「……」
「……」
「どうしてこんなことになっちゃったんだろ……」
「いや、1から10まで早瀬が原因だと思うけど」
「……ぜんぶー?」
むー、とこっちをにらみつける早瀬。
「……オレに何か間違いがあったか?」
じゃらり。
オレと早瀬。
ふたりの手を繋いでいるのは、重たいクサリだった。
──────────────────────
「運命の赤い。」 03/08/05 by TANA
──────────────────────
まぁなんでこんなことになったかというと、夕べのこと。
「にしし♪ ……実は、こんなものがあるんだけど」
そう言って早瀬が取り出したるは、なんと手錠だった。
それも警察が使うような鉄製のものじゃなくて、SMクラブとかで使いそうな、手につける
部分が赤いレザーで出来ているというシロモノ。
クサリはやたら頑丈そうにぶっとい。
クサリを構成する鉄の輪っかの太さだけで1cmくらいありそうだ。
しかも、手のトコロのレザーを止めるところはご丁寧に錠前までついてる。
「オマエ……そんないかにもなアダルトグッズ、どこで手に入れたんだ……?」
「えっとね、道を歩いていたら不思議なことに、爆乳堂とかいう店が」
「オッケ、もうわかった。何も言わなくていい」
あれが出てくるとちょっと世界観壊れちゃうしな。
「というわけで、今日はこれ、使ってみない?」
「使うって……」
「にゃはは♪ 高辺クンは縛るのと縛られるの、どっちが好き?」
「えぇと、縛られるのはこないだやられたから今日は縛る方がいいな」
「そう?」
V-Typeを買ってない人にはわからないかもしれないが、そこはあきらめてください。
「……誰と会話してるの?」
「んにゃ、なんでもない」
「そう? それじゃ……」
そっと、こちらに手を差し出してくる早瀬。
「縛って♪」
「ぐはあっ」
……マズい。激しく可愛すぎる。
まぁ、そんなカンジで。
今日もオレたちはそれなりにシアワセだった。
まさか、その後にこんな落とし穴が待っているとは。
「……ん……」
……あれ、オレどうしたんだっけ。
目を開けると、目の前には早瀬。
ああ、そうか。昨日は手錠ぷれいでついついがんばりすぎちゃって。
そのまま早瀬の部屋に泊まってしまったんだった。
「ふわぁ……」
と、大きく伸びをすると、じゃらり、と重そうな音がした。
「……?」
はて? この音はいったい?
見ると、オレの手には昨日楽しく使った手錠がついていた。
「ん……なに……」
そして、手錠の先は早瀬のカワイイおてて。
オレが伸びをしたせいで、早瀬の手も一緒に上に掲げられている。
その動きで早瀬の目を覚ましてしまったらしい。
「あ、おはよ……高辺クン……」
まだちょっととろんとした目の早瀬が微笑む。
うわカワイイなもう。
「……じゃなくて!」
「…え、何が……?」
「なんでオレと早瀬が手錠が繋がってるんだ!?」
「……あー、それ……私……」
「え……」
「夜中に、つい、うっかり……」
「うっかりって」
「なんかこう、繋がりたいって言うか……一緒にいたいと思って……」
「……」
もじもじとしながら、早瀬。
むむむ。くそ、超カワイイなぁもう。
「いや、まぁそれはそれとして」
す、とオレは早瀬に向かって手を伸ばす。
「……なに?」
「いや、手錠の鍵」
「えー、取っちゃうの?」
「いや、だって学校あるし」
「このまま行っちゃうってのは、どう?」
「どうといわれても」
「まったく、ツキアイが悪いなぁ♪」
言って、早瀬はベッドサイドを見て……固まった。
「ん、どうした?」
「ええと、高辺クン」
「おう」
「ここにあった鍵、どこにやったの?」
「……」
「……」
「……早瀬、そこまでして一緒に学校に行きたいというキモチは嬉しいんだけど」
「そうじゃなくて! ホントにないんだってば!」
「え」
ぴしり。
どこかで空間にひびが入るような音がした、ような気がした。
それから30分くらい、ふたりして探したけど、鍵は見つからなかった。
あれだ。早瀬の部屋が無駄に広いのが悪いんだな、きっと。
家具が大してないとは言っても、広さだけでオレの部屋の倍はあるからな。
で、まぁ冒頭のようになるわけで。
「……で、どうするんだ」
「えと、学校休んじゃうってのは、なしだよね……」
「うーん、学校から連絡来るだろうしな……」
朝帰りの上に学校までサボリでは、さすがに細かいことにはこだわらないうちのハハオヤ
だって怒るだろう。
下手したら朝帰り禁止令が下されかねない。
「じゃ、このまま行く? 鍵は放課後また戻ってきて探そうよ」
「……それしか、ないか」
真っ赤な手錠で繋がった男女。
いくらおおらかな校風の尽生学園と言えど、許してもらえるだろうか。
