ぴんぽーん。
高辺家のチャイムはごく一般的な音がする。
「はいはーい」
がちゃ。
「あらあら、早瀬さん」
「おはようございます」
「おはよう。…今日も莫迦息子はまだ寝てるわよ♪」
「あ、それじゃこっちで起こしますから」
「あら、そう? じゃ、私は買い物に行くからあとはお願いね♪」
「はい、任せてください♪」
「まぁふたりでゆっくりしっぽりしてね♪」
この息子にしてこの母あり。
なんとなく高辺がボケもつっこみも自由自在な理由を納得する早瀬だった。
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「グッド・モーニング!」 03/07/11 by TANA
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「……おはようございまーす……」
そっとドアを開ける早瀬。
なんで小声なのか。
ちょっと昔の『アイドル早朝バズーカでおはよう企画』っぽい。
「むにゃ……」
ちなみによく寝てる高辺はちょっとやそっとじゃ目を覚まさない。
それはまぁ、それなりによく心得ている早瀬だった。
「たかべくん、おはよー……」
そっと、物音を立てないように近づく早瀬。
……ぜんぜん目を覚ます様子のない高辺。
「さて……どうしたものかな……」
あごに手を当てて考える仕草。
いつも寝ているときは割と幸せそうな高辺。
寝るのがスキなのかもしれない。
「ふーむ……」
考える早瀬。
脳内選択肢で
普通に起こす
いたづらする
というのが登場したので速攻で「いたづらする」を選んでみた。
BGMがさっそく「アノ時」の曲に切り替わる。
脱衣
愛撫 ⇒
キス
身を任せる ⇒
オナニー ⇒
アナル
SEXをやめる
脳内選択肢が再び登場。
ここらへんは男も女もあまり変わらないらしい。
……というかアナルも選択肢ですか?
「うーん」
とりあえず選択肢は破棄して、高辺の入っている布団に潜り込んでみる。
……シングルベッドなので、それなりにせまい。
いきおい、体は密着状態。
「……」
いいかげんに慣れるかと思いきや、いまでもドキドキしてしまう。
ほんの半年前には。
まさか自分がこんな風になるとは夢にも思わなかったのに。
ともかく、折角だから右手を抱え込んでみよう。
ふやー。
自分でも驚くほどに心が落ち着く。
頬がゆるむのを感じる。
たぶん、今の私の顔はそうとう赤くなってるはず。
誰にも見せられない。
だったら手を離すなりすればいいような気もするけど、それは、やだ。
あ、なんか幸せすぎてまったりしてきた。
折角だからこのまま寝ちゃおうかな……
「うにゃ……」
右手に感じる、軽い重み。
柔らかいあたたかさ。
まるで早瀬みたいな。
……。
はやせ?
ぱち、と目を開ける。
まだ頭がはっきりしない。
とりあえず、あたたかさを感じる右手を見る。
「……うみゅ」
よく見慣れたポニーテールが目の前にあった。
「あぁ、早瀬か……」
口に出す。
……って早瀬!?
一瞬で目が覚めた。
「すー……」
オレの右手を抱え込むように寝ている早瀬。
上を見る。
オレの部屋の天井だった。
たしか、昨日はひとりで寝たはずだった。
いつの間に……というか、もちろんオレが寝ている間に早瀬が入ってきたんだろう。
別に初めてのことじゃない。
もういいかげんウチの母親とも顔なじみだし、母親の性格なら俺が寝てようが構わず家に
あげてしまうし。
まぁ、ある意味お互い様なんだけど。
早瀬を起こしたのも一度や二度じゃないし。
寝ている早瀬にいたづらしたのも一度や二度じゃない。
例によってBGMがあの時の曲に切り替わって、脳内選択肢が登場して。
とりあえず全部選択肢は試してみた。
寝ている早瀬にキスしたり。
ムネをいたづらしたり。
下を脱がしてみたり。
くすぐってみたり。
同じくらいの回数、同じような仕返しをされているケド。
それを考えれば、手を抱えて寝ているくらい可愛いものだ。
「……」
改めて、寝ている早瀬を見る。
しっかりと、大事そうにオレの手を抱えて。
にゅふー、という笑い声が聞こえてきそうな満足そうな表情で。
いや、これホントに可愛いな……。
とりあえず、自由になる左手をそっと動かす。
早瀬が、目を覚まさないように、そっと。
寝ている早瀬の頬に手を添える。
無意識なのか、オレの手に頬ずりするように軽く首を動かす早瀬。
くううっ!
可愛すぎるっ!
やばいよやばいよ!
この可愛さは宇宙規模だって! 間違いないって!
誰にともなく力説したくなるオレ。
「早瀬……」
そっと。口に出す。
……口に出したら、なんかドキドキしてきた。
抱え込まれている、右手。
肘のあたりに感じる、柔らかな感触。
これはアレですか! アレですな!
そっと右手の指を動かす。
すべすべした、早瀬の太ももの感触。
……ふともも?
仮説1。早瀬は今、スカートをはいている。
仮説2。ズボンがシワになるといけないので、脱いでから布団に入った。
……どっちでも、どっちだとしても。
早瀬、グッド・ジョブ!
心の中で親指を立てて、いい笑顔をする。
──気付くと。
いつの間にか、早瀬が目を開けていた。
「……おはよ」
「お、おはよう」
まだぽわーっとしたような、夢見ているような、早瀬の表情。
…これはこれで、滅茶苦茶可愛いんですけど。
「んふ…いつの間にか、寝ちゃった……」
「……夜ばい?」
「ふふ……もう、朝だよ……」
とろんした表情のまま、微笑む早瀬。
「……朝ばい?」
「にゃはは…そんな言葉はないよ……♪」
言って。
早瀬はこちらに顔を寄せてくる。
オレもそっと、目を閉じて──。
「……で、なんか用があって来たのか?」
「んー、別に特別に何かあったワケじゃないけど」
にしし♪ と笑って、早瀬。
「一緒に買い物にでもいこっかなー、とか思ったんだけど」
「そうか……」
言って。
窓の外を見る。
……もう夕焼けから、夜に変わりつつある空。
……ケッキョク、昼前から一日中、ヤリマクッテしまった。
何とはあえて言わないけど。
若いってスバラシイ……。
「悪いな、買い物、つきあえなくて」
「んー、別に特に買うものがあったワケじゃないし、いいよ」
「そうか?」
「まあ、半分は私から誘ったし♪」
「そりゃそうだけど……あ」
「どうしたの?」
「買い物、いっこ思い出した」
「何かあったの?」
「……ゴム。今のでオレんちにあるの、最後だ……」
「……」
「……」
「……」
「…えと……今日は多分、ダイジョーブだけど……」
「いや、それはナシ。前にヤクソクしたろ」
それなりに、魅力的な提案だけど、そこはぐっと堪えるのが男だ。
「んじゃ、やっぱり買い物行こうか♪」
「そうだな……」
「んでさ」
「ん」
「今日はウチに泊まりに来ない?」
「明日、学校だけど」
「今日支度して、そのままウチに来ればいいじゃん♪」
「それもそうだけど……」
「あ、ちなみに」
「ん?」
「エッチはありだからね♪」
おしまい。