URAファイナルズを優勝して、関係者や理事長たちから祝福され、盛大なパーティも開かれた。
特大にんじんハンバーグをゴールドシップや一緒に走ったウマ娘たちと堪能し、最高な時間を過ごした。あれは本当に美味しかった。
トゥインクル・シリーズで大切な3年間、とても優秀な成績で駆け抜けた実感もあって、とても幸せだったな。
しかし! 理事長やたづなさんから告げられた一言によって、俺はまた多忙な日々を過ごすことになる。
「疑問! ところで、チームはどうなっているのだ?」
――あっ。
前から言われていたのだが、URAファイナルズに集中しすぎて完全に失念していた。
このパーティを楽しんでいるのは、強豪チームのメンバーばかりだ。チームに所属していないのはゴールドシップとハッピーミークぐらいか……?
桐生院トレーナーを見ると、困ったように後ろを見る。
そこにはミークと一緒に食事を楽しんでいる複数人のウマ娘たち。ま、まさか。
「私はもうチームができています。えっと、報告が遅くなってすみません」
Oh……と天を仰ぐ。
理事長とたづなさんも苦笑して、どうしたものかと話し合っていた。
いやぁ……誠に申し訳ございません!
こうして理事長に謝り倒してチーム結成に向けた活動をしようと思っていたのだが……。
「おい、トレーナー! 慎重に行け! でもはやくとれよな!」
ゴールドシップと海に来ていた。
ザザーン、ザザーンと波の音を聞きながら、俺は目の前でチョコチョコ動く大きいカニを捕まえようとしていた。
ここだっ! 素早く指をお腹に滑り込ませて摘まみ上げ、ゴールドシップの持っている虫かごの中に入れる。
これで4匹目だ。仲良くチョコチョコと動き回っている。
「なかなかやるじゃねーか! 次はアタシの番だな! ほら、持ってくれよな」
虫かごと玉ねぎを渡されて、カニを見つけようと砂浜を歩くゴールドシップ。
何故こうなったのか、彼女の背中を見ながら思い出す。
「おっしぇぇえええーーい!」
トレーナー室の扉が吹き飛び、ゴールドシップが飛び込んできた。
今日はURAファイナルズの疲れを癒すために完全オフの日にしたはずだが、どうしたのだろう。
「よう、トレーナー! アボカドでマグロ釣りに行こうぜ!」
相変わらずの発言に首を傾げる。
話を聞くと、食堂で出されたアボカドとマグロの料理、ポキがおいしかった。だから、アボカドでマグロを釣ればそれはもうポキなのではないかということだった。
うーん、いつも通りよくわからないが、とりあえず海に行きたいのだろう。
今日はオフだし、遊びに付き合おう。
「さすがはゴルシちゃんのトレーナーだな! 話がはえーじゃねーか! 行くぜ行くぜー!」
「へぶっ! ちょ、ちょっと! 危ないし!」
ゴールドシップが勢いよく外に出ていき、丁度近くにいたジョーダンを吹き飛ばしていったようだ。
彼女に謝って扉を直し、駐車場まで足早に向かう。
なんだかんだ言って、ゴールドシップと海で遊ぶのは面白いからな。
途中、アボカドを買いに商店街に寄ると、交流のあったおじさんおばさんたちに揉みくちゃにされた。
「やったじゃないのゴールドシップちゃん!」
「いやー、おれァ勝つと思ってたぜ!」
「おお、正月の餅つきぐれー揉まれてるぜ」
ゴールドシップの人気は色々なところにあるな、と感じるところだった。
その後、アボカドが欲しいと言ったらトマトやら玉ねぎやらたくさんおまけをもらってしまった。
これから海に行くのに大丈夫なのだろうか……。
トマトを丸かじりするゴールドシップを見て、まあイケるかと思うのだった。
海についた後も、そこにいたファンからたくさん声をかけてもらったなーと思い出す。
ゴールドシップが野菜をみんなに配り始めて、「すき焼きにしろよ! 肉は自分でどーにかしろ!」と言っていたな。
すきやきの具的にはネギぐらいしかなかったと思うんだが……。ファンは喜んでいたからいいか。
先ほどまでのやりとりを思い返していると、ふと気づいたことがある。
ヤドカリをつかんで持って来たゴールドシップに、一言。
――おめでとう、ゴールドシップ。ありがとう。
「んあ……?」
俺自身がゴールドシップに感謝を伝えていなかった。
そのことを話すと、不思議そうな顔でヤドカリを虫かごに入れる。
「なんだよいきなり。トートツ激突感謝太郎だな」
「ま、いくらでも感謝してくれよな!」
はっはっはと笑うゴールドシップ。
おめでとう! ありがとう! と大仰に感謝すると、ポーズをとりながらもっとこーい! とはしゃぎ出す。
「うっし! 鯛釣るぞ鯛!」
しばらく変な儀式をしていたら、急に燃え上がり出した。
