第11話 サクラパワー
とは言うものの、根本解決とは言うものの、どのように解決すべきかどうか、わからないというのが率直な感想だった。当然だ。咲良田の中では管理局という機関が町の能力に関する事件を取り扱っているのだから、事件があった際は管理局に連絡すればいい。だけど、横浜には、まして咲良田の外にはそのような機関など設置されていない。そういったシステムが敷かれていたならば、問い合わせがあった事件から順々に、しらみ潰しに対処していけばいいのだが、それができないし、そもそもそれでは根本解決にならない。対症療法だ。そんな状況に僕らを調査に派遣させるなんて、なんて脇の甘い考え方なのだろう。もちろん、管理局の他の局員たちもすでに派遣されているだろうが、僕らに何を期待しているというのだ。全く信頼されて何よりだ。
そう、1回目の世界で収穫がなかったのは当然の結果だったのだ。だから、僕らの能力に頼ったのだろう。2回目も、3回目もあるのだから。とは言っても、もちろんそれだって完璧な対策にはならない。つまり、本当に期待されているのは、もっと大きな、根本的な原因の究明と対処ということなのだろう。全く勝手で適当だ。しかしながら、僕には、それが本当に解決すべき問題なのか、まだ判断できていない。僕は別に能力を否定しているわけではない。なぜなら能力はこの世界に確固として存在しているからだ。それがたまたま咲良田に限定されていただけで、急に突然、別の場所で能力が発現しても、それはそれで肯定しても否定しても、事実でしかない。どうしようもない。それを無理矢理なくす、或いはなかったことにするというのも、少し違うような気がする。能力発現をなかったことにすると判断するには、まだまだ判断材料が足りない。でももし、能力以外の事象だったならば……。
しかし何より、大きな収穫はあった。とてつもなく大きな収穫が。木之本桜だ。先程は収穫がなかったなどと言ったが、これは大きな収穫だった。キノとエルメスもそうだが、木之本桜なら尚更だ。なぜなら彼女は言ったからだ。
「実は、さっきの会場、なんだか嫌な魔力の気配がしたの。誰かに見られてるような、嫌な気配が」
それは、小規模であったものの、この世界にやってくる前、姿見から感じたものと同じだそうだ。この情報は、一度目には獲得し得なかった大きな収穫だった。
「では、もう一度会場に行ってみましょう」
せっかく時雨沢の家にたどり着いたのに、また来た道を引き返すのか、とは誰も言わなかった。
会場にたどり着いた。先程来たときと、なんら変わりなかった、ように思われた。
「さっきと違う……」
そうつぶやいたのは、木之本桜。
「どこが違いますか?」
「魔力の気配がさっきより少し大きくなってる」
「成長しているってことですか?」
「うん……」
「あ、あそこ!」
突然指を……指さずに言ったのは、モトラドのエルメスだった。
「どこ? エルメス」
「ほら! キノ! 上だよ!」
「上?」
キノは会場の上、上空を見上げる。他の者も一斉に倣う。一箇所、一点の、色が、抜け落ちていた。雲と見紛いそうなものだったけど、
「間違いない、あそこに、周りから魔力が吸収されていってる!」
木之本桜は言った。なら、その情報は確実なものである。木之本桜を連れて来た理由は、そこにあったのだ。一時凌ぎとは言え、一旦の解決に導いた唯一の希望だったからだ。
「なんとかしなくちゃ!」
脊髄反射的に動いたのは、やはり木之本桜だった。
「待ってください!」
それを僕は制した。
「なんで⁉︎」
「確かに木之本さんの力を借りれば、あの魔力は消えるかもしれない。でも、また魔力が吸収されて、再び魔力の塊が発生する可能性が高いので」
「どうして⁉︎」
「リセットする前、そうだったからです」
そう、上空に目を見遣ったその先は、再び集まりつつある魔力だったのだ。
「そうは言っても……」
「もちろんいずれは対処しなければなりません。ですが、今はこのまま放置です」
「放置なんてできない!」
「待って!」
そのまま駆け出してしまった。
「星の力を秘めし鍵よ 真の姿を我の前に示せ 契約のもと、桜が命じる レリーズ!」
星の杖を振りかぶって、
「ライト!」
光が魔力に勢いよく迫る! そして、衝突。魔力は揺らめいて半分以上消える。もう一度、
「ライト!」
もう一つ光が魔力に迫る! そして、衝突。とはならなかった。光の筋を縫うように、逆流するように、木之本桜めがけて、魔力は迫った。
「木之本さん‼︎」
それは、魔力なんかじゃなかった。
聞こえてくる。
ーー死ね!
