「やべぇ! ニンジャ!」
狂剣が深々とニンジャへと突き刺さる。黒服の男がニマリと邪悪な笑みを浮かべた次の瞬間、
ボワンというマヌケな音と共にニンジャの周りを白煙が包み込んだ。
「――なに?」
煙が晴れるとそこにはニンジャの亡骸は存在せず、バーサーカーの狂剣が貫いていたのはスカと張り紙された丸太にすり替わっていた。
ニンジャがいないことに気付いた男はすぐさま状況を整理する。直前までのバーサーカーの攻撃は確かにニンジャに深手を負わせていた筈だった。本来なら即死級であってもおかしくなかったが熟練されたクリーチャーであったのだろう。攻撃を受ける寸前で刀を手にし、防御へと当てていたのだ。
しかしそれでも大きなダメージであることには変わりない。バーサーカーの追撃を躱すほどの体力などあのクリーチャーにないことは明確だった。
ならばこの状況は、
「貴様の仕業、ということか」
男が鋭い視線でヴァンを睨みつける。
男の推測通りヴァンは一枚のカードを手に先程までニンジャが倒れ伏していた方へと向けている。
「そのカード……『リリーフ』だな!?」
「――ニンジャにはまだまだ稼いでもらわないといけないんでな、ここで破壊されてたまるか」
余裕の笑みを浮かべているヴァンだが、実際の所かなり厳しいものがある。
ニンジャはヴァンの手持ちの中でもかなり強力なクリーチャーである。その最大の武器であるスピードも、変化に富んだ攻撃もあのバーサーカーには通用せず、逆に叩きのめされてしまったのだ、あれに対抗するには更なる工夫が必要ということになる。
リリーフで一旦回収したとはいえニンジャはしばらく召喚出来ない。手元にあるカードであの狂戦士を相手に出来そうなのはもう一体いるが……、
(流石に路地裏では狭すぎるな……よし)
「どうした、次のクリーチャーは出さないのか? それともクリーチャーがいないのか、どっちにしろ貴様はここで殺す」
男がバーサーカーへ合図を送る。バーサーカーもニンジャを破壊出来ず不満だったのか狂喜の笑みを浮かべヴァン目がけて剣を振り下ろすべく大きく振りかぶり……
「“竜眼のゼネス”流石の実力だ」
バーサーカーの剣がヴァンの目の前でピタリと停止する。
「……その名をどこで、いやそんなことはどうでもいい。貴様、何者だ!」
黒服の男、ゼネスの声に激しい怒気が込められている。感情の波に左右されるように月夜に照らされた路地裏で竜眼の二つ名と呼ばれる所以となった、ドラゴン種のようなゼネスの左目がヴァンをしっかりと捉えている。“E級賞金首”に指定されているだけあってその迫力は並大抵のものではない。
「ただの放浪セプターだ。ちょっと賞金稼ぎもやっているがな」
「賞金稼ぎだと? なるほどな、名を聞かせろ」
「やだね。第一、聞いたところでこれから捕まるお前には意味がないだろう」
「殺されたいのか? とっとと答えろ」
「……ちぃ、ヴァンだよ」
「ヴァン――そうか、貴様“強欲の放浪者”ヴァッガー=ボンドかッ!」
ヴァンは心の中で舌打ちをした。ゼネスに名前を憶えられたのもそうだが、何よりも強欲と言われたことが甚だ遺憾であるためだ。
自分は別に何もかもを欲しがるようなゲスな前はした覚えもない、ただ何よりも出費を抑え収入を増やそうとしているだけなのだ。にもかかわらず周囲から強欲強欲と呼ばれ続けしまいには不名誉な通り名まで出来てしまった、そのことが非常に不満であった。
「強欲というのは知らんが、確かに俺がヴァッガー=ボンドだ」
「クッ、クックックッ、ハァーッハハハハハハッ!」
ゼネスの声が周囲へと木霊する。
一頻り笑い声を上げていたゼネスであったが、突然ピタリと笑うのを止めキッとヴァンを睨んだ。
「ヴァッガー、貴様が今考えていることを当ててやろう。“俺のバーサーカーを倒せるクリーチャーはあるがこの場所ではそいつを使えない。ならば俺の注意を惹き、広い所へ連れ出そう”――こんな所か?」
「……さて、な」
「いいぞ。貴様の企みに乗ってやる」
突然のゼネスの申し出である。これにはヴァンも驚きを隠せなかった。
ニンジャを圧倒した余裕なのか、それとも数々の死地を乗り越えてきた絶対の自信か、なんにせよヴァンはここにきて大きなチャンスを得た。
