まあでもみなさんご存じでしょうね。
本当にギリギリの勝利だった。
ゴール前で見ていたが、どちらが先に抜け出したのかすらわからなかった。
ジョーダンもナカヤマも喉が潰れるぐらいに応援していて、レース結果が出た時は大喜びしていた。
かくいう俺も1着の表示を見て跳び上がるぐらい喜んだが。
そんな勝利の余韻が残るまま、ゴールドシップがインタビュー台でいつも通りの回答をしている。
今日もとびきり楽しかったと大満足のようで、機嫌もすこぶるいい。
アロサウルスの化石発掘がしたいと話すゴールドシップを遮り、質疑応答をとインタビューを進めてもらう。
「はい! 月刊トゥインクルの乙名史です!」
いつも通りの乙名史さん。しかしいつにも増して目が輝き、鼻息も荒い。
あまりの熱意にインタビュアーさんも笑顔が引きつり、ゴールドシップはサバンナの獣みてーだなと独り言つ。
「東京レース場はゴールドシップさんの苦手なレース場だったと思われます! しかし、今回激戦の末勝ち抜きました! これまでどのような取り組みをしてきたのでしょうか!」
取り組みか……ゴールドシップと目を合わせ、互いに首を傾げる。
正直に言うと、特別に何かしているわけではなく、トレーニングだって強く負荷のかかるものは一切やらない。やっても坂路ぐらいのものだ。
それに、正直に言うとURAファイナルズが開催してからは基本的にレース本番に向けた作戦のトレーニング以外やっていないからなぁ……。
作戦を必ず成功させるトレーニング、でしょうか。特別なトレーニングはしていないと思います。そう話すと、別の記者が不思議そうに首を傾げた。
「トレーナーさんは紐で縛ったぬいぐるみを腰から垂らして坂路を駆け上がるなど、ユニークなトレーニングをしてきたと聞いていますが」
「あれは中々イケてたな! フエラムネのメロディがクラシックを奏でてたぜ」
ああ……と納得する。
俺が考案したおかしなトレーニングでゴールドシップが結果を出してるからな。公開練習でも変わらずやっているから話題になっていたような気がする。
ゴールドシップが全力で取り組めるようにやってきただけですよ。そう言うと、乙名史さんが震え始めた。
「す……」
あっ。
「すばらしいです!!!」
「おぉ、いつも通りマーモットみてーな音量だぜ。喉にメガホン仕込んでるのか?」
いつも通りに乙名史さんが興奮して、言ってないことを滅茶苦茶にしゃべり始める。
苦笑いしながら頬をかいていると、別の記者から質問が飛んできた。
「次のレース、決勝になるわけですが。意気込みのほどをお聞かせください!」
そう、次のレースは決勝。勝てば、中距離部門で今年度最強のウマ娘ということになる。
ゴールドシップを見ると、彼女は俺のほうをチラッと見て、記者のほうに向きなおる。
「このゴールドシップ様が生き物みなゴルゴル族に侵略してやるからよ! 目を離すなよな!」
グッとガッツポーズをすると、カメラのシャッターが一気にきられる。
ゴルゴル族……一体何娘になるのだろうか。
そんなことを考えながら、次のレースについて思いを馳せるのだった。
◆ ◆ ◆
今日はいつも通りゴールドシップに連行され、食堂でいっしょに食事をとる。
どうやら食堂の職員にいい魚が入ったと聞いて俺を呼んだらしい。確かにこの焼き魚定食はすごく美味い。
「おいトレーナー、小骨ちゃんと集めとけよな。後でウクレレ作るんだからよ」
どうやら魚の骨を利用して楽器を作るつもりのようだ。
うーん、焼き魚の大きさを見るに、かなり無理があるように見えるんだが。そもそも弦はどうするつもりなのだろう……。
真面目な顔で小骨を取り分けるゴールドシップを見習って小骨を取りながら食べていると、隣にトレーを置かれた。
顔を上げると、そこにいたのはシンボリルドルフとマルゼンスキーだ。
「やあ、トレーナーくん。隣に座ってもいいかな」
「あたしもお邪魔させてもらうわね♪」
どうぞと話すと、2人とも席に座った。
ルドルフもマルゼンも焼き魚定食のようで、お皿には魚がデンと乗っている。
「君たちも同じく焼き魚か。奇遇だね」
ゴールドシップに連れてこられたんだ。そう言うと、あらあらとマルゼンが笑う。
「いっしょにご飯なんて青春ね~。お姉さん憧れちゃうわ」
「マルゼンとルドルフも骨をくれ! 4つありゃあ、完璧なのが作れそうだからよ!」
にこやかに話していると、ゴールドシップが魚の骨を全て分離し終えていた。とても綺麗に取り外されている。
うん、なんというか、毎回思うが育ちがいいな、この娘。
「何を作ろうとしているんだ?」
「ウクレレだよウクレレ!」
「あら、素敵ね! でも魚の骨で作れるのかしら?」
