ゴールドシップとの3年間   作:あぬびすびすこ

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Q,原作(史実)とアニメとアプリどれを基に書いているの?

A,アプリ版育成ストーリーをメインに史実とアニメをスパイスとしてミックスです


8,ホープフルステークス

 12月末、GⅠホープフルステークス当日。

 ゴールドシップを車に乗せて、今日のレース場である阪神レース場へと向かっている。

 

 あの登山の後、ミヤマクワガタを捕獲しながらゴールドシップ、マックイーンと色々話をした。

 ゴールドシップの好きな食べ物や動物、同室のウマ娘、マックイーンといつから知り合っているのか。

 レースとは全然関係がないけれど、ゴールドシップのことを知るのが一番必要だと思ったから、たくさん話しかけた。

 わかっているのかわかっていないのか、いまいち判別できない表情だったが、会話は楽しんでくれたようでニコニコしていたからよしとしよう。

 

 この会話が功を奏したのかはわからないが、ホープフルステークスまで調子は絶好調。飽きっぽいため同じトレーニングを続けてはできないが、積極的に参加してくれるようになった。

 もっとも、突然海でロッククライミングするとかバス乗り継ぎの日帰り旅とか言いながらどこかへ連れていかれるのは変わらず。

 それでも今のゴールドシップは仕上がっていると言ってもいい。主な練習として取り入れている併走トレーニングによって、大舞台で走りたい欲求を高めてあるからだ。

 助手席に乗っているゴールドシップをチラッと見る。

 

「お? あれはシシカバブの屋台か? ゴルシちゃん印の焼きそばとどっちがうめーかな」

 

 外の景色を見ながら1人で興奮している。俺の乗っているような普通の車には乗ったことが無かったらしく、ウキウキしていた。乗ってからはずっとこの調子だ。

 バスの中でも騒ぐぐらいだ、移り変わる景色が好きなんだろう。

 ドライブ好き? そう聞くと、ふぉっふぉっふぉと笑いながら顎に指をやる。

 

「このガラス越しに外を見ると、故郷のゴルシ星を思い出すんじゃよ」

 

 ……ゴールドシップは地球生まれのはずだが。

 キラキラした目で外の景色を指さし、興奮したように話す姿を見て、ゴールドシップなりに喜んでいるのだろう。そう思った。

 この調子でホープフルステークスを走り抜けてくれると嬉しいが……。

 

 そう思いながらレース場にたどり着き、車を停める。さあ行こうと思って、ふと車内が静かだということに気づいた。

 まさか、と思って横を見ると。

 

「ごごご……よろしくってよ……」

 

 ゴールドシップがはしゃぎすぎて眠っていた。

 ……このレース、全力で走ってくれるのだろうか!

 

 

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 周りのスタッフやウマ娘たちにひそひそ話をされるのを聞きながら、なんとかゴールドシップを控室まで運びこむ。

 イスに座らせて一息ついた途端、急にはっと覚醒して立ち上がった。

 

「トレーナー、アタシの荷物どこだ?」

 

 手に持っているゴールドシップの鞄を渡すと、これこれ! とニコニコしながら受け取った。

 

「今日は勝負服で走れるからなー、にっしっし。あ、トレぴっぴ、着替えっから外にいろよな! 覗いちゃだめだぞ☆」

 

 鞄から勝負服を引っ張り出すのを見て、そそくさと外に出る。扉を閉めて周りを見ると、他のトレーナーたちも同じ状況のようで、扉の前で待っていた。

 思わず顔を見合わせて、笑いあう。しかし、目の奥にあるギラギラとした闘志は笑みでは隠せていない。デビューの時に見たトレーナーたちの雰囲気とは全然違った。

 これがGⅠレース……。トレーナーでさえ、こんなにも強いプレッシャーを……威圧感を肌で感じ、ぶるりと震えてしまう。

 だが、勝つのは他の誰でもない、ゴールドシップだ。ぐっとこぶしを握って気合を入れると、ほう、と周りのトレーナーたちも少し驚き、ニヤっと笑った。

 

