年末のホープフルステークスを終え、大みそかと元日。
自宅に突撃してきたゴールドシップによって煩悩108初詣という108ヶ所にも及ぶ神社巡りに付き合わされたことが記憶に新しい。いつのまに俺の家をみつけたんだろうか……。
ヘトヘトになった体を休めるだけの怠惰な正月休みが終わったトレセン学園での一幕。
「皐月賞ぉー?」
そうだ、とゴールドシップに話す。
ホープフルステークスを1着、しかも劇的な追込で勝ったとなれば、次に目指すのは三冠ウマ娘になるための一冠目、皐月賞。
芝の2,000mと、ホープフルステークスと同じ距離だ。ゴールドシップの距離適性を考えても、クラシック路線に挑戦するのがいいだろう。
そう思ってレースの提案をしてみた。
「いいのではありませんか? 先のレースでは素晴らしい走りでしたもの」
「そうだね! ボクがいないんだ、ゴールドシップならいけるんじゃない?」
一緒に肯定してくれているのは、マックイーン。そして、マックイーンと一緒にはちみつジュースを飲んでいたトウカイテイオーだ。
少し前の有マ記念のことを思い出し、出くわした時は不意に泣きそうになってしまった。トウカイテイオーは思わず苦笑い。
リハビリ後のごほうびということでジュースを飲んでいたところに、俺から逃げるゴールドシップがばったりと出会った。逃げていた理由は多分、特にない。
「皐月賞ってアタシの同期だけ出れるレースだろ? この前のホップステップといっしょで」
「ホープフルステークスですわよ」
「ホップステップジャンピング!」
「何も変わってないではありませんか!」
ゴールドシップのダル絡みをスルーして、そうだよ、と言うとふぅーんと何やら考え出した。
「テイオーは皐月賞勝ったんだもんな?」
「そうだよー。ボクって強いからね!」
ふふん、と手を腰にやり、誇らしげな顔をするトウカイテイオー。
彼女は菊花賞こそ取れなかったものの、皐月賞と日本ダービーの2冠を無敗で勝利している。最終直線で他のウマ娘を抜き去りどんどん距離を離していったダービーは圧巻の一言。
ホープフルステークスでのゴールドシップを見て、無敗の三冠を目指せる走りだと感じた。トウカイテイオーと同じように挑戦してみるのもありだと思っている。
どうかな? 提案を再度してみると、うーんと唸り出す。何やら乗り気じゃなさそうだ。
「何をそんなに嫌がっているんですの? 皐月賞、ダービーとクラシック路線はウマ娘の夢ですのに」
「だってよー皐月賞って5月にやんだろ? ダービーも5月だしよー、あんまし連続で走るとオラつくんだよな」
「え? 皐月賞って4月にやるんだよ?」
「あ?」
「え?」
どうやら思い違いがあるらしい。
皐月賞は4月下旬、ダービーは5月末だよ。そう話すと、ゴールドシップが急に真顔になった。
「……許せねぇ」
「ど、どうしたのゴールドシップ。怖い顔してるよ」
「テイオー! アタシは許せねーんだ!」
「ピィ!?」
急に雰囲気が変わったため、心配したトウカイテイオーが話しかけると、怒りを周りにぶつけだした。
一体何がゴールドシップの癇に障ったんだ……!?
「皐月ってのは旧暦5月のことだろ! なんで5月にやらねーんだ!」
「あの、ゴールドシップさん、昔は5月にやっていまして……」
「うおおぉぉ! このゴルシちゃんが仇をとってやるからな!」
卯月賞にかえてやらぁーー! と叫びながらどこかへと走り去ってしまった。
どうやら4月開催なのに皐月賞という名前なのが気に食わなかったようだ。
「……トレーナー、キミも大変なんだね」
ぽかんと口を開けて走り去ったほうを見ていると、トウカイテイオーにぽんと背中を叩かれた。
ありがとう、トウカイテイオー……眉間を指でほぐしていると、彼女はえへへと苦笑した。
「あ、ボクのことはテイオーでいいよ。これからよく話をしそうだからね」
「そうですわね。私のところによく来ますので……いっしょにいるテイオーにも会うことになりそうです」
「ゴールドシップはマックイーンのこと大好きだもんねー?」
「そ、そんなことはないと思うのですけど……」
両手ではちみつジュースを持ちながらソワソワしているマックイーンを見て、このぐらいの落ち着きがあればな……と天を仰ぐのだった。
「レース登録しといたぞ。48のウマ娘技、ゴルシバスターをくらわせてやるぜ! 待ってろ、卯月賞!」
皐月賞のことだろうか。どうやら本気で卯月賞にしようとしているらしい。
何はともあれ、次のレースが決まったこと、ゴールドシップがやる気を出してくれたことが喜ばしい。
よし、早速トレーニングだ! 併せウマはあの
「あ、トレーナー。今日はごましおの日だからプール集合な!」
そう言って室内プール場のほうに走っていく。
……よしきりかえていこう!
