私達がやってきたのは先の見えない霧が囲む海岸。私達は囮になって撃破された。志願兵も運悪くならざるを得なかった者もここに居る。
『人間は嫌いか?』
「嫌いです。隊長は?」
『うーん……どちらとも言えるな。』
『弟のことは好きだが、その上に居るクソな上官は嫌いだな。整備会にもまともな奴とダメな奴の2種類が居るから。』
「なるほど……」
「あ、そういえば隊長の想い人って弟さんなんですよね?」
『だからお前はなぜ知っているんだ!?』
「これでも星屑連邦学連の偵察部隊エースをやらせてもらっていましたから。」
「副官のF4Uとくっついていましたけれど……もしかして略奪愛ですか?」
『違う違う。妾とあいつともう一人で支えることにしているんだ。それとあれはコルセアじゃない。』
「え?違うんですか?あれはコルセアじゃない……」
『自分たちの情報収集は下手なようだな。U-2。』
『あまり知り過ぎるな。消されるぞ。』
「はーい。」
「トロイカ体制……」
『なにか言ったか?』
「あ、いえ……何でもないです。」
飼育用の檻を整備していた。この海岸には魚が居る。私は詳しくないので分からないが、少し前に流れてきた
『メイヴィスが来てから変わったよな……』
「食糧事情はガラッと変わりましたね。」
『元旅客機……恐るべし……』
「ええ……」
「元旅客機と言っても原型が旅客輸送を担っていただけなんですけどね。」
『おや、聞いていたのか。』
「ええ。おはようございます。」
『おはよう。』
「おはようございます。」
「ヤシの実が豊作なのはありがたいですね。」
『負傷者は出てないか?』
「ヤシの実の採取中に
『相変わらずあいつは硬いな。』
「あとは……バレンタインが漂着しました。」
「バレンタインが……?」
『服装は?赤色だったか?』
「灰色でしたが……」
『何処にいる!体調は!』
「念の為、休んでもらっているB-17Gと一緒に居ますが……寝ています。」
『叩き起こすわけには行かないか……』
「どうしたんです?」
『あー……気にしないでくれ。こっち側の事情だ。回復したら教えてくれ。』
「了解です。」
『さて、死んだのに死ねていない諸君!仕事の時間だ!』
『今現在、B-17G達のヤシの実の収穫により食糧供給が回ってはいる上にメイヴィス達の奮闘により魚貝類の調達が行われている!』
『それはとても喜ばしいことだ!』
『しかし、このままでは資源量に限界がある。』
『そこで、だ。』
『設備の増設と、遠征を行いたい。』
鶴の一声というものは時に破滅を招く。まあ、議論ではなくもはや演説だからそんなものではなかったが。
『U-2、妾と遠足だ。』
「えー……」
『メイヴィス、ここを頼む。』
「了解です。行ってらっしゃいませ。」
「行ってきます。」
『すまないね。』
「これも仕事ですから。」
酸素ボンベを背負って進む影2つ。この濃霧が化学兵器として指定されている物質……それが何かはわからないが含まれていて通常のDOLLSがARMSの補助無くして他の地域へと進むことを困難としていた。BC兵器の使用条件下において運用される事を想定されていた私や気密服を装備することが要求される超高高度偵察機でも酸素ボンベが必要だったりする。
「重い……」
『確かにな……でもお前さん、偵察機材載せて飛んでたよな……?』
「確かにそうですけども……そういえばそのナイフ、竹製なんですね。」
竹を加工して簡易的な刃物を作ったことがある。そしてその刃物で災獣を刺したことも。
『まだ持ってくれよ……』
「だいぶ年季が……」
『極東急行作戦からずっと使ってる大切な一本だよ。』
「極東急行作戦……?」
『知らんのか?』
「ええ。」
『知らんでいっか。』
「えぇ……そこはそれはな……とか語るべきところじゃないんですか!」
『気になるなら自分の足で調べて。出てこないと思うけど。』
「隊長、それはあんまり過ぎません!?」
極東急行作戦、それは
とある一大隊は当時はまだ試作中の秘密兵器扱いであった飛行空母型ARMSとバイクによって動員、移動し、
もう一大隊は現地の防衛戦力が避難誘導と遅滞戦闘を行っている間に列車で移動する
という当時の整備会、学連郡には無いドクトリン(※n)を見せつつ数日のうちに
もちろん損失も大きく、住居、建物多数が全半壊し、
『ニューマコーニオシス……』
「……何処かで聞いたことがある気がするのですが。」
『知り過ぎるな。消されるぞ。妾は忠告したからな。』
塵肺症を意味するコードネームを背負ったF4U型義体利用の代理人型DOLLS、それが弟。作戦のあとで義体を変えたから前身ではあるか。
竹林を抜ける。抜けた先は川。
『霧が晴れてくれればな……』
「ですねー」
『渡るのは……よしておこう。』
「……ええ。」
レテを渡る気はない。(レテ…忘却の川。)
川の畔を歩き続ける。信用ならない何かと。
『だから、辞めろって。』
「完全に懐いてますね……」
『髪を食うな!U-2!辞めさせろ!』
「m9(^Д^)プギャー」を再現したような顔でこっちを見るなU-2!
