ゴールドシップとの3年間   作:あぬびすびすこ

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アプリ版育成ストーリーでチームを作っていないのに走ることができる理由を考えてこうなりました


5,出走できる?

「結論から言うと、問題ありませんよ」

 

 俺とゴールドシップがチームに入っていないこと、そのままメイクデビューに出てしまっていること。これらを説明した結論がこれだった。

 生徒会長、シンボリルドルフがにこやかに話す。

 

「実は理事長からお話は伺っていたんです。チームに所属していないのにゴールドシップが出走しようとしていると。本来なら言語道断、規則は守らねばならないものです」

「しかし、何故問題がないのですか? 原則、5人以上いるチームからしかレースに参加できないはずでは……」

「うん、普通はそれが正解だ、エアグルーヴ。しかし、今年から規則を少し変更することになってね」

 

 シンボリルドルフが机の中から1枚紙を取り出し、差し出してくる。

 受け取って確認していると、トーセンジョーダンが横から覗きこんできた。

 

「えっと、新人トレーナーの専属システム?」

「うん、そうなんだ。新人トレーナーとはいえ有智高才、優れた者もいる。しかしながら、新人故にウマ娘やチームに恵まれないことも多い。チームの補佐で経験を積んでから、というのはもったいないだろう?」

「なるほど……それで、専属システムですか。1人のウマ娘に新人トレーナーが1人専属で付く。そうすれば、チームに所属しなくてもトゥインクルシリーズで走れるということですか」

「その通りだよ。ただ、これは試験的なものでね。今のところ理事長が決めたトレーナーしか許されていないんだ」

 

 そう話すと、彼女は俺を見る。……特に秀でた能力がない俺が、選ばれてる? 何故なのだろう。

 俺を含めて、シンボリルドルフ以外の誰もが不思議そうにしている。それもそうだ、桐生院家のような名門の生まれでもないし、トレセン学園に入る前に優秀な成績をおさめているわけでもない。

 せいぜい、トレーナー試験にきちんと合格できたことぐらいしか誇れるところはない。

 

 ……ああ、と俺は気づいた。今年新人トレーナーとして入った桐生院家のお嬢さんがいた。あの子のための制度なのかもしれない。

 きっとハッピーミークの専属トレーナーになって、二人三脚でがんばるのだろう。そして名だたるレースに勝利し、有マ記念で優勝。これ以上ないぐらいの流れだ。

 それが最初に育てたウマ娘となったら、桐生院家はさらなる脚光を浴びる……そういうことなのかもしれない。有名な家というのも大変そうだ。

 

 しかし何故俺にまで適用されるのだろうか……。

 うーん、と首を傾げると、クスっと笑われる。

 

「トレーナーさん、不思議がらずとも構いません。ゴールドシップがトレーナーを自分で選んだ。それが素晴らしいことなんです」

「確かに。あのゴールドシップがトレーナーを自分から見つけるというのは考えられませんから」

「そっか、あいつが選んだんだ。ふーん、トレーナーさん、これから苦労しそうだねー」

 

 三者三様。しかし、評価はされているらしい。

 とりあえずチームを作らなくてもレースに出ることができるというのはありがたい。今後気にせず練習メニューを考えることができる。

 早速、と思って退室しようとするが、シンボリルドルフに止められた。

 

「ああ、すみません。チームがなくても出走できますが、今のところあくまでも特例。チームは作れるように努力してください」

 

 結局4人メンバーを集めなければいけないようだ。しかし、ゴールドシップの専属トレーナーをしている間はある程度免除されるはず。

 いいウマ娘がいたら、積極的に声をかけてみるよ。そう話すと、満足そうに頷いた。

 

「もし都合がつかない時には生徒会に頼ってください。私も会長もお手伝いします」

「うん、その時は力になります。もっとも、あなたはゴールドシップに見初められるトレーナー。ウマ娘から声をかけられるお人かもしれませんけれど」

 

 私のトレーナーになってほしいというウマ娘がはたしているのだろうか……。見つからない時には手助けしてくれるということだから、存分に甘えさせてもらおう。

 お礼を言って退出する。エアグルーヴとシンボリルドルフ。話したことは無かったが、案外話しやすい娘たちだった。

 と、一息ついていると一緒に退出したトーセンジョーダンがはぁーとため息を吐く。

 

「ねえねえ、トレーナーさん。あたしさー、いる意味あった~?」

 

