桜色の海   作:前田マキア

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第2章
第8話 リセット


第8話 リセット

 

座席の後方、

「これで一件落着ですね」

蓬色(よもぎいろ)の髪の少女がそう呟いた。

「いえ、たしかに世界は救われました。だけど、根本解決ではない」

そう答えたのは、一見普通の男子高校生、浅井ケイ。

「というと?」

「まだ謎な部分が多い。今回の事態の原因を把握して、潰していかないと、また同じことが起こるかもしれないということですよ。それでは元の木阿弥だ。それに……」

会場の上空を見遣り、目を細める。

「なるほど」

ケイの隣で猫のストラップをいじる少女が顔をあげる。

「どうしますか? ケイ」

「リセットするよ」

「今ですか?」

「ううん、みんなの能力を合わせて壇上にいる木之本桜を連れて行くよ。みんなそれでいいかな?」

「わかったわ」

「わかった」

声を揃えて言ったのは、眼鏡の男女。ケイは頷き、颯爽と歩き出す。それに(なら)って春埼たちもケイに付いて行く。

 

「こんにちは。僕は浅井ケイです。世界を救うために来ました。よければ僕たちに力を貸してくれませんか?」

きょとんと二人。

「あ、えっと、私は木之本桜です!」

「あ、私も桜と言います! えっと具体的には何をすれば……?」

「僕らの能力で、木之本桜さんを、過去の世界に連れて行きます。そして、原因を究明し、対策に打ち出します。世界を救い、彼も救いましょう」

依然ぐったりとしたケロちゃんに視線を促す。

「助かるの⁉︎ ケロちゃん!」

「僕たちの手で助けましょう。さて、みんな、いいかな?」

眼鏡の少年が、木之本桜と眼鏡の少女の肩にそっと手を置く。

「全身、リセット」

「いいよ」

ケイは頷く。

「春埼、リセットだ」

 

「リセット」

たったその一言で、世界は3日分巻き戻る。

 

依頼を受けたのはちょうど3日前。つまるところ、今日だ。管理局から、津島先生を通してのものだった。内容は、横浜の地で、能力勃発事故が起きた。その調査に赴いて欲しいというものだった。咲良田の外で能力が発動されたなんて話、聞いたこともない。けれど、超常的な能力が存在する世界だ。どこで何が起ころうと不思議ではない。そして、当面の課題は、元々の依頼主である、時雨沢恵一という人物に会って話を聞くこと。いや、これは2回目なので、どちらかといえば話をするのはケイの方だ。今回の依頼者は人気小説家。例えば人気ライトノベルシリーズ「キノの旅 the Beautiful World」の原作者である。ケイはライトノベルに明るいわけではない。だから、対して興味があるわけではないが、依頼なので仕方がない。なんて心持ちでいれば、ファンの人々から怒られそうだけれど。しかしながら、重要なのは、しかして横浜に来るのは、2度目だということだ。メンバーは、ケイと春埼、そして眼鏡の少年、坂上と、ドライバー係の加賀谷だ。そして、既に現地には、木之本桜と眼鏡の少女、村瀬陽香がいるはずだ。リセット前は車の中に村瀬もいた。このまま何もなければ、咲良田を抜け、一旦能力に関する記憶を失い、横浜に入った時点で思い出し、二人と合流し、時雨沢の部屋に赴く。そして、時雨沢本人と、キノという少女、そして、エルメスというバイクに遭うことになるはずだ。キノは特殊な能力を持っている。バイクであるはずのエルメスや猫や犬と会話することができるようなのだ。彼女に言わせれば、彼女自身の能力などではなく、彼女が元いた世界では当たり前のことらしい。猫の意識を得ることのできる能力を持つ野ノ尾盛夏を連れて来る必要はなくなった。そのことに対して複雑な気持ちがあるにはあるが、できる限り少数であることに越したことはない。

 

