ゴールドシップとの3年間   作:あぬびすびすこ

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 オリジナルレースということで、豪華メンバーに来ていただきました。


40、有マ記念(2回目)

『今年もやってきました、中山レース場。年末最後の総決算。有マ記念です』

「今日はどんなレースになるか、楽しみですね」

 

 筋肉痛を考慮した緩めのトレーニングを経ていざ出走となった有マ記念。

 今日は隣で応援に来ているウマ娘たちはいない。代わりにいるのはネイチャたちの先輩トレーナーだ。

 来月から始まるURAファイナルズに向けたトレーニングのため、有力なウマ娘たちはあまりここにいないようだ。

 

 先ほど控室で話をしてきたが、俺がとにかくトレーニングの強度をさげていたからか、早く走りたいと大暴れしていた。

 それをなだめるのに時間がかかりすぎて、結果作戦を伝えてすぐに出ていかなければならず、ぐだぐだになっていてとても心配だ。

 段々破天荒さに磨きがかかっているような気がする。来年以降抑えられるのだろうか……。

 

『ウマ娘たちが入場してきました!』

『今年の有マ記念も有力なウマ娘たちが勢ぞろいしています。レースが楽しみですね』

 

 出走するウマ娘たちが続々と出てくる。

 今回の有マ記念、今まで立ちはだかってきたウマ娘たちが勢ぞろいしている。

 エイシンフラッシュ、トーセンジョーダン、ナイスネイチャ、ナリタタイシン。ビワハヤヒデとウイニングチケットもいて、BNW揃い踏みだ。そしてなんとツインターボもいる。

 今年ターボはスタミナを強化してきたようで、いくつか重賞をとっていた。かなり下の人気ではあるが有マ記念に推薦されていたようで、出走が決まった時、嬉しそうに報告しに来てくれた。ゴルシに負けない! と宣戦布告付きで。

 ハヤヒデとチケットは以前出走した天皇賞でケガが発覚、長期療養していた。今年の有マ記念の前から順調に回復し、出走となった。

 

『続いて2番人気、ナリタブライアン! 4番人気のビワハヤヒデと初めての対決となります!』

『2人とも有マ記念出走前に重賞を勝っています。準備は完璧でしょうね』

 

 ハヤヒデの妹、ナリタブライアンも今回出走している。こちらもケガで療養していたが、姉妹対決となるこの日に向けて調整をしてきたらしい。かなりいい仕上がりだ。

 BNWに三冠の怪物ナリタブライアン、そして常に結果を残しているジョーダンとフラッシュ、ネイチャに加え、このウマ娘。

 

『入場してきました、凱旋門賞2着! 3番人気、ナカヤマフェスタ!』

『前走は14着と奮いませんでしたが、今日は気合が違います。体も仕上げてきたようで、トモの張りが違いましたね』

 

 不敵な笑みを見せながらターフに来たのはナカヤマフェスタだ。宣戦布告してからきっちりトレーニングをしてきたようで、脚の筋力がしっかりしている。

 元々重めのバ場が得意なウマ娘だ、しっかりした筋肉だと思っていたが、さらに磨きがかかっている。

 

 今日のバ場は前日の雨もあり、稍重。ナカヤマにとってはかなり有利な状況だろう。

 ただし、こちらも負けてはいない。地下通路から姿を現すと、観客たちが大きな声援で出迎える。

 

『1番人気、ゴールドシップです!』

『数々のGⅠレースを勝利しているウマ娘です。中長距離は彼女の独壇場でしょうね』

『トゥインクル・シリーズでは既に八冠! 素晴らしい戦績ですね! そしていつも通りのパフォーマンスです』

 

 シンボリルドルフが走った時はホープフルステークスなどのレースがGⅠレースではなかった。そして、GⅠレースが今より少なかったことと、後に続く者のためにとすぐにドリームトロフィー・リーグへ上がったこと。

 このことから、七冠以上とってもなんとなくすごい! ぐらいの評価になってしまっている。とはいえ、その世代にいるウマ娘たちからは飛び抜けているわけだが。

 ただ、八冠があまり話題にされない理由は別にある。

 

 ゴールドシップは凄まじい人気があるし、俺は最強のウマ娘だと思っている。

 しかし、悲しいことだがレース評論家たちの意見はそうではないのだ。

 走りはとても劇的だし、GⅠレースだって何度も勝っている。しかし、先行できるのに追込で走ったり、入場してから落ち着きがなかったり。

 極めつけはインタビューがまともにできないこと。こういったおかしなパフォーマンスのせいで、どれだけ強くてもヤバいウマ娘としか思われていないのだ。

 