 確かに、なんで追いかけまわされていたのかという話を最初にしたぐらいで、その後の話はトーセンジョーダンに関係がなかった。そもそも彼女は別のチームに入っているわけだから、勧誘もできない。

 あまり意味はなかったな、と話すとだよねーと言いながら両手を上げて目を細める。

 

「まったく……あいつに絡まれていっつも損するんだから。あ、トレーナーさんは悪くないですよ? 被害者ですし」

 

 どうやら本当に毎回のことのようだ。

 歩きながらゴールドシップとどういう関係なのか聞いてみると、機嫌が悪そうに頬を膨らませてまくし立ててきた。

 

「じゃー教えてあげます! ゴールドシップのトレーナーさんだし!」

「正直、なんであいつが絡んでくるのか知りません! 顔を合わせるとすぐつっかかってくるんです!」

「なんでこんなにしつこいんだって聞いたらなんて言ったかわかります~!? 『オラつくんだよなー』ですよ! オラつくって何!」

 

 大分フラストレーションがたまっているらしく、たくさん愚痴が出てくる。本当に毎回絡まれているようだ。

 腕を振ったり眉を吊り上げたり、せわしなく体を動かして話す彼女を見て、元気だなぁと場違いな感想を持ってしまう。

 思わず笑いながら聞いていると、ブスッとしたふくれっ面になってしまった。

 

「笑って聞いてー! ひどいし! あいつの専属なだけはありますね!」

 

 ツンとそっぽを向くトーセンジョーダンに悪かったと謝る。むすっとした態度は変わらず、半目で睨まれる。

 苦笑いで頭をかくと、しょうがないですねと言いながら腰に手を当ててにっと笑った。

 

「はー、久々にたくさん喋った」

 

 ストレスを解放出来て満足したのか、穏やかな雰囲気だ。顔のこわばりもなくなり、可愛らしい顔つきに戻っている。

 

「聞いてくれてありがとーございます。トレーナーさんっていい人ですね」

 

 そうか? と首を傾げると、そうですよ! と言われ腕を叩かれた。

 

「私の話、きちんときいてくれるし。あいつのトレーナー引き受けてるし。ゴールドシップはむちゃくちゃだから、気をつけてくださいね」

「おいおい誰が長身美女の最強ウマ娘様だって?」

 

 聞き覚えのある声が聞こえ、トーセンジョーダンと一緒にバッと振り向く。どこにもいない。

 どこだと視線を上にあげると、ゴールドシップが天井に張り付きながらこちらを見ていた。

 何をしてるんだ……?

 

「いやー、なんかトレぴっぴがアブダクションされてっからよー。キャトルミューティレーションされてたらアタシがレースでれねーし」

「つまり、盗み聞きしてたってことでしょ? ほんっとにふざけてる!」

「おいおいこのゴールドシップ様の高尚な取り組みにケチをつけるとはいい度胸じゃねーか」

 

 天井から降りて綺麗に着地する。その三点着地は膝を痛めそうなものだが大丈夫なのだろうか……。

 

「で、結局なんの話してたんだ?」

「聞いてたんじゃなかったの!?」

「あ? アタシが盗み聞きなんて趣味の悪いことするわけねーだろ。ちっとは考えてものをしゃべれよな!」

 

 あまりの理不尽にトーセンジョーダンがぐぎぎ呻いている。こめかみに血管が浮かびそうなぐらい怒っている。

 チームを作らなくてもゴールドシップはレースに出てもいいんだよ。そう話すと、なるほどと手の平をポンと叩く。

 

「まあ、知ってたけどな」

「なんであんた知ってんの?」

「聞いたからな……この学園の首領(ドン)によ……」

 

 顎に指をやってキメ顔でそう話すゴールドシップ。学園の首領……おそらく理事長、だろうか?

 

「え、理事長から聞いたわけ?」

「いや、そこの会長だけど」

「は? 先に聞いてたの?」

「今聞いた」

「……やっぱり盗み聞きしてるじゃないっっっ!」

 

 うがー! と怒るトーセンジョーダンを見て、にししと笑っている。本当にいつもこんな感じなんだな……。

 

「細かいことは気にするなよな! じゃあアタシはジョーダンのマニキュアでラテアート作るから出走登録よろしくなー」

「あ、ちょっと! てゆーかあたしのマニキュア使うな! ほんとにわけわかんないし!」

 

 ゴールドシップとトーセンジョーダンは2人で走り去っていった。

 理不尽が服を着て歩いているようなゴールドシップ。次のレースに向けてきちんと練習できるのだろうか……?


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