SEXFRIEND SS集   作:TANASOUKO

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早瀬と嘘とビデオカメラ

 

尽生学園の保健室。

 

ここの主は、ある意味で学園の支配者だった。

 

元理事長を祖父に持ち。

 

あらゆる手段を講じ、学内での人間関係を掌握し。

 

あらゆる方法で、学内での弱みを握っていた。

 

 

 

その中の手段のひとつとして。

 

保健室には、カメラが仕掛けられている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高辺智弘は、まだそのことを、知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「早瀬と嘘とビデオカメラ」 03/06/27 by TANA

 

 

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ある日、佐藤が言った。

 

「なんか、あんたらってさぁ、すっかりバカップルだよねー」

「侵害だな佐藤。オレたちの一体どこが」

「すっかりバカップルだね、にしし♪」

 

早瀬、お前が同意してどうする。

 

「……休み時間の教室で膝枕するトコとか♪」

「不思議だな早瀬。オレの膝に載っているのはお前の頭のような」

 

オレは批判の意を込めて、軽く早瀬の頭をなでる。

早瀬は気持ちよさそうに目を閉じる。

 

しまった。批判になってない。

 

「ええとだな、佐藤。例えばお前が見ているのは幻覚だというのはどうだろう」

「……どうだろうと言われても」

 

あきれたように言う佐藤。

早瀬は聞いているのかいないのか、オレの膝の上でごろごろと甘えている。

なんか猫っぽい。「うな~」とか言いそうだ。

 

「うな~」

 

言った。

うぅむ、もしかして、この可愛さは、もしかして世界一じゃなかろうか。

 

「……もう勝手にしてくれ……」

 

佐藤が額に手を当てて言った。

 

 

 

 

 

「くはー、まったくアンタらどこまでいちゃつけば気が済むんや~」

 

昼休み。

小平にまで言われた。

 

オレ、ちょっぴりショック。

 

「そんなにオレたちっていちゃいちゃしてるかな……」

「してるね♪」

 

オレの腕にぶら下がるように抱きつきながら、早瀬。

だからお前が言ってどうする。

 

「にっしっし♪ いいじゃない。さんざん見せびらかせば」

「いや、でも……ここ、学校だし」

「学校と言えばいちゃつくところだよ♪」

「そんなに自信たっぷりに言い切られても」

「なに? なにか心配なの♪」

 

軽く小首をかしげる早瀬。

 

「心配かも。……シアワセすぎて」

「にゃは♪ なにそれ?」

 

シアワセいっぱいの表情の早瀬。

 

オレも、たぶん同じ表情だと思う。

 

……オレも、別に何が心配だったというわけじゃない。

 

 

 

ただ、バクゼンとした、不安に襲われるときが、あった。

 

今のシアワセが。

 

いつか、終わるときが来るかもしれない、と。

 

思うときがあるからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──はじまりは。

 

──ウワサだった。

 

休み時間。

 

「高辺」

 

オレは蕪皿に呼び止められた。

 

「ちょっと来い」

「ん…? なんだ?」

 

ちょうど、早瀬はトイレに行っていた。

蕪皿はそこを狙ってきたのかもしれなかった。

 

「……連れてきた」

「高辺さん、こんにちは」

 

蕪皿に連れてこられた北階段。

…ここは、早瀬とも何度か話をしたことがある。

ほとんど人の来ない、あまり使われていない階段。

 

行ってみると、赤坂真紀が待っていた。

 

「よう。……なんだ、ふたりして」

「真紀がウワサを聞いた」

 

あいかわらず、蕪皿の話は簡潔だ。

…カンケツすぎて、意味がさっぱりだ。

 

「えっとですね、美奈ちゃんについて、ヘンなウワサが流れてるみたいなんです」

「…ヘンな、ウワサ?」

「…えぇと……」

 

言いづらそうにする、赤坂。

 

と、蕪皿が助け船を出した。

 

「…美奈が、遊び人だと言う噂だ」

「……遊び人?」

「男をとっかえひっかえ。つまり、男好き。やりまくり。淫乱。淫婦。ニンフォマニア」

「……なんだって」

 

 

 

オレは。

 

かつて、そのウワサが本当だったというのを、知っている。

 

以前、確かに早瀬は男をとっかえひっかえしていた。

 

ひとりや、ふたりじゃない。

 

はじめは、オレもそのうちの一人だった。

 

そして、最後の一人だ。

 

 

 

しかし、それも今年の一学期までの話だ。

今の早瀬には、そんなキモチは全くない。

それは、誰よりも、誰よりもオレが知っている。

 

蕪皿も、赤坂真紀も、だいたいの事情を知っているはずだ。

 

「いま、美奈ちゃんがそんなじゃないのは、高辺さんが一番知ってますよね」

「四六時中一緒にいるからな」

 

蕪皿、改めて言うな。

……恥ずかしい。

 

「なんで今になって、そんなウワサが出たんでしょうか……」

「うーん、ぜんぜん心当たりがない……」

 

「…お前が原因だ」

 

「……オレ!?」

「そうだ」

 

あっさりと断定してくる蕪皿。

 

「いや、ぜんぜん身に覚えがないんだが……」

「お前と美奈が所構わずべたついているのは校内でも有名になりつつある」

「そうですねぇ。わたしのクラスでも有名ですよ?」

「……そうなのか?」

 

オレと早瀬のラブラブっぷりがそこまで轟いていたとは!?

