今、俺は玲さんの部屋で正座をしている。…昨日も正座してたな。正座強化週間か?
目の前には斎賀姉…もとい仙さん。
その後ろには玲さんが眠っている。
仙さんの目的は明々白々。妹の彼氏…つまり俺の、人となりを知らんとしている。
言い換えれば品定めだ。妹に相応しい相手かどうかを見極めるつもりだろう。そうとしか考えられない。
和風の屋敷に凄まじい威圧感の相手。ヴァッシュとの初対面を思い出す。だがあの時と決定的に違うことは、この状況を乗り切るためのロールプレイの指標が無い事だ。
ここで俺が不甲斐ないザマを見せれば仙さんの俺の評価はダダ下がり、ひいては玲さんに迷惑がかかるというのに。
ラブクロックでは付き合うまでがストーリーの殆どだった。付き合う前にヒロインの家族と話す事はあれど、後となると経験がない。
つまりこれはエピローグの後にあるシーン。プレイヤーの立ち入れなかったシチュエーションと言える。
俺はこれから裸一貫の俺自身で、この状況をクリアしなくてはならない。
なんたる理不尽、強制イベントの連続は扱いを間違えると容易にクソ要素に成り下がる。かといってイベントの合間に休憩を挟みすぎるとそれはそれでダレるんだよな…
だが、
(舐めるなよ…!)
この状況に対して、今俺は燃え上がり始めている。良いさ、やってやる。下手を打てば評価が下がる、だが上手く立ち回れば逆に上げる事も可能だろう。
腹くくって逆告白したのにここで水をかけられちゃ、せっかくの関係に亀裂が走りかねない。打てば響くコール&レスポンスで高評価をもぎ取る!
そういや昨晩からカフェインキメてないな。否、それがどうした。俺がカフェインが無いと何も出来ない奴だと思ったら大間違いだぞ…!
「この度は」
俺が気迫を漲らせたところで、仙さんが口を開く。
「玲がご迷惑をおかけして、申し訳ありません」
丁寧に頭を下げる。土下座ではないのに幕末勢の土下座コマンドとは明らかに違う。所作から誠意が伝わってくる。
「ああいえいえそんな、俺のせいもあるので」
くっ…いかん出鼻を挫かれた。もしや狙って?読心術までお持ちですか?
「ところで、陽務さんは玲とお付き合いを始めたそうですが」
「っ……ええまあ」
お付き合いという言葉を他人から持ち出されると動揺してしまう。やばい、テンションという名のなけなしのメッキが剥がれそう。
「玲とはいつ頃から交流を始めましたか?」
そういうのは玲さんに聞いてよね…と言いたいがまぁ本人寝てるし、気になってる所なんだろう。
えっと…シャンフロでフレンドになったのは…千紫万紅の樹海窟に行く前か。となると夏休みもまだ中頃だな。
ただゲームに疎そうな仙さんの場合、ゲームのフレンドになった時期を言っても実感しづらいだろう。リアルで知り合い始めた時期を答えるべきかな。
「夏休み明け、ですね。通学路でたまたま会って、お互いシャンフロをやっている事は知ってたのでそのへんの話をするようになって、って感じです」
「…成程」
仙さんの態度が少し軟化した気がする。悪くない調子かな…?
「玲の事はどう思っていますか?」
「んっぐ」
いきなりぶっ込んでこないでください変な唾の飲み込み方しちゃったよ。うぇーどう答えよう…。
まぁ正直に言うしか無いよな…別に悪い印象を持ってるわけじゃないし。
「最初はー…ただのゲーム友達とだけ、思っていました」
ていうか今朝までそう思ってました。
「今は、彼女として、恋人として…大切にしたいな、と思ってます…」
なんでコイツは彼女の姉に所信表明みたいな真似をしているんだ………ハッ、あまりの羞恥に第三者視点になってた!
これが、幽体離脱…!?
「…そうですか」
あれ、なんか不服そう。言葉が足りなかったか…
だが言い切ってから続けるのは印象が良くない。泥の上塗りになりかねん。ここは次での挽回を狙う…!
