サイガ-0:大丈夫です
YES or NOのどっちなのか。これを読み取れないようでは…みたいな話なのか?良家のコミュニケーション文化わかんない…
とはいえこっちから聞き返すのはダサいし…
と思ったらそう待たずに再度返答
「『私から伺います』…でも、もう来ちまったんだよな…」
俺は既に、風雲斎賀城の門が視認できるところまで来ていた。
そして事ここにいたって尚、頭の中の整理がつかないでいた。
なんというか、今こうしてただ受け入れたとして、心のパズルピースが足りないままに付き合うことになってしまいそうなのだ。
「俺の玲さんに対する感情」というピースが。
これは良くない。浮足立ったままでは互いのテンションが合わず、結果として玲さんに迷惑がかかる。
故に、俺の頭の片隅には「受け入れて付き合う」の他に第二の選択肢が残り続けている。
一言で言うと「前向きな先送り」。
玲さんの好意は嬉しいし、受け入れたい気持ちもある。
だが今俺が玲さんに向けている感情は友情の割合の方が大きく、玲さんの気持ちを真っ直ぐに受け止めきれない…かもしれない。
だから俺の心の整理が付くまで、玲さんの好意を受け止められるようになるまで待ってほしい。
今の俺の葛藤を打ち明けて、その上で待ってもらう。
これってどうなんだろうなぁ…傍から見たらキープか何かに見えなくもなさそうだし…玲さんとしても諸手を挙げて喜べる返事ではない…多分。
ええいリアルの恋愛なんか考えたこと無いんだからわかんねぇよォーッ!幕末ランカーに心理学について聞くかぁー!?
「ふぅ…」
只今、通用口の前に突っ立ってインターホンに指を近づけ、あと数cmの段階で手が止まっている不審者と化しています。
フフ…あのピンポンダッシュの小僧達を笑えないな…インターホンって押すのにこんな躊躇するもんだっけ…
いつまでまごついている陽務楽郎!お前がもたつけば邪教徒経由でペンシルゴンに俺の現状が伝わり、カッツォの二番煎じとして扱われるんだぞ!
既に組み上げたチャートは90%の進捗率に達している。泣こうが喚こうが進むしかねえ!
足りないピースは動いてから拾っていけば、良い…!
……南無三!
インターホンに指が触れ、押し込まんとする刹那。
通用口から飛び出した玲さんと目が合った。
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覚悟とは何か。
それは決して高尚な自己犠牲精神などではない。
覚悟とは、『身の丈に余る一歩を踏み出す勇気』の事だ。
玲さんにとっては告白がきっとそうであったのかもしれないし、俺にとっては事前情報だけでまだレビューの1件も無い暫定クソゲーを発売日に買う事だ。
そして、この場における具体的な覚悟とはッ!
自分で組み上げたチャートをビリビリに引き裂いて心のゴミ箱にブチ込んでやることだァーッ!
「前向きな先送り」?「好きになった理由」?そんなもんリュカオーンにでも食わせてろ!
昨晩の自問自答に意味はあったらしい。
俺は今まで玲さんを…1人の人間として見れていなかった。
良家に生まれ、文武両道眉目秀麗。俺とあまりにかけ離れすぎていて、ゲームで他プレイヤーを見る時のような、現実味を薄めるフィルターがリアルでもかかっていた。
だが、今こうして見てみてば、そしてこれまでの玲さんを思い返してみれば。
俺と会話してたら何故かバグる玲さん。
俺と通学してたら突然フリーズする玲さん。
そして、俺の前で笑って、テンパって、他愛のない会話で盛り上がる玲さん。
全てに玲さんの魅力が詰まっている。
多分、今この瞬間が、俺が玲さんに惚れた瞬間なのだろう。
うわぁ心臓の音がうるさい。
「玲さん」
「はっひゃいっ!」
「その、昨日の事だけど…びっくりした。まさか玲さんが俺を…だなんて、思ってもみなかった」
思考を置き去りにして口が勝手に動き出す。
だが俺は手綱を取らず、敢えて脊髄に身を任せる。
「一晩考えて…自分の気持ちに、今答えが出た」
俺の玲さんへの感情が定まると同時に、俺の中に不安が芽生えた。
玲さんは、俺を過大評価していないか。
シャンフロでいくらレベルとユニークを積み重ねた所で、現実の俺には何らプラスにはならない。
夏休みにシャンフロを始めた時からちっとも変わらない、俺は1人のクソゲーマーだ。
にもかかわらず、シャンフロ廃人且つ純朴な玲さんには、もしかしたら俺が特別な存在に見えてやしないだろうか。
「俺は今まで、玲さんを1人の人として見えていなかったんだと思う。今の関係に不足を感じなかったから、玲さんの気持ちを知ろうとしなかった」
「今は、玲さんの事を知ろうとしてる。もっと知りたいと思う」
「けど、不安なんだ。玲さんに俺がどう見えているのか。俺のことを、過大評価していないか」
だったら、全部ぶちまけて直接聞けばいい。そのために言葉ってモンがあるんだろうが!
「俺は、人生の大半をクソゲーに捧げる覚悟をとっくに決めたクソゲーマーだ。シャンフロを始めたのだって、最初はただの気まぐれだった」
俺は包み隠さず話す。俺の事も
「俺の家族は趣味人ばっかで、互いの趣味に寛容ではあるけど、時には周りを顧みないこともある。玲さんに、何か迷惑をかけるかもしれない」
家族のことも
「シャンフロの中の俺だって、奇妙な星のめぐり合わせでああなったとしか言えない。何か1つでも違っていれば、ツチノコだなんだと呼ばれるようにはなってなかった」
「………」
玲さんは静かに俺の言葉を聞いてくれている。その内面は如何ばかりか。
「それでも、そんな俺でも…」
ぐっ…この言い方はちょっと自意識過剰か?
ええい今更恥ずかしがってる場合か!突っ走るんだよオラァ!
握手を求めるように手を差し出し、手の高さを固定したまま上半身を前に倒して90°のお辞儀!
「もし、玲さんが好きでいてくれるのなら…俺と…付き合ってください!」
……
…………
気が重たい沈黙。心が押しつぶされそうな不安。
昨日俺に告白したその時から、玲さんはこんな気持ちを半日以上も抱えたままだったのだろうか。
申し訳ないことをした。せめてもの誠意、玲さんからアクションがあるまで俺はお辞儀を崩さない…!
永遠にも思える十数秒だった。
そっと、差し出した手に触れる手の温度
弱く、けれど確かに握られる感覚
弾かれるように顔を上げれば、大粒の涙を零す玲さん。うわ綺麗…女神様かな?
「大丈夫です、楽郎くん。私は、ずっと貴方を見ていましたから。貴方を見損なったりなんてしません」
涙声だった。けれどその声色には悲しみではなく喜びがあるようで…
玲さんは俺の手を両手で包み込むように握り、自分の胸元へ近づける。
必然、引かれて俺は上体を半端に起こし、目の高さが合う形に。
「貴方を愛しています。よろしく…お願いします」
愛おしい微笑みを浮かべて、玲さんは俺を受け入れた。