50話で終わるような構想ですので、あと少しだけお付き合いください。
よろしくお願いします。
「見事! 有マ記念での勝利、おめでとう!」
「おめでとうございます、お2人とも!」
ウィナーズサークルに足を運ぶと、そこには秋川理事長とたづなさんが待っていた。
ありがとうございます、と何故いるのか疑問に思いながら頭を下げると、横からドロップキックが飛んできた。
「おれぇーい!」
「なんと!?」
「あら!」
ぐわああーっ! 不意打ちだったためにいつも以上に吹っ飛ばされた。
しかし最近は日常でもドロップキックを受けていたからか、体が自然と受け身を覚えていた。
衝撃を逃がして、ふぅと一息つく。近づいてきたゴールドシップの手を借りて立ち上がり、改めて理事長たちに向き直る。
どうしてこちらに? そう聞くと、なんとも不思議そうな顔をされた。
「う、うむ。今の流れを気にしないのだな……」
「お2人のインタビューが終わり次第、URAファイナルズの発表があるんです」
たづなさんの話を聞いて、そうか、と納得した。
URAファイナルズの開催は1月からだ。まだ正式な開催の発表はしていない。
この年末の総決算が終わった時が良いタイミングだろう。
早めにインタビューを受けよう。いつも通り駄々をこねるゴールドシップをインタビュー台に押し込み、定位置に立つ。
毎度おなじみのインタビュアーさんに視線を向けると、頷いてカメラマンに合図を送る。
「……はい! 本日の有マ記念を勝利しましたウマ娘、ゴールドシップさんに来ていただきました! おめでとうございます!」
「おう! さんきゅーべりーまっちんぐ!」
腕を組みながらわははと笑うゴールドシップ。
最近は中々アツいレースが多いからか、レース後もご機嫌だ。
それならインタビュー台に素直に上ってほしいところだが……。
「今日のレース、白熱した戦いでしたね」
「火山が噴火したんじゃねーかってぐらいアツかったな。マグマに飲み込まれるところだったぜ」
負ける可能性もありましたが、力を出して勝てたのでよかったとのことです。
「最後のコーナー、内から入っていきましたね! あれは作戦だったのでしょうか?」
「おう! 誰もいねーとこをぶっちぎるのはおもしれーからな! ワープしたかと思ったろ!」
稍重のバ場だったので、最内が空くと思っていました。あそこが空かなければ、また違ったレース展開になったと思います。
「作戦勝ちだったんですね! 他には何か秘策は合ったのでしょうか」
「第564回不沈艦大進撃だな。大人気映画、今日公開!」
最後方からゆっくりプレッシャーをかけて、最終直線前に一息つかせずにレースを進めるという作戦もありましたね。
「なるほど……途中でペースアップしていたのはゴールドシップさんの作戦だったのですね」
そうです。隣のゴールドシップも目を閉じてうんうんと頷いている。
「やっぱり塩よりしょうゆだからな……」
ラーメンのことを考えていただけだった。
今日はこのあとに奢らされるのだろうな、と天を見上げて財布の中身を思い出す。
ほどなくしてインタビューも終わり、質問の時間となった。
いつも通り乙名史さんが手を上げ、次のレースはと聞いてくる。
それは今からみなさんが知るだろうレースに出走します。そう言ってゴールドシップを連れて後ろに下がる。
「感謝! よいしょ」
ざわめく記者たちの前に、理事長が現れる。インタビュー台の上にもう1つ台を乗せる。
台に上ってから、カメラに向かって扇子をつきつけた。
「開催! 来年1月より、新たなレースを開催する! レースに詳しいものなら聞いたこともあるだろう!」
懐から新たに取り出した扇子をバッと開くと、そこにはURAファイナルズ開催! と書いてある。
「トゥインクル・シリーズやドリームトロフィー・リーグ! レースを走る全てのウマ娘で最も強いウマ娘を決めるレース! それがURAファイナルズだ!」
「1月に開催されるURAファイナルズ予選のレースで1着を取ったものが2月の準決勝に進む!」
「準決勝で1着を取ったウマ娘たち! 年度末の3月に、決勝のレースを行う!」
「そこで優勝したウマ娘が! その年度で最も強いウマ娘、初代URAファイナルズ優勝者となるのだ!」
隣でたづなさんがフリップを出しながら説明していく。
簡単に言ってしまえば、トーナメントのレースだ。1着をとったウマ娘だけが勝ち上れるサバイバル。
しかも、参加するには資格がいる。
「出走できるウマ娘たちは、大きな活躍をしたウマ娘たちだ!」
「そう、ゴールドシップのようにな!」
扇子でビシッとゴールドシップを差し、その場にいた全ての人々が彼女を見る。
見られているのも気にせず鞄から取り出したルービックキューブで遊んでいるわけだが。
「無論! ファンによる投票枠も用意している! 今日から年明けの5日までに投票してほしい!」
「では、諸君! 楽しみにしてくれ!」
わーっはっは! と大きく笑う理事長に、何度もシャッターが切られる。
意味を理解した観客たちから、わあーーッ! と歓声が上がる。
これでゴールドシップも参加資格を手に入れた。これ以上ないぐらいの活躍をしたからな。破天荒な行動にもほんのちょっぴりだけ目を瞑ってくれるはず。
次の予選を勝ち抜こう。メンバーとレース場が出るのを楽しみにするのであった。
◆ ◆ ◆
『すまなかったね。君たちには失礼なことをしたと思っているんだ』
いえ、とんでもないです。
『これで納得できたよ。レース、楽しみに待っているからね!』
はい、ありがとうございます!