「では最後ですが、玲のどこに惚れましたか?」
「あー…」
マジで聞かれるとは。というかさっきから躊躇なく切り込んでくるけどこういうのって聞く側も恥ずかしいもんじゃないの…?
…ふう。
「繰り返しになりますが、最初は、ゲーム友達の玲さんを、あまり知るつもりはありませんでした。そういうのを嫌う人もいるので」
「けど、通学路で話したり、JGEに行ったり、色々と交流を持っていると、否応なしに見えてくるもので…」
実際は「今朝玲さんを見て初めて気づいた」が正しい。まぁ今は見えてるんだからセーフだよセーフ
「傍目からは完璧に見えている、見せているけど…近寄ってみると、案外ギャップというか、可愛い所もあるな、と…」
うごご…俺は一体何を言っているんだ…おや、仙さんの様子が…?
「貴方が玲に感じている魅力と同じものを持つ女性は、玲の他にもいるでしょう。例えばそのような女性と出会った時、どうしますか?」
…何だその質問。未来ばっか気にして今が生きられるかっての。
まぁ仙さんはそういう事が聞きたい訳ではあるまい。つまりこれは、俺の本気を問うているのだ。
ならば応えてやる。俺の本気を見るがいい!
「確かに、その可能性は否定できません。けれど、そんな事は関係ありません」
「…と、言うと?」
「俺が玲さんに感じた魅力は、好意の本質じゃ無いってことです。感情ってのは、どうやっても言葉に出来ない時もあるでしょう」
俺はこれから吐く言葉を思い返して3日は悶え苦しむだろう。だとしても俺は進む。パーフェクトコミュニケーションの為ならば!
「俺は…玲さんが玲さんだから、玲さんを好きになったんです。他の人なんて、考えるつもりはありません」
ぬおおおおおおおおおおおおお恥っっっずうううううううううううううううううううううううう!!!!!!
誰か俺を殺せえええええええええええええええええええええええ!!!!!
今すぐにでも殺虫剤をかけられた虫のようにのたうち回りたい衝動を必死に堪えながら仙さんの反応を見る。これで満足か畜生め!
「……………ふふっ」
あ、笑った。そんなに俺が滑稽かい?
「すみません、私は見合い結婚で、そういった恋愛事とは無縁だったもので…こういう話は得難い経験というものですね」
「はぁ…」
そうなの…としか言えんのだが。
「それだけ想われるとは、良かったですね、玲」
仙さんが寝てる玲さんをぽんぽんと叩く。……玲さんの耳赤くね?
「おっとぉ……………????」
「それでは、私はこれにて失礼しますね。」
状況が飲み込めなくなった俺の横を通り過ぎて、仙さんが部屋の外へ出る
「そういえば、今日は年末なもので屋敷の者達も忙しく、昼頃までこちらには来ませんよ。まぁ来ても引き返させますが…では、ゆるりとくつろいでいってください」
仙さんはそう言って襖を閉める。後に残されるのは耳まで真っ赤な俺と玲さん。
いや、うん。
「………」
「………」
何もしね――――――よ!!!!
「君だから君が好き」、という素敵フレーズを見かけてなんとか使いたいなと思っていた本編投稿前。
ようやく使えて今度こそ満足です。
仙さん的にはよっぽど酷い返答が無い限り交際相手として気にしないつもりでしたが、思ったより熱のこもった返事が来て内心大満足してると思います。
第一の質問の答えを聞いた仙さん
(ふむ、交流をはじめて4ヶ月弱…玲の事ですからそれより前から好意を持っていたのでしょうが…頑張りましたね、玲)
流石に年単位で片思いしていたとは思わない仙さん、勘違いで妹を評価する
第二の質問の答えを聞いた仙さん
(まだ入籍までは考えていませんか…やはり既成事実が必要ですね)
不穏な事を考えている仙さん
第三の質問の答えを聞いた仙さん
発言がそのまま思っていた事なので割愛。サンラクサンに高評価つけてる