「おいおいおいおい……」
目の前の惨状を見て思わず、と言った感じに呟いてしまった。現在、彼──―いや、彼だけではないのだが、周りの人間は体裁なんて気にせず、我先に安全と、自分の命だけが助かるために恥を捨ててまで逃げている。
まぁ、それをするだけの原因が、彼らの背後からやってきているのだが。
「……なんでこんなところにヒュージなんかいるんだよ」
ヒュージ(HUGE)。世界に突如として現れた謎の生命体で、ヒュージ細胞と呼ばれる巨大化細胞の暴走が生んだ生命体らしい。詳しいことは何もわかってないのだが。
「ここで隠れてやり過ごす……というのも無理だろうなぁ……」
幸いなことに、彼は少し人込みから離れていたところで様子をうかがっていた。何をしていたかというと、雉を狩りに言っていた、と察するだろうか。
こそこそ草むらの影から様子を伺い、現在現れたでっかいヒュージへと視線を移す。まぁ、見てもでっかいと恐ろしいくらいの感想しか出てこないのだが。
「あ!」
「おい……っ!」
そして、運悪く目の前で転んでしまった哀れな少女が目に入る。ピンク髪の少女は転んだ後にまたすぐに立ち上がろうとしたのだが、痛みのせいで少しふらついていた。
そしてそこに、ヒュージの死神の鎌と見間違うほどの一撃が少女にきらりと月明かりの光に照らされるのが少年の目に入った。
「っっっ!!!」
体が勝手に動く。無意識とはこういうことだろうかと、まったく無関係なことを思いながら、彼女の体を抱きしめながら一緒に倒れこむ。その甲斐あって、少女の体をはかなく散らさずに済んだ。
──―あっぶねぇ……。
柄にもなく、そんなことを思ってしまった少年。直ぐにいやいやいやそんなことしてる場合じゃないやろ! と気づき、直ぐに立ち上がり、少女を抱え上げる。
「逃げるぞっ!」
「ふぇっ!?」
少女を抱えながらの逃亡劇。舞台が舞台ならお涙頂戴なシーンなのだろうが、追跡者は化け物だし、お姫様の抱え方なんて米俵を担ぐような持ち方である。お姫様だっこは筋力的に無理で、おんぶまではしている時間なんてなかったから、必然的にこうなった。
少女が以外と身長低くて良かった……などと思いながら、がむしゃらに逃げる。どこをどう逃げたなんて全くもって覚えておらず、気づけば土手のような場所にたどり着いていた。
「はぁ、はぁ……」
「だ、大丈夫……?」
「ぜんっぜん! ぜんっぜん大丈夫じゃない!!!」
とりあえず一旦下ろしていい? と言いながら少女の足に負担がかからないようになるべくゆっくりと下ろした瞬間────
「あっ……」
「嘘だろ……」
グルン、グルンと青の単眼が動き、こちらを見つめロックオン。ギュン! とヒュージの凶刃がこちらに刃を向けることが分かった。
死を感じた。隣にいる少女をがむしゃらに押し飛ばす。
風を斬る音が随分身近に感じる。流石にもうダメかと思い、ゆっくりと目を閉じた。死ぬ時は痛いの嫌だなぁ、なんて不謹慎なことを思いながら。
──―ま、女の子護って死んだんなら、両親にも顔向けできるだろ。
そう思って、目を閉じていたのだが、全くもって痛みは来ないし、少年の意識が失われる予兆もない。恐る恐る目を開けると、そこには一人の少女がいた。
ガンッ! という激しい金属音を響かせながら、少女は手に持っている武器でヒュージと同等に渡り合う。
銀髪の、ショートカットで、月夜に照らされる顔が可愛らしくもイケメンであった。
「はぁ!」
少女が操るには随分と物騒な得物を持って、ヒュージの金属体を真ん中から真っ二つにする。先程まで、無情にも少年の命を奪おうとした化け物は、壊れたおもちゃのように崩れ、光の粒子となって消えた。
「──―っ」
息を飲む。別に、突然の出来事に言葉を失った訳では無い。
少年は、こんな事態にも関わらず、彼女の容姿に見蕩れてしまったのだ。先程まであった死の気配なんて忘れ、少年はただただ、彼女の顔を見つめる。
くるり、とヒュージを倒したのを確認した彼女は、少年の元へ駆け寄り、ポンッとその手で頭を撫でる。
「もう平気かい? 君が必死に守ろうとしていた姿。実にかっこよかったよ」
「へ? あ、いやぁ……」
かっこいい。その言葉にこんな時にでも照れてしまった。
「夢結。そっちの子は?」
くるっ、と夢結と呼ばれた黒髪の少女へ目を向ける銀髪の少女。返事はないが、頷いたのを確認したのを見た銀髪の少女は、また少年を見つめる。
「よし、とりあえず君たちを安全な場所に連れていこう。今までよく頑張ったね」
ホッ、と安心したのも束の間。次の瞬間には、彼女の整った顔が歪んだ。それに疑問に思う暇もなく、グサリ、と少年は何かを突き刺したかのような音と、何かがバラバラに壊れる音。
壊れた音は、彼女が先程まで操っていたあのヒュージでさえも倒してしまう武器のこと。そして、何かを突き刺したかのような音の正体は────
「…………あ」
ゆっくりと、下を見ると、自身の胸から突き出ている刃物と、赤い自身の血。それをやった犯人が今後ろにいるであろうチェーンソーのような触手を蠢かせているやつであろうことに理解するのに、時間はかからなかった。
視界がゆっくりと真っ暗になっていく。少年が最後に見たのは、安心させるかのようにこちらを見て笑う顔だった。
「安心していい。君達は僕と夢結で必ず守る。だから……今はゆっくりとおやすみ」
不思議なことに、その言葉を聞いたら少年の胸中に不安な思いは全て消え去った。
その言葉を最後に、少年の意識は暗く沈んでいく。
そして、何やらトプん、と体の中に