一応校則に「手錠をして登校してはならない」とかは書いてなかったはずだけど。
つかそんな校則が書いてある学校ってどんな学校だ。
……って、その前に。
「早瀬」
「ん、なに?」
「これ、どうやって制服着たらいいんだ?」
「……」
「……」
「切って、縫うとか……?」
「それは問題ありすぎだろ」
うちの制服は2パターンあって、どっちを着てきてもいいことになってるけど、さすがに
切り裂いたりしたらそれは使えなくなる。
「ええと、ということは……」
「なにか、いい手があるのか?」
「わかったよ! トポロジカル的に!」
こんなところで位相幾何学が出てくるとは思わなかった。
「ええと、この手錠と手の間にちょっとだけスキマがあるのがミソなんだよ!」
「まぁ、指いっぽん分くらいのスキマだけどな」
「ここに、こんなカンジではしっこからYシャツを通して!」
言って、シャツを端の方から手錠と手のスキマに押し込んでくる。
「で、最後にここの手を通すと……」
「おお! シャツが着れた!」
「ちょっとシワになっちゃうけど、まぁ仕方ないよね」
言って、早瀬は自分も制服を身につけ始めた。
「とまぁ、制服については解決したわけだけど」
「うん」
「ひとつ問題があるんだけど……」
「え……」
オレのシンコクそうな顔を見て、不安そうな表情になる早瀬。
「オレ、トイレ行きたいんだけど……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「じゃ、学校行こうか♪」
「いや、そこは流していいところじゃないし」
「半日くらいガマンしてよー」
「いや、そんなにガマンしてたらぼーこー炎になっちゃうだろ」
「あ、大きい方じゃないんだ……なら、いいよ♪」
「……なんでそんなに嬉しそうなんだ?」
「男の人がおしっこするの見るの、初めてだし」
「あまり見たいものじゃないと思うが……」
「高辺クンのなら、なんだって知りたいよ?」
「言ってることはすっごく可愛いけど、やろうとしてることはあまり可愛くないような」
「気のせい気のせい♪ じゃ、すぱっとしてきちゃおうか?」
言って、じゃらりと音を立てて早瀬は立ち上がった。
「ほーほーほー♪ 朝からおっきいねー♪ いや、朝だから?」
「なるほど、そうやって狙いを定めるのね」
「ああっ、狙いが外れそうっ。なかなか難しいんだね♪」
「か、解説すなー!」
まぁ、そんなこんなで。
昨日のうちに朝ご飯は昨日のうちに買っておいてホントによかった。
コンビニにクサリで繋がった男女がベントー買いに来たら伝説として語り継がれてしまい
そうだ。
もちろん、蕪皿の家に食べに行けるはずもない。
さて。登校だ。
「……どうする? なんかで隠していくか?」
「なんかって、タオルとか?」
「……そんな逮捕された人みたいなのはイヤだよなぁ」
「いっそキミが私をおんぶして学校行くのはどう? おんぶの方がインパクトが強いから
きっとみんなクサリには気付かないよ♪」
「……歩いて40分の道のりを全部おんぶしていくのか?」
「キミの荷物は私が持ってアゲルから、ダイジョーブだよ♪」
「いや、その荷物を持っている早瀬ごと、オレが支えるわけで」
「あ」
まぁ結局フツーに登校した。
…手を繋ぐのはいつものことだし。
さすがにこのジョータイで電車には乗れないから、歩き。
「まぁ、学校行っちゃえばなんとかなるよ♪」
「なんとかなるか……?」
「出席だけクリアしてあとはさぼっちゃうのも手だしね♪」
「まぁ、体育がないからどうにかなるか……」
いくらなんでも着替えは男女別だしなぁ。
がらり。
クラスに入ると、一部の人間の目がこちらに向かう。
特に会話に集中してるんでもない限り、反射的みたいな行動だよな。
で、だいたいは見知った顔だとわかって、また会話に戻ったり、自分のしていることに
戻ったり。
そんな日がいつまでも続くと信じていた、あの頃。
もう戻ってはこないのかな。戻ってこないんだろうな。
「……」
「高辺クン? なんで遠い目してるの?」
なにしろ。
クラスに女の子と手と繋いで入るどころか、女の子と手錠で繋がった状態で足を踏み入れ
ちまった今となっては。
ええと、解説しよう。
反射的にこちらを見た人間はひとり残らずこーちょくしていた。
目線は、オレと早瀬の堅く握り合った手。
……の少し上。
真っ赤なレザーのステキな手錠。
重そうなクサリがだらり、と下がっている。
「あ、あ、あんたら」
いつもだいたい一番に声をかけてくる佐藤も何を言っていいのかわからないらしく、口を
ぱくぱくさせている。
えーと、どうしようか。
システム的には選択肢が出てくるところだ。
笑って誤魔化す
踊って誤魔化す
気取って誤魔化す
全部「誤魔化す」かよ!
