エピローグ 桜の木の下で
その後、飛び入り参加した木之本桜とともに、イベントは大盛況を博した。一世一代一日限りの晴れ舞台が終わり、元の世界に帰らなければならなくなった。少しだけ世界が薄く透けていくのを感じる。もう一人の桜から見れば、薄く透けているのは、木之本桜たちの身体の方らしい。
「ねえ、さくらちゃん。最後にみんなで、あの坂の上の一際大きな桜の木のとこまで行かない? お花見。最後に素敵な思い出を作りたいんだ」
もう一人の桜は、気付けばそんなことを言い出していた。もちろん木之本桜は、
「もちろんだよ。お姉ちゃん! みんな、行こう!」
こうしてあの桜の大樹を目指し、坂を上る。皆ゆっくりと、意気揚々と、胸を張って上る。ぽかぽかと、春の陽気とともに、不思議な充足感を、皆一様に感じているはずだ。
上り切ったところで、
「うわあ、大きい! きれい!」
「そうだねー」
皆大樹をぐるりと囲むように背中合わせにもたれかかる。ずっしりとした重みで、桜たちを支える。
「さくらちゃん」
そう言って、もう一人の桜は、木之本桜を後ろから包み抱く。
「うん」
相槌を打って、我が身を覆う手にふと手を添える。
「さくらちゃん」
「うん」
「来てくれて、ありがとう」
「こちらこそ、大切な呪文、思い出させてくれてありがとう」
「うふふ。うん。ねえ、さくらちゃん。ずっと伝えたかったことがあったの」
「なに?」
「私今、幸せだよ。いつも、いっつもありったけのサクラパワーをくれてたから、諦めずにここまで来れたんだ。私、諦めなくて、よかった! 生きててよかった! あなたのおかげで、幸せになれたよ」
「うん。私も、お姉ちゃんに、サクラパワーもらったよ。すっごくあったかかった。私も、諦めずに済んだ。このまま元の世界に帰ったら、きっとケロちゃんや小狼君……、みんなに会える。だけど、えへへ、ちょっと寂しいや」
「そうだね、もう会えないのかな」
「ううん、きっとまた会える!」
「そうだね」
世の中には、辛いことや悲しいことがたくさんある。
その分、楽しいことや嬉しいこともたくさんある。
負の感情も喜びもどちらも認めてあげて。
清濁併呑して。
重い荷物も軽い荷物も抱えて。
時には前向きに、時にはゆっくりと。
歩いたり、立ち止まって迷ったり。それでもまた歩き出したり。
支えたり、支えられたり。
泣いてもいい、怒ってもいい。
だけどその分、笑って。
時には、背中を押してくれる。
時には、守ってくれる。
時には、包み込んでくれる。
時には、勇気をくれる。
誰にでもある、誰にでも宿っている。
きっとあなたにもありますよ。
「さくらちゃん」
「なに?」
「大好き」
ここまでお読みいただいた皆さん、ありがとうございました。これが僕の初めての作品です。初めて故に、至らぬところがたくさんあったと思います。もう終わっちゃうの?という方もいらっしゃるかもしれません。しかし、一応は、『桜の木の下』まで辿り着きました。『ここ』がずっと目指してきたゴール地点です。しかし、スタート地点でもあります。要は通過地点です。夢のような一大事は終わり、ここからそれぞれの世界に戻り、それぞれの物語が始まります。それは各キャラクターにとっても、僕にとっても。初めて書いた小説が、いきなりの群像劇というのは、なかなかやぞ!と、今は思いますが、いろんな小説や文章を書いて、また、群像劇を書くこともあると思います。そのときは、きっと、この作品を思い出すでしょう。
自分にとっては多くの人に読んでいただきました。どんな感想を抱いていただいたでしょうか。いろんな意見があると思いますが、とりあえず、ありったけの『サクラパワー』を込めましたので、受け取ってもらえたら幸いです。また別の作品でお会いしましょう。