なんか嬉しいような、照れるような、そんな不思議なキブン。

 

「それが悪い」

 

きっ、とオレを睨む蕪皿。

 

「悪いのか? ほら、愛は世界を救うとか、そんな感じにはならないのか」

「以前、美奈に捨てられた男からすれば許し難く感じるだろう」

「……オレと早瀬がうまくいくのが、許せないってのか?」

「そうですねぇ、ダレも妬まなかったり、許してくれれば、みんなシアワセなのにねぇ」

 

むー、と指をいっぽんくわえて不快感をあらわにする赤坂。

はた目にはほしいオモチャを買ってもらえなかった子供みたいだけど。

 

「……そのウワサ、けっこう広まってるのか?」

 

出来れば、早瀬の耳には入れたくない。

実のところ、早瀬はけっこう、かつての自分を気にしている。

 

耳に入れば、傷つく。

 

「まだそんなに広まってないと思います。今週くらいから、わたしのクラスで話題に

なりはじめたみたいですから」

「……誰が言い出したのか、わかってるのか…?」

「……じつは、わかってます」

 

……このあたり、なんであっさりとわかったのか気になる所だけど。

今は赤坂真紀の100のひみつを探っている場合じゃない。

 

 

 

「ウチのクラスの、浅見くん……です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

浅見。

 

その名前は、イヤでも覚えている。

 

忘れられない名前だ。

 

オレと、早瀬が付き合う前。

 

オレと、早瀬がセックスフレンドになる前。

 

そのきっかけになった男。

 

オレの前の、セックスフレンドだ……。

 

 

 

 

 

「お、お前だって、どうせ、遊ばれるんだ!!」

 

「この僕がダメで、お前がいいなんてワケがない!!」

 

「畜生ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!」

 

今でも記憶に残る、あの声。

 

絶望と、屈辱に彩られた表情。

 

 

 

 

 

「ダイジョーブ。そんなドジはしないから♪」

 

微笑んでいた早瀬。

 

……どうやら、失敗したらしいな……。

 

 

 

 

 

 

「……心当たり、あるな」

 

蕪皿が、言う。

 

「ああ。知っている」

 

あるいは、蕪皿や赤坂真紀も知ってるのかもしれなかった。

 

「なら、お前に任せる」

 

でも、彼女らは、自分たちで解決する前に、オレに話をしてくれた。

 

「美奈ちゃんをお願いしますね」

 

それが、タンジュンに、嬉しかった。

 

 

 

 

 

「……さて、どうしたものか」

 

放課後。

 

誰もいなくなった教室で、オレは考える。

早瀬は一緒に帰ろうと言ったが、今日は用事があると言って先に帰ってもらった。

 

早瀬を騙すのは気が引けたが、なるべく早いうちに解決したかった。

 

「とりあえず、とっとと浅見のヤツと話をするのが先か……」

 

言葉に出すことで、自分の考えを確かめる。

 

……あいつは運動部だっけか。

なら、部活が終わるまではもう少し間があるか。

 

イマのウチに、考えをまとめておこう……。

 

 

 

 

 

「……というワケで、話がしたいんだけどさ」

「な、何のことだよ……」

 

部活の後、話があると言って呼び出した、屋上。

あからさまに脅えた顔をする浅見がいた。

 

たぶん。

今のオレは、いつかと同じ顔をしているのだろう。

 

いつか、トイレで、2組の小島と加藤の前に現れたトキと、同じような。

自分でも、恐ろしいと思った顔。

 

それで構わないと思った。

 

「…とぼけるなよ。早瀬のコトだよ」

「……」

「…面白いウワサを流してくれてるみたいじゃねえか」

 

にやり。オレは笑ったつもりだった。

そうは見えなかったかもしれない。

 

「……」

「なんとか言ったらどうだよ」

「……お前、お前は知らないから!」

「…何をだよ」

「美奈のコトだよ! アイツがどんな女か!」

「……」

「アイツは…アイツ、とんでもない女なんだよ!」

 

……。

ちょっと、予定と違ってきた。

 

ちょっぴり脅かしてやって、黙らせるはずだったんだが。

 

「……何がどうとんでもないって?」

「や、やっぱり知らされてないだろ! アイツはそういう、非道い女なんだ!」

 

 

 

何がなんだかよくわからない。

 

ただ。

 

どこか、心のどこかで。

 

やめろ、聞くな、と声がしたような気がした。

 

 

 

「ア、アイツは、写真を撮っていたんだ! 保健室で!」

 

「写真……?」

 

眉をひそめるオレ。

浅見は、突然憑かれたように話し始めた。

 

「あの保健室にはカメラが仕掛けられていたんだよ! 最初から、仕組まれてたんだ!」

 

「お、お前が新しい男だと言われた、次の日だ」

 

「美奈が僕の前に来て言ったんだ」

 

「『保健室にはね、カメラがしかけてあって…』」

 