ゼネスの推測通り、ヴァンはなんとかしてゼネスを広い場所へ誘導するつもりだった。この路地裏を抜ければ港から引き揚げた魚介類を卸す巨大な市場がある。その周辺は人の出入りが激しいため広い土地を確保してあるので随分と闘いやすく、手持ちのクリーチャーの力も存分に振るえるのだ。――しかし、
「解せねぇ、何故ここで始末しようとしない? 人目を避けようとは考えないのか?」
「ふん、俺様が人目如きを気にするとでも思ったか! それに、万全の準備を整えた相手を叩き潰してこその完全なる勝利! 言い訳なぞ、一言たりとも言わさん」
ゼネスのポリシー、もはや戦闘本能の塊とも思えるその考え方にヴァンはどんでもないやつに目を付けられてしまったと冷や汗ものである。バトルジャンキーとは聞いたことがあったが、これほどまでにバトルへの執念を燃やしているとは思わなかったのだ。
結果的にそれがチャンスへとつながったのだからなんとも言い難いことこの上ない。
「さぁ、どうする? なんならここいら一面更地にしてやってもいいんだぞ?」
楽しそうにそう言い放つゼネスの手にはカードが握られている。この男は本気でやるだろう、この僅かなやり取りの中でもそう思える人物像をヴァンは的確に抱いていた。
ふぅ、とため息を零しゼネスに背を向け手で付いてこいと合図を送り歩み始めた。
ヴァンの後ろをゼネスが、その後ろをバーサーカーが付いて行くという奇妙の光景だがこの二人と一体は先程まで死闘を繰り広げていた仲であることを忘れないでいただきたい。
この瞬間でもゼネスがバーサーカーに命じればヴァンは振り返る間もなく両断されることだろう。しかしゼネスはそれをしない。先程の言葉が嘘でなければそんな方法でヴァンを殺しても勝利とは言えないからだ。ヴァンもそれを理解しているからこそ、カードは離さないまでもこうして無防備な背中を晒している。
――そして、場所は港付近の広場へと移り変わった。
「ここが貴様の墓標か、見た目にそぐわず見晴らしが良い場所だな」
「死んだ後は海に還るのも悪くねぇだろ? 無論、俺の墓標じゃないがな。まぁ賞金首には過ぎた場所かもな」
港の広場に人影は見えない。昼間はかなりの人見受けられたものだがこの時間ともなればほとんどの者が家に帰っている筈だが、まだ残っている者がいるらしく遠くに人影が見えている。
だがそれも直ぐにいなくなるだろう、ここはもうじき戦場となるのだから。
二人のセプターが再び相対する。
ゼネスはバーサーカーを、ヴァンは新たなクリーチャーを召喚すべくカードを握りしめている。
夜の広場に殺気が充満している。先に動き出したのはヴァンであった。
「来い! アームドギア!」
ヴァンがカードを掲げ高々に宣言する。その声に続きカードから鋼の巨人が姿を現した。
注目すべきはその巨体だろう。バーサーカーも2mを優に超す大きさだが巨人はそれよりもさらに巨大で3mを超すほどだ。
『アームドギア』と呼ばれたそのクリーチャーは無機質な身体をしており岩をも担げそうな巨大な両腕と湾曲した形をした両足を兼ねた機械のクリーチャーであった。
「ほう、そのクリーチャーは見たことがないぞ! 楽しませろ! ヴァッガーッ!!」
ゼネスの合図と共にバーサーカーがアームドギアに襲いかかる。しかしアームドギアは鈍重そうな見た目に反して軽快なステップを刻みバーサーカーの狂剣を避けていく。そして乱雑に振り回される剣の隙間を縫ってその巨大な腕でバーサーカーへ殴りかかった。
「なに!?」
ゼネスのバーサーカーの巨体が大きくぐらついた。アームドギアの右腕も剣がかすりバチバチと火花が走っているもののそのボディ自体は全くの無傷。その表情からはなんの感情も読み取れなかった。
「そうか……機械の体故に多少の損傷では動揺もせず、バーサーカーの攻撃の隙を的確に狙ってきたというわけか」
ゼネスの推測通り、アームドギアは相手クリーチャーの動きに対してコンマ一秒単位で反応し行動する。また機械は痛みを感じることも、動揺から気後れすることもないためただ戦闘本能の赴くまま攻撃してくるバーサーカーのような相手には最大級の力に発揮する、まさしく天敵とも言える存在だ。