めでたい雰囲気になったなら鯛だろうということらしい。
俺の車に乗せてあった釣り竿を持ち出して、海釣りを始めた。
「見せてやるぜ、将棋王の力をよー!」
将棋に関係はないと思うが、やる気満々みたいだ。
竿を振り回しているゴールドシップをしばらく眺めていることにした。
鯛を釣り上げようと燃え上がるゴールドシップを見ながら、流木に腰かけて波の音を聞く事数十分。
中々鯛が釣れないようで、飽き性の彼女は段々機嫌が悪くなっていった。
「海はスゲーよな。結局アタシたちって海から生まれて海に帰るんじゃねーかって思うんだよ。だからアノマロカリスも仲間ってわけ」
哲学的なことを言い始めた。多分集中力が限界に近いのだろう。
竿を持つのを変わろうかと立ち上がったその時、竿の先がビクッと揺れた。
「おぉ! きたぜきたぜー! フィィィイイイイイッシュ!!!」
しなる竿を豪快に引っ張り上げると、遠くからバシャッと魚が飛び上がってこちらに近づいてくる。
アレは……鯛だ! 用意しておいた網を構えて、飛んできた鯛をキャッチする。
「ふぃー、成し遂げたぜ……見てたか、天国のじっちゃんの友達の親戚の孫」
遠すぎる相手に釣果を報告しているのを横目に、テーブルやまな板を用意する。
包丁を用意したところで、ゴールドシップが意気揚々と鯛を捌き始めた。
料亭のおば様に包丁の扱いを習っているからか、やはり手つきが滑らかだ。そして上手い。
「これをこうして、でぇええい! 完成だぜ!」
瞬く間に鯛の刺身が出来上がった!
お皿を渡されて、2人で早速いただく。
「やっぱ釣りたてはちげーな」
とても甘くて美味しい。
ぺろっと食べると、また捌いて色々作ってくれる。
今日の夕食は鯛づくしになるようだ。
「ふぃー、食った食った」
1尾を2人で食べ終え、波の音を聞きながら食休みをする。
ぼーっと星を見上げていると、ゴールドシップが話しかけてきた。
「なあ、チームどうすんだ?」
少し驚いた。彼女は彼女なりに、心配してくれているようだった。
新入生には声をかけているし、デビュー前の娘にも少し声をかけた。ゴールドシップが大活躍してくれたから、反応は良かったよ。
そう話すと、ふぅんと何とも言えない反応。
「おもしれーやつならいいけどなー」
そう話すゴールドシップを見て、彼女のようなウマ娘はもう今後一切現れないだろうなと思った。
ここまでの破天荒さと実力が両立する娘なんか絶対いないだろう。
しばらくして、テーブルやら何やらを全て片付け、後はもう帰るだけになった。
明日はトレーニングでも作ろうかなと考えながら体を伸ばしていると、ニヤっとしたゴールドシップに背中を叩かれた。
「なんだ、おもしろそうな顔しやがって!」
朗らかにと笑う彼女の顔を見て、毎日楽しいよ、と話す。
ゴールドシップはふぅんと穏やかな顔で笑った。
「トレーナー、最初に会った時すげーつまんねー顔してたからよ。だからおもしれーことしてやろうと思ったんだよな」
どうやら誘拐されたのは俺の表情のせいだったらしい。
そんなにつまらなそうな顔をしていただろうか……?
あの時はトレーナーになったばかりでワクワクしていたと思っていたんだけど。
「ま、今はそこそこいい顔するようになったな! これもゴルシちゃんのおかげじゃな」
ふぉっふぉっふぉと言いながら、くるくる回る。
銀髪がふわっと浮かび、月の光で綺麗に輝く。
「なあ、トレーナー」
――どうした?
ゴールドシップはニッと笑う。
「アタシと出会えてアンタの人生、面白くなっただろ?」
少し笑って、うんと頷く。
――ゴールドシップは、面白くなった?
彼女はまたにこやかに笑う。
「あたりめーだろ!」
ニシシと楽しそうにする彼女に肩を叩かれ、一緒に車に戻る。
帰りに車の中でいたずらされ、左手に「金」と書かれたのはまた別のお話。
【あとがき】
ここまでの読了ありがとうございました。
これにてゴールドシップとの3年間は完結となります。
読んでくださった方、感想を書いてくれた方、評価していただいた方、みなさんありがとうございます!
書いていく上でのモチベーションになりました。
当時、ゴールドシップの小説が少ない! と思って書き始めた今作ですが、楽しんで読んでくれている方が多くて嬉しかったです。
あとゴールドシップの解釈が近い方も多くて、ヨシ! ってなってました。
同志たちよ……!
次の作品はこちらになりますので、良ければ見てくださいまし。
・マチカネフクキタルとの3年間 with ゴルシ
https://syosetu.org/novel/260697/