「よっしゃぁ! これであがりだっ」
佐藤の歓声とも怒声とも聞こえる声が挙がった。
「あ~っ!」
「これでハヤハヤの3連敗や~」
最近、女子の間ではトランプゲームが流行している。
「高辺くん、ハイ!」 03/06/20 by TANA
「ふっふっふ、ハヤハヤ、これで規定の負け数に達したわけやな」
小平がちんまい手で勝ち負け表を書きながら、謎の微笑みをたたえる。
「あぶないところだった……」
ほっと胸をなで下ろす佐藤。
……早瀬と比べるとあまりムネないよな、佐藤。
「……なんか今、私を莫迦にしなかったか」
「な、なにを根拠にっ」
ギヌロとこっちをにらむ佐藤。
オレの心を読むな。
「美奈のムネを見て、佐藤のムネを見た」
うわ余計なこと言うな蕪皿。
「見比べたと見るのが妥当だろう」
「た、高辺~!」
「ぐはっ」
姉御。グーはどうかと思いますよ。女の子が。
「ごめんね~。うちの子が」
早瀬。うちの子ゆうな。
「ダメじゃないか、ちゃんと躾ておかないと」
「う~ん、どうしてこんな子になっちゃったんだろうねぇ」
「オレは早瀬に躾られた覚えはないが……」
「躾ないから、こんなやつになっちゃうんだぞ」
「にしし♪ 気を付けるよ」
「それはそうと、結果発表や~」
小平がさっきから付けてた勝ち負けの表を手に立ち上がる。
「4位、ハヤハヤ」
「あちゃ~、おっかしいなぁ。いっこ前のゲームを落としたのがマズったなぁ」
「3位、ヤスリン」
「あ、あぶなー」
「2位、カブヤン」
「……」
「そして栄光の1位! う・ち なんと、ウチや~!」
おー、と周りで遊んでいた男子も歓心の声を上げる。
「おおきに、おおきに」
ぺこぺこと頭を下げる小平。
と、突然口調を変えると。
「さぁて、罰ゲームタイムや~」
と言ってこっちに向き直った。
「うっ…こだぴー、ちょっと怖いよ…」
「ルールは簡単やったな…4位の人は1位の言うことを聞く、と」
「うー、な、なにされちゃうのかな♪」
「せやなぁ…何にしたもんやろ~」
んー、と考え込む小平。
「!」
何か思いついたらしい。
「そや! たかぴーを10分貸しい!」
と言った。
「……オレ?」
「……高辺くんを?」
ハモる俺たち。
「そや。たかぴーはハヤハヤのものやろう? だから10分貸しい」
「や、やだなぁ♪ 高辺くんはモノじゃないし、貸すとか言われても、困っちゃうよ♪」
「そうだそうだ。オレはモノじゃないし」
「何言ってんねん。たかぴー、ハヤハヤのモノやろ? なぁやすりん」
「そうだなぁ。早瀬がいいって言えばいいんじゃないか?」
うわ、佐藤まで!
「カブヤンはどうや?」
「……さっきから美奈と高辺は協力して対戦に臨んでいた。だからチームといってもよく
ゲームに負けたのは高辺という考え方も可能だ」
別に協力はしてない! そりゃ、まぁ早瀬を膝の上に乗せてたからカードは見えてたけど。
オレと早瀬、大ピンチ。
「……安心しいハヤハヤ。別に痛いことやギャグにならんことはなしや。ハヤハヤも興味
ある内容……ごにょごにょ」
…なんで途中から耳打ちに!?
それほどオレに聞かれたらまずい内容?
「……にしし♪ それならいいよ」
ぬお! ついに早瀬まで。
身内から裏切り者が出るとはっ!
……早瀬、ふたりであんなに育んだ愛の日々は…?
「まぁそれは置いといて」
律儀にこっちから向こうに何かを動かすジェスチャーをする早瀬。
つか愛をそっちよけるな。
「ふっふっふ。……これや~」
小平が鞄からなにかちっちゃいポーチを取り出す。
……お化粧セット?
「女の子のたしなみ、ちゅ~やつやな」
…小平。お前、色気ないのにそんなもの持っても…。
と思ったけど言わない。
ほら、オレ今小平に貸し出されるらしいし。
下手なこと言って窓からバンジージャンプでもさせられたらことだ。
「……で、それをどうするんだ?」
「たかぴーをメイクアップや!」
「なにぃ!!」
がたがたっ。
立ち上がろうとしたが、膝に早瀬が乗ってることもあって、逃亡失敗。
「あ、ダメだよ動いちゃー。にしし♪」
「……静かにしろ」
うわ! 蕪皿に両肩押さえられた!
痛い痛い! なんだ蕪皿、手細いくせにその万力のような力は!?