「最初からできねーって言ってたらわかんねーだろ! あ、トレーナー食わないならその漬物アタシにくれよな」
手を差し出すゴールドシップの手をぺちっと叩いて漬物をご飯の上に乗せる。この漬物は俺のものだ。
ぶーぶー言っているが無視して食べる。食べ物に関しては嫌だと言えばやめてくれるからな。
そんなやり取りを見て、2人がフフッと笑っている。何かおかしなところがあっただろうか。
「いや、君たちは仲がいいと思ってな」
「ええ、いつでも楽しそうなんだもの! んー、このお魚美味しいわね」
いつものやり取りだから俺たちはわからないが、好ましいものらしい。
思わずゴールドシップと目を合わせるが、互いに首を傾げた。
その後は少し話をしながらご飯を食べ、全員食べ終えて食後の水を飲んでいた。ゴールドシップは魚を洗いに行っている。
俺がみんなの食器を片付けて戻ってくると、ルドルフが新聞を片手に待っている。
「ありがとう、トレーナーくん。それで、これを見てほしい」
新聞をもらって見てみると、そこにはURAファイナルズ決勝のメンバーが書かれていた。
ダート、短距離、マイル、中距離、長距離。それぞれの部門での精鋭の名前が載っている。
ゴールドシップが出る中距離のメンバーを確認し、わかってはいたが思わずルドルフとマルゼンの顔を見てしまう。
新聞にはこう書かれていた。
【URAファイナルズ決勝、中距離部門!】
☆注目メンバー
・シンボリルドルフ
・マルゼンスキー
・ナリタブライアン
・ビワハヤヒデ
・ヒシアマゾン
・ゴールドシップ
・
・
・
そう、この2人も一緒に出走するのだ。
元々中距離部門に出ているというのは知っていたが、名前が並んでいるのを見ると改めて驚く。
トゥインクルシリーズで今もなお伝説と言われている三冠ウマ娘シンボリルドルフ。
スーパーカーの二つ名の如く先頭でエンジンの違いを見せつけるマルゼンスキー。
それに加えて、ルドルフに続く三冠ウマ娘ナリタブライアン。
その姉にして強い走りしかしてこない菊花賞ウマ娘ビワハヤヒデ。
さらにナリタブライアンとしのぎを削り争っている女傑ヒシアマゾン。
そうそうたるメンバーだ。ドリームトロフィー・リーグでも活躍するルドルフやマルゼンに、トゥインクルで優駿と言われているブライアン、ハヤヒデ、ヒシアマゾン。
本当に最強のメンバーが集まってきた、と感じる。新聞を置いて顔を上げると、ルドルフとマルゼンがこちらを見ていた。
「あたし、ゴルシちゃんと走ってみたかったの! 願いが叶ったわ!」
「うん、実を言うと、私もゴールドシップと走ってみたかったんだ。もちろん、群雄割拠。皆と走ってみたいと思っているが」
嬉しそうに話す2人だが、その目は非常に好戦的だ。思わずぶるりと震えてしまう。
じっと見られていると、急に後ろから強い衝撃を受ける。何事かと思って振り向くと、魚の骨が乗った皿を持ったゴールドシップがいた。
「おうおうオメーら、アタシらに喧嘩売るたぁいい度胸じゃねーか」
もといた席に座りなおし、皿を机の上に置く。
「さっきまでは呉越同舟、同じく食事をしていたからな。しかし、戦う相手を見たなら、少しは話をしてみたくなる」
「そうそう♪ あたしもあなたのトレーナー、とっても気になってるんだもの! もちろん、あなたとのレースも気になってるわ!」
「ああ。君と走るレース、楽しみにしているよ」
手を合わせてにこやかに話すマルゼンを見て、ふーんと興味なさげに反応するゴールドシップ。
どこからともなく取り出した糸を魚の骨に括り付け始める。
「楽しみにしてんのがオメーらだけだと思うなよな。ゴルシちゃんのほうが楽しみにしてんだからよ!」
「ふふ、そうか。それは嬉しいよ」
「お姉さんも楽しみよ♪ いいレースにしましょうね」
余裕そうに笑う2人をチラッと見て、ニヤリと笑った。
……いやーな予感がするぞ。
「ま、ゴルシちゃんがレース勝つからよ。泣いてもしらねーからな」
「……ほう?」
ルドルフの耳がピクリと動き、一気に圧が増す。マルゼンも同様に、へぇ、と言いながらゴールドシップをじぃっと見つめた。
当の本人は全く気にもしていない様子で、ウクレレを作っている。
「アタシが好きなことはよー、つえーと思ってるやつをぶち抜くことだからな!」
「ふふ、そうか……」
「うふふ、楽しみね。ホントに……」
ゴゴゴゴゴと凄まじい圧のせいで周囲のウマ娘たちがヒィ! と涙目になっている。
次のレース、大丈夫なのだろうか……この様子を見て、不安になるのであった。
というわけで、わかっていたと思いますが会長とスーパーカーさんです。
そしてナリブとハヤヒデ、ヒシアマさんもつけるぞ!
決勝はもう夢の11Rのメンバーばかりです、はい。