「おいおい覗くなっていったらちゃんと見ろよな! せっかく扉の隙間から流しこむためのところてん用意したんだからよー……あん?」

 

 後ろの扉がガチャリと開いた。振り向くと、そこにいるのは赤い勝負服を見にまとったゴールドシップが立っている。

 やはり勝負服を着たウマ娘は格別にかっこいい……そう思っていると、ゴールドシップはほほう? とニヤつく。

 

「トレぴっぴ、ゴルシちゃんの美貌に釘づけだな? ダイヤモンドの硬度ぐれー美しいからな!」

 

 腰に手を当ててはっはっはと笑うゴールドシップ。どうやら緊張もあまりなく、いつも通りの様子だ。

 控室の中に入り、レースについて最終確認を行う。

 と言っても、実際のところほとんど指示することはない。

 

「アタシが走りたいように走ればいいんだろ?」

 

 今日のバ場状態は良好で、天気も晴れ。ストライド走法のゴールドシップとしてはかなり走りやすい状態だろう。

 ならば、作戦は必要ではない。ゴールドシップらしい走りをしてくれれば勝てる。

 好きに走って好きにしかけて、1着で勝っておいで! そう言うと、おう! と元気のよい返事が返ってきた。

 

「見とけよ! おもしれーレースにするからな!」

 

 ゴールドシップと拳をガツン! とぶつけ、手をさすりながら控室を後にした。

 ……折れてないか心配だ!

 

 

 

 

 

 ところ変わってレース場、ゴール前を陣取ってゴールドシップの走りを待つ。

 俺がトレーナーとして、ウマ娘と一緒に臨む本当の意味で初めてのレース。デビューはただそこにいただけだから。

 頼むぞ、ゴールドシップ。勝ってほしい。でも、それ以上に、存分にレースを楽しんでほしい。

 

 しばらくすると、ウマ娘たちが地下バ道から入場してきた。ウマ娘たちの姿が見えると、観客たちの歓声がわっと聞こえてくる。

 GⅠレースというだけあり、地響きのような音だ。ただ立っているだけなのに、体が揺れる。

 子供のころに見にいった有マ記念を思い出す。1番最初のホームストレッチを通り、コーナーへ。そして最終コーナーから走りこんでくるウマ娘たちに、一斉に浴びせられる怒号のような応援の声。

 それと同じように、今ここにいるウマ娘たちは応援の声を受けている。彼女たちが思い思いに手を振っている中、ゴールドシップがゆっくりと入場してくる。

 

「うえーい! ぴすぴーす!」

 

 観客たちに向かって両手でピースを見せる。周囲の観客はがんばれー! 期待してるぞー! と声をかけている。

 ゴールドシップはこのホープフルステークスに出場するまで、一切レースに出ていない。本当ならば本レース前にたたきとしてジュニアステークスに出場してもいいと思っていた。

 しかし、ゴールドシップのレースに対するフラストレーションが溜まりきっておらず、俺もトレーニングで悩んでいた時期だったため見送ったのだ。

 それ故、ここでデビュー戦以来の初お披露目となったわけだが、デビュー戦での追込ぶっちぎりでファンがついたのか、このレースで3番人気だ。

 

「1番人気のヴィジットも調子がよさそうだな」

「俺は4番人気のイヴトークをおすぞ! 今調子のいいトレーナーがついてるからな!」

「3番人気のゴールドシップ、綺麗なウマ娘だなー……」

 

 それぞれが別のウマ娘たちを応援している。俺も声をかけようか。

 ゴールドシップ、楽しんでこーい! 拳を上げて叫ぶと、チラッとこっちを見てニヤリと笑った。

 

 ――ファンファーレが鳴り響き、各ウマ娘たちはゲートに入る。

 ゴールドシップはスタートがひどく苦手だが、今日はどうだろうか。

 もっとも、スタートダッシュで出遅れようが出遅れまいが、最後尾につけるだろうけど。

 

『各ウマ娘。全員がゲートに入りました』

 

 実況がそう告げると、ウマ娘たちは体勢を低くする。

 いよいよ始まる……胸に手をやり、ぎゅっと服を握り締める。

 

 ――ガタン! ゲートが開いた!