「ふっふっふ。きっとたかぴーは似合うでえ。前から一度やってみたかったんやー」
「安心しろ高辺。きっと似合うぞ」
似合っても嬉しくないやい。
といっても。
膝の上に早瀬が乗ってて。両肩を蕪皿に押さえられた今。
オレが逃げ出すようなスキマはどこにもなかったわけで。
おーたーすーけー。
「さてずらりと広げられたるこの化粧道具♪ さて、なにから使ったもんやろなぁ」
「そりゃ化粧水じゃないか?」
「そや! お化粧のノリをとってもよくする魔法の水や!」
ぺたぺた。
小平のちんまい手がオレの顔中にしっとりとした液体を塗りつける。
……冷たい。
「化粧水はこんなもんやろ。じゃあ次はファンデーションやな」
「うーん、高辺はけっこう色黒いからなぁ。この辺の色じゃないか?」
「ふんふん」
ぺたぺた。
今度は上にスポンジ状のものでクリームみたいなモノが塗られていく。
「次は眉毛やね。……ハヤハヤ、抜いて形整えてもええ?」
「うーん、抜くのはちょっとパス」
いや、オレに聞けよ!
「じゃ、フチをくっきりさせよ」
「お次はビューラーやね♪ うわたかびー、まつげ長いなぁ。うらやましいー」
「シャドウはどうする?」
「今日はナチュラルな感じで行こうと思うんや。だから軽くでええやろー」
なんだか専門用語が飛び交っていてよくわからない。
ただ、オレの顔が凄い勢いでペイントアップされているのはわかる。
小平と佐藤。
その姿はまるで芸術家、というよりは、一心不乱にそこらへんの紙にクレヨンで落書き
するガキんちょ。
ふたりして「あーでもない、こーでもない」と意見を戦わせつつ、オレの顔のメイクアップ
に励んでいる。
ちなみに、オレは自分の顔がどうなってるのかさっぱり見えない。
時々早瀬が「おー♪」だの「へぇ……」だの漏らすのが気になってたまらない。
上から順番に、眉毛・まつげ・アイシャドウ・チーク。ついに口紅まで塗られてしまって。
「た、たかびー……」
くぅぅ。オレ今どんな顔してるんだろう。
「鏡見る?」
「おう……」
早瀬が差し出した手鏡を手にとって。
げ。
「……」
「あ、固まった」
「私が思うに、予想以上に自分がカワイイのでとまどっているんだと思うぞ」
「…もともと男性で整った顔立ちはそのまま女性でも通用する。女形の存在は西洋の化粧
品よりずっと昔からある」
……というか。……というか。
「ウチの見立てた通りや~。やっぱりたかびーは化粧したらカワイイ女の子になるわ~」
自分と同じような顔が、ばっちりメイクされているのって、ひたすらに。
……ひたすら、ヘン……。
よく『女装してみたらあまりに綺麗だったんで癖になった』とかいうネタがあるけど。
これ、ヘン以外の何者でもない……。
「お~っと驚くのはまだ早いでぇ~」
ばっ。
小平は後ろ手に持っていた何かを取り出す!
「ウチのガッコの制服や~。卒業したセンパイから二束三文で買い叩いた一品や~」
んなもん買い叩くな!
「さぁたかびー、まだ10分たってないでぇ~」
制服の上下を手に迫り来る小平。
「いや、さすがにそれはマズいだろ……」
主に股間とか。
「心配せえへんでも、背の高いセンパイやったからたかぴーでも入るって」
「誰もそんな心配してねえよ!」
言って。
オレは膝の上の早瀬をお姫様だっこして立ち上がると、そのまま逃亡!
「あー、待ちぃ!」
「……というか、その顔のまま廊下に出るのか?」
ぴた。
蕪皿の言葉に、オレは止まる。
「……洗面所に直行するから、いい」
「…最近の化粧品は水くらいじゃ落ちないと思うよ…ちゃんとメイク落とし使わないと」
オレの腕の中の早瀬まで反論してくる。
オレ大ピンチ!
「うう……もうおムコにいけない……」
床に足を崩して座って、床に「の」の字を書きながら、オレ。
「心配しなくても、私がもらってあげるよ♪」
早瀬のなぐさめも、ちょっとばかし遠く聞こえる。
オレの抵抗は蕪皿の強大なまでの腕力によってねじ伏せられた。
で、むりやり着せられたあげくに、ばしばし撮影された。
「それ、……現像してもらうとき、受け取るのが恥ずかしくないのか……?」
「だってこれデジカメだし」
せめてもの反論もあっけなく粉砕された。
技術の進歩なんて嫌いだ。
クラスの男連中も見て見ぬふりをしてた。
止めようとした奴もいたみたいだけど、佐藤と蕪皿に対抗できる奴なんてしないしなぁ…。
ちくしょー、クラスで明日からどんな顔して生活していけばいいんだ……。
「まぁあれだよ♪ 野良犬にヤられたと思って……」
「早瀬、ヤられて、ってもっとひどくないか…?」
早瀬と佐藤の会話も遠く……
「まぁ、明日早瀬がまた負けたりしなければいいんだよ」
「そやそや。ちなみに明日はナース服用意しとくでー」
……なにぃぃぃぃっ!
「うーん。私、トランプ弱いんだよねぇ……」
早瀬。それは死刑宣告ですか。
「……そうしたら、私も全身タイツとか持ってこようか。多分高辺でも着れるだろう」
「碁会所に元芸人の人がいる」
どいつもこいつも。
「衣装持ちだから、全身着ぐるみとかを持ってこれると思う」
なんでオレを着せ替えすることがトウゼンの前提なんだよーーーーーーーーーーーっ!!
おしまい。