強欲セプターここに在り!    作:萱野 雲樹

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強欲セプター第3話でございます。


1章―ラウンド3 黒の狂剣

「信じられない!」

「……」

 

 陽も落ちて、ヴァンとミラベルは兵士の詰所から宿屋まで通じる裏通りを通っていた。

 牢屋に放り込まれたヴァンはあの後散々悩んだ結果ミラベルを呼び出し、身元保証人として牢屋から出ることとなった。

 突然詰所に呼ばれたミラベルは牢屋の中にいるヴァンを目の当りにした瞬間またこの男は何をやらかしたのかと思った。頭痛に悩まされながらも兵士から事情を聞けばこの男、児童が集まる所へ赴いてはじっと児童達を観察していたところを巡回中の兵士に捕えられたのだと言う。

 ただでさえ誘拐事件で警備が強化されているというのに何を考えているのだろうか。

 

「いや、ガキを誘拐するというのならそのガキどもを張っていれば犯人にたどり着くと考えてだな」

「その結果不審者として捕まってるんじゃおマヌケね! 賞金首狩りの名が聞いて呆れるわよ!」

 

 ズカズカと怒り肩で歩いていたミラベルがヴァン目がけて書類の束を投げつける。

 ヴァンは受け取った書類に目を通すと、そこには児童が誘拐された現場に印がつけられた地図のようなものも含まれている。

 

「その地図を見れば、犯行は港からそれほど離れていない地点でしか起きてないわ。犯人は逃走経路に海を利用している人物よ」

「――なるほどねぇ」

「――なるほどねぇ、じゃないわよ! この程度の情報もなしに犯人を捜せると思ってるの!?」

 

 感心する様子のヴァンにミラベルはゴブリンも裸足で逃げ出す剣幕で詰め寄る。

 情報屋としてのプライドからか、ミラベルは何かにつけて情報を集めたがる傾向にある。そんな彼女からすれば何も情報を集めずに行動を起こすヴァンに苛立ちを隠せない様子だった。

 流石のヴァンもまた牢屋にぶち込まれるわけにもいかない上ミラベルの情報がなければ犯人捜しは難航していたこともまた事実。反論する気にもなれないでいた。

 

「わかったわかった。――これによれば、今夜も港付近で犯行は起きるんだな?」

「おそらくね! おマヌケさんのヴァッカーには捕まえられないんじゃないの?」

「随分な嫌われようだな……丁度いい」

 

 立ち止まるヴァンにつられてミラベルも立ち止まった。

 

「ミラベル。お前これ以上俺に付きまとうのは止めろ。他にも情報提供しているセプターがいるのならそっちに付きまとえ」

「……そうしたいのは山々だけどね。あなたが隠している特大の情報を教えてもらうまで、逃がすわけにはいかないのよ」

「そんなものはない。いいからさっさと俺の前から……ッ!」

「ヴァン?」

 

 突如真剣な面持ちと化したヴァンにミラベルはただ事ではないことを察する。

 周囲を警戒するヴァンはスッと懐に手を伸ばす。取り出されたものはカルドセプトの破片であるカード。それはヴァンが最大級の戦闘態勢を取ることを意味している。

 そしてヴァンは裏通りに点在する一本の細道に目を付けると慎重な足どりでそこへと向かいだした。

 

「お前は先に宿に戻れ、絶対についてくんな! いいか、絶対だぞ!」

「ちょっとヴァン!」

 

 ミラベルの制止を振り切りヴァンは細道へと入ってしまう。

 細道は幾重にも分岐していて闇雲に進めば戻ることも困難になるがヴァンは迷うことなく分岐路を進んでいく。

 右へ左へ、また右へ進むとヴァンは立ち止まり、カードを掴む手に力が入る。この先に“ナニカ”がいる。長年放浪してきたヴァンの直感がそう告げていた。

 ゆっくりと壁際を進み分岐の先を覗き込むと……全身黒服の男が腰を下していた。

 

(様子をうかがうべきか? いや、あいつは明らかに裏の人間だ。すぐにでも攻撃を……)

 

尋常ではない空気を察したヴァンはカードを掲げ、カードに封じられたクリーチャーを召喚しようとする。

 

「召か……ッ!」

「セプター、か」

「ちっ、気付かれてたか! 来い!『ニンジャ』」

 

