見覚えのある天井だ。
目が覚めると固いベッドに横たわっており、頭上に見えるクモの巣の張った石造りの天井を見たヴァンは心の中でそう呟いた。
むくりと身体を起こし周囲を見渡せば壁も石造り、部屋の隅にある用をたす為の桶、そして廊下は丸見えながらも鉄格子により脱出を防ぐこの警備……間違いなく牢屋だ。しかも先日放りこまれた部屋と同じところのようだった。
「……なぜ、またここにいる?」
「それは貴様が破壊された古倉庫の近くで倒れていたからだ」
ヴァンの疑問に答えたのは一人の屈強な身体をした衛兵だった。
衛兵は全身を覆うチェーンメイルに頭部を守るアーメット、腰にはロングソードのような剣を差し臨戦態勢をとっている。先日までは衛兵がここまでの装備はしていなかった筈、そう考えているとヴァンは自分のカードが一枚も見当たらない事に気付き舌打ちを鳴らした。
「そうか、セプター対策か」
「そういうことだ。貴様には倉庫の他に町の一部で暴れ、破壊した罪、および誘拐犯の一味としてこれから厳しい取り調べを行う手筈となっている。取り調べが始まるまで、ここで大人しくしてもらおう」
「まて、確かに俺はセプターだ。だが俺は町を壊してなどはいないし、あの倉庫を倒壊させたのは別のセプターだぞ。それに俺は誘拐犯に肩入れなどしていない、むしろ奴らを追っていたんだぜ?」
「そのような無駄な言い訳は取り調べでのたまうのだな」
ヴァンの訴えを衛兵はあっさりと聞き流し、牢屋に背を向けてしまった。
衛兵への説得は無駄だと感じたヴァンは小さく舌打ちし、ベッドに横たわる。
どれほどの時間が過ぎただろうか、牢屋の中では時間の感覚は分からないため今が昼なのか夜なのかも分からず痺れを切らしたヴァンはベッドから起き上がり牢屋の前の衛兵へと詰め寄った。
「……おい、いつまでここに押し込む気だ」
「大人しくしていろ! ……貴様の取り調べは貴様の仲間たちをまとめて捕まえてから行われる。まぁ、セプターのいない海賊なんぞ直ぐにでも制圧されるだろうがな」
「だから俺は誘拐犯では……まて、海賊だぁ? まさかこの町の守護隊は既に犯人の目星が付いてんのか?」
ヴァンの問いかけに衛兵は何をぬけぬけとといった風に鼻で笑う。
ヴァンは静かに焦りを募らせた。衛兵の言う言葉が真実ならば守護隊は既に一連の誘拐事件の犯人を特定していたということになる。
にもかかわらず今まで犯人を捕らえようとせず、みすみす子供を誘拐させていた理由とは一体なんであろうか?
『まぁ、セプターのいない海賊なんぞ直ぐにでも制圧されるだろうがな』
「っ! おい!」
「な、なんだセプターめ! カ、カードがない貴様らなど恐れることはないのだぞ!? さっさと奥に戻らないか!」
鉄格子の隙間から衛兵の肩を掴みこちらへ向かせようとする。しかし衛兵はヴァンに触れられた瞬間大きく身体を振るいヴァンの手から逃れた。
腰のロングソードを抜きヴァンへと向ける衛兵の表情は酷く強張っており、強がる言葉とは裏腹に声が震えており、セプターであるヴァンに対しての恐怖感を隠しきれない様子であった。
これでは話どころではない。ヴァンの衛兵の様子にため息を零し、両手を挙げながらゆっくりと鉄格子から離れる。
ヴァンが大人しく退いたことで衛兵も多少は安心したのか剣を下げる。しかし鞘に納める様子を見せないことからまだ警戒は解けていないようだ。
ヴァンは改めて衛兵を刺激しないよう、ゆっくりと慎重に口を開いた。
「……ちょっといいか? さっきあんたの言ったことで質問がある」
「う、動かずにその場で言え。そうすれば聞いてやる」
下手な動きを見せれば即座に斬りかかる、と暗に宣言しているようなものだがヴァンは静かに首を縦に振った。それほどまでにセプターという存在は恐れられているのだ。
事実ヴァンが一枚でもクリーチャーカードを所持していればこの牢屋を丸ごと吹き飛ばし、詰め所の兵士たちを全滅させることだって可能だろう。
まぁ今は全てのカードを没収されているのでそれは出来ないのだが、セプターではない者からすればそれでも不安であることには変わりないのである。