「『わたしの部分を映像処理して、キミのあえいでいるトコロだけつないだのが…』」

 

「『それをキミんちへ送りつけてあげよーか?』」

 

「『わたしには、キミを破滅させる手段があるんだよ』」

 

「そう言ったんだ! この僕に向かって!」

 

「も、もし、そんなことされてみろ、僕の家は滅茶苦茶だ!」

 

「だ、だから一旦は黙ったけど、そ、それが、今さら!」

 

「普通のカップルだなんて、許せるか! 許せるかよ!」

 

「……お前だって、遊ばれるんだ!」

 

 

 

 

 

それは、いつかと同じ、捨てぜりふ。

 

 

 

でもあのときよりも、ずっと耳の中に突き刺さる気がした。

ガラスの破片のコトバ。

 

そのあと、浅見はなんかシツコク言ってたと思う。

 

オレには、よく聞き取れなかった。

 

ざまーみろ、とか言ってたと思う。

 

 

 

 

 

気がつくと、浅見の姿はなくなっていた。

 

言うだけ言って、逃げてしまったらしい。

 

いつの間にか。

 

オレが拳を固く握りしめていることに気付いたかもしれなかった。

 

 

 

 

 

空を見上げた。

 

青い空はすでになかった。

 

そこにあるのは、夕焼けから変わりつつある、宵闇。

 

まるで初めて見るような、よるのそら。

 

ふと、視線を落とす。

 

この屋上から一段、あがった所にある、給水塔。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこに早瀬がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

立ちつくしていた。

 

ああ、そういえば。

 

いつかの事件以来。

 

図書室では寝られなくなったんだっけ。

 

ぼんやりと、そんなことを考えた。

 

 

 

 

 

早瀬は不思議な表情をしていた。

 

泣いているような、笑っているような。

 

コトバにすると、まるであの日の、告白の日のようだけど。

 

でも、まるで違う、正反対の表情。

 

 

 

風が吹いた。

 

軽く、早瀬のポニーテールが揺れる。

 

まるで牢獄の、揺れるクサリ。

 

 

 

突然、早瀬の表情がゆがむ。

 

口が、ごめん、と動いたように見えた。

 

そのまま、早瀬は身をひるがえす。

 

急いで給水塔の階段を駆け下りると、開いた屋上の扉を駆け抜ける。

 

その間、オレは何も言わなかった。言えなかった。

 

 

 

 

 

「……!!」

 

がしゃん、とハゲシイ音がする。

 

オレが、屋上の金網を殴りつけたからだった。

 

手が痛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、ココロのどこかが、もっと痛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、家に帰って。

 

帰りが遅かったことについてハハオヤに怒られて。

 

風呂入って、メシくって。

 

オレは自分のベッドに横たわる。

 

いつか早瀬が寝たベッド。

 

オレは……。

 

 

 

自分がどうしたいのか。

 

早瀬をどうしてやりたいのか。

 

浅見が言ったことをどう受け止めるべきなのか。

 

まだ、わからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

休日だというのに、オレは早起きしていた。

 

というか、早くに目が覚めてしまった。

 

早瀬は、どうしてるだろう。

 

オレが誘わなかったから、蕪皿や赤坂と出かけてるだろうか。

 

昨日、あんなことがあったから、家にいるかもな。

 

でも。

 

まずは、浅見だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、私がやってきました!!!!!!」

 

「……は!?」

 

「センパイ、センパイ、センパぁイ! お久しぶりです! 野々宮華緒梨です!」

 

チャイムが鳴って、オレが出たら、幻想の生物がいた。

 

「センパイ! 誰が幻想の生物ですか! 久しぶりにあった後輩に対して少しは失礼だと

いう感情をお持ちになった方がいいですよ!」

 

しかも幻想の生物は、心を読むという新たな能力を身につけていたみたいだ。

 

「というか私だけが喋っている状況というのも如何なものかと思われます! なんか反応

してください!」

 

「……あ、ああ。ええと」

 

聞きたいことはないわけではなかった。

というか、むしろありすぎる。

 

何が「というわけ」なのか。

喫茶店でオレのことはあきらめたんじゃなかったのかとか。

保健室のカメラのこととか。

 

「順番に的確に確実にお答えして返答して回答いたしますっ! どうぞいかなる質問・

疑問・難問をぶつけて下さい!」

 

「と、とりあえず、オレのことはもう、あきらめたんじゃないの?」

「センパイ! 乙女の純情がそれほどたやすく容易に簡便に終わるとお考えですか!」

 

うわ、なんか怒られた。

 

「もちろん、センパイと早瀬先輩のコトは承知しておりますし、それに関してはもう、

どうこう言うつもりはありません! しかしいざ何かあればおこぼれは常に狙うのが

狩人たるものの心得です!」

 

……狩人ですか?

というか、おこぼれって、ハイエナ?