 バレているならば隠れている意味などない。ヴァンはすぐさま身を乗り出し黒服へとカードを向けクリーチャー『ニンジャ』を召喚した。

 するとカードが開き、ベキバキと異形な音を立てながらその体積を加速度的に増大させ一つの黒の装束を纏った人型の生命へと化した。これがカードの力、クリーチャーの召喚である。

 既に立ち上がっている黒服の男はクリーチャーを召喚し臨戦態勢を取るヴァンをじっと眺め、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

「いい判断だ。だが直ぐに攻撃しなかった点はまだまだ青いな」

 

 男が右手を挙げると、建物の上から一体化け物が降ってきた。

 化け物人の形をしていたが、全身を鎧で包みこみ、腕に人間では扱えないであろうサイズの剣を二本も装着していたカードの化け物、クリーチャーだ。

 

「……襲わせれば、返り討ちにあうと分かっていたからな」

「ほう、『バーサーカー』の存在に気付いていたか。なるほど、青いというのは訂正してやろう」

「行け! ニンジャ!」

「――御意」

 

 男が感心した様子で笑みをさらに深めていく。獰猛な獣を彷彿とさせる目の前の男にヴァンの中の警戒信号がマックスとなる。すぐさまニンジャに攻撃指示を行いカードが収められているブックから新たなカードを補充しようと試みる。

 ニンジャはヴァンの手持ちの中でも陸上で最速のクリーチャーである。しかし目の前の男には生半可な攻撃は通用しないであろうことが予測される。直ぐにでもニンジャを援護が可能なようにカードは常に用意しておきべきだ。

 

「本当にいい判断だ。だが――俺のバーサーカーを舐めるな!」

 

 男が吠える。それと同調するかのようにバーサーカーもまた奇声を上げながらニンジャへと突っ込んでいった。

 

「ぬ、早い!」

 

 両腕に装備された巨剣が縦横無尽にニンジャに襲いかかってくる。壁や障害物などお構いなしといったその攻撃をニンジャは必死になって捌いてはいるもののその手数の多さに圧倒されつつあった。

 

「距離をとれニンジャ、そいつの間合いでは不利だ」

「了解した主殿」

 

 ヴァンの命令に素早く反応したニンジャは壁を利用して上空へと跳んだ。

 そのスピードについていけないのと、よほど興奮状態だったのだろう。バーサーカーはニンジャを見失いその場に立ちすくんでいた。

 

「――勝機」

 

 棒立ち同然のバーサーカーにニンジャは背中に背負った巨大な手裏剣を投げつけた。

 爆発物質が仕込まれたその手裏剣は相手に突き刺さった瞬間に大爆発を起こす仕組みとなっている。もしかしたらヴァンも巻き込まれる可能性もあったが、自分の主ならこの程度問題ないだろうとニンジャは判断した。――そこに隙が生まれてしまった。

 

「ギャギギギギ!」

「な、なんと! 歯で受け止めた!?」

 

 手裏剣の気配に気づいたバーサーカーが高速回転する手裏剣をあろうことか歯でキャッチしたのである。

 その行動にニンジャだけではなくヴァンもまた驚きを隠せないでいた。その間にバーサーカーは次の行動に出る。

 

「ギャギャギャァアアアア!」

 

両足に力を込め、一気に解放ニンジャと同じ高さにまで跳躍した。

目の前にバーサーカーが出現したことで正気をとりもどしたニンジャであるが時すでに遅し。バーサーカーがすさまじい勢いで振り下ろした剣をまともに受け地面目がけで叩き落されてしまった。

 

「ニンジャ!」

「ぐ、ぐぅ……!」

 

 ヴァンの呼び声にニンジャが反応する。辛うじて命は助かったようだが、明らかにこれ以上の戦闘続行は不可能だろう。

 しかし、そんなニンジャを尻目に黒服の男は冷酷な言葉を投げつけた。

 

「殺せ。バーサーカー」

「ギャッハー!」

「やべぇ! ニンジャ!」

 

 動けないニンジャ。そこへバーサーカーの狂剣が深々と突き刺さった

 




第3話は以上となります。
主人公、児童を観察して捕まっていました。これでもこの作品の主人公ですww
そして登場したバーサーカー遣いの黒服の男……カンの良い方ならお判りでしょうあの人ですね。
はてさて、バトルの決着の行方は? それは次話のお楽しみということで
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