『……満足したか…?』
いかにも満足したと言った顔で頷く人型災獣。本来はこんな所にはいないはずだが…………災獣?敵?敵襲!?
『この……!離れろ!』
「……あまりにもべったり過ぎて敵だということを忘れて…」
『レックス=アブリシウス……………………お前、極東急行の時の……』
刻々と頷く幼女。この顔に憎悪を感じる。弟を瀕死まで追い込んだ張本人。
「昔馴染みですか?」
「……」
『久しぶりってか?』
「……」
『こうやって会ったのも何かの縁かもな。壊れろ!』
鉄筋での殴打。しかし、その手は思わぬ手で阻まれる。
『U-2!』
「隊長!ついにおかしくなりましたか!?相手は本体を連れていない、ほぼ丸腰の人間ですよ!」
『手をどけろU-2!
「いやです!」
『弟の敵を討つんだ!』
『妾は取り戻す!親に売られた日に失ったものを!妾の名誉を!仲間の尊厳を!弟の人生を!』
U-2に掴まれた右腕は動かない。あの華奢な腕にどんな力が隠されているのか。
「敵を討ってもあの中佐は帰ってきません!」
『わかってる!』
わかっている。亡骸から再生した張本人だもの。
右腕を掴まれたまま口論をしていると振り払ったはずの敵が今度は胴体に張り付いていた。
『くそっ!』
引き剥がそうとした。
『……!』
左腕も固まる。誰かに抑えられたわけではない。リミッターが働いたのか。
「……」
岩石でできた災獣は冷たい。そう思っていた。実際冷たかった筈だが。我々、DOLLSは大人の人間に対して腕を振り下ろす事ができる。子供の人間には……
『ああ!クソ!くそ!くそっ!』
「……」ニコニコ
『殺す!殺す!殺す!あぁー……!』
何が悲しくて泣いているのか。何が楽しくて泣いているのか。わからない。
低身長な私に張り付く災獣の体温は高かった。
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壊れてしまった隊長を災獣"レックス=アブリシウス"と牽引する。この災獣はとても笑顔であった。背筋が凍るような笑顔ではなく、心が暖かくなるような笑顔である。即席のそりを竹で作れてよかった。災獣は確かに人類にとって敵だ。例え丸腰であっても敵だ。でも、私はこの災獣に対して殺意は無い。黙ってみていられなかった。子供の人間と被ってしまったから。
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私には姪がいた。その姪は整備会が連れて行ってしまったが。
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隊長の姪を整備会に連れて行ったのは私です。実験動物としてではなく一人のDOLLSとして扱う為に。……バレたら死にますね。それにしてもどうやって説明をしようか……連れて帰ったらかなり危険な目に……しかし……他に行く宛はないだろうし……
『どこから来たの?』
我ながら呑気な聞き方だなぁ。
「……」
とてもニッコニコなのはよろしいのだけれどジェスチャー等の回答は無い。沈黙こそが答えということだろうか。
『私はU-2。あなたは?』
焦点の合わない目のまま殺す殺すと小声で連呼し続ける隊長だったものをよそに自己紹介をしてみる。
「……わ、わ……」
発声できる……!?災獣にも声帯があるのか!?
「わた……わたし……」
「レッ……レップス……」
『レップス……?……烈風?貴女は今から烈風、サム……にすると男性名になってしまうからサミュエルね。』
「サミュ……エル……」
『そう、サミュエル。』
「サミュエ…ル。」
「わかっ…た…」
どうやって連れかえる……?一番安全なのは隊長を説得……できる気がしないなぁ……服をどうにかし……できるの?
※n
本来は現地で抑え込むことが基本であったため、他の学連領域に増援を送るドクトリンには無かった。
こんな感じで主人公の近辺の人物は情緒不安定だったり精神的におかしかったりします。