強欲セプターここに在り!    作:萱野 雲樹

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強欲セプター第5話でございます。


1章―ラウンド5 決着

 ゼネスに背を向けたヴァンは今走っていた。正確にはクリーチャーに走らせていた。悲鳴が聞こえたのは港に停泊されている船団の方角だった、そして最近の誘拐事件は港周辺で、夜も更けた時間に起きている。

 もしかしなくてもミラベルは独自に犯人を追っていたのだろう。そして、その現場を目撃した。

 

「……! これは、あいつの鞄か!」

 

 アームドギアに拾わせて確認するも鞄の端にミラベルが気に入ってデザインしたらしいMを象ったレリーフが付いている。間違いなく本人のものだろう。

 明かりを灯し周囲を見渡せば、複数人の乱雑とした足跡が残されていた。塗れた靴で港に上がったのであろう、足跡はわずかに湿っている。ヴァンの推測通り犯人は海を経路に犯行を行っていたということだ。しかも複数名いることが確定した。

 

「あの馬鹿、捕まったみてぇだな。面倒くせぇ、あとで思いっきりふんだくってやる」

 

 ふぅ、とため息を零すもそれで犯人たちがのこのこと戻ってくるわけではない。改めて周囲を探索する。ミラベルが捕まったとするなら、情報屋と名乗る者ならばなにかしらその痕跡を残しているだろうという推測だった。

 

「――あれだな」

 

 案の上それほど離れていない場所に何か光るものが落ちていた。近づいてみればそれは小さな玉のようなものでデフォルメされたミラベルの顔が描かれている。間違いなくこれが痕跡だろう。

 

「…………」

 

ものすごく海へ投擲したい衝動を抑えながらヴァンは次の痕跡を探す。一つ、二つとデフォルメミラベルの描かれた玉を辿って行く。無論拾っていくことはしない、これがただの宝玉だったりすればまだ売れるのだがこんな落書きがなされたものを買い取る酔狂な人物がいるとも思えない。つまりヴァンにとってはただのゴミと同等の価値しかなかった。

 

 

 

 

 

 ミラベルの残した玉を辿ると玉は港の船を格納する倉庫街の奥地、古ぼけて現在では利用されておらず整備すら放置されているような古倉庫まで続いていた。おそらく犯行集団はこの倉庫を利用しているのだろう。

 アームドギアを倉庫から見えない場所まで移動させギアから降り、その場に待機を命じる。これ以上ギアに乗って近づけば気付かれる恐れがあった。後は気配を殺しながら近づいていくしかないだろう。

 その前に双眼鏡を取り出し、周囲の様子をうかがう。倉庫の入り口付近に男性が一名、その他周辺には人影は見えなかった。

 

「……見張りは一人か、随分と温い連中のようだな」

 

 既に自分達が賞金首にされているという情報は向こうも知っているだろう。にも関わらず警戒がゆる過ぎである。

 自分たちは絶対に捕まらないと思っているのかもしれないが、ヴァンから言わせてみればそういう輩の方が捕まえやすい。馬鹿な連中で良かったと内心ホッとするものだった。

 

「とりあえず、見張りには文字通り眠っておいてもらうか――『スリープ』」

 

 ヴァンが取り出したカードが開く。クリーチャーカードとは異なりカード自体が変わることはない、傍目にはどのようなカードを開いたのか判別しづらいものだった。

 しかしよく見ればヴァンの周辺、特にカードからなにやら半透明の煙がじわじわと染み出している。半透明の煙はヴァンの意志に従い緩やかに見張りの下へと忍び寄っていきその周囲を囲んで行った。すると見張りがいきなりふらつきだした。頭を抱え、おぼつかない足に喝を入れようと踏ん張るもののやがて耐え切れず、倒れ伏してしまった。

 それを確認したヴァンがゆっくりと気配を殺しながら近づき、倒れた見張りの様子を確認する。見張りはピクリとも動かず、まるで死んだように眠っていた。

 

(――よし、効いているようだな。はぁ、スリープ一枚いくらだと思ってんだよ)

 

ヴァンが開いたカード、それは呪文巻物(スクロール)と呼ばれるものだった。

呪文巻物(スクロール)は一枚のカードに一つ特定の魔法を封じ込めたもので、カードを開くことで発動されるアイテムの部類に属するカードだ。

似たようなものにスペルという部類のものがあるが、違いとしては使用回数に限りがあるか否かというものがある。

アイテムである呪文巻物(スクロール)は基本的に一回限りの使い捨てであり、新たに使用するためには同様の呪文巻物(スクロール)を新たに入手する必要がある。

その点スペルは魔力を補充すれば再び使用可能でありその利便性は呪文巻物(スクロール)の比ではない。

しかしその分スペルは高額で取引されており、そう簡単には手に入れることは出来ず節制を心がけているヴァンにとっては安価なアイテムで十分だと考えているのだ。

 

(あとは中の様子を確認して捕えられるようなら捕縛、だが人質の存在が厄介だな。まぁミラベルならどうなっても構わんが他に子供が攫われているとなるとやりにくい事この上ないぞ)