 

『各ウマ娘、並んでスタートしました! 先行して1人、するするっと抜け出すのは7番サンセットアロー!』

『2番のイヴトークもよいスタートですね』

 

 サンセットアローとイヴトーク。逃げ先行のウマ娘が好スタートを見せ、ハナを走る。特にイヴトークは良バ場での1枠2番とくれば、かなり順調な出だしだろう。近くにいるトレーナーがぐっとガッツポーズをとっているのが見える。

 ゴールドシップはその隣、2枠3番という内側のはずだが、スタートしてからゆっくり順位を下げていき、第1コーナーに入るころには既に最後方の1番手、14番目。()()()()()

 

『第1コーナーを曲がりまして第2コーナーへ。先頭は変わらず7番サンセットアロー』

『1番人気ヴィジットはバ群中団といったところ。中団後方にリボンララバイ』

『3番人気ゴールドシップは最後方1番手となっています』

 

 バ群は今のところやや縦長だ。逃げているサンセットアローのペースが少し早い。阪神の芝2,000mは、ホームストレッチの直線に坂がある。そのため、基本的にはスローペースで、後半のゴール手前でもう一度出てくる上り坂を力強く駆け抜ける力が必要になるのだが。サンセットアローがハイペースで後続ごと潰しにかかる作戦なのだろうか。

 逃げのペースが速いと追いかけているほうもつぶれてしまうため、残り800m。つまり、第3コーナー辺りでペースを少し落として脚を溜めにいく。後続のウマ娘、特に後ろについているイヴトークもそこで脚を溜め、第4コーナーで仕掛けを……というのが考えられる展開だ。

 しかし、そんなことはゴールドシップがいる限りありえない。ゴールドシップがレースにいるだけで、そんな作戦は潰されてしまうのだ。

 

『さあ縦長のまま残り1,000mといったところです。ややペースが速いか。これは珍しい』

『後方からゴールドシップ、外を回りながらゆっくりと上がってきます! スタミナはもつのでしょうか!』

 

 ペースが速めで、しかも縦長のため前後の間隔は大きい。であるにもかかわらず、ゴールドシップは最後方からロングスパートを始めた。いつもの通り、残り1,000m時点でだ。

 第3コーナーに差し掛かるタイミングで余力を残そうと、先行しているウマ娘はペースを落とす。後続のウマ娘たちはペースを落とさず、じりじりと前の一団と距離を詰めていく。

 だがしかし、そのスピードが落ち始めたところで、大外から凄まじいプレッシャーを浴びせながら、ドン! ドン! と踏み込みを爆発させながら突っ込んでくるウマ娘がいた。

 

『第3コーナー入りまして、2番ゴールドシップ! ゴールドシップがどんどん上がっていきます! 先頭の娘たちに追走!』

『凄まじいパワーですね! 最後方から見る見るうちに中団まで来てしまいました!』

 

 ゴールドシップだ! 目をギラギラさせながら、進撃を開始している!

 明らかに他のウマ娘よりも1回り大きなゴールドシップが圧をかけて走りこんでくる。一緒に走っている娘からすれば、恐怖でしかないだろう。

 現に、ゴールドシップに追い抜かれた中団のウマ娘たちは、その姿を見て驚き左右にヨレてしまっている。

 

 さあ、第4コーナーを抜ける……ここからの直線が勝負所だ!

 

『最終コーナーを抜け、伸びていくのはイヴトーク! サンセットアローは伸びない! 伸びているのはイヴトーク!』

『リボンララバイも上がってきた! 内から上がってくるのはリボンララバイ!』

『しかし大外から勢いよく飛び出してくるのはゴールドシップ! ゴールドシップが凄い勢いで上がってきているぞ!』

 

 逃げていたサンセットアローは最初のハイペースがたたり、直線で伸びない。伸びていくのは最初からずっと調子よく走っていたイヴトーク、そして中団から差そうと内側から突っこんできたリボンララバイ。

 そして、それらをなぎ倒さんばかりのパワーで爆走しているのがゴールドシップだ! 第3コーナー手前から走りこんできているのに、一切ペースが落ちずにまだまだ伸びていく!