「バーサーカーを押さえつけろ」
ヴァンの命令を受けたアームドギアはすぐさまバーサーカーの後ろへと回りこみ、無傷の左腕でバーサーカーの頭部を掴むとそのまま地面へと叩きつけた。
バーサーカーも必死に拘束を逃れようともがくものの先のダメージに加えて頭部を叩きつけられた衝撃で傍目には小鹿が立とうと身体を震わしているようにしか見えない。
ニンジャの時とは反対に、誰の目から見てもバーサーカーに勝機は見いだせないだろう。
「……」
「勝負ありだな」
言葉にならない様子のゼネスに、ヴァンははっきりと勝利を確信する。
呆然としている今この時がゼネスを捉える最大のチャンスだろう。ヴァンは捕縛用に常備している鋼鉄の拘束具付きのワイヤーをゼネスに装着しようと近づいた。
――その時だった。
「きゃあああああああああ!?」
広場に若い女性の悲鳴が響き渡る。
騒ぎを聞きつけた住人に目撃されたのかと思いきや、声の主はヴァンの良く知る人物だった。
「ミラベル!?」
ヴァンが声のした方へと身体を向けたその僅かな隙、その隙をゼネスは見逃さなかった。
疾風のようにバーサーカーのそばへ移動すると同時にバーサーカーをカードに戻し、そのままヴァンから距離をとった。
しまったと後悔するも既にゼネスは新たにカードを構えている。
「まさかこれほどまでとは思わなかった……。久しいぞヴァッガー! この俺を本気にさせた男はなぁ!」
召喚の掛け声とともにゼネスのカードが開いた。現れたクリーチャーは全身を西洋の甲冑に纏い、同じく甲冑を纏った黒馬に跨る鉄色の槍を携えた騎士のような姿をしたクリーチャーだ。
しかもそのクリーチャーは、ヴァンが知る限り最悪のクリーチャーである。
「よりにもよって『パラディン』か!」
「――その口ぶりはこいつを良く知っているようだな。ならこのクリーチャーの能力は知っていよう!」
ゼネスのパラディンが勢いよくアームドギアへと駆けていく。
その動きにアームドギアも反応し回避行動をとるもののバーサーカーの攻撃が掠った右腕だけが反応が鈍い。寸での所で完全な回避が間に合わずパラディンの槍が命中してしまう。すると槍を受けた右腕が激しい爆発音と共に砕け散ったではないか。
これがパラディンの能力、精霊の加護を受けていない無属性のクリーチャーへの強打攻撃である。アームドギアは無属性クリーチャーであるが故にその相性は最悪だった。
「ハハハハハッ! 脆い、脆すぎるぞ! 先程までの威勢はどうした!」
「……ちぃ!」
「さあ、止めを刺してやれパラディン!」
「させるか、こっちへ来いアームドギア!」
再びアームドギアへ攻撃しようとするパラディンだが、今度はしっかりと回避されてしまいアームドギアはヴァンの元へと舞い戻る。
ヴァンはアームドギアの無事を確認すると直ぐにその頭部に存在する操縦席へと飛び乗った。
「システムをオートからマニュアルに変更」
ヴァンを乗せたアームドギアから大量の蒸気が噴き出される。そして操縦桿を操るヴァンはアームドギアを操り移動を開始する。
……ゼネスとは反対方向へと。
「おい! どこへ行くヴァッガー!?」
「はっはっは! 悪いがてめぇとはここまでだ。俺としたことが当初の目的を忘れるとこだったぜ」
「……ふ」
「またな、竜眼のゼネス。次こそはお前の賞金を狩らせてもらうぞ」
そう言い残すとヴァンは先程聞こえたミラベルの悲鳴のした方角へとアームドギアを走らせる。――つまり、逃げだしたのである。
「ふざけるなぁあああああああああああああッ!」
残されたゼネスの怒声が広場全域へと響き渡る。パラディンはそんな主人を気の毒と思ったのか傍に駆けより、自分の愛馬に頭を主人へ擦りよせさせた。
第4話は以上となります。
はい、黒服の男の正体はカルドセプトの名ライバル、ゼネスでした。
私はカルドセプト全作をプレイしたというわけではありませんが、ゼネスが一番のお気に入りキャラですww
もちろん拙作においてもゼネスはライバルポジションを予定しております。今回はヴァンの逃亡による引き分け(?)でしたが今後ゼネスとどのようなバトルを展開するのか妄想が止みませんねwwあ、腐要素はありませんのであしからず。