 

とりあえず、オレはなにか心得違いをしていたらしい。

喫茶店で思った、大人になったとか成長したとかの感慨はこっそり修正しておくことに

する。

華緒梨はやっぱり華緒梨だったとか、そのへんに。

 

 

「はい、では次の質問にお答えいたします! ちゃっちゃと質問してくださいっ!」

「あ……うん。ええと、なにが『というわけ』なの?」

「はい! 大変不本意にして屈辱的にしてありうべかざることですが、このたびの事柄に

ついて、私と御姉様とで共同戦線を貼ることに致しました」

「御姉様……って先生か……」

「はい! 御姉様としても、早瀬先輩について噂や風説や憶測が飛び交うのは好ましく

ないそうです!」

 

それはそうだろう。

浅見は、保健室のカメラのことを言っていた。

 

今はまだ、早瀬が男好きだとかそういう程度の話で済んでいるようだが、いつ、保健室で

のことについて噂を流されるかわからない、というのは先生としても、あまり好ましくは

ないのだろう。

 

「……それはそうとして、華緒梨ちゃんが来て、何をするの……?」

「御姉様からの伝言です」

「伝言?」

「はい。『その気なら、浅見クンを黙らせてア・ゲ・ル♪』だそうです」

 

ちゃんとア・ゲ・ル♪といちいち抑揚をつけて言う華緒梨ちゃん。

 

姉妹だというのに、あまり似てなかった。

 

「黙らせるって…どうするんだ?」

「ええと、御姉様直属の黒服を使うんじゃないかと思います」

「ちょくぞくの、くろふく……?」

 

なんか、一般生活ではまず耳にしないような単語が出てきた。

 

「御姉様はあまり使いたがりませんが、御姉様についている護衛は1ダースどころの騒ぎ

ではありませんから。きっと皆さん喜んで指示に従うと思います」

 

ごえい。

また、なんか耳慣れない単語が。

 

「えーと、いったい貴女達姉妹は何者ですか」

「……ご存じなかったんですか? 御姉様は私を連れて家を出ておられますが、野々宮と

言えばこの地方の旧家で、知事だって就任の際に挨拶に来るような大きな家ですよ?」

「…ぜんぜん知らなかった」

 

たしかに、先生も華緒梨ちゃんも、育ちがよさそうな言動してたけど、そこまで大きな家

だとは。…というかどうしてそんな家であんな保険医が誕生するのか。

 

「……ふふっ、もしかして、逃した魚は大きいとか人魚とか考えてます?」

「いやそれはぜんぜん」

 

反射的に否定するオレ。

あ、なんか「ちっ」とか言ってる。微かな声だったけど聞こえてしまったよオイ。

 

やっぱりさっきの育ちがいいとか、なし。

 

 

 

「で、どうなさいますか? その気になれば即座に1ダースくらい黒い服の人たちが出動

できますが」

 

黒い服の人たち、か…。

やっぱり、ヤの字の人たちなんだろうか。

サングラスとかかけてるんだろうか。

カイジの後ろで「ざわ…ざわ…」とか言ってるんだろうか。

 

思考がどうでもいい方向にそれた。

どうもこの子と話していると調子が狂いっぱなしになる。

 

 

 

「……いや、やっぱりいいよ」

 

華緒梨ちゃんの目を見て、きっぱりと言えた。

 

「これは、オレと早瀬、ふたりの問題だし、出来ればふたりで解決したい」

「ですが……」

「うん。もし、うまくいかなかったら先生に迷惑がかかるかもしれないのはわかってる。

だから、オレが失敗したら、すぐに先生のいいようにしてもらって構わない。……でも、

まず一度、オレにチャンスをくれないか」

 

……先生にしたら、虫のいい申し出だというのはわかって言っている。

でも、どうしても、まずは自分の手でどうにかしたかった。

 

早瀬の表情。

昨日見た表情。

 

「……」

 

珍しく言葉に詰まる、華緒梨ちゃん。

 

 

 

オレの頭には早瀬の表情が浮かんでいた。

どうにかしたい。

 

あの早瀬のために、なにかしてやりたい。

それが、独善的で、自己満足だとしても。

 

オレ自身の手で、どうにかしたかった。

 

「……わかりました」

 

ほっ、と息を吐きながら、華緒梨ちゃんが言う。

 

「御姉様には私から話しておきます。多分、一日くらいは待ってくれるでしょう」

「……ありがとう」

「いいえ、いいんです。……やっぱり、素敵です」

「え?」

 

 

 

「……私には、なかったみたいですけれど。やっぱり、恋愛小説みたいな恋人同士って、

本当にあるものなんですね」

 

 

 

そう言って、華緒梨ちゃんは帰っていった。

 

 

 

もらった猶予は、一日。

なら、今すぐにでも、動き出さないといけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんでウチのウチの運動部は休日に練習すらしないんだ……」

 

校門の前。がっくりと膝をつくオレがいた。

 

運動部だから、学校に行けば練習をしているに違いないと思ったオレの前には、

がっちりとしめられた校門が待っていた。

 

トウゼン、運動場にも誰もいない。

 

参った……。

 

同じクラスの人間なら連絡先くらいはわかるけど、隣のクラスである浅見の連絡先は

わからない。人づてに聞くという手段もあるが、あまりこの件に人を巻き込みたくは

ない。

 

……そうか、赤坂真紀なら知ってるか。

 

ってオレ赤坂真紀の連絡先、知らねえよ!