苦しい……
死にたい……
消えろ!
聞こえてくる。
ーー辛い……
ふざけんな!
……この野郎
クソ……
もうダメ……
いろんな人の声。
ーー死ね!
苦しい……
死にたい……
消えろ!
「やだ……」
ーー辛い……
……この野郎
クソ……
もうダメ……
「やだよ……」
ーー死ね……
死ね……
死ね死ね……
死ね死ね死ね死ね死ね……
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね……
「やめて……」
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね……
ーーたいよ……
死にたいよ……
たいよ死にた死にたい……
にたい死にた死に死にたいよにたいよ死にたい死……
「やめてぇ……」
死に死に死死死死死死死死死死死
「やめてええええーーーーーー‼︎」
死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死
「さん……のもとさん……木之本さん‼︎」
はっと目が覚めた。今の、今のは、何だったの。
今の、あれは、魔力なんか、じゃ、なかった。人の、心、だった。負の感情が、蓄積されたもの。……マイナス……エネルギー……。
息も絶え絶え。涙もちょちょ切れ。手もぶるぶる。膝もがくがく。そんな私にケイさんは声をかけてくれた。
「大丈夫ですか?」
「こういうときはこういうんです。大丈夫ですよ」
キノさんの声だ。
「さくら、もう大丈夫よ。怖かったわね」
ぎゅっと抱きしめてくれたのは、陽香さん。じわじわと涙が込み上げ、溢れ出した。私は陽香さんの胸の中でわんわん泣いた。
私はこの世界に来て、泣いてばかりだ。泣き虫さんだ。でも、だから一人じゃなくて本当によかったと思う。
と、その時、あの色の抜け落ちたマイナスエネルギーが、こっちに向かってくる!
「危ない!」
「来るな‼︎」
陽香さんがすかさず叫んだ。すると、マイナスエネルギーは
私たちは、一旦時雨沢さんのお家へ帰ることになった。
帰宅途中。
「あれは、魔力なんかじゃなかった。世界中から集まった、人間の負の感情だった。マイナスエネルギー……」
ぼそりと呟いたのは木之本桜。
「なら、私が来るなって言って追い払ったのは、正の感情?」
「何かを追い払おうとするときの感情が正の感情だとは思えません」
「でも、村瀬さんはさくらさんを守ろうとした」
「何かを守ろうとするときの感情も正の感情だとは限らないんじゃないですか?」
「でも、リセット前の木之本さんといい、今回の村瀬さんといい、マイナスエネルギーを相殺したのは、別のエネルギー」
「マイナスエネルギーでもなく、プラスエネルギーでもなく……」
「そうだ、あのときのお姉さんも、陽香さんも、大丈夫だよって言ってくれた。それがすっごくあったかいエネルギーだったの」
「さくらエネルギー?」
「それ、ださくない?」
「それなら、サクラパワー!」
それもダサいし、うまく定義づけられないけれど、一旦あのマイナスエネルギーを相殺し得るエネルギーを見つけた。サクラパワー。「絶対大丈夫だよ」という呪文に込められた人の人を想う思いが、エネルギーとして現れたもの。サクラパワーにマイナスエネルギーか。マイナスエネルギーは、きっと人から吸収するものだから、その際に、なんらかのアクシデントが起こり、能力勃発のような現象も起こったのだろう。
そうこうしているうちに、家に辿り着いた。
ガチャッと扉を開けると、
「おお! おかえりー!」
時雨沢が出迎えてくれた。
「ちょうど食事の用意ができたところだ! 今日はみんなでクロスオーバーパーティーだ‼︎」