「…キン肉マンボ?」
「いや、早瀬、こんなどーでもいいところでつっこまれても」
「またズイブン古いネタだね♪」
「というかその手錠はなんだーっ!!!」
今さらながらの佐藤のツッコミがクラス中に響き渡った。
「……というわけで、なんというか、そう。事故だ、事故でこんな有様になってだな…」
「事故、ねぇ……」
ジト目でこっちをにらみつけてくる佐藤。
他のクラスメートたちは遠巻きにしてこっちを眺めている。
まるで学級裁判みたいだ。
くそ、これが原因で弁護士を目指して逆転に次ぐ逆転をしなくちゃならなくなったらどう
してくれる。
もちろん隣にはあやしげな女の子霊媒師。
「……まぁ、とにかく今日一日何もなく家に帰ればはずせるんだな?」
「た、たぶん」
「た~ぶ~ん~?」
「いや絶対です佐藤さん」
むぅ。普段はよくわからなかったが、佐藤がここまでプレッシャーを発することの出来る
存在だったとは。
「……わかった。それじゃ、今日だけなんとかばれないようにしてやるよ」
「え……」
「…いや、カンチガイするなよ。ウチのクラスで手錠なんかつけて学校に来てるカップル
がいるとなったら職員会議ものだからな。トーゼン、私にもなんかしらメンドーなことが
押しつけられるに決まってるんだ。だからだぞ!」
言って、佐藤はそっぽを向いた。
「やすりん…………顔、赤いよ」
「う、うるさいっ」
「うちはええで。…みんなもそれでええなー?」
佐藤の横に立っていた小平が賛同する。
「いや、まぁ、いいんじゃないか? なんか面白そうだし」
小松も同意する。他のクラスメートたちもそれぞれに頷いたり、何も言わないけど、反論
もしなかったり。
「……ウチのクラスって、案外、いい人ばっかりなんだね……」
早瀬がちょっと感動した口調で言ってきた。
「ああ……オレも、そう思う」
と、小松が寄ってきた。
そっとオレの耳元でささやく。
「……で、いったいどんなプレイをしてたらそんな風にぐえっ」
小松の些細な好奇心は、後ろから音もなくやってきた蕪皿によって締め落とされた。
「放課後、私も探すのを手伝う」
一方的に宣言する。
「あ、ああ」
とりあえず、どう反応していいのかわからないので頷く。
蕪皿はそれで満足したようでずるずると小松を引きずって行った。
「あ、先生ー。今日、早瀬が教科書忘れたらしいんで、高辺に見せてもらってますが、
別に気にしないでください」
授業の始まる前。佐藤が廊下で待機していて。
教室に入ろうとする担当教諭にこう言うだけで万事解決してしまった。
まぁ教師の反応も様々で。
「なんだ、早瀬。反対側は女子なのにわざわざ高辺に見せてもらわないとダメなのか?」
──なんて言って笑いを取ろうとする先生もいれば、全く無視する先生もいた。
とはいえ。
あらかじめ佐藤のフォローがなければここまで上手くいかなかったろうな。
「これがネマワシというもののチカラなのか……政治の世界は奥が深いな」
「いや、政治違うし」
「まぁあれだ、繋がったのがオレの右手とお前の左手でよかったな。もし逆だったら席も
逆にしないといけなかったしな」
「私、ノート取れないしね」
「まぁその点オレならずっと寝てるから右手が使えなくても問題ないしな」
「……それもどうかと思うケド」
「何言ってんだ。…今日はそのおかげでオレがずっと手を下げてても何も言われなかった
んじゃないか」
「だからって勝ち誇られても」
「……ところで、なんかさっきから妙にもじもじしてないか」
「え……。いやいや、なんでもないよ♪ にゃはは♪」
「なんだよ。なんかガマンしてるのか?」
「べ、別にそんなんじゃないよー」
「……あ」
気付いた。
「!」
「そう言えばそうだよな。お前、朝から一度もトイレに行ってないじゃないか」
「……!」
「いやあ、これはオレが悪かった。もっとお前のことを気遣うべきだったよ」
言って。さわやかな笑みを浮かべて、優しく囁く。
「……遠慮せず、男子トイレに行こうじゃないか」
ぽん。肩に手を置く。
「あーもうっ! カブちゃん、出番!!」
「え」
後ろに気配を感じたのが一瞬。
……蕪皿、お前最近なんだか人間離れしてないか?
