メイクデビューを1着で終え、ウイニングライブも奇怪な動きをしていたもののなんとか盛り上げて終わらせた。
さあ次のレースの話をしようと考えた次の日、トレーナー室にて。
「燃え尽きちまったぜ……真っ白にな……」
ゴールドシップは燃え尽きていた。細かく言うと、溜まっていたフラストレーションをメイクデビューで開放してしまい、レースへのモチベーションがなくなっていたのだった。
チームメンバーも探さなければならないこの状況で、やる気がないのはやや困るところだ。
「まあアタシはもともと白いんだけどな!」
やる気はないのにテンションは変わらず、いつも通りだ。それがいいことなのか悪いことなのかわからない。
とにかく、チームメンバーを探すのもそうだが次のレースのことも考えないといけない。
そもそも新人トレーナーはウマ娘をスカウトできたとしても、チームのサブトレーナーになるのが基本だ。
何故なら普通チームを作るだけのウマ娘をスカウトできないから。サブトレーナーならチームに入っていることになるから、担当ウマ娘を出走させることができる。
もっとも、実績はチームのものになってしまうが、それは仕方がない。ノウハウをもらっているわけだし。
俺は流れでゴールドシップのトレーナーになれたわけだが、サブトレーナーじゃなくチーム設立を目指している。
それは何故か。だってゴールドシップの担当だって言ったら先輩たちがうーんって唸るんだもの!
とりあえずチームメンバーを何とか探すとして。一応予定を決めておこう。
次のレース、どうしたい?
「あん? レースだぁ?」
「そうだな……そこはかとなくゴルシちゃん向きなおもしれーやつがいいな!」
そんな都合のいいレースがあるんだろうか……。
そう思ってパソコンでレースを調べていく。いくつか候補を絞っていると、ゴールドシップが後ろから覗きこんできた。体が他のウマ娘たちよりも大きいからか、圧迫感を感じる。
俺が選んでいたのは弥生賞などのGⅡレースで、ゴールドシップの走りと相性がいいだろう中距離のレースだ。だが、お気に召さなかったのか何やら不機嫌だ。
「いいか、トレぴっぴ」
トレぴっぴ……?
「ゴルシちゃんはさ、おもしれー走りがしたいんだよ。それこそ強いウマ娘たちがたくさんいるレースでぶっちぎるとかさ」
「そこんとこ考えといてくれよな! じゃ、アタシは火星人と月でダンスバトルしてくるから」
ゴールドシップはそういうとトレーナー室の扉をぶち破りながら廊下を駆け抜けていった。遠くで誰かの悲鳴が聞こえてくる。
相変わらずやんちゃな娘だなぁ……。
扉を直しながら、次のレースについて考える。
ゴールドシップの走りを考えると出場レースは芝の中距離以上が妥当だろう。あのストライド走法を考えると、マイルの距離ではスピードが伸びる前にレースが終わる可能性がある。
昨日見たレース。最後尾からロングスパートをかけて、しかも最後の直線で見せた鋭い末脚。ゴール直後は多少息を切らせていたものの、体力的に余裕がありそうだった。
長距離でもあのスピードとパワーを見せてくれるかもしれない……しかし、デビュー直後のジュニア級では長距離レースには出られない。まだまだ無名なのだから。
扉の取り付けが終わり、改めてパソコンに向き直る。ゴールドシップが走りやすいレースはどれだろうか。
……いや、違うな。マウスを持つ手がぴたりと止まった。
きっと前提が間違っているんだ。ゴールドシップは"走りやすい"とか"勝ちやすい"とかじゃなく、"おもしろい"レースがしたいと言っていた。
未だに性格や思考は掴み切れていないが、おもしろいレースができるものをピックアップしていこう。
正直、ゴールドシップがおもしろいと思うレースの基準がいまいちわからない。だから、俺が、観客が、見ている側がおもしろいと思えるレース。それを選ぼう。
トゥインクルシリーズで一番面白くて盛り上がるレースは、もちろんGⅠだ。そして、ジュニア級のGⅠレースでの目玉。それは3つある。
きっと、走っていて"おもしろい"のは、ホープフルSだろう。このレースなら、ゴールドシップの走りを存分に活かして戦えるはずだ!
ゴールドシップに話を伝えにいこう! そう思って立ち上がると、トレーナー室の扉が開いた。
「ノックもせずにすみません。ゴールドシップがこちらから出てきたと聞いたのですが……あなたが担当のトレーナーでよろしいのですか?」
疲れた顔つきで入ってきたのは、女帝と呼ばれているウマ娘。エアグルーヴだ。生徒会役員もやっていると聞いている。
そうだと頷くと、彼女は少し驚きつつも、ため息を吐きながら頭に手をやってふるふると顔を振る。
「両手に伊勢えびを持って追いかけまわしているんです。どうにかしていただけますか?」
……すぐにゴールドシップに話を伝えにいこう!
◆ ◆ ◆
「いくぜいくぜいくぜー! ゴルシちゃん神拳奥義! 伊勢・シュリンプ・パンチ!」
「ドロップキックじゃなーい!? へぶっ!」
エアグルーヴと共に駆けつけると、ツインテールのウマ娘がゴールドシップのドロップキックで吹き飛んでいった。しかし慣れているのか、綺麗に飛んでいってうまく受け身を取っている。
「おい、ゴールドシップ!」
「げっ、エアグルーヴ……と、あん? トレーナーじゃねーか」
伊勢えびを持った両手をくねくねと動かしながらこちらに近づいてくる。何故伊勢えびを……というか生きている鮮度のいい魚介類をどこから持ってきたんだ?