そこは横浜の地。

「えっと、私は木之本桜です。あなたは?」

「村瀬陽香」

「ここは?」

「さっきまでいたステージ上だけど?」

「でも、人がいない……」

「それは、3日前の世界だからよ。イベントはまだ始まっていないわ」

「本当に時間が巻き戻っちゃったんだ! すごい……!」

しばらく無言が続いた。

「えっと、それで私たちはどうしたら……?」

「ここで待つのよ。浅井たちが迎えに来るのを」

「いつまで?」

村瀬は軽くため息をついた。

「そうね、今からだとかなりかかると思うわ」

「えっと、陽香さんと、お呼びしてもいいですか?」

「好きにして」

「じゃあ陽香さん!」

言われてピクッと肩を窄める。

「私とお友達になってください‼︎」

「は、なんでよ」

「だって、かなり時間があるなら、たくさんお話して、仲良くなりたいな〜なんて思っちゃったりして、えへへ。だめですか?」

屈託のない笑顔。

「別に、いいけど。でも、友達になろうって言ってなれるものじゃないんじゃない……?」

「そんなことないですよ! もう私たちはお友達です!」

「というかこんな状況で、よくそんなことが言えるわね。いろいろと気にならないの?」

「それは気になるけど……。えっと、じゃあ、なんでここにいるのは私たちだけなんですか? 能力がどうとか言ってたような」

「そうよ、私たちはそれぞれに能力を持っている。あの浅井の隣にいつもいる春埼はリセットという能力を持っている。世界を3日分巻き戻す能力よ。そして、私は、対象のものを消す能力。その対象は別の能力にも有効だわ。それから眼鏡の男、坂上は、右手で触れた人の能力を左手で触れた人にコピーする能力。私の能力を、坂上の能力であなたにコピーした。だから、私たちはリセットの効果を受けずに記憶を保ち続けている。それ以外の人はみんな3日前からやり直しよ」

村瀬は不親切にもまくし立てるように早口で言った。

「ほえ〜〜」

話に頭が付いていこうと必死だ。

「で、でも、みんなが力を合わせてくれたおかげで私たちはここにいるってことなんですね」

その言葉に村瀬の瞼がピクリと動く。

「そうだ、あの浅井ケイさんはどんな能力なんですか?」

「記憶保持の能力よ。彼もまた、リセットによる記憶喪失の影響を受けない。正確に言えば、忘れない能力と言うより、思い出す能力と言うのが相応しいと思うけれど」

「そうなんですね。どんな人なんですか?」

「え、何よいきなり!」

唐突な切り返しに戸惑う村瀬。

「えっと、なんというか、能力もすごいと思うんですけど、みんなが力を合わせて能力を使う姿が、すごく団結してるというか、お互い信頼してるんだな〜と思って、それが何よりすごいことだなぁって」

瞳を輝かせるさくらから、思わず視線を外す。

「浅井……は、強いて言うなら、仲間。私を変えてくれた。復讐に燃えていた私の目を覚ましてくれた。できるなら、小さな幸せをたくさん作っていこうと、そう思わせてくれた。仲間……。これでいいでしょ⁉︎ 恥ずかしいこと言わせないでよ!」

一瞥(いちべつ)すると、

「恥ずかしくなんかないですよ! 素敵です」

変わらない瞳だった。

「もう!」

吐き捨てるように言った。

「じゃあ、緑の髪の、あの人は?」

「あの人は、よく知らない。3日前会ったばかりだし。3日前っていうか、今日の日付だから、これから遭うことになると思うけれど……」




私事ながら、ここ半月ほど、入院しておりました。顎変形症の手術で、もともと7mmほど、下顎が前に出ていて、かつ、左にずれて、無理矢理噛み合わせているという状態だったのですが、この度、おかげさまで、それが治りました。しかしながら、人工的に骨折させたということで、これまでほっそりしていた輪郭が、声優の梶裕貴さんに似ていると言われるほど、頬が腫れ上がりました。さて、登場してきた時雨沢恵一さんですが、本名を使わせていただきました。二次創作なので、大丈夫だと思いますが、もしかしたらまずいのかどうなのか……。もし、何かありましたら、お気軽にご指摘ください。
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