陽気な昼下がりの頃、一組の男女が向かい合い座っている。
男はイライラした様子でしきりにテーブルを指で叩き、女はゴソゴソと鞄の中から何かを探している。
「それでその金になる情報ってのはなんだ?」
「待ちなさい。物事には順番ってものがあるのよ」
痺れを切らしたヴァンが早く話せとばかりにせっつくもミラベルはずっと鞄を漁っているだけである。
商談を持ちかけるつもりなら初めからしっかりと準備しておけと内心毒づくヴァンを余所にようやく目的のものが見つかったのかミラベルはお待たせと言いテーブルの上に何枚もの紙切れを並べていった。
「これは?」
「十日ほど前から連日起きている児童誘拐事件。その被害者の親からの聞き込み結果よ」
「児童誘拐じけぇ~ん?」
聞いたことがないといった様子のヴァンにミラベルはでしょうねと呟き、早々に話を進めていく。
ミラベルが聞き込みしてきた内容は次のようなものだった。
子供と共に家へ帰る途中急に辺りが暗くなり意識を失った。気付いた時には子供はいなくなていた。
遊びに出かけていた子供を迎えに行くと子供はおらず、一緒に遊んでいた子供達に聞いてみたところおじさんが母親の代わりに迎えに来たと言い子供を連れて行ったとのこと。
他の内容も似たようなものでどれもが子供を連れ去られたという点で共通していたことでヴェネを警邏している兵士たちの間でも大きな問題として取り上げられているとのことだった。
「これが現在ヴェネで起きている事件についてよ。お金以外のことに興味がないあなたの為にわざわざこんなことまでしたんだから、これもきっちり情報料に加えておくわよ」
「……っち、がめつい女め」
「世界一あなたに言われたくない言葉よそれ。で、ここからが本題なんだけど」
「……」
「いくら出す? この後の情報に」
にっこりと笑みを浮かべるミラベルに対してヴァンはヒクヒクと顔を引き攣らせている。
ミラベルが言いたいことはつまりこうだ。情報屋である私から情報を買え。出来るだけ高く、だ。
額に指を当ててヴァンは思考を巡らせる。
わざわざミラベルが自分を呼び出してまでこの情報を買わせようとしているということ、その意味を考える。
大したことのない情報ならそれこそ呼び出す必要はない。宿屋で顔を合わせた際にでも持ちかければ良いことだ。そもそも自分に持ちかける必要すらないだろう。
つまりヴァンに持ちかけるのがお互いにとって最も旨みがあるという判断したほどの情報ということ。
ならば自分にも付け入る余地は十分にあるだろう。それを加味した上で提示する金額は……。
「良いだろう」
「いくら出す?」
「30Gでどう「さようなら」まてまてまて!」
席を立つミラベルをヴァンは必死になって止める。
振り向いたミラベルの目は道端の石ころを見るような完全に興味を失っている目だ。
ヴァンは慌ててあれやこれやと百面相を繰り出し再びミラベルへと金額を提示する。
「ひゃくごじゅ「800G」まて! せめてさんびゃ「700G」……くぅ、500Gだ!」
「――」
ヴァンの提示した金額にミラベルはん~と零しながら考えている様子だ。
ヴァンはその様子を見てなんとかこれで折り合いがつくかと内心胸を撫で下ろすとミラベルがニコリと笑みを浮かべた。
「じゃあ間を取って600Gね。さっきの聞き込み料が150Gで食事代50G。占めて800G」
「な!?」
「席に着いて。話を進めるわよ」
「こ、こ、このアマ!」
わなわなと震えている様子のヴァンにミラベルは先程の意趣返しと言わんばかりの条件を叩きつけてきた。
これ以上の値切りは通用しないとばかりに飄々とした表情のミラベルにいっそこのまま帰ってやろうかとすら考えた。が、ミラベルのことだ。聞き込み料だけでもかならずむしり取ろうとするだろう。ヴァン本人の意思はともかく情報は確かに聞いてしまったのだから。