 

「ふふふ♪ お困りのようね、高辺くん♪」

 

どうするか。

蕪皿に聞けばわかるかな。つか蕪皿、今日家にいるのか?

 

「…あらあら、高辺くん、理想の美人保健教師を無視しちゃダメよ♪」

 

蕪皿のことだから、碁会所とかそういう所に言ってるんじゃないだろうか。

もしかしたら早瀬と出かけているかもしれないけど。

 

「……(ぷすっ)」

「ぬあああああああっ!?」

 

トウトツに、首筋に鋭い痛みが走った。

 

思わず地面をごろごろと転げ回って逃げるオレ。

ひとしきり転がって距離を置いてから、身を起こす。

 

「あら、高辺くん、こんなところで会うなんて、奇遇ね♪」

「……会うたびに薬を盛ろうとするのはやめてほしいんですけど」

 

休みの日だというのに、いつもと変わらず白衣をまとった野々宮先生がそこにいた。

 

 

 

 

 

 

「あら、ちゃんと挨拶をしたのに無視をした高辺くんがいけないのじゃないかしら」

「……すいませんね、聞こえてなかったんですよ」

 

ぱんぱんと、体についたほこりを払いながら、オレ。

 

「……ちなみに注射したのはただのビタミン剤だから、安心してね♪」

「…はぁ、それはどうも……」

 

このヒトの言うことは、いちいちウラがありそうに聞こえてならない。

 

「そうそう、華緒梨から聞いたわよ♪ 折角理想の美人保健教師が力を貸そうというの

だから、素直に聞いたら良かったのに」

「……出来れば自分の力だけで解決したいと思ったんですよ」

「若いっていいわねぇ♪」

 

ふんふん、と慈母観音のような優雅な微笑みを絶やさずに答える先生。

 

「では高辺くんの気の済むようにするといいわ♪」

「……もし、失敗したら先生に迷惑がかかりますよね」

 

一応、先生にも謝っておこう、そう思ったが。

 

「いいえ、ぜんぜん平気よ♪」

「……は?」

 

あっさりかわされてしまった。

 

「だって、もともとカメラは作動してないもの♪ だから、写真なんてないわ♪」

「え……?」

 

しかも、強烈なカウンターパンチを食らったキブン。

トリプルクロスカウンターくらい強烈な。

 

「高辺くん♪ ひとつ、いいことを教えてア・ゲ・ル♪」

「あ、は、はぁ……」

「ヒトの弱みを握るときはね、握りかえされる時のことを考えないといけないのよ♪」

「え…?」

「例えば、SM趣味のヒトの弱みを握ったとするわね♪」

 

あいかわらずポップな例えだ。

 

「写真かなにかを押さえて脅迫したとして、その写真を相手に取られてしまったとしたら

どうかしら♪」

「ええと、万事解決…とはいかないですよね」

「そうね♪ 脅迫したという事実は変わらない。相手のウラミを買うだけで終わるわね」

「じゃあ…写真をどこかに隠して置くんですか?」

「それも限界があるわね♪ 金庫に入れたって、相手が本気ならお金をかければ専門家は

いくらでも雇えるわ♪」

「それなら、誰かに頼んで置くんですか。オレに何かあったら公表するように、とか」

「その人が、裏切ったらどうするの♪」

 

楽しげな、先生の声。

いつもこのヒトは、変わらない。

変わらずに、楽しげ。

 

「……わかりません。どうするんですか」

「写真がある、と相手に思わせるだけでいいのよ♪」

「え……?」

「実際に写真は用意しないの♪ でも、相手にはある、と信じ込ませればいいの♪」

「そんなんで…」

 

うまくいくのか、と言いかけて、やめた。

オレ。早瀬。浅見。他にもいるだろう、かつてのセックスフレンド。

実際に信じた人間がいたのだから。

 

「一番強力な弱みは、相手の頭の中に作っておくのがいいのよ♪」

「あたまの、なか…?」

「そうよ。相手は『そんな写真、なければいいのに』って思うわね♪ それはつまり同時

に『写真はある』と信じてしまうことなのよ♪」

「……」

「『そうやって語る目の前の理想の美人保健教師。それは、まるで世の中の摂理を語る

賢人のようで…オレは胸の高ぶりを押さえられなかった……』」

 

 

いや、今さらそんなナレーション入れられても。

 

 

「あらあら、先生悲しいわ♪」

 

ぜんぜん悲しそうに見えずに、先生。

 

「まぁ、そんな感じのことを浅見くんに説明してあげればいいんじゃないかしら♪」

「……」

「あと、赤坂さんや蕪皿さん、あなたのクラスの女の子たちも動いているしね♪」

「え……?」

「みんなして『ウワサは嘘。浅見くんが振られた腹いせにデタラメを言ってる』って

せっせと広めているわ♪ 友情ってステキね♪」

「……!」

 

 

 

オレの知らないトコロで、そんな動きがあったなんて。

 

 

 

「先生……なんでそんなトコロまで知ってるんですか?」

 

もう、オレと早瀬には興味をなくしたと思っていたのに。

 

「理想の美人保健教師だからよ♪」

 

予想どうりの答えが返ってきた。

 

 

 

 

 

 

先生に礼を言って、学校をあとにする。

手には、先生にもらった、浅見の住所。

 