 

 倉庫の中に複数名の人の気配を感じる。港に残されていた足跡から人数は最低でも四人以上。内一人は今無力化したことで残りは三人以上となったわけだが、人質が何人いるか分からないのは大きな痛手である。ここは先ず、人質の人数を確認することが最優先だろう。

 

(……古い倉庫だ、辺りをくまなく探せば中の様子が分かる場所くらいあるかもしれんな)

 

 表の見張りの様子に気付かれる前になんとしても中を調べておきたい。

 ヴァンは眠っている見張りだった者を近くのコンテナの陰まで運び、倉庫の周辺を探索し始める。

しかし倉庫は常に潮風にさらされるため、古ぼけているものの外壁はしっかりと固められている。壁が崩れているような箇所は見当たらず、辛うじて光を取り入れるために取り付けられた小窓を発見したものの中の様子をはっきりとまでは確認することが出来ないものだった。

あとは倉庫の天井付近だが、どうやってそこまで行こうかと思考を巡らせていると倉庫の中から突然ざわめきが聞こえてきた。

 

(なんだ? 何を話している?)

 

 何か問題でも発生したのだろうか? まさか見張りがいないと気付かれたのか、ヴァンは危険を承知で小窓から様子を覗いてみようと身を乗り出した。

 ――すると次の瞬間、凄まじい轟音と共にヴァンからそれほど離れていない倉庫の壁が吹き飛んだ。

 

(なっ!?)

 

 崩れる倉庫から数名の男たちが逃げまどう。その中に気絶しているミラベルらしき女性と小さな女の子を抱えた男も交じっており、ここで逃がしてしまえば後の手がかりが無くなってしまうだろう。

 ヴァンは急いで男たちの後を付けようと走り出す。しかし、その後ろから聞きたくなかった男の声がヴァンを呼びとめた。

 

「見つけたぞ、ヴァッガーァァァアアアアアアアアアッ!」

「ゼネス!? まさか追ってきたのか!」

「俺様をコケにしやがった貴様だけは絶対に逃がさんぞ! この臆病者がぁああ!」

 

 ギラギラとした殺意を全身から噴出させているゼネスに、ヴァンは自分の浅はかさを呪った。

 中途半端にプライドを刺激してしまったことでゼネスの逆鱗に触れてしまったのだ。おそらく、再び逃げ出すことは絶対にさせてもらえないだろう。

それこそ町中を破壊し尽くしてでもヴァンを探しだしてやるという強烈な執念をゼネスから感じ取ったヴァンは、チラリと逃げ惑う犯行集団を見やる。

 

(……くそったれが!)

「よそ見とは余裕だな? 殺せ! バーサーカー!!」

「くっ!?」

 

 一瞬の隙を見せたヴァンに速攻で攻撃をしかけさせるゼネス。復活したバーサーカーの振り下ろした一撃をヴァンは全力で飛び退き回避する。

 

「アームドギア!」

 

 そのままバーサーカーに気を配りながらアームドギアを遠隔から起動させ、多少距離は離れているがヴァンの下へと走り出している。アームドギアが到着するまでの数秒の間、それまでなんとしてもこの狂戦士から生き延びる必要があった。

 

「ふはははははッ! 随分と変わった踊りだなヴァッガー! それ、もっと激しくしてやろう!」

「キィィイイイイルキルキルキルキルキルキルキル!!」

(こっのっやっろう! ギリッギリ、俺がっ避けれるようっに、加減してっ、やがる!)

 

 本気でバーサーカーをけしかけられているのならば既にヴァンは肉塊と化していたことだろう。にもかかわらずヴァンがこうして生きていられているということはゼネスが意図的に殺そうとしていないということに他ならなかった。

 しかしそれでも必死にバーサーカーの攻撃を避ける。避ける。避ける。一瞬でも気を許すと容赦なく狂剣はヴァンを切り刻むことだろう。ゼネスの加減はあくまで必死に避けることで死なない程度の加減でしかないのである。

 

「あ、あ、アームドギアァアア!」

 

 ヴァンの決死の叫びに応えるように、アームドギアの左腕が唸る。高速移動からの一撃はバーサーカーを軽々と吹き飛ばし、崩れかけた倉庫へと押し戻した。

 しかしバーサーカーは全身をバネのようにしならせ、まだ無事である倉庫の外壁へと着地。一気に広がる巨大なひび割れがその破壊力を物語っているもののバーサーカー自体へのダメージは極僅かに抑えられたようだ。

 

「ふぅ……ふぅ……」

 

 決死の攻防から生還を果たしたヴァンは全身から大量の汗をかき、息も絶え絶えといった様子である。その様子にゼネスは満足そうな笑みを浮かべカードを構えた。

 

「さぁ、本番といくぞヴァッガー。そう簡単に死んでくれるなよ?」

「なに、を……」

「バーサーカーの狂気を解放するのだ――『バイタリティ』」

 