と思ったときにはもう締め落とされて気付いたときにはすでに早瀬はすっきりとしたいい
笑顔を浮かべていたわけでこうしてオレの女子トイレデビューは終わったのでした。
「しくしくしく……」
「何も泣かなくても」
「何を言う! 女子トイレといえば更衣室と並ぶ女の子の聖地じゃないか! 女の子同士
の密かな戦いや噂話が聞けるという魅惑のパラダイス! 誰もみな行きたがるが、遙かな
世界」
「なんで途中からガンダーラに?」
「いやそこのところにツッコまれても」
じゃあどこだと言われると困ってしまうが。
きんこーんかんこーん。
そして、無事ホームルームまで終わって。
「……どうにか無事に終わったな」
「終わったねー」
と、佐藤がこっちにやってきた。
「あ、ありがとー、やすりん♪」
「あ、ありがとー、姉御♪」
「無事に済んでよかったな、早瀬。…この借りはそのうち返してもらうからな、高辺」
「……なんでオレだけ借りになるんだよ」
「お前の言葉に誠意が感じられなかったからだ」
「どこぞのヤクザか、お前は」
「……美奈、高辺。行くぞ」
と、後ろに蕪皿がすっと立っていた。
「…こっそり後ろに立つのはやめてくれないか、また締め落とされそうだ」
「別に必要がなければ締め落としはしない」
「……それって、必要があったらいつでもやるってことか?」
「……締め落とされるのはけっこうクセになるというぞ」
「あ、私もなんかで見たよ♪ けっこう気持ちいいらしいね♪」
「……また締め落とされたくなったら、いつでもいいぞ」
「誰が頼むか!」
廊下に出ると、ちっこい女の子が待っていた。
「美奈ちゃん、高辺さん、私もてつだいますね」
「え、マッキー、いいの?」
「ひとりでも多いほうが、きっとみつかりやすいから」
「悪いな……」
「……お礼はビックサイズキングパフェでいいぞ」
「だからなんでオレを見て言うんだよ」
そして舞台は始まりの地へ。……こういうとなんかかっこいいな。
「家に帰ってきただけだけどね♪」
「むぅ、この詩情がわからないとはっ」
「無駄口を叩いているヒマがあったらさっさと探すぞ」
「美奈ちゃん、鍵はかくじつにこの部屋にあるんですね?」
「たぶん、部屋の外には出してないと思うけど……」
「じゃあ、みんなでまずははしっこから探しましょう!」
おー、と元気よく手を挙げる赤坂真紀。
その声が挙がったのは、捜索から3時間が経過したときだった。
「ありましたーっ!」
何しろ早瀬の部屋は広い。
そこを隅から隅まで探すのはたいした苦労だった。
結局。
ベッドの下の端の方に落ちていた。
そのカラダの小ささを活かして赤坂真紀が鍵を発見。
「いやー、ようやく取れるね♪」
「まったくだ。……でも、ちょっとザンネンかもな」
「そう? ……実は、私も♪」
「…………ちょい待ち、このまま行くと、ほら、なだれ込んじゃうと言うか」
「……カブちゃんとマッキーなら、もう出て行ったよ?」
「え!?」
振り返ると、もうふたりの姿はなかった。
早ッ!
「気を利かせたつもりなのかな……?」
「さあ? ……でもね、ふたりとも必要以上にこっちには踏み込んでこないから♪ 多分、
用が済んだから帰ったんじゃない?」
「そんなもんなのか……?」
「そんなもんだよ♪ ……今日一日、お疲れ様♪」
言って。
早瀬はこっちに顔を寄せてきた……。
「……って早瀬……」
「……ん……どしたの……」
満足したネコみたいな表情の早瀬に声をかける。
「カギ」
「……?」
「……合わないんだけど……」
「……」
「……」
「って違うカギじゃんコレーっ!!!」
「えーっ!? じゃ、じゃあ取れないの、コレ!?」
「あーもうっ! とにかく探すぞ!!」
結局。
それからまた探し始めて。
見つかったのは、明け方近くだった……。
(おしまい)
(おまけ)
「二日連続で朝帰りねぇ……」
「いやゴメン。ホントにゴメン」
「……」
「……」
「次、やったら小遣い抜き」
「……はい」
(本当におしまい)