 

 

 

 

今日中にケリをつけてやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…というわけで、こないだは逃げちまったからな。もう一度、話をしようと思ってさ」

 

浅見は、幸い家にいた。

 

近くの公園まで呼び出して、開口一番、オレが言ったコトバがそれだった。

 

「…な、なにを話すと言うんだ」

 

またも脅えた表情の浅見。

昨日ほど、オレは怖い表情をしてないと思うが、まあ仕方ないか。

 

「……こないだは、オマエが言いたいことだけ言って、帰っちまったからな」

 

 

じろり。ちょっと意識して目をつり上げる。

 

 

「返事をしようと思ってさ」

「へ、返事?」

「ああ」

 

 

言って。ちょっと深呼吸。

 

 

「……オマエに言っておく」

 

「早瀬は、オレの彼女だ」

 

 

浅見の顔を見て、しっかりと、一言、一言しゃべる。

 

 

「だから、もしオマエが早瀬に不利なことをべらべら喋るようなら……」

 

「ゼッタイにただじゃ置かない」

 

「……オレが冗談を言ってるとでも、思うか…?」

 

 

ぶんぶん。あわてて首を振る浅見。

 

 

「ああ、それから、写真がどーの、遊ばれるがどーの、好き放題言ってたけどな」

 

 

すー。大きく息を吸う、オレ。

 

 

「それがどうした」

 

「オレには関係ない。それもこれも全てひっくるめて、オレは早瀬のコイビトだ。オレが

いいと言ってんだ。オマエにこれ以上どうこう言われる筋合いはない」

 

「わかったな……。ああ、それから」

 

「早瀬のことでヘンなウワサを流すってコトは、野々宮先生にも迷惑がかかるってコト

だから」

 

 

ホントはここで先生の名前を出すのはイヤだったけど。

いちおう言っておかないと、先生から何言われるかわからない。

 

……先生のことだから、この会話をどこかで盗聴してても何の不思議もない。

 

 

「あの先生を敵に回すってコトだから、それなりのカクゴしておいたほうがいいぞ」

 

 

 

とりあえず。

言うだけは言った。

 

浅見のヤツはちゃんと聞いていたみたいだが、何も口を挟まずに黙っていた。

 

 

 

「いいな」

 

言い捨てて。

オレは公園を後にした。

 

公園を出るときに振り向くと、浅見はまだ立ちつくしていた。

何を思っているのかはわからない。

 

でも、とりあえず、もう大丈夫なような気がした。

 

 

 

 

 

ダメなら。今度こそただじゃおかないけど。

 

 

 

 

 

あとは、早瀬だ。

 

 

 

 

 

タブン、こっちの方が、タイヘンだ。

 

 

 

 

 

ぱん。

自分で自分の両頬を一発叩いて、気合いを入れる。

 

 

 

 

 

折角だから、歩いていこう。

 

早瀬の家まで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜいぜい……ついた…」

 

しまった。

……電車に乗れば良かった。

 

つい、気が急いて走ってしまった。

 

駅の間がかなり短い北部東上線とはいえ、軽く二駅分くらい走ったような気がする。

 

オレは、早瀬の家を見上げる。

 

 

 

あいかわらず、大きな家。

 

押しつぶされそうに巨大で、痛くなるほどに人のいる空気を醸し出していない。

 

いま、早瀬はいるだろうか。

 

この、おおきなおおきな牢獄に。

 

 

 

 

 

す、と目の前に何か差し出された。

 

ペットボトルのお茶だった。

 

顔を上げると、そこに蕪皿が立っていた。

 

「蕪皿……」

「そろそろ来るかと思った。…予想より遅かった」

「まぁ、色々あってな」

 

色々、聞きたいことがあるような気がした。

先生の言っていた、ウワサのもみ消しのコトとか。

 

でも、口をついて出たのはひとつだった。

 

「……早瀬は、中にいるのか……?」

 

こく、と蕪皿は声を出さずにうなづく。

 

「朝から出かけてはいない。ウチに食事にも来なかった。電話しても出なかった。たぶん、

部屋に閉じこもっているのだろう」

「いるのか……」

 

オレは改めて早瀬の家を見上げる。

早瀬の部屋に当たる部分は、ここからでは小さな窓しか見えない。

 

「じゃあな」

 

声に振り向くと、蕪皿はすたすたと歩いていくトコロだった。

 

「あ、おい……」

「『一緒に泣いたとき、はじめて互いがどれほど愛し合っているかわかる』」

 

こちらを振り向きもせず、蕪皿は言う。

 

「エミール・デジャン。19世紀フランスの文学者」

 

そう言って、蕪皿は初めてこちらを振り向いた。

 

「ふたりで気の済むまで話し合え」

 

それだけ言うと、蕪皿は再び歩き出した。

今度は振り返らずに歩き去っていった。

 

 

 

 

 

ぶっぶー。

 

高級な家のチャイムって、なんでピンポーン、て言わないんだろうな。

そんなことを考えながら、待つ。

 

……。

返事がない。

 

もう一度鳴らす。

 

やっぱり、返事はなかった。

 

 

 