隣にいるエアグルーヴはやれやれと頭を振ると、腕を組んでゴールドシップを待つ。さすがに問題児と生徒会のメンバーは相性が悪いのか、どこかぎこちない。
「なんだ、えびでも食いたくなったか?」
「お前が騒いでいるから来てもらったんだ! 毎度毎度、何故トーセンジョーダンに構うんだ!」
「何ってそりゃーお前……ジョーダンいたら蹴るだろ?」
とても真面目な顔でそう言い放つのを聞いて、俺とエアグルーヴはハァ~とため息を吐く。どうやらゴールドシップと蹴り飛ばされたトーセンジョーダンは相性が悪いらしい。といっても、仲が悪いのではなくゴールドシップが一方的に構いたがるだけのようだが。
トーセンジョーダンはうぐぐと言いながら起き上がり、髪についた草を払う。特にケガも無いようで、本当によくやられているんだな……と悲しくなる。少し前にケガの影響で休んでいると聞いていたが、ゴールドシップに吹き飛ばされても大丈夫ぐらいには回復している様子だ。
思わず手を差し出すと、きょとんとした様子で見てくる。おずおずと差し出された手を掴んで引っ張り、立ち上がらせる。
「あの……ありがとうございます」
こちらこそゴールドシップがすまない、と話すと驚いていた。どうやら担当トレーナーがついているのが驚きのようだ。エアグルーヴもそんな反応をしていた。
「こいつの担当とか……大丈夫なんですか? その、ぶっちゃけやめといたほうがいいと思うんですけど」
「おいおいジョーダン、喧嘩うってんのかぁ~? 冗談もほどほどにしとけよな!」
遠くからブフッと笑い声が聞こえた気がする。ちらっと視線を向けると、生徒会長らしき姿が見えた気が……。
「だってあんたさー、トレーナーの言うこと聞くのないわーとか、そんな感じのこと言ってたし」
「ゴルシちゃんの自由を奪うやつはだれだってゆるさねー! そういうことだ!」
……きっと、練習してほしいという話をしたとかそういうことなんだと思われるが。ゴールドシップとしては、自分のやりたいようにやらせてくれないのが嫌なんだろう。
じゃあ俺の話も聞いてくれない? そういうと、不思議そうな顔をして首を傾げた。
「トレーナーは別だろ? んで、なんか用か?」
伊勢えびをわさわさと動かしながら話を聞こうとしているゴールドシップを見て、謎の不安にかられる。この信頼はなんなのだろうか……話はしやすいからいいのだが。
次のレースはGⅠ、ホープフルSにしないか? そう伝えると、ふぅーんと頷く。それを見たトーセンジョーダンがゴールドシップを睨んだ。
「あんたちゃんと走れるわけ? ホープフルSはその年にデビューした強いウマ娘が集まるレースだし、真面目に練習もしないやつが勝てるレースじゃないし」
「ゴールドシップ、ジョーダンの言う通りだ。ジュニア級のGⅠ、その中でも期待される強者が集まるレース。真面目に取り組まねば勝てない」
「うーん、そのレースほんとにおもしれーのか? もっと有マ記念みたいなのがいいなー」
「1年目で有マに出られるわけないでしょーが!」
これだ! と思ったのだが、あまり乗り気じゃない様子だ。そもそもやる気がない時に決めようとしているのが間違いだったか……。
うーんと頭を抱えていると、エアグルーヴがぼそりとつぶやいた。
「ジョーダンはホープフルSを勝っているんだがな」
「あん?」
そうだ。トーセンジョーダンは以前、ホープフルSで優勝したウマ娘だ。スムーズにグンと伸び、勝負強く粘りに粘る走りを覚えている。
ジョーダンの走りはとてもよかった。そう話すと、ゴールドシップが急に真顔になってジョーダンを見る。
「ふーん……おめーが勝ったレースか」
「な、なによ」
「ならアタシも勝ってやるぜ! 誰もが見ちまうぐらい爆発的にな! そう、それはまさしくビックバン! 伊勢・シュリンプ・バーニング!」
「ちょっと! 伊勢えび近づけないでよ!」
どうやらやる気になってくれたようだ。次のレースはホープフルSに決まりだ!
俺もやる気を出して頑張ろうと思っていると、エアグルーヴがはっと何かに気づいた様子でこちらを見た。
「すみません、トレーナー。あなたはチームに所属していませんでしたよね? メンバーを集めないとトゥインクルシリーズは……いや待て、ゴールドシップ。何故チームに所属せずメイクデビューに出られたんだ?」
「あー、それは……忍法・ジョーダン隠れの術!」
「いやあぁーー!? 背中に伊勢えびがくっついてるー!?」
エアグルーヴに詰め寄られ、焦ったゴールドシップはトーセンジョーダンを盾にして逃げ出した。背中に伊勢えび2匹を添えて。
はぁーとため息を吐き、エアグルーヴが振り返る。
「……とりあえず、生徒会室に行きましょう。そこで今後について話をしましょうか」
ゴールドシップの悪事がバレる瞬間が来てしまったようだ。俺も苦笑いして頷き、エアグルーヴと事情聴取に付き合わされたトーセンジョーダンと共に生徒会室へと足を運ぶのだった。
生徒会室に入ったとき、何故か会長のシンボリルドルフがトーセンジョーダンを見て笑いをかみ殺していたのが印象的だった。