「――この町で起きていた誘拐事件について、あんたたちはどこまで情報を掴んでいるんだ?」
「……そんなことを聞いてどうするんだ、今から仲間に伝えようとしても無駄だぞ。先程海賊の討伐隊が出立したのだからな!」
ヴァンの質問の意図が掴めない様子の衛兵にヴァンは内心仲間ではないのだがと零す。
衛兵はしばらく考え込んでいる様子だったが海賊の討伐を確信しているのだろう、ゆっくりと口を開いた。
「……一連の誘拐事件のことで市民から寄せられた目撃情報から海賊一味と思わしき集団の情報が入っている。それも近年活動が活発になってきた近海の海賊一味のものだ、その海賊の頭にセプターがいる、お前のことだろう?」
「違う、俺は数日前この町にやってきたばかりの流れ者だ。ちょっと賞金稼ぎなんかもやってるだけのな」
「ふん、そんな見え透いた嘘が通用するわけがないだろう」
鼻で笑う程度の余裕が戻ってきた衛兵だが、ヴァンの次の言葉でその余裕は吹き飛んだ。
「おかしいと感じなかったのか? 仮に俺が海賊の頭だとして、なぜ海賊たちは俺を置いて逃げたんだ?」
「それは……」
「次に、セプターである俺をただの人間が倒せるとでも思ってんのか? 他のセプターの存在を確認は? 以上を踏まえた上で俺がその海賊たちの頭であるという根拠は何だ?」
「…………」
ヴァンの言葉攻めに衛兵は何も言い返す事が出来なかった。
次第に顔を真っ青にしていき、屈強な身体を小刻みに震わせ恐怖を身に刻んでいる。
これでこの衛兵はヴァンが誘拐犯の一味かどうか、疑わしく感じていることだろう。ゼネスのことを話すことも考えたが、この平和な町にE級賞金首が潜伏しているなどと話したところで混乱を生じるだけで信じられるのは難しい。ならば下手にそういう情報を漏らすのは得策ではないと考えてのことだった。
もう一息、もう一息でこの衛兵は完全に折れる。
そう確信したヴァンは最期の切り札を切った。
「確か被害者の親から取った調書に一つ気になるものがあったな。確か――『家へ帰る途中急に辺りが暗くなり意識を失った。気付いた時には子供はいなくなっていた』だったか」
「……それならば我々も聞いている。それがどうしたというのだ」
「俺のカンが正しければ、真犯人はかなりえげつない隠し玉を持っているぞ。それこそ討伐隊を全滅させることも出来るほどのな」
「なっ!?」
ヴァンの言葉に衛兵は愕然としてしまった。
ヴァンの言うとおりだとするならば、海賊たちには未だ頭のセプターが付いており自分たちが絶好のチャンスだと考えて送りだした討伐隊は万全の態勢を整えた海賊たちのカモとなりえる可能性があるということだ。
――しかしそれもヴァンの言葉が真実であるならばという前提の元にある。
そう、まだヴァンが海賊たちの頭のセプターでないという確固たる証拠は……証拠は……、
証拠なんて、どこにもないじゃないか。
「俺をここから出せ。そうすれば俺がその海賊どもをまとめて捕らえてやる。賞金首狩りの名にかけて、な」
「しょ、賞金首狩りだと!? お、お前があの!?」
賞金首狩りの名を聞いた途端衛兵の様子が大きく変わった。
手にしたロングソードはカラァーンと音を立てて地面へと落とされ、身体をわなわなと震わせながらゆっくりと向かいの牢屋まで後退りしている。
どうやら効果てきめんだったらしく、衛兵はしきりにあの強欲セプターが……などと口にしている。強欲セプターという言葉に眉を潜ませるヴァンであったがなんとか平常心を保ちつつニィッと悪魔のような笑みを浮かべて衛兵に向かってこう言った。
「さぁ、どうする? 今ならちょっとは安く雇われてやるぜ?」
第6話は以上となります。
戦闘描写がないとやはり短くなってしまいますね……。
GW中はずっと執筆時間に充てたいと考えてましたが、アルバイトやら他の仕事やらでなかなかその時間が取れません_(:3_)
こういうときは今期のアニメ視聴に限ります。ノーゲームノーライフ面白いよくぎゅうううううううううう!