ただ、上のテラスに人影が見えたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何回鳴らしたのか、わからなくなってから、オレはチャイムを鳴らすのをやめた。

 

オレのズボンのポケットの中には、この家の鍵がある。

以前、早瀬を起こすために蕪皿からもらったやつだ。

 

でも、今。ここで使う気にはなれなかった。

 

 

 

 

 

 

ゆっくり、日は落ちていく。

 

空の色は、夕闇から宵闇へ。

 

きのう、見た、くらいそら。

 

 

 

 

 

それでも、待ち続けた。

 

 

 

 

 

どれくらい待ったろう。

 

そのときには、もうすっかり日は落ちていた。

 

がちゃ。

 

大きくて、重いトビラの開く音。

 

その音に、オレは振り返った。

 

 

 

 

 

「いつまで……待つつもりなの……」

 

早瀬が、立っていた。

 

「……あと30秒くらいで帰ろうかと思ったぞ」

 

ゆっくりと立ち上がりながら、オレは答えた。

 

 

 

 

 

早瀬の家には応接室なんて気の利いたものはない。

 

いや、ないことはない。

 

高そうなソファや調度品の並んだ部屋はある。

 

しかし、すっかり埃をかぶって使い物にはならない。

 

 

 

 

 

だから、オレが通されたのは早瀬の部屋だった。

 

何度となく、泊まった部屋。

何度となく、早瀬と愛し合った部屋。

 

 

 

 

 

「……コーヒーで、いいよね」

 

こと。オレの前にコーヒーが置かれる。

 

「ああ」

 

自分の前にもコーヒーを置いて、早瀬はゆっくりとオレの向かいに座る。

 

 

 

 

 

 

「……」

「……」

 

それから、ふたりとも、しばし、無言。

 

早瀬も何を言ったらいいのか、わからないんだろう。

 

オレも、何から言い出したものかわからない。

 

「「あの」」

 

と、オレが意を決して口を開いたら、早瀬も何か言おうとした。

 

「あ……」

「う……」

 

そして、またふたりして、黙ってしまう。

ああもう、この流れはよくない! なんとかしないと。

 

「ええと、早瀬から、言ってくれ」

「え、いや、高辺クンから、言って…」

「いや、オレの話は長くなるから、早瀬のほうから言ってくれ」

「……」

 

早瀬は、目を伏せて何か考えているようだ。

目の前のコーヒーにも手をつけない。

 

「……あのさ……」

 

ようやく口を開いたのは、カップ麺が出来そうな時間が経ってからだった。

 

 

 

 

「やっぱり……怒ってる…よね…?」

 

おずおずと。

何かに脅えるように、口を開く。

 

「高辺クンは、私が昔遊んでたことを知ってて…それでもいいって言ってくれたけど…」

 

「私、それに甘えて、カメラのこと、言わないでいた……」

 

「……ひどいし、ずるいよね。…自分のことだけ、考えてた。もし、カメラのことがキミ

に知られたら、捨てられちゃうかと思った」

 

「ずっと気になってたけど、それでも言えなかった……」

 

「だから、昨日、浅見クンがカメラのことをばらしたとき」

 

「バチがあたったんだ…って、思った」

 

「それで、ああ、もう、終わりだ……って思って」

 

「走って逃げちゃった。やっぱり、ズルいんだ、私…」

 

「……もう、愛想、つきたでしょ?」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

ぽとり。

 

早瀬の瞳から、なみだの、しずく。

 

ああ、そういえば。

 

初めて、早瀬が泣くのを見たんだな。

 

オレは、早瀬をじっと見つめる。

 

自らを傷つけるコトバを、痛がりながらも発する早瀬。

 

早瀬は罰してもらおうとしている。

 

他ならない、このオレに。

 

オレのコトバで、傷つけてほしいと思ってる。

 

 

 

 

 

だから。

 

オレは。

 

オレのココロの思うとおりに、行動した。

 

 

 

 

 

 

「はやせ……!」

 

「高辺……クン……?」

 

オレのうでのなか。

 

早瀬の、かすかな甘いにおいと、ミントのにおいがする。

 

「もういいんだ、もういいから…」

「だって…わたし……」

 

まだ何か言おうとした。

 

 

 

でも、オレが、唇を重ねたから、その先は言えなかった。

 

 

 

ゆっくりと、早瀬の体を離しながら、オレ。

 

「…さっき、浅見と話をつけてきた……」

「……」

「アイツが早瀬について何か言うことは、もうゼッタイにない」

 

言ったらタダじゃおかない。

と思ったが、そこは言わないでおく。

 

「…だから大丈夫。早瀬が心配することは、なにひとつない」

「でも、私はずっとキミを騙して……ん」

 

またごちゃごちゃ言い出したので、もう一度オレは早瀬の口をふさぐ。

せいいっぱいのキモチをこめて。

 

「……そんなコトで、オレがお前を嫌いになんてなるものか……!」

「たかべ……くん……」

 

もう一度、キス。

 

「何も変わらない。……正直、ちょっとだけショックだったのは認める。でも」

 

キス。何度、唇を重ねたら、この想いが伝わるだろうか。

 

「やっぱり、オレは」

 

「早瀬が……すきだ……」

 

