現在地:学園都市"キヴォトス"内"シャーレ"オフィス屋上
随伴者:伊草ハルカ,藍田ヨル
私達は彼に振り回されている。私達3人は彼に洗脳されている。説明としてはかなり語弊があるが。洗脳には否定的イメージがつきものである。だけれどこの洗脳はそういったものではない。もしかしたらいわゆる現実改変的なものかもしれない。
彼は私と血の繋がらない姉弟関係であり、行方不明の姉(しかしこの人物も血が繋がらない)と、名家の娘とも姉弟関係であった。この時点で関係としてはおかしいがそれが同時に成立するのである。彼は私との間に子を残した。今はその子も行方不明だが。……整備会と灰燼教会の上層部をあのとき潰しておけばこの胸に抱けただろうかとは思う。
それはさておき、ATLAS部隊が維持できるのは隊長であるニューマコーニオシス中佐が居るからである。本人は嫌っていたが中佐には異常な特性がある。関わった人物を惹き付けるそんな特性がある。メスのフェロモンに導かれるオスみたいなものかもしれない。
中佐のそばにいると多幸感に包まれる。これは私だけかも知れないし、直下3人だけの共通項かもしれない。
匂いも、
声も、
たまに触れる腕も、
……極稀に落とされる脚も、
何故か幸せである。
理由はわからないが。
主人の居ないシャーレオフィスの屋上。生徒2人と3人で居る。どうやら私の"容姿の"モデルは強烈な百合属性持ちだったらしいが、私の"内面の"モデルは違う。私は女にそういった興味は無い(=友人関係以下)。……実のところ男にも無い(先に同じ)。ただ例外は有る。あの人だけは違う。さっきは洗脳としたがもしかしたらこれは……自分には無い物を欲しがり、独り占めしようとする独占欲によるものかも知れない。……私はこれを愛情だと勘違いしている。
屋上庭園の人工芝が貼られた少し広いスペースにテントを張り、椅子と机を置いて向き合っている。向かいの彼女はハルカちゃんと藍田ヨルさん。
ハルカちゃんとは面識がある。ATLASを結成する前に出会い、そして戦闘途中で行方不明になった。私の事は覚えていないようだから研究施設で出会った時は初対面なふりをするべきだったかも知れない。そもそもコルセア形態ではない私を見たことが無いはずだからそりゃそう。
藍田ヨルさんはどうもハルカちゃんのご友人らしくて。風紀委員会の委員を務めていらっしゃるとか。ご苦労さまです。夫がお世話になりました。
二人をここに呼び出したのはここについて少し教えてもらう為。
「まず、キヴォトスについてですが……」
『ええ。』
「今現在……」
『そう……』
話は少し飛ばす。(長くなるから)
「先生には仲裁に入ってもらい、紛争の回避を依頼していたのですが。」
『……ええ。』
「大人である先生までもが行方不明となり、ゲヘナ学園とトリニティを繋ぐエデン条約も頓挫しつつあります。」
『……そう。』
「紛争の激化は避けたいのですが……このままでは全面戦争に発展するかもしれません。」
『……それで。』
「……?」
『あの人も罪作りな男ね。まったく……』
「あのー……?」
『それで私に何を求めているの?仲裁役?仲裁役ならやらないわよ?』
「え?」
『あの人のいないここに思い入れなんて有ってないようなものだもの。せいぜい、目の前で小さくなってるハルカちゃんくらいね。』
大きなショットガンを抱えて縮こまるハルカちゃん。可愛い。娘に欲しい。
『そもそも私はどっちかと言えば破壊を望む側。相談相手を間違えているわね。』
「あ、あの……別に仲裁役を求めている訳じゃなくて……」
『え、あ、ごめんなさいね。私ったらあら嫌だ。』
……顔から火が出そうです。ああ……ああ……消えたい……なぜ私は昔からこうなのでしょう?
「先生の副官さんには会場警備をお願いしたくて。仲裁役は自分たちで何とかしますので。」
『……なるほど……』
下手に何も言えない。早く帰ってきてよ。私を制御できるのは貴方くらいしか居ないもの。
「……コルセアさんは装甲車両に対する攻撃得意ですか?」
屋上に連れてきて初めてハルカちゃんが口を開いたと思ったら意外なことを聞かれた。
『ええ。
これは自惚れだ。でも、
「私に対装甲攻撃を教えて下さい!」
唐突な申し出。前の私なら、それこそ、この娘と出会う前ならお断りしていたかも知れない。でも今は違う。
『藍田さん、どう思う?風紀委員会としてはお騒がせな便利屋68の能力が強化されてしまうのは頭痛の種じゃない?』
「……。」
「ええ……まあ……確かにそれもそうですね。」
『かと言って風紀委員会だけに伝授する気も無いのよね。勢力争いに巻き込まれたくないし。』
『便利屋68と風紀委員会の両方に教え込むのはどうかしら。』
「えーと……?」
「なるほど……私は構いませんが……」
『個人的には悪くない提案だと思うけれど……どう思われます?空崎ヒナ委員長?……あと、陸八魔アル社長。』
「……気が付かれてた。」
「……さすが先生の副官ね。お見事だわ。」
『言うほど魅力的な話……ではないかもしれない。』
「風紀委員会はさらなる戦力強化は望まない。だけれど……個人的な習い事を拒否する権限はない。」
「私としては……ハルカには強くなってほしい。だから承諾するわ。」
『そうですか。よろしくおねがいします。』
残された私には今できる事をする力しかない。
……ところで教えるとは言ったものの、どうやって教えればいいのでしょう?
「必要な物は支給する。少し時間はかかるかもだけど。」
『わざわざありがとうございます。……ところでどこから見てました?』
「最初から。」
「お、おなじく……」
『消えたい……』
うぅ……
そして視点はまた別の場所へと移動する。
そこは海の上。
霧に包まれた場所。
キヴォトスより離れた場所。
見捨てられた場所。
ここは天の外。