今の彼女はオラついている。

 

「灰にでもなっちまったか? なーんか暇そうに走りやがるぜ」

 

 頭の後ろで手を組み、不機嫌そうに口をとがらせる。

 どうやら本気で走っているように見えなかったのがお気に召さないようだ。

 

「ヒリつく勝負がいいって言ってたのによー」

 

 ぶーぶー文句を言いながらみかんの皮をむき始めた。

 何か不調でもあったのだろうか。明日にでも担当の先輩トレーナーに聞いてみよう。

 アフィシャージの降着でバラノキャッスルが1着に繰り上がったのを見ながら俺もみかんを手に取った。

 

 

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

「よう、ゴルシ」

「あん? ナカヤマじゃねーか」

 

 翌日、ゴールドシップと中庭で昼食を食べていたらナカヤマが現れた。

 昨日はジャパンカップお疲れ様。そう言うと、どうも、と短く返される。

 

「有マ記念、アンタ出るんだろ?」

「おう! ナカヤマも出んのか?」

「ああ……アンタとなら、ヒリつくアツいレースができそうだからな……」

 

 意味深にそう話すナカヤマ。

 昨日のジャパンカップ、体調は大丈夫だったのか聞いてみると、不思議そうな顔をした。

 

「……ああ。別に体調もケガもない。不完全燃焼ってだけだ」

「アツくもないレースとかつまんねーからなー」

「凱旋門賞……あのレースは最高にアツかった。一瞬の隙を突いて抜け出した……そう思ったらこっちもまた狙われてた……あんなレースの後じゃあ、昨日のレースはぬるま湯みたいなもんだ」

 

 どうやら凱旋門賞の熱が強すぎてジャパンカップに集中できていないということらしい。

 ゴールドシップも気分で能力が変わるところがあるからなんとなく理解できる。

 

「昨日は我ながら不甲斐ないレースだった。だが、ゴルシ。アンタが出る年末総決算、それならヒリつく勝負ができそうじゃないか」

「アタシはいつだってバーニングウマソウルだからな!」

「くく……楽しみにしておくさ……!」

 

 ニヤリと笑いながら去っていった。

 どうやら宣戦布告をしたかったようだ。

 

「ナカヤマも出んのか……おもしれーことになってきたぜ!」

 

 嬉しそうにハンバーガーを食べる彼女を見て、俺も期待が高まる。

 年末の有マ記念、すごいレースになりそうだ!




 お馬さんのゴールドシップくんは足を気にしたと思ったら筋肉痛になってたということがあったそうです。ケガじゃないんだ……というお話ですね。
 自分でケガしないようにセーブしていた節もありますが。

 ナカヤマフェスタは凱旋門賞後のジャパンカップ出走後、ケガで長期療養して有馬記念おの出走を断念しています。この小説では問題なく有マ記念に出走できるというifで進めます。

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