電話が切れ、電子音が聞こえる。
話をしていたのは理事会に出席していた人だ。しかも、ゴールドシップ出走に微妙な反応をしていた人たちのリーダーといってもいい。
新規事業を失敗したくないため、素行が悪すぎるウマ娘はどうなのかと思っていたようで、中々踏み出せなかったようだ。確かに、何も知らなかったら俺も反対するかもしれないぐらい問題行動が多いからな……。
しかし、秋の天皇賞と有マ記念のレース、そして走り終わった後の爽やかな交流にいたく感動したようで、ファンになったよとわざわざ連絡してくれたのだ。
他の反対派だったメンバーも有マ記念でファンになってくれたようで、問題があっても自分たちがサポートすればいいと言ってくれているらしい。
全部の話を聞いて、ゴールドシップの走りがどれだけ人々を感動させるかを改めて理解した。
常に一緒にいる俺でも毎回大興奮だから、見ている人たちにとってはすごい感動なんだろうな。
彼女の走りのすばらしさをしみじみと感じていたら、後ろから棒のようなもので殴られて吹っ飛ばされた。
な、何事だ!?
「おう、トレぴっぴ。アタシがとろけちまうぐれーのトレーニングしてんのによそ見とはいいご身分じゃねーか!」
「だ、大丈夫ですか?」
ハッピーミークと併走トレーニングをしてもらっていたゴールドシップだった。ラリアットをくらったらしい。
ごめんごめんと謝ってドリンクを渡すと、少し機嫌がよくなったのかふんふん言いながら飲み始めた。
「ミークも飲みましょう」
「はい……んくんく」
桐生院トレーナーもハッピーミークにドリンクを渡して飲ませる。
ちょこちょこ話では聞いていたが、彼女の仕上がりも凄いものだ。
聞けば、全ての距離で重賞を制覇しているのだとか。脚質が幅広いウマ娘の話は聞くが、距離適性が短距離から長距離までというのは聞いたことがない。
凄いウマ娘を育てているな、と感心していると、誰かに背中をつつかれた。
振り向くと、そこにいたのは見覚えのあるウマ娘たちだ。
「こんにちは、トレーナーさん」
「どうも。宝塚記念以来かしら」
「あん? フェミちゃんじゃねーか」
エイシンフラッシュとフェミノーブルだ。その後ろにはトーセンジョーダン、ナカヤマフェスタもいる。
「どーした? 暗黒盆踊りでもすんのか?」
「どんな盆踊りだし! あんたに宣戦布告しにきたの!」
そう言ってジョーダンが1枚の紙を渡してきた。
受け取ってゴールドシップと見てみると、出走表のようだ。
レース場は阪神。芝2,200m。宝塚記念と同じだ。
「URAファイナルズ予選の出走表ですね」
「……わたしはいない」
桐生院トレーナーとミークも覗き込むが、彼女の名前は書いていなかった。
この場にいるウマ娘で書かれているのはゴールドシップ、ジョーダン、フェミノーブル、ナカヤマ、フラッシュ。
「次のレースで一緒ってこと。思えば宝塚記念で2回もヤられてるし、ここでリベンジってわけ」
フェミノーブルが腕を組みながらそう話す。
どうやらここに来た4人はみんなゴールドシップに勝つと宣言しに来たようだ。
それを理解したゴールドシップは、ニヤリと笑った。
「へぇ……オラついてんじゃねーか」
「アンタには有マ記念でしてやられたからな……次の勝負は、勝つ」
ナカヤマがニヒルに笑い、ゴールドシップと彼女たちの間でバチバチと火花が散る。
次のURAファイナルズ、予選から凄いレースになりそうだ……!
というわけで、予選のメンバーは彼女たちです。
育成ストーリー+オリジナルウマ娘です。ジェンティルなんとかちゃん!
ここからは全てオリジナルになるので、満足していただけるようがんばります。
みなさん、ゴールドシップを応援してくださいませ!