朝日が目に刺さって、オレは目を開けた。
時計を見る。もうそろそろ起きないとヤバげな時間。
「あと5分……」
とりあえず言ってみる。
ジッサイには、5分も寝たら電車が一本いっちまうワケだけど。
「ふんっ! ん~」
気合いを入れて起きあがって、伸びをする。
昨日重労働をしたからか、ちょっとあちこちの関節がぴきぴき言うような感覚。
今日から、2学期が始まる。
「クラスの女子の結束力」 03/06/12 by TANA
トウゼンのことながら、学校へ向かう足取りは重い。
なにせ昨日まで夏休みだったのだから。
一学期の間ぜんぜん気にせずに通っていた道のりなのに、
一ヶ月ちょっと使わなかっただけで、なぜにこんなにカッタルイのだろう。
「……」
でもまぁ、学校に近づくにつれて、ちょっとずつその足取りも軽くなっていく。
理由は言うまでもない。
……もうすぐ、早瀬に会えるからに決まってるじゃないか!
早瀬。
フルネームは早瀬美奈。俺と同じクラスで、去年も同じクラスだった女の子。
去年から、まぁ割と気が合うというか、よく喋るような間柄だった。
今年のクラス替えでも一緒になって、グウゼン隣の席になって。
まぁ前からカワイイとは思っていたけど、むしろいい友達だと思ってた。
それが。
「……あのさ、エッチしない?」
そう言われたのが、……もう2ヶ月以上前になるのか。
はじめは、ほんのグウゼン。
オレが傘を取りに教室に戻ったら、男と別れ話してて。
成り行きでちょっとした芝居をする羽目になって、その直後に言われた言葉が
これだった。
それから俺たちは、いわゆる、セックスフレンドの関係になって。
それでまぁ、色々あって、正式にオツキアイすることになったのが、終業式の前の日だ。
だから、夏休みはほとんど毎日のように会っていた。
まぁ、その、エッチもたくさんした。
おとといは世界最大のテーマパークであるところのデウスガーデンにも行った。
昨日も早瀬の家にいた(というかおとといから泊まったんだった)。
そうだ。
学校に行けば、早瀬がいるんだな。
ゲンキンにも、オレの足取りはとたんに軽くなる。
いつものように教室に入れば、たぶん早瀬は先に来てるんだろう。
なんて今日は声をかけようか。
そう言えば、その、付き合いだしてからという意味では今日、はじめて教室で声をかける
ことになるのか。
うむ! これは重要だ。
何しろ、ここで変な声のかけ方をしたら、2学期の間ずっとそれを引きずることに
なりかねない。
「何がいいか…オッス…いや、これは前から使ってたな…」
「おっはー。……いや、これは小平の得意技だ。あいつの真似だと思われたら悔しい」
「おはよう」
「ぐーてんもるげん! …悪くない。悪くないが、もし、早瀬がドイツ語を知らなければ
まずいな。自分でネタを解説するのはちょっと…」
「おはよう、高辺クン?」
「よい朝ですね、マドモアゼル。…うーん。これをやるならカイゼル髭がないとな…」
「あのーもしもしー?」
「むぅ、オレの頭のネタ倉庫がこれほど貧弱だとは…この海のリハク一生の不覚!」
「たーかーべークン!」
「って誰だ、さっきからオレの仕込みを邪魔するのは…って、うわぁっ! 早瀬っ!?」
気がつくと目の前に早瀬がいた。
「ははは早瀬、いつの間に!?」
「何言ってるの、さっきおはようって声かけたじゃない」
「そ、そうだったっけ…? …あー、うん、おはよう」
「もう、シツレイしちゃうなー」
早瀬がぷっと頬をふくらませている。
もう、とっくの昔に見慣れているはずの制服に身を包んでいるのに、
なんだか初めて見るみたいにきらきらして見えた。
「って、あれ、まだ校門でもないのに、なんでまたこんなところに?」
「んー、いや、その…」
なんか言いにくそうにする早瀬。
「えと…キミと一緒に…登校しようかと思って……」
「!?」
ぐはっ!? きたきたきたっ!
……カワイすぎる……。
瞬間的に頭に血が上ったんで、耳から血が吹き出そうな錯覚すらする。
「ダメ……かな?」
「んなことない、というかむしろ大歓迎!!」
あまりのウレシサについ大声になってしまうオレ。
「そう、ならいいんだけど」
ほっとしたように、早瀬。
「ところで、さっき何考え込んでいたの?」
「いや、もうどうでもいいことだ」
「?」
つか、ほんとにどうでもいいな…。
「終わっちゃったねー、夏休み」
言いながら、自然な調子で手を繋いでくる早瀬。
「そうだな」
休み中なんども手を繋いで歩いたので、オレも驚かずに握り返す。
「クラスの連中とか、どんな過ごし方したのかな」
「んー、それぞれじゃない? 家族で海外旅行とかするって子もいたし」
「男はバイトするってのがが多かったなー、なんか出会いがほしいとか言って」
そういえば早瀬は休み中バイトしようかな、とか言ってたが、ジッサイにはオレと遊んで
ばっかりでそんな暇はなかったな。
「ダメだなぁ、クラスの男子諸君は。ウチのクラスの女の子だって可愛い子多いのに」
「そりゃそうかもしれないけど、クラスの女子って気が強いのが多そうだからなぁ」
「気が強いとダメなの?」
「というか結束も堅そうだから、なんか失敗したら女子全員から白い目で見られそうだ」
「あ、それはあるかも」
「もし告白してフラれたら、クラスに居場所がなくなりそうな気がするぞ」
「にしし♪ 女の子のネットワークは凄いからねぇ」
「特にウチのクラスは女子が強すぎると思う……」
教室に入ると、もうほとんどのクラスメートが揃っていた。
あまりに日に焼けた人間がいないのが、ウチのクラスらしいというか、ウチの学校らしいというか。
「おはよう」
最初に声をかけてきたのは、佐藤だった。
あとからとてとてと、小平も寄ってくる。
「うーん、朝からいい感じだな、お前ら」
「?」
「愛し合うフタリ、ちゅーやつやねんなぁ」
ふたりの視線の先を見る。俺たちの繋いだ手に。
……繋いだ手?