ごましおの日ってなんだろうかと考えながらプール場まで足を運ぶと、既にゴールドシップがビート板を抱えながら背泳ぎをしていた。
他にも先客がいるようで、クロールで往復しているのはナリタタイシン。休んで水分補給をしているのはナイスネイチャだ。
「お、きたきた。おーい、ゴールドシップのトレーナーさーん。ちょっときてくださいよー」
ネイチャに手を振られ、近くまで歩いていく。ネイチャとタイシンはトレーニングで一緒になることが多く、話す機会も多い。
隣に立つと、ゴールドシップを指さしてやや不安そうな顔をした。
「今日は大丈夫なんですか? この前、あの娘のバタ足でタイシンが飛んでったりしたんですけど」
ホープフルステークス前のスタミナ強化トレーニングでプールを使用した時、ビート板を使いながらバタ足で泳いでいたゴールドシップの強烈な水しぶきでナリタタイシンが別レーンにまで吹き飛ばされるというアクシデントがあった。
エアグルーヴに怒られて今日までプール場の使用を控えていたのだが、ゴールドシップがやる気ということもあって止められなかった。
きっと大丈夫……うん、大丈夫だ。そう言いながらうんうん頷くと、じっとりとした目で見られる。
「信じられないんですけどー?」
あはは、と思わず苦笑いしてしまう。
ゴールドシップの動きはこちらで制御することはできない。やれることは、あの奇天烈なムーブについていくことだけだ。
「うし! 体もあったまってきたことだし、イルカみてーに泳ぎまくるぜ!」
「ちょ、ゴールドシップ。隣のレーンに行くまで待ってよ。ていうか、なんでいつも真ん中で泳ぐのさ……」
慌ててタイシンが端のレーンまで避難すると、ゴールドシップがイルカさながらの体のうねりを見せながらバタフライを始めた。
流石のパワーというべきか、そこら中にプールの水を吹き飛ばしながらすごいスピードで泳いでいく。
「これぶぁ! ゴルシちゃんぶぉ! イルカスイミンぶぇ!」
「ぷはっ! 泳ぎながら話すなっての! なんでいつもこうなるのよ……」
タイシンが水しぶきを受けながら怒り出す。プールでトレーニングが被ると、必ずこうなるためタイシンはゴールドシップが来るといつも嫌がる。
ただ、トレーニングは自主練でない限りトレーナーの指示で行うものだ。嫌といってプールから出ていくのも中々難しい。
そのため、毎回被害を受けながら必死に泳ぐタイシンを見ることになるのだが。
「とおおぉぉう!」
「うわぁ……曲芸みたい」
端から端まで泳ぎ切り、そのままプールから飛びあがってプールサイドに着地。両手を上げて10点! 10点! 10点!と大はしゃぎしている。
ネイチャと2人でゴールドシップだなぁ……と呆れてしまう。
ただ、ここまでのパワーがあるというのは素晴らしい。バタフライもスタミナ強化にはかなりいい。
かなりハジケてはいるが、トレーニングとして効果が見込めるから、中々止めにくいところだ。
もう1回だ! と行ってプールに飛び込み、タイシンに水をかけているゴールドシップを見て、またタイシンのトレーナーに謝らないとな、と腕を組んで苦笑する。
「やれやれ、トレーナーさんも大変ですねぇ」
肩をすくめて目を細めるネイチャを見て、ゴールドシップがいかに問題児なのかを改めて感じるのだった。
今のところ友好的な知り合い
・トーセンジョーダン(ゴルシ被害者の会会長)
・エアグルーヴ(ゴルシ被害の対応)
・シンボリルドルフ(ゴルシ被害による呼び出し)
・メジロマックイーン(ゴルシに絡まれる会会長)
・トーカイテイオー(マックイーン繋がり)
・ナイスネイチャ(練習が被る)
・ナリタタイシン(練習が被る)