 今も声援を受けながらキレッキレのコサックダンスを踊っている。

 今日は落ち着かない様子だが、果たして作戦通りに動いてくれるのだろうか……。

 

 

 

 

 

『各ウマ娘、ゲートインしていきます』

 

 全てのウマ娘たちがゲート前に集まり、準備運動をしながらそれぞれゲートインしていく。

 今回ゴールドシップは1枠1番。ナカヤマは1枠2番と隣同士。BNWやブライアンたちは真ん中から外枠へと散っている。

 

 今日の作戦は天皇賞よりは成功しやすいとは思うが……頼んだぞ、ゴールドシップ。

 

『ゲートイン完了しました!』

 

 ――ガタン!

 

『スタートしました! 各ウマ娘、綺麗にスタートしています!』

 

 ゴールドシップは出遅れることなくスタートできた。今回は全員綺麗にスタートしている。

 いつも通り内枠の有利を捨て去ってするすると後ろに下がっていく。

 

『先頭に立ったのはやはりツインターボ! ターボエンジンは今日も全開! 一気に差を広げていきます!』

『いいですね。力んでいないし、いつも通りの力が出せています』

 

 ターボを知る人なら誰もが見たことがある、ターボエンジン全開の大逃げ。パーマーやヘリオスたちとは違う、全てを破滅させる全力全開の逃げだ。

 とはいえ、見た感じは戦略のないいつも通りのターボだ。ペースを考えてはいない。それがいい。

 

『ツインターボが出走していると、レースが緩みません! スローな展開は見込めないでしょうね』

『ペースを落としてしまうと、負ける可能性だってありますからね。オールカマーでの彼女は素晴らしい走りでした』

『さあツインターボから離れてペースを作るのはエイシンフラッシュ、ビワハヤヒデ。そのすぐ後ろにはナリタブライアンです。その後ろでトーセンジョーダンが中団のウマ娘たちを引っ張ります』

 

 全力で走って行くターボを見ながらペースを作るのは、エイシンフラッシュとビワハヤヒデ。そしてナリタブライアンだ。少し離れてジョーダンが中団の先頭を取り、引っ張っている。

 丁寧にペースを守れるウマ娘に、先行抜け出しの巧者、そして驚異のパワーとスピードで一気に抜け出していく怪物。ペースメイクをする人員としてはかなり豪華だ。

 

「ナイスネイチャさんもいいところにつけています。ウイニングチケットさんが内にいるのが少し気になりますが……」

 

 チケットとネイチャは中団のど真ん中。ネイチャがチケットの外を走り、マークしている。

 しかし、もしマークを緩めればチケットが跳び出ていくだろう。後半に直線でそれが起きたら、末脚で一気に行ってしまいそうだ。

 

 一番気がかりな後方のウマ娘たち。ゴールドシップとナリタタイシンはわかる。

 その2人の真ん中で不敵な笑みを浮かべながら走っているのは、ナカヤマフェスタだ。

 

『最後方にはゴールドシップ、ナカヤマフェスタ、ナリタタイシンです。ナカヤマフェスタは後方からのレースとなりました』

 

 差しの戦法を取ることの多いナカヤマだが、今回は宣戦布告したゴールドシップに勝負を仕掛けたようだ。

 予定とは少し違うが……まあ作戦には影響がないだろう。

 

 ターボが最初にホームストレッチに入り、観客からの大声援でさらにターボが加速していく。

 しばらくしてハヤヒデ、フラッシュたちが直線に入ってくる。ターボを除けば頭からお尻までほぼ10バ身以内に収まっている。

 

『依然ツインターボが先頭で突き放しています! 今年の有マ記念、一団となって進んでいきます! ラップタイムはツインターボ以外は平均です』

『縦長ではないというのが面白いですね。一団だとスタミナを切らさないレース展開になりがちですがどうなるでしょうか』

「ターボさん! その勢いです!」

 

 ゴールドシップとしては縦長のレース展開になり、スタミナ勝負となってくれた方がいい。中山の直線は短いため、瞬発力勝負になっても勝てる可能性はあるが、勝つ確率が高い方がいいに決まっている。

 歓声を一身に受けながら走るゴールドシップが、チラリとこちらを見た。

 

 ――かましてやろう!

 大声で応援すると、ニヤリと笑って舌なめずり。視線を前に戻すと、するっと後ろに下がって最後尾につけた。

 さあ、ここからがゴールドシップ劇場の開幕だ!