 ズグンと周囲の空気が重くなった感じがした。

 ゼネスがカードを開くと同時にバーサーカーの様子が急変したのだ。

 腕が、足が、全身が、みるみる膨張していき2m超程であった体がアームドギアと同等の3m超にまで変質していきその狂気は先程とは比べ物にならないほど凶悪に、邪悪なものへ変わってしまった。

 

「バイタリティ……そんなカードまで持っていたか」

 

 幾分か呼吸も整ったヴァンが真剣な表情で変化を遂げたバーサーカーを見定めている。

 ――バイタリティ、それは自らのクリーチャーの活力を一気に活性化させて通常時以上の戦闘力を引き出すスペルである。しかしそれは同時にクリーチャーの凶暴性も活性化してしまうため気を付けなければ使用者にすら攻撃してしまうことすらある危険なスペルなのだ。

 それをもし、元から凶暴性の極めて高いクリーチャー……それこそバーサーカーのようなクリーチャーに使用した場合どうなるか? その答えが今ヴァンの目の前にある。

 

「ゴギャガガガァァァアアアアアアッ!」

 

 周囲を吹き飛ばすほどの爆音と聞き間違うような咆哮だった。大気を震わすその声量、尋常ではない威圧感、全身からむき出しとなった凶器の数々がヴァンへと向けられている。

 

「さぁ、どうするヴァッガー。こうなったバーサーカーはもはや死ぬまで止まらんぞ! ふははははははっ!」

 

 勝利を確信しているのか、ゼネスは声を高くして笑っている。それに対してヴァンはと言えば対照的なまでに静かだった。

 

「…………ふぅ」

「ん? なんだヴァッガーため息なんか吐いて」

「この町に来てからというもののミラベルにはボったくられるわ、犯人捜しで逆に捕まるわ、E級賞金首に命を狙われるわ、犯人には逃げられるわ……碌な目に遭ってねぇ」

「そうか、大変だなとでも言ってもらいたいのか?」

 

 ヴァンの口からクックックッと忍び笑いが零れる。この期に及んで平坦な様子のヴァンにゼネスは一抹の不安がよぎった。この男はまだ何かを企んでいると。

 

「いい加減そろそろ俺も苛立ちが限界なんだ。さっさと犯人捕まえてこの縁起の悪い町からオサラバしたいんだよ」

「だから、どうしたと言うのだ」

「どうもしないさ、ただちょっと憂さ晴らしにそいつをぶっ飛ばすだけだ」

 

 ヴァンの何気ない風の一言にゼネスは一瞬唖然とする。

 聞き間違いかとも思ったが、ヴァンの表情は淡々としたものでアームドギアをカードへと戻し、手には新たなカードが収まっている。本気で、バイタリティで極限にまで狂化されたバーサーカーを倒そうと言うのだろう。いや、倒せると言ったのだろう。

 

「随分と大きく出たが、出来るのか? 貴様に」

「本気でやれば――なんとかな」

「面白い! ならば見せてみろその本気とやらを!!」

 

 ゼネスの合図と共に狂化されたバーサーカーが限界を遥かに超えたスピードでヴァンへと襲い掛かる。

 ヴァンは手にしたカードを前へと突きだし、静かにカードを開いた。

 

「『    』『    』」

 

 強烈な光だった。一瞬の間ヴァンもゼネスも、バーサーカーの姿さえも確認出来ないほどの強烈な光が周囲を覆った。

 

「な、何事だ!?」

 

 突然の出来事にゼネスは思わず目を眩ませてしまう。光はそれほど長くはなく、直ぐにも治まり周囲には夜の闇が戻った。

 光が収まったことでゼネスの視力も徐々に回復していき、何が起きたのか確認しようと目を凝らす。するとそこには無傷のヴァンと――砕け散り、消滅しつつあるバーサーカーの亡骸が在った。

 

「なっ! お、俺様のバーサーカーがやられただと!? 馬鹿な!」

「……久しぶりの召喚だったが、うまくいったか」

「貴様、貴様何をした!?」

 

 狼狽を隠せないゼネスがヴァンへと詰め寄る。ヴァンは足どりがおぼつかずその場に倒れ伏してしまい、そのまま気を失ってしまった。

 何とか気絶したヴァンから聞き出そうと胸倉を掴みあげるゼネス。しかし町の方から大量の人影がこちらへやってくる気配を感じ取ると苦々しい表情を浮かべ、掴みあげた両手からヴァンを離しその場から逃げ出した。

 




第5話は以上となります。
4話のあとがきで勝負は引き分けと言ったな、悪いがあれは嘘だ。
いえ、4話を投稿した後夢の中でゼネスに決着をつけさせろー決着をつけさせろーと言われたんですよ(マジで夢に出てきたから困った)そこで急遽プロットに書き加えて5話で決着をつけさせようということになりました。夢の中までバトルを強要させるゼネスさんマジパネェッス。

最後にヴァンの使ったカードは今後の重要な伏線となります。はたしてそれはクリーチャーなのか、アイテムなのか、スペルなのかは……内緒でございます。
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