 

『最終直線に入りました! 先頭はイヴトーク! 脚色は衰えない!』

『リボンララバイ、追いすがりますが距離がつまらない! 3バ身以上開いたままだ!』

『ゴールドシップ! まだまだ伸びていく! 驚異的な末脚だー! どんどん差を詰めていきます!』

 

 イヴトークが必死に逃げていき、サンセットアローやリボンララバイが差を詰めれずにいる。

 しかし、ゴールドシップは全く勢いが衰えず、むしろぐんぐんと加速していく。阪神の直線は残り200mまで下り坂なのもあるが、凄まじいパワーだ。

 

『さあ残り200m! このまま逃げ切れるか! 阪神の直線には坂があるぞ!』

 

 残り200m! イヴトークも凄い。下りの勢いを受け、上り坂だというのにスピードを落とさず、一気に走っていく。トレーナーも、いけ! 走れぇ! と全力の応援だ。

 だが、俺のウマ娘は、ゴールドシップは甘くない!

 

「おもしろくなってきたぜええぇぇーーー!」

 

 ゴールドシップの叫び声が聞こえ、坂に足が降りる。

 ガツンガツンと凄まじい大股の1歩が上り坂を削り、飛んでいくかのように加速していく!

 

『一気に駆け上がってくるのはゴールドシップ! ゴールドシップです! 上りで加速していきます! なんというパワーだ!』

 

 ゴールドシップは、上り坂でも加速する! 高低差は関係ない。スタミナが切れない以上、ゴールドシップは加速し続ける!

 

『坂を上りきって直線! イヴトークが粘りますが、ゴールドシップのスピードが伸び続ける!』

 

 2人が坂を駆け上がる。イヴトークが最後の力を振り絞って走るが、ゴールドシップの追い上げは止まらない!

 いけぇー! ゴールドシップ! 走れぇー!

 俺が全力で応援すると、目を見開いて歯をむき出しにした笑顔を見せながら、一気に突っ込んだ!

 

『イヴトークの隣に、並ばない! ゴールドシップ! イヴトークを抜き去り駆け抜けてゴール!』

 

 最後の最後、イヴトークを一気に抜き去りゴールしたゴールドシップ。

 堂々の1着。GⅠレースを勝利した!

 うおおぉぉ! と大声で喜び、思わず両手でガッツポーズをとる。新人トレーナーで、最初の年でGⅠレース勝利。こんなに嬉しいことがあっていいんだろうか。

 息を整えながら拳を上にあげるゴールドシップ。あの娘が、俺の担当なんだ……最高のウマ娘だ! 俺は泣きながら大きく手を振った。

 

 

 

 少しして、ウィナーズ・サークルにて待っていると、ゴールドシップがニコニコしながらやってきた。

 ゴールドシップー! 俺が笑顔で手を振ると、うぇいうぇーい! と言いながら両手で手を振り、小走りでやってきた。

 そして、ふわりとゴールドシップが飛びあがる。

 

 え?

 

「どりゃーい!」

 

 ぐわあぁーっ!?

 ゴールドシップのドロップキックが顔面に刺さった!

 勢いそのままに吹っ飛んで、ウィナーズ・サークルを転がる。レースを走った後なのに……す、すごいパワーだ。

 周りの人たちがどよめく中、ゴールドシップは転がっている俺の顔を覗き込んだ。

 

「どうよ?」

 

 ゴールドシップは今まで見た中で一番の、ニカっと満面の笑みで俺に手を振ったのだった。




 本来のゴールドシップくんはホープフルステークス(ラジオNIKKEI杯)の前に2つレースを走っていますが、アプリ版ストーリーだと省かれているので省きました。
 実際のホープフルステークスでは2着です。1着はアダムスピーク(イヴトーク)です。

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