 

 

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 第1コーナーに入る手前、ゴールドシップが突然後ろに下がった。

 ナカヤマとタイシンはそれに気づいたが、このタイミングでブロックすることも後ろに下がることもマイナスにしかならない。

 意識を後ろに向けながらコーナーを回っていくと、彼女たちの左後ろから爆発音が聞こえてきた。

 

「まさか……!」

「へぇ……そういうことか!」

 

 チラッと後ろを見たタイシンたちの目に映ったのは、ギラギラと目を見開きながらスパートをかけ始めるゴールドシップの姿だ。

 その大きな体から想像できない程綺麗なコーナリングでじわじわと前に上がっていく。

 自分は脚を溜めるべきだ。バ場も稍重、体力は使いたくない。そう思ったタイシンはペースを変えずに走って行く。

 

 しかし、隣にいた勝負師は違った。フッと笑うと、ペースを落としてタイシンの後ろに回り、そのまま外に出てゴールドシップを追いかけ始めた。

 ギョッとしたタイシンだったが、好都合とばかりに内に寄ってスタミナを温存する作戦に出た。小柄な分、こうしたテクニックで最後に末脚を爆発させるのが彼女の戦法だ。

 

「きた……!」

「すごい……!」

 

 ネイチャは後ろからの爆発音と強いプレッシャーを感じ、ゴールドシップの接近を察した。

 ウイニングチケットも聞いてはいたし映像でも見ていたが、ここまでの迫力とは思っていなかったため、素直に称賛の声が出る。

 中団のウマ娘たちは彼女の登場に驚き、ペースが乱れる。それに気づいたジョーダンはその乱れに巻きこまれないよう少しペースを上げて逃げる。

 それにつられ、一団となっているバ群のペースが緩やかに上がっていった。

 

「ちょっとジャマさせていただきますよ……!」

 

 ペースを上げられるとあまり面白くない。ネイチャは第2コーナーに差し掛かるところで、わざと少しだけ膨らむ。

 内に入れそうで入れない程度の空間を開けながら外に出ることで、ゴールドシップをブロックしたのだ。ゴールドシップを抑えればペースアップも少し落ち着くはず。

 それを見たゴールドシップは、舌なめずりをしながらさらに外へ膨らんでネイチャに並んだ。

 

「やっぱりそうくるか……!」

「へへっ」

 

 外に膨らむなら自分も外に出ればいいと言わんばかりに、大きく外へ出ながらコーナーを曲がる。

 この程度では揺るがないか、と自分を抜かしていったゴールドシップを見て悔し気に眉をひそめた。またゴールドシップのペースになってしまう。自分の失敗に歯噛みする。

 内に戻ろうと体をチケットのほうに寄せたところで、外側からゴールドシップと同様に抜け出すウマ娘が1人。

 ネイチャが驚きながら誰かと視線を向けると、そこにいたのはナカヤマフェスタだ。

 

「ナカヤマ……!?」

「くくっ……!」

 

 笑みを浮かべながらゴールドシップの後を追う。

 ネイチャもチケットも困惑していたが、すぐに思考を戻す。自分たちの仕掛けどころ、そこで一気に脚を爆発させるために。

 

 向こう正面に入ると、ゴールドシップは中団の先頭、ジョーダンのすぐそばまでやってきていた。

 ジョーダンは近づいてきた彼女を見て今日はそう来たか、と思いながら視線を前に戻す。

 そのまま中団を追い抜いたゴールドシップは、急に内に入ってジョーダンの前を位置取り、ペースを揃えた。

 

「来ました、か……?」

「………」

 

 後ろから聞こえてきた爆発音と、それに伴う背後からの強いプレッシャー。そして中団のペースアップ。

 ブライアンとフラッシュはゴールドシップの存在を悟った。しかし、突然内に入って音が止む。

 今回は何の作戦なのだとフラッシュは考えたが、思考をすぐに切り替える。どうせわからないのだ。ならば自分の走りをした方がいい。

 少しのペースアップなら許容範囲だと、そのまま走って行く。

 

 次いで追いかけてきたナカヤマもゴールドシップの真横につく。

 少し疲労がたまり始めたのか、額の汗を拭う。

 

「……くくっ」

「ナカヤマ……!」

 

 ジョーダンはナカヤマの登場にひどく驚いた。

 差しで一気に突っ込んでいくのが彼女の走りだが、ゴールドシップの頭の悪いスパートに合わせてきたのだ。そんなもの自分から脚を使い切るようなものだ。

 しかも、今日は稍重。いつもより脚を使ってしまうというのに。困惑したが、それでライバルが減るならば御の字だ。

 自分のペースを守ろうと、ゴールドシップたちの背中を見ながら仕掛け時を待つ。

 