そうなるとヴァンは損しかしないことになる。節制に節制を掛けることを信条としているヴァンにとって損しかしないことは絶対に避けなくてはならないことだ。
ならばどうするのか? 飲まざるを得ないのである。ミラベルの提示した金額で情報を買う。少なくともそれで損だけはしない限りなく無駄な出費だが損だけすることに比べればまだマシだった。
ヴァンはガックリと肩を落とし、席へと腰を下した。
「……で、情報とはなんだ」
「近い内にヴェネとその周辺の国々を対象に誘拐事件の犯人、またはその犯行集団をS級賞金首に指定するという触れ回りが出るわ」
「S級賞金首だと!?」
ヴァンは思わず身を乗り出していた。
S級賞金首。正しくはStrange級賞金首といい、リュエード内の国々とセプターズギルドの理事長による会談によって定められた犯罪者等級の一つである。
下からN級(Normal)S級(Strange)R級(Rare)E級(Extra)という等級になっており、S級は下から二番目ということになる。
S級に指定されるということは一つの町に著しい悪影響を与えたとされることなどが挙げられる。今回の事件の件なんかはまさにそれだ。おかしな点などはどこにもない。
ではなぜヴァンがこれほどまでに感情的になっているのか、それは――
「S級賞金首の懸賞金は一律1000G。その八割がお前の取り分とはどういう了見だ!」
「あら、正確には六割よ? 残りの二割はあなたの自業自得じゃないかしら?」
「ふざけるな。てっきりR級くらいの大物が出るのかと思えばたかがS級だと? 他当たれ他」
「他の連中じゃこんなにふんだくれないじゃない」
「はっきりとふんだくるとか言いやがった!」
ジーザス! と叫びながら天を仰ぐヴァンをミラベルは実に良い笑顔で見下ろしている。既にそこに情報屋としてのミラベルは存在せず、ただのミラベルが浅はかな男ヴァンを虚仮にしている様子しか残されていなかった。
そして騒ぎ過ぎた二人は当然店を追い出され、二人並んで肩を落として反省することになった。
「あ、言い忘れてたけど誘拐犯についての詳しい情報は別料金よ」
「死んでも聞くか」
そう言い捨ててミラベルとは別の方向へと歩き出す。
おそらくヴァンはこれから誘拐犯の情報でも探しに行くのだろうとあたりをつけたミラベルは800Gよーとだけ言い残し人混みに消えてしまった。
これから別の顧客に情報を売ってくるのだろう。情報屋は常に何人もの顧客を抱えているものだということを長年の放浪生活で培ってきたヴァンにとってミラベルの行動は不思議なものでもなんでもなかった。
むしろ今はいかにして誘拐犯をタイミング良く捕えなくてはならないという方がヴァンにとってはよっぽど重要なことだった。
近いうちに賞金首に指定、ということは今の時点ではまだ賞金首ではない。直ぐに捕えるよりも完全に賞金首に指定されてからでなければ賞金首狩りのセプター(バウンティセプター)の肩書は意味を成さないのだ。
しっかりと賞金首に指定されるまで被害者とその家族には申し訳ないが我慢してもらおう。ヴァンがそんなことを考えながら犯人の足取りを探して既に四日が経った。
ヴァンの思惑通り誘拐犯は昨日の時点でS級賞金首に指定され、ヴェネとその周辺に触れ回られている。今賞金首を兵士の詰所にでも連れて行けば賞金1000G は支払わられるわけだ。
「……支払わられるはずだったんだけどな」
しかしヴァンは現在犯人の捕らえるどころか足取りを追うことすら出来ない状況にいた。
現在ヴァンは……
その賞金首が入れられる予定であったと思われる詰所内の牢屋の中にいた。
「どうしたものか」
半日後、身元証明人としてミラベルが詰所にやってくるまでヴァンは閉じ込められていた。
第2話は以上となります。
主人公が2話目にして囚人となってしまいましたww
どうしてこうなったかって? それは彼が人間破綻者だからです。半分嘘です、次話で明らかになりますww