「あああっ! つい手を繋いだまま教室にっ!?」
「でも流石に、そこまでされると見せつけられてる気がしてあまり嬉しくないぞ、私は」
「いや、これは…そのっ」
思わず早瀬を見る。
早瀬も顔を赤くして、うつむいている。
「と、とりあえず席に行くぞ」
「う、うん…」
「というかそこまで照れながらも手を離さないとは、ええ根性や~」
なんか小平がクネクネして照れているが、無視して席へ。
「や、やっぱり、マズかったかな…」
早瀬に話しかけながらも、オレの頬はゆるみっぱなし。
思ったほど、学校が始まるのも悪くないかも…。
とか思っていたら、佐藤の声。
「あ、そうそう、今日は席替えだからな」
----いきなり地獄に落とされた。
「というわけで、席替えです」
佐藤のよく通る声が響く。ホームルームの時間だが、担任は佐藤に任せて職員室へ戻って
しまった。
「くじ引きにするので、端の席から順番にひとりずつ取りに来てください」
「はぁ…この席のままがいいのにな…」
誰にも聞こえないように、つぶやく。
「にしし♪ 私の隣から離れたくないって?」
--と思っていたら早瀬に聞かれた。
「もう私なしでは生きていけないカラダになっちゃったのね♪」
「…わりーかよ」
「う。や、やだな…そうストレートに返されると、こっちまで恥ずかしくなるよ」
「……早瀬はオレの隣じゃなくなっても平気なのか?」
ちょっとすねたように聞くオレ。
「平気だよ♪」
「ぐは」
あっさり返されてちょっぴりショック。
「キミも前の方の席に行ったりすれば、ちょっとは授業をまじめに聞くんじゃないかな」
「あ、それはない、保証する」
「…そんなに胸はって言うことじゃないよ」
はぁ、とあきれたように肩を落とす早瀬。
「高辺ー、お前の番だ、早くくじを引け!」
佐藤の声が響いた。
「……34番」
オレの席は窓際の、後ろから2番目。ポジションとしては悪くない。
ただし、早瀬は、隣の列のずっと前だった。
オレの隣にはなんと蕪皿。その前が佐藤。
オレの後ろには満作。
「はぁ…」
ワレながら、おもーい、ため息。
「む、友よ、悩み事か。わしでよければ相談に乗らせてもらうぞ」
「いや、…気持ちだけもらっておくよ。ありがとな」
満作に返す返事もなんか精一杯。
「私が隣では不服か」
急に蕪皿から声がかけられた。
「いや…お前が不服と言うわけじゃないが……」
「……」
ふ、と表情を変えずに蕪皿が笑う。
「委員長」
「ん、どうした、カブ?」
「私は目が悪いので、前の方と交換してほしいのだが」
「!?」
この時ばかりは蕪皿が無表情の天使に見えた。
「そうか。じゃあカブ、一番前にずれて。あとはみんなひとつずつ後ろ」
佐藤は悪魔に見えた。
「……と、そういえばぁ、私もあまり目がよくないんだったなぁ」
え? 佐藤って、視力いいんじゃなかったっけか。よくしらないけど。
「あ、私もあまり」
「私も」
え? え?
何故か、早瀬の列の女子が口々に訴え始める。
「うんうん。じゃあ、ひとりずつ前にずれていってもらおうか」
で、その結果。
魔法のようにオレの隣には早瀬。
「にゃはは♪ やっほー」
「……」
「ん? どしたの?」
いたずらっぽく笑う早瀬。
「…なにがどうなってんだ?」
「だからさっき言ったでしょ? 『平気だよ』って」
「…そう言う意味かよ。はじめからこうなるように仕組んであったのか?」
「んー、ウチのクラスって意外に目が悪い人多いんだねー、私びっくりしちゃったよ♪」
うわすげえ白々しい。
でも、結果オーライだからいいのか…?
と思ったら後ろから肩を叩かれた。
「友よ、わしも目が悪いのだが、前に行った方がいいのだろうか…? 別にここでも平気といえば
平気なのだが。皆の様子を見るとわしも前に行くべきなような……」
「いや満作それは絶対やめたほうがいいぞ」
言いながら、横目で早瀬を見る。
「今お前が動いたら、クラスの女子全員から殺されるかもしれない」
「む、そうか…お主がそう言うならば、やめておくことにしよう」
早瀬は幸せそうにこっちを見て笑っていた。