『第3コーナーに差し掛かりました! 依然先頭はツインターボ! しかし差は一気に縮まってきています!』

 

 ツインターボがスタミナの限界に来たのか、第3コーナー手前で急激にスピードダウン。いつもの逆噴射だ。

 ひぃひぃ言いながらしぶとく走るツインターボの背後から、スパートをかけ始めたビワハヤヒデが襲い掛かる。

 

『ビワハヤヒデが仕掛けた! グングンスピードを上げてツインターボを捉えます! ツインターボの先頭はここで終わり!』

 

 ハヤヒデのスパートを見て、中団以降のウマ娘たちもぐっとスピードを上げ始める。

 フラッシュとブライアンは直線で仕掛けるのか、スピードを上げるがまだまだ脚を溜めたままだ。

 チラリと後ろを見て、ゴールドシップの姿を確認する。彼女が外に出るならブロックしつつ膨らむ構えだ。

 

『ビワハヤヒデが先頭に立ち、第4コーナーに差し掛かります!』

『仕掛けどころに近づいてきましたが、後ろの娘たちは間に合うでしょうか!?』

 

 第4コーナー、前にいた有力なウマ娘たち、エイシンフラッシュたちはバ場のいい外で直線をかけるために少し膨らみ出す。

 ナカヤマ、ジョーダン、ネイチャやチケット、タイシンも同様だ。順位を少しづつ上げながら、正面に誰もいない直線を位置どるために駆け引きしていく。

 そして、コーナーで内側にはたった1人、全く外に膨らむ様子を見せないゴールドシップだけが残っていた。

 ブライアンはそれを見て不思議に思ったが、もしここから外に出られると面倒だ。そう思い、自ら良いバ場を求めて膨らんだ。

 

『第4コーナー抜けて、直線に入ります! 先頭は依然、ビワハヤヒデ! しかしナリタブライアン、エイシンフラッシュも一気に上がってきます!』

 

 ビワハヤヒデとナリタブライアンが第4コーナーの終わりにさしかかり、観客たちが歓声を上げる。

 フラッシュやジョーダン、ナカヤマなどの姿も見えたため、さらに応援の声は広がっていく。

 そんな中、たった1人にだけ聞こえる声援が聞こえてきた。

 

 ――ゴールドシップ! 突っ込めぇー!

 

「……へへっ!」

 

 ニィっと歯をむき出しにしたゴールドシップがたった1人、コーナーの内側を一気に駆け抜けた!

 

「何っ!?」

「ゴルシ……!」

 

 ドォン! ドォン! という爆発音を内ラチ沿いに響かせながらあまりにも綺麗にコーナーを回っていく。

 少し膨らんでいたハヤヒデとナカヤマはゴールドシップの戦法に驚いていた。

 情報では聞いていた。皐月賞、ぐちゃぐちゃになっていたバ場の内側を一気に駆け抜け、そのまま直線で全てのウマ娘を追い抜いたということは。

 しかし、経験してみると全く印象が違う。重いバ場でも残った脚を最後まで使いたいからわざと膨らんでいるのに、コーナーでロスなく回ってこられると自分たちのリードが失われてしまうのだ。

 その上、この稍重のバ場。脚を消費してしまっているところに、スタミナお化けのウマ娘。かなりきつい状況だった。

 

「盛り上がってきたぜえぇーーーっ!」

「こいつ……ッ!」

「きますか……!」

 

 先頭で走っていたハヤヒデを追いかけていたブライアン、フラッシュに追いつき、横並びに併走する。

 ゴール前の下り坂、ナカヤマは加速してゴールドシップの後を追う。ジョーダンも追走し、前に出てきていたネイチャ、チケット、タイシンもそれに続く。

 

『最後の直線! ゴールドシップが内側から一気に上がってきました! 流石のパワー! バ場も関係なく突っ込んできます!』

『ナリタブライアンも加速していきます! エイシンフラッシュ少し苦しいか! ナカヤマフェスタも上がってきました!』

『ナイスネイチャ、ウイニングチケットも上がってきますが中々伸びない! ナリタタイシンが中団をまとめて追い抜かしていきます!』

 

 上り坂に差し掛かり、ハヤヒデがスピードを保とうと苦し気に走る。ブライアンはそんなハヤヒデを追い抜かそうと坂を駆け上がっていく。

 しかし、ブライアンはその内側から爆発するかのようにグングン伸びていく影に気づく。

 

「ゴールドシップッ!」

「ここはアタシの道だからよぉーーっ!」

 

