現在地:学園都市"キヴォトス"郊外「3番埠頭」
随伴者:伊草ハルカ
彼が壊れて一週間が経とうとしていた。
ここで昔話を一つ。とある少年には一人の姉と二人の幼馴染みが居た。
姉はとても背が低く、ときたま妹と勘違いされるほどであった。身長120〜130cmくらいだっただろう。彼女は弟より二つほど歳上であり本名から"マーサ"と呼ばれていた。少し痩せていて色白、機械音痴で触った機械はたいていすぐに壊れる……だから「壊し屋マーサ」なんてあだ名も付いていたという。兄弟仲はとても良く血が繋がっていなかったから許嫁になるのではないかと噂になるほどだった。
さて、二人の幼馴染みである。
二人はとある名家の一人娘と海賊の血を引く少女だった。二人とも少年よりは年上で彼の姉とほぼ同じ歳である。名家の一人娘は名前が何だったかな……ああそうだ、あだ名は"ベルタ"だ。ちなみに海賊の方は隻眼だったから"サイクロプス"と呼ばれていた。
ベルタは髪色は金髪(生まれながらのものである)、長身で、機械に強く何でも修理して使っていた。よく少年やマーサ、サイクロプスと遊んでいてこちらも仲が良かった。実家の家系は兵器工場の上の方で航空機や爆弾、ロケット等の設計、製造を主な生業としていた。
さて、サイクロプスについてなのだけれど。
サイクロプスについてはあまり詳しくわかってないのであった。わかっているのは少年と同じ時期にDOLLSになったという事、大きな飛行艇で暮らしていた事くらい。
壊すならマーサ、直すならベルタ、運ぶならサイクロプス、まとめるのは咳するアイツ。
なんて戯れ歌があったのを覚えている。
無駄話が過ぎてしまった。
娘ではないが娘のような存在である生徒を連れて私は埠頭にやってきた。
「……先生は立ち直れますか?」
『こればかりは本人次第としか言いようがないね。』
「そうですよね……」
ただ埠頭に腰掛けて足を投げ出した姿勢で俯く上官。彼は思い出した。忘れさせられていた事を思い出し、私達が覆い隠した過去を見つけ出した。
「……姐さん。今行くよ。」
『ま、待って!』
散弾銃を隠し持っていたのは予想外だった。
(鳴り響く一発の銃声)
護身用に持っていたウェルロッドを取り出す前に彼は頭を撃ち抜いた。幸いな事にハルカちゃんの目を左腕で隠すことはできた、けれど。
(水飛沫を散らして重いものが着水する音)
夫はその身体を海に投げ出し、沈んでいく。密度は海水よりもぐっと高い。
「せん……せい……」
崩れ落ちる生徒。私は声をかけられなかった。
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どこまでも続く深淵。
どこまでも沈んでいく身体。
わずかにちらつく記憶。
私は何者だ?
私は何者でもない。
私の身体は朽ちていく。
誰かへの思いを抱えたまま。
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『……誰か聞こえているか?』
(しんとした無音)
『……ここもだめか。』
「キャプテン!浄水器が完成しました!」
『おお、ありがとう。お疲れ様。』
「想い人に届きますかね?」
『さあどうだか……って、何故それを!』
「所属は偵察隊でしたから。」
そう笑う偵察機型DOLLS。
彼女は油断ならない。裏切ることは無いだろうが、帰ったとき私に関する秘密が漏出してしまうかもしれない。……帰ってから考えよう。今は帰る手段がないことには。
漂着しておよそ30日。ここのことはまだよくわからない。今、私のいる場所は特に脅威はないが周囲を取り囲む濃い霧の向こうはよく分かっていない。酸素補給機の開発を急いでいるがそれに必要な空気圧縮機がまだ間に合っていないのであった。
ここに漂着した者は皆、ARMSを喪失している。あるのは鉄パイプを改造してできた槍や鉄筋を使ったバール(のようなもの)くらいのもので改造に必要な素材も尽きかけていた。
「私が霧の向こうに行こう。」
「いいえ、私が行きます!」
「シュトルヒ、貴女は引っ込んでなさい。ここは旧式の出番ではない。」
「何を!この速度狂が!」
「私は速度狂ではない!それくらい出さないと燃料が漏れるんだ!」
「漏らしながら飛んでたんですもんね!」
『そもそもARMSが無いんだから飛べるはずないのだけれど……』
苦笑いするしかなかった。隣にいるU-2も笑っている。
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私達が夫に隠していたもの。隊長に隠していたものは彼の姉のARMSであった。正確には彼女の存在そのもの。彼女が戦闘中に行方不明になったこと、彼女が彼を庇って消えたことを忘れさせたのは私達だった。
記憶処理剤を暴れる彼に打ったのは2年前。思い出す兆候が見えるたび、彼女に繋がる痕跡を見つけるたびに打っていた。何十回と打った。辛かった。だけれどこの感情を彼に共有させるわけにはいかない。そう思っていた。ベルタにも手を貸してもらって部隊全体で存在を隠した。……間違っているとわかってはいたが。
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Uボートブンカーのようなところに流れ着いた。後ろを振り返れば見渡す限り海で、夕暮れを迎えていた。
沈みそうで沈まない太陽を背に私は屋根の下、埠頭を歩く。足音が響く。主のいないUボートの係留施設を私はただ歩く。誰も居ない。放棄されたクレーン。魚雷か何か長細いものを載せるラックのような台車。
『夕暮れは綺麗だ。……もしかしたら夕暮れではないかもしれないが。』
きっとはあれは夕暮れだろう。
『さて、誰か居ないかな……』
ひたすら歩く。
歩く。
歩く。
歩く。
泳ぐ。
歩く。
歩く。
走る。
歩く。
歩く。
『おっと、ここは何だ?』
"第3培養室"と銘入れられたプレートが壁に貼られた部屋とそこに続く金属製のドアがある。残念ながら他の同じ様な用途を持っていたであっただろう部屋は入り口が壊れていたり、床が抜けていたりで入れそうになかった。
『失礼致しま〜す……』
瓦礫から拾った鉄筋を構えて中に入ると左側に映画や漫画で見たことがあるような人間サイズの培養ポッド(のようなもの)が壁に3つ並んでいた。うち2つは何かが入っているように見えなくもない。
『……ここはどこなんだ?整備会も把握していない人類の遺跡を見つけてしまったのか?』
培養ポッドは透明で少し不自然なカバーが掛けられていて明らかに中に何かいるのにそれをしっかりとは知覚させない能力があるようであった。(つまり認識しづらい)
『……外さないほうが賢明だよな?』
ここは一旦おいておいて別の場所を見に行くことにした。