「……たかべ……くん……!」

 

キス。

今度は、早瀬のほうから。

 

しっかりと、オレの体に回された手から。

強く押しつけられた唇から。

 

早瀬の気持ちが伝わってきたような気がした。

 

 

 

 

 

それから、オレはひとつずつ、早瀬に伝えていった。

 

 

 

華緒梨ちゃんがウチまで来たこと。

 

先生が、言ったこと。

 

蕪皿がこの家の前で、ずっと待っていてくれたこと。

 

 

 

みんなが、オレたちの為にしてくれたこと。

 

……先生はちょっと違うかもしれないけど。

 

 

 

「なぁ、今度ので、オレわかったことがある」

 

「……?」

 

「ええと…その…なんだ…」

 

あうう。さすがに、舌が回らない……。

 

「なに、言って」

 

早瀬が、先をうながす。

 

「ええと……」

 

すーはー。こういうときは深呼吸。

前に早瀬に教わったことだっけ。

 

「ええとだな。オ、オレ……」

 

あーもう! 言っちゃえ! オレ!

 

「オレ……! 早瀬を一生守りたい!」

 

言えた。というか言っちゃった。

言っちまったよおい。

でも言っちゃったイキオイは止まらない。

 

「早瀬を傷つけるウワサなんか流させない!」

「早瀬をいじめるヤツがいたらオレがぶっとばしてやる!」

「ヘンなヤツに早瀬を指いっぽん触れさせたくない!!」

 

言って。言い切って。

 

ぷはー、と息を吐くオレ。

 

というか、これプロポーズとかに、なっちゃうのかな…?

今更思っても、もうコトバは言ってしまったあとだけど。

 

 

そっと、早瀬をのぞき見る。

 

早瀬は。

 

 

 

こんどこそ。

 

泣いていた。

 

目から、きらきらした、大粒の、なみだ。

 

隠すこともなく。

 

あとからあとから、あふれてくる。

 

 

 

 

 

そっと抱き寄せても、しばらくはそのまま泣き続けていた。

 

オレも、早瀬も何も言わずに。

 

ただ、相手の体温を感じていた。

 

 

 

 

 

しばらくたって。

 

ゆっくりと体を離した早瀬は、しずかに微笑んでいた。

と、表情がころりと変わる。

 

「……にしし♪ 今のはプロポーズと受け取っても、いいのかな?」

 

なんか、すっかりいつもの調子みたいだ。

 

「お、おう。好きに受け止めてくれっ」

 

「そんなコト言っちゃって、あとで困るんじゃない?」

 

「困ってもいいっ!」

 

「(…あー、もう、なんか今日はかっこいいよ……)」

 

「ん? 今なんて言った?」

 

「え? い、いやいや、なんでもないよ♪」

 

「なんだよ、言えよー」

 

「にゃはは♪ オトメの秘密をセンサクしたらダメだよ♪」

 

「誰がオトメだって?」

 

「目の前にいるじゃん。凄くカワイイのが」

 

「……おお、言われてみれば」

 

「ひどいなぁ♪」

 

「あのさ、ところで…」

 

「うん、私も……」

 

「「エッチしない……?」」

 

「……」

 

「……」

 

「ぷ」

 

「ふふっ」

 

「あはははっ」

 

「なんか、気が合うねー」

 

「おう、心も体もバッチリだな」

 

「やー、それはとっても、イイコトだよ」

 

「そうだな」

 

言って。

 

オレは、もう一度、早瀬に、唇を重ねた……。

 

 

 

 

 

──ちなみに。

 

──この日は。

 

──お互い、びっくりするほど、気持ちよかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラスの休み時間。

オレは、また佐藤に声をかけられた。

 

「……なぁ、高辺」

「ん、どした佐藤」

 

なんか佐藤はヒクヒクしてるみたいだ。

 

「私、こないだのコトバ、訂正するよ」

「こないだ、って、なんだっけ?」

「『あんたら、すっかりバカップルだよな』ってやつ」

「ああ、そいえばそんなコト言ってたな」

「うん、あれ、訂正する」

「なんて?」

「……今のアンタらに比べたら、ぜんっぜんっ甘かった……」

「…そうか?」

「今のアンタらこそ、完璧に純然たる見事なまでのバカップルだ……」

「うーん、褒められてるのか?」

「多分、そうじゃないかな♪」

 

椅子に座った俺に、お姫様だっこのようににまたがって、しっかりと抱きついていた早瀬が

同意する。

 

「あ、高辺クン、ポッキー食べる?」

 

早瀬がポケットからお菓子を取り出した。

 

「食う」

「ん♪」

 

早瀬が、片方を口にくわえて、もう一方をオレの口に向ける。

 

オレは何も言わずに反対側から食べ始める。

 

「…ああもう、好きにしてくれ……」

 

佐藤が、頭を抱えているのが横目で見えた。

 

「らぶらぶ警報発令やー! みんな待避やー、待避ー!」

 

遠目に、小平が顔を真っ赤にして逃げていくのが見えた。

何人かの女子が遠巻きにして見守っているのも見えた。

 

 

 

……でもまぁ、別に気にするほどのことでもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

──おしまい。

 

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