 3人とも坂を駆け上がる。坂で加速していくゴールドシップから必死に逃げるビワハヤヒデ。ブライアンも負けじと追走する。

 少しずつ差が縮まっていく。そんな中、3人目の挑戦者が現れた。

 

「混ぜろよ……!」

「へへっ、きたな!」

 

 末脚を爆発させて食らいついてきたのはナカヤマフェスタだ。ここまで無茶苦茶な勝負は初めてだと、楽し気に追走して来る。

 不敵な笑みを見せながらゴールドシップ、ブライアンの1バ身後ろに来ている。

 坂を上り終わると、ハヤヒデが粘りの脚を見せてまだ先頭。しかし、ここでブライアンが末脚を爆発させた。

 

「はああぁぁーーーーっ!」

『ナリタブライアンが抜け出した! ビワハヤヒデを抜き先頭! これは決まったか!』

 

 ブライアンがハヤヒデを外から抜き、先頭に出る。しかし、その内側から跳ぶように突っ込んでくるゴールドシップ。そしてそれに食らいつくナカヤマ。

 ゴールドシップはブライアンを見て舌なめずりをし、ターフをさらに踏みしめた!

 

「まだまだいくぜぇーーー!」

「まだ、いけんのか……ッ」

『ゴールドシップがさらに加速していきます! ブライアン苦しそうだ! ナカヤマフェスタも食らいつきますが伸びません!』

 

 ブライアンの末脚が爆発しているが、伸びが悪い。

 歯を食いしばりながら必死に走る。しかし、ゴールドシップが少しずつ差を詰めてきていた。

 

「ぐ、ぅ……ッ!」

「おっしぇええええぇーーい!!!」

 

 何故こいつが……! ブライアンはゴールドシップのスピードが落ちないことに歯噛みする。

 ゴールドシップの作戦はうまくハマっていた。稍重のバ場、1番人気たるゴールドシップが真後ろにいることでわざと膨らませる戦法。

 そして何より、後方から第1コーナーから上がっていくことによって息を入れるタイミングもなくペースアップしていく。

 スタミナ勝負にしながら、それでも勝ちにくいだろうブライアンたち末脚自慢の脚を消耗させる作戦だ。

 

 ――いけぇー! ゴールドシップー!

 

 トレーナーの叫びを受け、最後の100m。ゴールドシップはニィっと笑いながら、さらに加速していく!

 

「シャアァーーーっ!!!」

『ゴールドシップが一気に上がっていきます! ナリタブライアンを抜いてゴールドシップ先頭です! ナリタブライアンも伸びていきますが足りません!』

 

 ドゴォン! というとんでもない踏みこみでブライアンを追い抜き、そのままゴールへと突っ込んでいく。

 観客から声援を受けながら、ゴール板を一気に駆け抜けた。

 

『ゴールイン! 1着はゴールドシップです! 2着はナリタブライアン! 3着はビワハヤヒデとナカヤマフェスタか審議になります!』

「はぁ……はぁ……ッ!」

 

 ブライアンは息を切らせながら、ゴールドシップを見た。

 笑顔を振りまきながら観客たちにピースを見せる彼女を見て、どれだけおかしいスタミナなんだと戦慄する。

 ハメられたな……と思っていると、肩をポンと叩かれた。

 

「姉貴」

「今日は2人ともしてやられたな……姉妹対決と言われていたが、ゴールドシップのほうが一枚上手だったらしい」

 

 額の汗を拭いながらハヤヒデは掲示板を見る。結果は3着ビワハヤヒデ、4着ナカヤマフェスタ。5着はトーセンジョーダンだった。

 やはり強いな、ゴールドシップ。そう思っていると、件の彼女が息を整えながら近づいてきた。

 

「よう! おもしれー勝負だったな!」

「ああ。君にうまくやられたよ。今日もトレーナーの作戦だったのか?」

「おう! あいつの作戦無茶苦茶でおもしれーからな!」

 

 そう話す彼女の笑顔は輝いていた。

 

「次もまたやろーぜ! デカめのレースでな!」

「……ああ。次は負けん」

 

 ブライアンはゴールドシップと拳を突き合わせ、再戦の約束を取り付けた。

 その後はしゃぐゴールドシップに、他のウマ娘たちも再戦を約束しに集まっていくのだった。




 ということで、皐月賞+天皇賞春の合わせ技でした。
 レースを考えるのは楽しいんですが、中々どうして、面白いか不安になりますね。

 これで育成で必要なレースは全て終わりました。
 次回、URAファイナルズ開幕!

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